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2018/09/26

ディレイニー&ボニーの『モーテル・ショット』

ディレイニー&ボニー・アンド・フレンズの『モーテル・ショット』(アトコ、1971年初頭)。どう聴いてもゴスペル・アルバムだとしか思えない。たんにゴスペル調とかいうんじゃない。ゴスペルそのものの音楽フィールがあるよね。とりあげられている曲のなかには、ふつう一般の意味でゴスペルや賛美歌じゃないオリジナル曲やカントリーやブルーグラス・ソング、有名ブルーズ、リズム&ブルーズ曲、フォーク・ソングもあるけれど、『モーテル・ショット』ではゴスペル・ミュージックと化している。

最大の理由はリオン・ラッセルの弾くピアノ・スタイルにあるのかもなあ。ってか、このピアノはリオンだよね?このアルバムも詳細なクレジットがぼくにはわからないので自信がないが、『モーテル・ショット』一枚を貫く芯のように一貫した弾きかたのアクースティック・ピアノが聴けるので、同一人物には違いない。ディレイニー&ボニーのフレンズでこういったゴスペル・タッチを弾く最右翼はリオンだ。

ほかはアクースティック・ギターと(アルバム中唯一の電気アンプリファイド楽器である)ベース、それからタンバリンを中心とする打楽器。あとはヴォーカル・コーラスだけだ。あ、いや、エレキ・ギター(のスライド・プレイその他)は聴こえるなあ。デュエインなんだっけ?でもデュエインじゃないなと思えるパートもある。デイヴ・メイスンだったりエリック・クラプトンだったりするの?

まあでも『モーテル・ショット』での中心は楽器じゃない。リオン・ラッセルのピアノは重要な役割をはたしているが、目立つのはそれだけで、あくまでポリフォニックな人声と、それでもってグイグイ進むリズムの推進力こそがこのアルバムの核。それがゴスペル・フィールだなとぼくは思うわけ。こう、なんというか、人間の肉体のあたたかみを感じさせ、きみとぼくとわたしたちはつながっているんだよ、さぁいっしょに歩んでいこうよ、という前向きの人生肯定感がこのアルバムの底流にある。

ゴスペル・ミュージックとか、その舞台である教会そのほかや、あるいは宗教一般って、つまるところ、人間が人生を前向きに楽しく充実したものにできるように、幸福な歩みをとれるように、そういう手助けをするものとしてこの世に存在するものだと思う。信仰するひとを縛りつけるものじゃない。解き放つものだよね。そんな解放感や肯定感がゴスペル・ミュージックの意味だ。

この点においても、ディレイニー&ボニーの『モーテル・ショット』はまさしくゴスペル・アルバムだと聴こえる。もちろんそんな意味付けがなくとも、このアルバムのサウンドやリズムに漂う純音楽的要素がアメリカ黒人ゴスペルだし、楽曲レパートリーだってそういった伝承ゴスペルが中核を形成して、アルバムのトータル・カラーを支配している。

1曲目「ウェア・ザ・ソウル・ネヴァー・ダイズ」の圧倒的恍惚感、ヴォーカル・コーラスの教会録音的な奥行きのある響きとひろがり、伴奏はブロック・コードでぐいぐい叩かれるピアノだけ、それでずんずん進むヴィーエクルは、ボニーが主唱の2曲目「ウィル・ザ・サークル・ビー・アンブロークン」でも変わらず。リオンがリードでボニーがサイドにまわる3曲目「ロック・オヴ・エイジズ」でも同様。カントリーやブルーグラス系の音楽家が多く歌うものだけど、ここではどう聴いても黒人教会でやるようなリリカル・ソングふうのものにしか聴こえない。

5曲目「フェイディド・ラヴ」。曲じたいはふつうのトーチ・ソングなのかもしれないが、レイ・チャールズ・スタイルで弾くリオンのピアノに引っ張られ、失恋を踏まえてしっかり前へ人生を歩んでいこうという力強さがディレイニーのヴォーカルをも支配しているよね。これは、いい。

6曲目「トーキング・アバウト・ジーザス」はもちろんストレート・ゴスペル。だけど伝承曲ではなくディレイニーの書いたオリジナルだ。伝承ゴスペルや賛美歌である1曲目、2曲目となんらの差異も聴きとれないことに着目したい。つまりディレイニー&ボニーの音楽とは、そういったレヴェルにあった。自作も他作も伝承曲も、アメリカの古い黒人音楽の持つコクとまろやかさと、そして高揚感を表現することができていた。いやあ、それにしてもこの6曲目はなかなかすごいね。

その後、ブルーズ・ソングもリズム&ブルーズ・ヒットも、カントリー・ソングふう自作も、ヒルビリー・フォークみたいなレパートリーも、どれも一貫するまろやかさとしなやかさがあって、しかもアメリカにおける黒人/白人音楽のギャップなども微塵も感じさせない融和感で、見事な味わいを聴かせてくれる。

うんホントいいアルバムだよなあ、ディレイニー&ボニー&フレンズの『モーテル・ショット』。聴くと元気が出てくる。生きる希望が見えてくるかのようだ。

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