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2018/07/18

ブルー・アイド・メンフィス・ソウル 〜 ボズ・スキャッグス『カム・オン・ホーム』

1曲目「イット・オール・ウェント・ダウン・ザ・ドレイン」を聴いて、なんとも言えない気持ちになっちまった。「ぼくの人生、なにもないじゃないか」「カラッポだ」「すべて流れていってしまったよ」というこのアール・キング作の曲を歌いギター・ソロを弾くのがボズ・スキャッグズ。アルバム『カム・オン・ホーム』(ヴァージン、1997)のこと。

アルバム・リリース時にこれいいぞと(たぶん、るーべん aka 佐野ひろしさんから)うかがって買ったけれど、ネット活動開始二年後の1997年というと、ぼくは仕事も私生活も超充実していた時期で、かなり多忙だったし、「ぼくの人生、カラッポだ」なんて歌を切なく渋くやられたって、なんのこっちゃぜんぜん意味わかんなかったのだ。アルバムのほかの曲もほぼ同傾向で、だから、ごく最近まで CD ラックのなかで放ったらかしにしてあった。

それが、ついこないだ、ふとあるきっかけで思い出し、というのはなにかというと、もうすぐ似たような傾向の新作リリース予定があるそうだというネット情報を目にしたからで、それでちょっと聴きなおしてみようと引っ張り出してかけたら、こうだよ。もうダメだ。涙腺崩壊を起こしてしまった。歳月を重ねると自分も、音楽も、変わるんだよなあ。あたりまえのことだけど。

ボズの『カム・オン・ホーム』収録の全14曲中、新しいものはたぶん五曲だけ。たぶん、っていうのは、五つのうち四つまではボズの自作で間違いなくアルバムのための新曲だけど、ウィリー・ミッチェル&アール・ランドル作とある5曲目「カム・オン・ホーム」も書き下ろしじゃないかと思うんだよね。このソングライター・コンビにこんな曲、過去にあったっけ?

それら以外の九曲はブルーズ、リズム&ブルーズ、ソウル・ソングのカヴァーで構成されている。歌はもちろん全曲ボズだけど、ギターも弾き、ソロだって多くのばあい彼自身のようだ。そのクレジットがない9曲目「アーリー・イン・ザ・モーニング」(サニー・ボーイ・ウィリアムスン I 世)でだけ、ギター・ソロはスティーヴ・フルーンド。

ギターといえば、この『カム・オン・ホーム』にはかなりたくさんフレッド・タケットが参加している。そう、リトル・フィートのギタリストだ。このアルバムではフレッドはソロは弾かない。あくまで脇役に徹し、それもコード・ワーク中心で、堅実に渋く地味にボズのこのオールド・ファッションドな回顧集を支えている。

ウィリー・ミッチェルが(たぶん)新曲を提供していると書いたが、それだけじゃなくホーン・セクションもウィリー・ミッチェル・ホーンズ(は全員ブックレット末尾に参加人物名が記載されている)が多くの曲でどんどん参加。ウィリーはアレンジとか、あるいはプロデュース・ワークにもかかわっていそうだ。

ウィリー・ミッチェル参加のおかげか、あるいはもともとボズがメンフィス・ソウル好きで、若き日々に聴いて感銘を受けた曲の数々や、そこからの影響でこの新作用にと雰囲気を合わせて書いた新曲などをやってみたというだけか、どっちにしても同じことなのか、『カム・オン・ホーム』というアルバム全体にメンフィス・ソウルの香りが強く漂っている、ようにぼくには聴こえる。

だから、やはり都会の音楽で、洗練されていて、ある意味 AOR 的な部分もあるようにぼくは感じるんだよね。曲の出自そのものはダウン・ホーム感覚があって土臭いというものだってあるけれど、ボズらはとりあげたそういうのでも、ブルージーさは残しつつ、ど田舎ふうなダーティさは消してある。やっぱりボズって、そういう資質の音楽家だよね。

一曲、ジャズ歌手もよくやるスタンダードがある。7曲目の「ラヴ・レターズ」。ダイナ・ワシントンの歌で有名だし、アリーサ・フランクリンも(しかもアトランティック時代に)歌った。ボズはこの歌を、孤独でわびしいひとりの男性の、まるで空想か妄想の、つまりあのファッツ・ウォラーの有名曲みたいな心持ちでアレンジし歌っている。これは、沁みるなあ。

13曲目に「アフター・アワーズ」ってのもあるから、あれかなと思うと違って、これはボズの書いた新曲だった。でも曲題どおり、すなわちエイヴリー・パリッシュ作のスタンダード・ソング同様(あれってヴォーカリーズ・ヴァージョンとか、あるの?)、リラックスしたレイド・バック・ブルーズにしてボズもやっている。

この「アフター・アワーズ」でおもしろいのは、これも12小節定型ブルーズなんだけど、コード・チェンジが、かのいわゆる<ストマン進行>ってやつを使ってあることだ。そんな T・ボーン・ウォーカー・ソングもこのアルバムにあって、11曲目の「T・ボーン・シャッフル」。これにわびしさはなく、楽しいうきうきジャンプ・ナンバーだ。

ボビー・ブランドの2曲目「アスク・ミー・バウト・ナシン(バット・ザ・ブルーズ)」もいいし、4曲目「ファウンド・ラヴ」は、オリジナルどおりジミー・リード・スタイルのイナタいブギ・ウギで歩くテンポ。くつろげる。これ以外の曲でも入るハーモニカ・ソロには若干のダウン・ホーム感があるなあ。

ウィリー・ミッチェル作の(たぶん)新作、5曲目「カム・オン・ホーム」がアルバム・タイトルにもなっているわけで、これのサウンドや歌詞など考慮すると、どうもボズ自身の若き日にちょっとゲット・バックしてみようじゃないか、そこにぼくはいたんだし、結局、いまもいるんだから、っていうような音楽なのかなあ、このアルバムは。

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