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2018/09/07

マイルズ『ツツ』の声

1981年復帰後のマイルズ・デイヴィス最高傑作は1986年のワーナー移籍第一作『ツツ』(TUTU) だとずっと思っていて、最近はこれがくつがえって『アマンドラ』になりつつある。それでも長年愛聴してきた『ツツ』だから、いまだに思い入れは強い。リリース時に宇田川町時代の渋谷タワーレコードでアナログ US 盤を買って、そりゃあもう聴いたなあ。当時、なにかのラジオ番組でピーター・バラカンさんも同じように高く評価するという意味のことをおっしゃっていたのがうれしかった。

なんたってまずこのジャケットがいいよね。当時発売のアナログ盤(といっても日本盤のことは知らない)では、裏ジャケもレコードを入れる内袋のデザインも、これの発展形だった。CD でも、ある時期の紙ジャケット盤(は日本盤)ですべて再現されている。それらのアート・ワークは石岡瑛子の手がけたもの。中身の音楽も好きだったが、このジャケットと内袋にやられちゃっていた。評価も高くて、石岡はなにかの賞をもらったんじゃなかったっけ。

左は裏ジャケット、右は内袋(の裏は各種クレジット記載)。

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アルバム『ツツ』収録曲のなかで、その後のマイルズ・ミュージック史上いちばん出世したのが「パーフェクト・ウェイ」。おなじみスクリッティ・ポリッティの曲だけど、ぼくのばあいはこのマイルズ・ヴァージョンで、このバンドの存在じたいはじめて知った。B 面2曲目と位置も微妙だし、出来も、まあこんなもんかなと思っていた感想が、いま聴きかえしても変わらない。

しかしその後のマイルズ・バンドによるライヴ・ツアーで「パーフェクト・ウェイ」は定番レパートリーになり、重要性も意味もポジションも上昇し、1990年からはコンサートのオープニング・ナンバーとして使われるようになった。スクリッティ・ポリッティをマイルズに提案したのは、プロデューサーのトミー・ラプーマ。レコードをもらったなかからマイルズ自身がこの曲を選んだ。

「パーフェクト・ウェイ」は、いっときワーナー移籍第一作のアルバム・タイトルにしたいとマイルズ本人はアイデアを持っていたくらいで、たぶん歌詞とか曲題とかに強く共感したところがあったんじゃないかと思う。『ツツ』収録ヴァージョンはイマイチでも、その後の各種ライヴ・ヴァージョンでは、スピーディになって疾走感も増し、バンドの演奏もグッとよくなっている。

そう、いま書いた二点、プロデューサーがワーナーのトミー・ラプーマだったことと、バンドの演奏も…、云々というこの二つのことは、『ツツ』制作を考える際には、逆の意味で強く作用する。ご存知のとおり、この作品は、当時のツアー・バンドをほぼ起用していない。と同時に、プロデュースしたのは実質的にマーカス・ミラー。繰り返す必要もないが、マーカスほぼひとりがオーヴァー・ダブを繰り返しまくってカラオケ・トラックを作成した。

ワーナーに移籍して以後のマイルズ・ミュージックは、スタジオ作品とライヴ・ワークのバランスというか、スタジオでセッション・メンを起用して完成させた曲を、レギュラー・バンドでのライヴでどうやるか、が一つの課題になっていたように思う。そして、1988年ごろからかな?ライヴでも<スター&その伴奏バンド=カラオケ生演奏>という構図が鮮明になっていた。

このテーマはちょっと別個に独立させて考えてみたいので、今日のところは掘り下げない。マイルズもジャズ界出身の音楽家であったとはいえ、1986年のワーナー移籍のころから一般的なポップ・ミュージック制作の手法を、スタジオでもライヴでもとりはじめるようになったということなんだろうね。ジャズ界では異例でも、ポップス界では当時すでに常識的だった。

アルバム『ツツ』。大学院生のときに買って聴いていたときいちばん好きだったのが1曲目「ツツ」、3曲目「ポーシア」、5曲目「バックヤード・リチュアル」、そしてなんたってアルバム・ラスト8曲目の「フル・ネルソン」だった。こないだから聴きかえしていても、やはりほぼ同じ気持ちになる。

それはそうと、関係あるのかないのかわからないが、その「Full Nelson」。マイルズは1947年に同題の曲を書きチャーリー・パーカー・コンボでレコード録音している。自分のバンドでも1956年に再演したのが『ワーキン』に収録されているよね。そっちはぼくは「フル・ネルスン」と表記することにしている。

