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2018/07/25

キューバ革命でしぼんだ黄色いさくらんぼ

「黄色いさくらんぼ」。

この曲、ぼくの世代だとゴールデン・ハーフの歌(1970)で知っているわけだけど。あのころ、つまりぼくが小学校高学年で、大人のお色気なんかわかるはずもないとしごろに、テレビの歌番組でゴールデン・ハーフがどんどん歌った(彼女たちはぜんぶカヴァー曲で、オリジナルはない)あんなちょっと軽めで健全セクシー路線の歌謡曲はホント楽しかったなあ。もちろん歌の中身のことはなんにもわかっていなかったが、もしわかっていたならば、小学生なら気持ち悪いとすら感じたかもしれない。

そんな(小学生には)気持ち悪く(大人には)たいへん楽しいお色気ムンムンの歌謡曲をやったのが、「黄色いさくらんぼ」を初演したガール・グループ、スリー・キャッツ。三人組。彼女たちのやる「黄色いさくらんぼ」はすごいぞ。放送禁止ギリギリの線だ。あ、いや、実際当時の NHK では放送禁止になったらしい。歌っていると親に怒られたとかいうエピソードも各所で読む。

上で「軽めで健全セクシー路線」と書いたがゴールデン・ハーフ・ヴァージョンの「黄色いさくらんぼ」に言及しているからであって、スリー・キャッツのオリジナルは不純異…、あ、いや、なかなかその〜…、うんまあ、べつになんでもありません。エロやセックスはまったく健全で純なものだしね。性は生。あたりまえのことだから、とやかく言うことはない。

スリー・キャッツの「黄色いさくらんぼ」は、松竹映画『体当たりすれすれ娘』(1959年8月公開)の主題歌として歌われたものらしい。ぼくはもちろん知らない。この映画の主人公が歌い踊る女性三人組で、そのアテレコ(歌だけ別な歌えるひとが吹き込んで映像にあてはめる)をやった三人組が、映画のトリオと同名のスリー・キャッツとしてレコード・デビュー。

だからやっぱり「黄色いさくらんぼ」がデビュー・シングルなのかな。たぶん映画『体当たりすれすれ娘』のなかでほかにも歌が出てきたんじゃないかと思うんだけど、チョチョっと調べてみただけではそのへんがわからない。とにかくぜんぶがシングル・レコードかアルバム用に録音したのかも判明しないんだけど、現在、一枚の CD『スリー・キャッツのセクシイ・ムード』(コロムビア、2007年)に計16曲が収録されている。

この CD アルバムは二枚のレコードを、いわゆる 2in1 化したリイシューもので、前半部が『スリー・キャッツのセクシイ・ムード』(第1集、1959年12月5日発売)。後半が『スリー・キャッツのセクシイ・ムード 〜桃色の風〜』(1960年5月15日発売)。だから、ウィキペディアの記載は部分的に間違っている。

二枚目に「桃色」とあるわけだけど、ところで「桃色」とか「ピンク」とか「赤(紅)」とかって、日本語ではエロにつながっている。英語だとこの系統の色は共産党の連想をひきおこすものだ。エロ関係の色は blue。日本歌謡界だと、たとえばピンク・レディーなんていう命名も、ちょっとしたセクシー路線みたいな意味合いがあったんだろうなあ。

CD『スリー・キャッツのセクシイ・ムード』。全体的にはお座敷小唄みたいなもんかな。いま聴くとイマイチだなと、ぼくの世代でも感じるばあいがあるが、そうでない曲もわりとある。そうでない、つまりいまでもおもしろく楽しめると思うものは、ラテン(中南米)音楽ふう、はっきり言えばキューバン・スタイルのセクシー歌謡になっているもの。

CD『スリー・キャッツのセクシイ・ムード』からそんなラテン・ソングを抜き出すと、以下の九曲となる。

・黄色いさくらんぼ
・チョンチョン娘
・ピンク・ムーン
・あの時帰れば
・こんな私じゃなかったに
・おへその曲り角
・甘ずっぱい夜
・いい感じ
・パパ恋人にあって

これらのなかでも特に傑出していると感じるのが以下の三曲。

・黄色いさくらんぼ
・おへその曲り角
・パパ恋人にあって

二枚目の LP レコードが1960年5月に出ているわけだから録音はそれより前だが、フィデル・カストロらによるキューバ本国での革命は1959年完遂。以前から書いているが、誤解をおそれずに言えば、あの革命後、キューバ音楽に潤いが弱くなっていた時期が長い。どうも音楽とか芸能とか芸術とかって、政治や社会の倫理や正義と相反するようなかたちで美を発揮したり失ったりすることもあるよなあ。ねじれてて、残念だけど、事実だ。

