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2018/08/07

いまでも新しいクール・ファンク 〜 スライ『フレッシュ』

『暴動』を経て蘇ったバンド、新生スライ&ザ・ファミリー・ストーンの『フレッシュ』(1973年6月30日発売)。かなりクールだよね。これがあのスライなのか?『スタンド!』までのように楽しくにぎやかに跳ね回るホットな感じはまったくない。もちろん前作『暴動』(1971)でそれが消えたわけだけど、しかし『フレッシュ』は落ち込んでいるばかりではない。生命感があって、しかもスカしたクールネスもあるっていう。だからぼくとしては『暴動』より『フレッシュ』のほうが好み。なんだかジャジーでもあるしね。

『暴動』でのリズム、特に打楽器はリズム・マシンを中心に組み立てていたが、『フレッシュ』だとそれをそのまま続けて使い、しかもバンドの新ドラマー、アンディ・ニューマークの生演奏ドラミングと混ぜているのが最大の特徴だ。アルバムの随所で聴ける。

生演奏ドラミングには湿った質感というか、う〜んとうまく言えないが、こう、つまり肉体(fresh ならぬ flesh)感が宿る…ってあたりまえなことだけど、リズム・マシンのあのカチャカチャっていう乾いて無機質なあんな感触と混ざって、『フレッシュ』では不思議で形容しがたいグルーヴを生んでいるよね。

そのグルーヴ感がどんなものだか的確に表現することは、ぼくの筆力ではむずかしい。1曲目「イン・タイム」で、まず最初ドラム・マシンが鳴りはじめたなと思った次の瞬間にアンディの生演奏ベース・ドラムが来て、そのほかも入ってくる。ギター、ベースとくわわってスライが歌いはじめ、ホーン・セクションが入ってくるあたりで、かなりの快感。この「イン・タイム」の乾いているんだか湿っているんだかわからない摩訶不思議な音の質感がマジでいいね。

アルバム『フレッシュ』のことは、ここまででぜんぶ言い尽くしてしまったような気分。スライのヴォーカルも、『暴動』のようにはひどく落ち込んでも荒れてもおらず、アルバム『スタンド!』やシングル曲「サンキュー」までのような艶ややかすら感じられる。絶望感はやはり漂っているが、暗く落ち込んでいるようなところからはすこし上向いている。いや、ちょっと開き直ったというか…、うんまあわかりませんが。

絶望と開き直りみたいなものをアルバム『フレッシュ』でぼくが一番実感してしまうのが、スライの曲ではない9曲目「ケ・セラ、セラ」。そう、古めのアメリカン・ポップス愛好家のみなさんもご存知、あのドリス・デイ1956年のヒット曲。もとは映画の挿入歌だった。こんな感じ↓
だからこれはちょっとノーテンキな、ということじゃないにしても、まあ楽観主義な歌なわけ。それをスライはこんなにもアーシーでソウルフルで、かなりブルージーで(ギター・サウンド)、しかも重たく暗い絶望に富む一曲に仕上げてしまった。原曲が超有名ポップ・ソングなだけに、それだからこそ、いっそうスライのこの気分が沁みてしまう。これはちょっとしんどくて聴けないときがある。

アルバム『フレッシュ』全体にこんなヘヴィな感触が濃厚に漂っていて、しかしサウンドとリズムには軽く跳ねるライトネスもあり、必ずしも『暴動』のように落ち込み路線まっしぐらはない。黒人同胞(特にブラック・パンサーなど急進派)のプレッシャーから解放された 〜 『フレッシュ』の録音は1972年にはじまっている 〜 ということも影響したかもしれない。

アルバム10曲目「イフ・イット・ワー・レフト・アップ・トゥ・ミー」は、1968年ごろまでのスライでよく聴けたようなわらべ歌系の一曲で、しかしあっという間に終わってしまう短いもの。こんな路線の楽曲もまじっている、それも「ケ・セラ、セラ」の次にそれが来るというのはおもしろい。これ、ホント、かつてのあのころのスライ・ナンバーにそっくりだよ。シリアスでヘヴィなブラック・ミュージックの愛好家にはそこがイマイチかも。

重たいのか軽いのか、暗いのか明るいのか、そのへんがよくわからないが、有機と無機のリズムとサウンドを合体させ、唯一無二の不思議な質感のファンク・グルーヴを編み出してしまったスライの『フレッシュ』。『ヴードゥー』 のディアンジェロなど、現在の21世紀型音楽につながっているのは、このアルバムのスライだよね。いまでも新しい。

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