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2018/08/04

わたしはタイコ、魂を清め邪気を払う 〜 ハイチのチローロ

チローロ「ドラム・ソロ」
ハービー・ハンコック「ディス・イズ・ダ・ドラム」
アフリカとラテン(含むカリブ)とジャズと、三つの音楽の関係がぼくにわかっているはずありませんが、とにかく最高に楽しく心地良いハイチのドラマー、チローロの音楽。ぼくが持つチローロの音源はたったの CD 一枚だけ、というか CD で探す限り、世界にこれしかないらしい『ベスト・オヴ・チローロ』(The Best of Tiroro: The Greatest Drummer In Haiti)。中村とうようさんの選曲・編纂・解説のもので、2002年のライス(オフィス・サンビーニャ)盤だ。その解説文末尾に、1994年にオーディブックで発売したものだとある。それのリイシューってことだね。2013年にもリイシューされたらしい。

チローロはハイチのドラマー(生没年不明だが1910年代?〜70年代末?)。いちおう念のために付記すると、ドラマーといってもいわゆるドラム・セットを演奏するわけじゃない。とうようさんの解説文によれば「丸太をくり抜いて一枚の皮を張っただけのドラム」とのこと。ジャケット絵やいくつかの写真では、コンガとかジェンベみたいな縦長の樽型に見えるけれど、皮はもっと薄いものを使っているかもしれないという音が聴こえる。バタとか、あるいはなんらかのトーキング・ドラムに近い?そのへんはぼくにわかるはずもない。

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トーキング・ドラムと書いたけれど、『ベスト・オヴ・チローロ』を聴いていると、まさにしゃべっているような、会話(自問自答)しているかのような、そんな闊達自在で多彩なドラム・サウンドが聴こえる。むろんタマみたいな西アフリカのトーキング・ドラムとは違う音なんだけど、チローロの音楽を聴いているとリズムの色彩感に感動するよね。

大きくノルかと思うと、細かい装飾音を重ねていったりロールを入れたり、テンポは曲によって違っているのはもちろん、一曲のなかでもどんどん変化する。『ベスト・オヴ・チローロ』収録の音楽は、ほぼすべてがチローロひとりでひたすらドラムを叩いている(+アルバム後半では歌も)だけのものだけど、決して飽かせず、自由奔放な、でありかつデリケートなフレーズのインプロヴィゼイションに、こ〜りゃカッコイイ!と快感しかない。

タイコのみを演奏するだけなのに、単調(モノトーン)なんていう世界の正反対にあるチローロの音楽。それはハイチという、カリブ海諸国でも最もアフリカ比率の高い国だからなのか、格別西アフリカの音楽のリズムを体現しているもののように聴こえる。北アメリカ合衆国の南の海で。このことを踏まえると、チローロから北上し、米合衆国黒人音楽、ことにジャズ(から派生したロックなども)とかラテンとかファンクとかヒップ・ホップなどにあるリズム・ニュアンスの謎を解くきっかけになるかもしれない。

チローロのドラム・ミュージックは、むろんそれじたいが楽しくおもしろく快感だ。CD アルバム『ベスト・オヴ・チローロ』は、これを流し聴きしているだけで気持ちいいんだけど、上で書いたようにチローロに至るまでにアフリカからなにがどう流入し、チローロ(的なもの)からなにがどう北上したのかを考えると、ゾクゾクしてくるよね。

たとえば、ふとあるきっかけがあって昨晩聴きなおしたファニア・オール・スターズの『ライヴ・アット・ザ・チーター』二枚。サルサ、つまりニュー・ヨーク・ラテンの音楽だけど、どの曲のどこがどう?なんて指摘も不可能なほど、チローロのリズムが<そのまんま>ここにある。正真正銘掛け値なしだ。ファニアのチーターはネット配信でもいつでも簡単に聴ける。Spotify で聴けるチローロはたぶんこのへんかなあ。
Apple Music だとこのへんもある。
ファニアのチーターのリズムのことは、かなりアフリカンだなと聴こえるパートもあるし(それも、ある曲の途中でパッとかたちが瞬時に変貌し、そうなる)、そのほか書きたいことがいっぱいあるので、今日はこれ以上言わず別の機会に。『ベスト・オヴ・チローロ』を聴くと、そんな北米ラテンだけでなく、ハイチやプエルト・リコやキューバなどカリビアン・ミュージック、そして北米ニュー・オーリンズのビート感、さらにそこから誕生したジャズをはじめとするアメリカン・ブラック・ミュージックの種々のリズムの根幹があるなあと、これは間違いない最近の実感だ。

チローロと、米国人ジャズ・ドラマー、マックス・ローチとの関係は、わりとよく知られていることらしいから、書かなかった。『ベスト・オヴ・チローロ』附属のとうようさんの解説文にも詳しい記述がある。ただひたすらチローロのタイコ演奏にだけフォーカスしたライス盤『ベスト・オヴ・チローロ』。ポピュラー・ミュージックのリズム、ノリ、タイミングの感覚の真髄を感じとることができるはず。チローロから敷衍すれば、いろんな音楽のことも説明できるかも。リズムこそ音楽の核心部分だから。

だから、こないだ日曜日に当ブログに文章をアップしたハービー・ハンコック1994年のアルバム『ディス・イズ・ダ・ドラム』は、チローロ・トリビュート作品だったんだよね。今日いちばん上でご紹介したチローロの「ドラム・ソロ」が、CD『ベスト・オヴ・チローロ』の1曲目。何年の録音かは判明しないようだけど、1950年代??ハービーはそこからサンプリングして使った。そのナレイションはチローロじゃないけれどね。

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