そんなことも含め、また、ちょうど革命前あたりの1950年代キューバ音楽と昭和エロ歌謡との関係についても、以前一度書いた。スリー・キャッツの名前も出してある。
20世紀初頭か19世紀後半からキューバ音楽は全世界に拡散していて、アラブ音楽にもトルコ音楽にも、もちろん日本の流行歌、演歌、歌謡曲、J-POP(と、あえて分別してみた)のなかにも色濃いラテン・テイストがある。ラテンというよりもだいたいはキューバ音楽風味だけど、ときにはブラジル音楽に接近したりもした。

ボサ・ノーヴァとか MPB とか最近のものの話じゃないんだよ。生田恵子っていう歌手が1950年代に活躍した。彼女はバイヨン歌いだ。また、美空ひばりの歌のなかにもラテン・ソングがかなりあるじゃないか。それもティーネイジャーのころに。
実際、日本の歌のなかにあるラテンなフィーリングはどうにもこうにも抜きがたい。21世紀の新世代演歌歌手、岩佐美咲のなかにだってあるんだもんね。
キューバ現地の音楽テイストや新潮流の勢い・拡散力が弱くなってからでもどんどんあるわけだから、ましてや全世界に拡散しまくっていた革命前はさぞや波は大きかったはずだ。スリー・キャッツのなかにも、だからあって当然のものだとはいえ、しかし彼女たちのばあいは、格別にキューバン・テイストが強調されているように思う。その目的はセクシーさ、官能性をお茶の間でも楽しめるようなポップ・エンターテイメントとして歌謡曲化するためだったと思う。

CD『スリー・キャッツのセクシイ・ムード』収録の16曲は、大部分を浜口庫之助が書いている。編曲もそう。ばあいによっては歌詞も浜口だったりするが、しかし星野哲郎であることが多い。それであんな歌詞とメロディとあのサウンドやリズムで、セックスにわりとはっきり言及し、だからテレビで聴いたのを子供が真似して鼻歌でくちずさんでいると注意されたり、NHK で放送禁止になったり。
この直前のリンクでは山本リンダについて書いてあるが、リンダが爆発的ブームになって国民的歌手となり、その後の日本歌謡界でもあんなセクシーなアクション歌謡がふつう一般の流れになったのも、ラテン/キューバ音楽のパワーを借りてのことだったと、それも指摘してある。

スリー・キャッツのばあい、お座敷小唄系と上で書いたが、実際、オーディエンスは踊るというよりも座って聴いて、演者のお色気を楽しむというような趣に仕上がっているよね。山本リンダ以後みたいに踊り狂い飛ばせば卑猥さはなくなる、というか(猥雑ではあっても)別次元に到達し昇華されるわけだけど、スリー・キャッツの歌は、濃厚なエロみがそのままいやらしく表出されている。

上で抜き出したスリー・キャッツのキューバン歌謡九曲のなかに、強いダンス・フィーリングを持つものは「パパ恋人にあって」だけ。だからこの歌に直截的なセックス表現は感じられない。それ以外の八曲はミドル〜スロー・テンポで、ゆったりじっくり雰囲気を昂めていくようなものばかり。

歌詞の中身を具体的に説明しないほうがいいが、サウンドだって、たとえば金管がしばしばプランジャー・ミュートを付けてあのグロウリング・サウンドを出して「わぁ〜わぁ〜」と言っているよね。ラテン・パーカッション群も盛んに入り、リズムにアクセントをつけ、いい刺激になっている。

1970年のゴールデン・ハーフ・ヴァージョンの「黄色いさくらんぼ」は、テンポを上げ疾走する感じに再アレンジし、軽快かつスピーディで爽快な一曲に変貌していた。あの時代にはピッタリ来るフィーリングに解釈しなおしたってことだね。彼女たちのは歌はどれもそうだ。

でもその約10年ほど前には、同じ歌でスリー・キャッツのものみたいに淫靡(美)な世界を展開していたってことも忘れられないことなんだよね。たんなる懐メロとかなんとか、そんなことで片付けないでほしい。ぼくだってリアルタイムでは知らないんだから。たんにヴァーチャルな懐古趣味かもしれないが、ラテン音楽、特に革命でしぼむ前のキューバ音楽と、その影響下にあった世界の歌謡界では大きくふくらんでいたものがあったのは間違いないんで、そんな時代があったからこそ今の21世紀歌謡があるんじゃないかと思うんで。

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