『ツツ』の「Full Nelson」は、アルバム題が南アフリカのアパルトヘイト政策に抗議する意味を持っているものなのに呼応して、この8曲目もネルソン・マンデラへの言及題なんだよね。この1986年当時、アメリカの音楽界でもそんな動きが盛り上がりを見せていたよね。マイルズだって『サン・シティ』へのゲスト参加を果たしている。

『ツツ』の「フル・ネルソン」は、まあでもそんなテーマとは関係なく、ファンク・ミュージックとしてぼくは大好き。最初はボスのミューティッド・トランペットとマーカスのソプラノ・サックスとの親密な会話にはじまって、サンプリングされたマイルズの声が入るのがキューとなり、リズムが出る。その軽くて乾いた音色のエレキ・ギター・カッティングも好きだ。

テーマ(?)演奏部もトランペットとソプラノ・サックスの会話で進む。ドラム・マシンを使ったデジタル・ビートも、ここではあんがいイイよね。無機的なようでいて、この曲の持つ軽くて薄い曲想やノリ、フィーリングをうまく表現できていると思う。ボスのトランペット演奏も、この「フル・ネルソン」でのものが、アルバム『ツツ』ぜんぶを通していちばん出来がいい。なんたって元気だ。

終盤部でフィーチャーされフェイド・アウトしていくマイルズのソロがなかなかいいんだけど、そこへ入る瞬間にも、やはりあのしわがれ声のサンプルがキュー的に入る。ソロが出てからもワン・フレーズやったときに入るし、それ以外でもこの「フル・ネルソン」ではマイルズの声が、わりと頻繁に聴こえるよね。そんなところもぼくがこのアルバムを大好きな理由かも。

話がそれるようだけど、マイルズの録音作品って、わりとたくさん彼の声が聴けるように思う。ジャズと言わずなにと言わず、ここまで声(主にスタジオ・セッション中の会話や、曲演奏開始前、終了後などで発する声だけど)がたくさんレコードに収録されている音楽家って、ほかにいないのでは?ヴォーカル作品で歌が聴けるのとは意味が違うよね。

主にテオ・マセロ・プロデュース時代のことだったっけ?とふりかえってみると、そうでもない。プレスティジのアルバムでもマイルズの声は頻繁に聴ける。『ツツ』だと会話とかじゃなくて、なにかの声をサンプリングして使ってあるんだよなあ。遺作となった『ドゥー・バップ』でもイージー・モー・ビーがやはり同様に使っているし。

どうしてこんなに声が聴こえるんだろう、マイルズのレコードは?だってさ、マイルズ自身は、まぁある時期以後、悪く言えば恥も外聞もなくなってライヴ・ステージでもどんどんしゃべるようになりはしたけれど、ずっと長いあいだ、人前ではしゃべりたがらないひとで、シャイな性格というのと、声量も小さいのと、やはり若い時分に喉をつぶしてしまってあんなガラガラな声質になっちゃったのが心の負い目で、バンド・メンでもなに言ってるか聞きとりづらいというほどだったんだからなあ。

それが晩年ではなく、青壮年期からのレコードであんなにどんどん声が聴けるのは、そうか、そんなマイルズだったからこそ逆にというかあえてというか、主に演奏前後に入れられるようになっていたということなんだろうか?マイルズも、気を許した相手にはよくしゃべりよく笑う人だった。でも、『ツツ』でのマーカスや『ドゥー・バップ』でのイージー・モー・ビーは、ある種のリスペクト行為&音楽要素として声を挿入してあるんだよね。

あれっ〜?声の話がメインになっちゃったぞ。音楽の中身の話が少なくなってしまった。一時期いろんな音楽で頻用されていた、あのオーケストラル・ヒットっていうやつ、例のジャン!っていうの、あれをぼくがはじめて体験したのが『ツツ』1曲目のタイトル曲だ。当時はカッコイイなぁ〜って思っていたよ。

スパニッシュ・スケールを使った3曲目「ポーシア」はむかしもいまも好きだけど、その前の2曲目「トマース」(Tomaas)もちょっとそんなスパニッシュ・ニュアンスがあるような気がかすかにしている。5曲目「バックヤード・リチュアル」だけはマーカス主導ではなく、ジョージ・デュークがリーダーシップをとって完成したもの。かなり好きなんだけど、ジョージ・デュークという名前の意味するところ、フランク・ザッパとの関係なんかは、1986年当時のぼくは全然知らず。

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