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2018/08/17

マイルズ・クインテットでがんばろう

『ワーキン』は大学生のころかなり好きだった。その後やや縁遠くなったけれど、かつてはなんども繰り返し聴いていた。最大の理由はジャケットが好きだったから。マイルズの後方に道路をならす例のやつ(名前、なんていうの?)が見えるでしょ。あのクルマのことが、写真でも現実生活で間近に見るのも、意味もなくどうしてだか好きだった。『ワーキン』ジャケットは、そのほかデザイン全体も好き。

中身はというと、かつてのぼくは A 面にある二曲のきれいなトーチ・ソングとバラードばかり聴いていて、まあ実際いい内容だよなあ。どっちもマイルズ自身もっと早くに別の編成で公式録音しているのが発売もされているが、大学生のころは『ワーキン』ヴァージョンのほうが好きだった。いまではこの印象がほぼ逆転している。

つまり、『ワーキン』1曲目の「イット・ネヴァー・エンタード・マイ・マインド」(1956年5月11日録音)は、ブルー・ノートへの1954年3月6日録音が先行する。ピアノがホレス・シルヴァーのワン・ホーン・カルテット編成で、現在ではアルバム『ヴォリューム 1』に収録されている。これ、いいんだよ〜。ハーマン・ミュートじゃなくマイルズはカップ・ミュートで吹くのが枯れていて、いい音色だ。
『ワーキン』3曲目の「イン・ユア・オウン・スウィート・ウェイ」も五月のセッションでの録音。これは同年3月16日に同じプレスティジに録音したのがアルバム『コレクターズ・アイテムズ』B 面に収録されている。ソニー・ロリンズとトミー・フラナガンの参加が耳を引くところ。
それにしても1950年代半ばから後半ごろのマイルズが、こういったバラードやトーチ・ソングを、ハーマン(じゃなくても)・ミュートを使ってきれいでデリケートに演奏するのを聴くのは、本当にすばらしい体験、至福の時間だ。なんど繰り返して聴いても実にいい。「イット・ネヴァー・エンタード・マイ・マインド」も「イン・ユア・オウン・スウィート・ウェイ」も、2ヴァージョンのどっちがいいかは、結局のところ、個人の好みでしかない。

『コレクターズ・アイテムズ』には、『ワーキン』収録セッションで再演した同じ曲がもう一個あって、『コレクターズ・アイテムズ』での曲名は「ヴァイアード・ブルーズ」。『ワーキン』5曲目では「トレインズ・ブルーズ」という名前になっていて、作曲者もジョン・コルトレインにクレジットされている。このブルーズも三月ヴァージョンのほうがぼくは好きだ。特にロリンズの味が。
しかし五月のオリジナル・クインテット・ヴァージョンにも目立った特徴がある。いちばんはポール・チェインバーズのソロが終わったあと、マイルズ&トレインでアンサンブルを演奏しているところ。そこはチャーリー・パーカー・コンボのダイアル録音「ザ・ヒム」のラインだ。おもしろいなあ。バードの「ザ・ヒム」のあれは、ジェイ・マクシャン楽団時代にさかのぼる由来があるけれど、書いていると長くなってしまうので省略。ダイアルへのそれは1947年10月28日録音で、マイルズもいる。
同じ曲でも「ヴィアード・ブルーズ」ヴァージョンにはない「トレインズ・ブルーズ」ヴァージョンのあの「ザ・ヒム」の合奏ラインには、ゴスペル・ソングっぽいニュアンスがあるよね。しかも同時に童謡っぽい素朴な旋律の動きでもあって、つまりはホレス・シルヴァーがよく書き演奏するファンキー・タッチなラインに酷似している。だからおもしろいんだ。

この「ヴァイアード・ブルーズ」だか「トレイズ・ブルーズ」だかの初演に、実はマイルズはいない。ポール・チェインバーズ名義の1956年3月1日か2日録音で、同年九月発売のジャズ・ウェスト盤レコード『チェインバーズ・ミュージック』に収録されたその曲題は「ジョン・ポール・ジョーンズ」。コルトレインとチェインバーズとフィリー・ジョーの名前を取って並べただけ。でもレッド・ツッェペリン・ファンも反応しちゃうよ(笑)。ピアノはケニー・ドルー。作者はコルトレインにクレジットされている。
これら三種類では、ぼくの趣味だと「ヴァイアード・ブルーズ」ヴァージョンがいちばん好き。やっぱりソニー・ロリンズのあのユーモラスなファンキーさ、それはホレス・シルヴァーなんかにも通じるものだけど、あのへんの作曲や演奏のタッチが好きなのだ。みなさんはいかがでしょうか?

『ワーキン』収録曲は、ほかの「ザ・テーマ」「フォー」「ハーフ・ネルスン」も、ぜんぶマイルズ自身のリーダー・セッションか、あるいは関係したかたちでの先行録音ヴァージョンがある。

「ザ・テーマ」は1955年11月16日にオリジナル・クインテットでプレスティジに録音。それが『マイルズ』(ザ・ニュー・マイルズ・デイヴィス・クインテット)に収録されている。マラソン・セッションの五月回で2テイクも録音したのは、たんなる曲数かせぎだったのかなあ?

「フォー」は1954年3月15日にホレス・シルヴァーらをしたがえたカルテットでプレスティジに録音したのが『ブルー・ヘイズ』に収録されている。これは以前も書いたがエディ・クリーンヘッド・ヴィンスンが書いたものである可能性が高い。マイルズの名前が書いてあるけれど、このちょっとした黒っぽいリズム&ブルーズ感覚は、やっぱりヴィンスンっぽいよね。

「ハーフ・ネルスン」は、チャーリー・パーカー・コンボ時代の1947年8月14日に、サヴォイに録音している。名義はいちおうマイルズ・デイヴィス・オール・スターズとマイルズのリーダー・セッションで、四曲やって SP 発売されたけれど、もちろん中身はテナー・サックスに持ち替えたバードのリーダーシップ。この日の四曲ともマイルズの書いたオリジナル。
あれれ〜っ?ってことは『ワーキン』だと B 面の「アーマッズ・ブルーズ」だけということになるけれど、これはレッド・ガーランドが主役のピアノ・トリオだけの作品で、曲題どおりマイルズご執心のアーマッド・ジャマル・ナンバー。

な〜んだ、この『ワーキン』っていうアルバムはいったいなんなのか(笑)?1959年12月に発売したプレスティジは、なんらかの編纂意図を持っていたってことなのかなあ?たんなる偶然?でも、レコードの内容はかなり好きだ。むかしはもっとずっと好きだった。

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