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2018/09/16

ドナルド・バードのスロー・ドラーグ

1967年録音68年発売のドナルド・バードのブルー・ノート作品『スロー・ドラーグ』。もちろん #BlueNoteBoogaloo のひとつで、これまたドラムスがビリー・ヒギンズ。ルー・ドナルドスンの『アリゲイター・ブーガルー』の年でもあって、だからさ、あのへんのみんながさ、この1960年代後半〜末ごろに同じファンキーなラテン・ジャズ路線を歩んでいたと思うんだよね。個人的大好物だから、書き続けている。

ドナルド・バードのアルバム『スロー・ドラーグ』は、もうなんたってオープナーの「スロー・ドラーグ」で決まりだ。2曲目以後もかなり聴けるものがいくつかあるが、1曲目の牽引力があまりにも大きい。ところで slow drag は音楽用語で、スコット・ジョップリンなんかも使っているもの。ゆっくりしたテンポで重たく引きずるような(ダンス用であることも多い)粘っこい曲調を指すのがスロー・ドラーグ。

ブルー・ノート(じゃなくても)・ブーガルー・ジャズ全般に言えることだけど、さほど速すぎないテンポでタメを効かせ、じんわりと炎を燃やし徐々に昂まっていくような、そんな作風のジャズ楽曲・演奏が、こういった傾向の作品には多いと思うんだよね。「スロー・ドラーグ」もまた同じ。

曲「スロー・ドラーグ」では、シダー・ウォルトンの、強烈なゴスペル感を持つ重たいリフからはじまる。ピアニストは、曲全体を通し、ほぼずっとこのヘヴィ・リフを弾き続けている。毎コーラス終わりのコード・チェンジ部分でだけ、その変形みたいなものになるけれど、こういったブーガルー・リフをピアノが弾くのを曲の土台とするのは、ハービー・ハンコック「ウォーターメロン・マン」(1962)、リー・モーガン「ザ・サイドワインダー」(1963)からずっと変わらぬ創りだ。

曲「スロー・ドラーグ」の目立ったユニークさは、ヴォーカルが聴こえること。メイン・テーマ演奏前のイントロ部ですでにしゃべっているのがビリー・ヒギンズ。それが実にいいフィーリングをかもしだしているよねえ。大好きだ。これ、1967年5月12日録音なんだけど、この当時、こんなファンキー・ヴォーカルが聴けるジャズって、あったっけ、なかったよね。

ビリー・ヒギンズのヴォーカルは、トランペット、アルト・サックス(ソニー・レッド)と続くソロのあとすぐまた入ってきて、今度は本格的にしゃべっている。そこはいちおうはピアノ・ソロ部なんだけど、これはもはやヴォーカルをフィーチャーしたパートとでも言うべき。独り言というかツイートみたいなもんだけど、リラックスもしていて、「スロー・ドラーグ」という曲想によく似合っているしゃべりだ。

それが終わるとそのままメイン・テーマ最終演奏になるんだよね。ストレートに音を出さずベンドを多用するドナルド・バードのトランペット・ソロ、ソニー・レッドのアルト・サックス・ソロも、きわだって見事。前者のノート・ベンドはハーフ・ヴァルヴを多用しているのかな(あるいはリップ・スラー?)ブルージーさや重たいファンキーさを出し、後者も(いつでもそうだが)独自の発音でフレジングも強く、フリーキーな感触すらあるトーンがカッコよく、五人一体となって、曲「スロー・ドラーグ」は真っ黒けだ。

いやあ、1967年録音で、こんなにもカッコいいブーガルー・ジャズがあったんだろうか、なかったよね。曲もドナルド・バードが書いたものだけど、「スロー・ドラーグ」、最高だ。ぼくのばあい、このトランペット奏者にファンキー路線の作品があると承知はしていたつもりだったけれど、まったく不明だったと告白しないといけない。今年五月のレーベル公式プレイリスト #BlueNoteBoogaloo で教えていただいたのだ。「スロー・ドラーグ」には、はっきり言ってひっくり返るほどビックリしましたね、あまりにカッコイイんで。
ドナルド・バードのアルバム『スロー・ドラーグ』。ほかの収録曲もちょっとだけ走り書きしておこう。ラストの6曲目「マイ・アイディール」は、アルバム唯一のポップ・スタンダード。これと2曲目「シークレット・ラヴ」、5曲目「ザ・ローナー」は、新主流派寄りのトーナリティとリズムだけど、まあふつうのメインストリーム・ジャズかなと思う。

3曲目「ブックズ・ボッサ」、4曲目「ジェリー・ロール」は、ブルー・ノート・ブーガルー的と呼んでいいような要素がちょっぴりあるのかもしれない。前者は曲題どおりボサ・ノーヴァ調で、このアルバムでベースを弾くウォルター・ブッカーの作品。ビリー・ヒギンズのドラミングがやはりうまいのと、シダーのピアノ・リフがいい。異様なソニー・レッドのソロも聴きものかな。

そんなソニー・レッドをフィーチャーしたのが、4曲目「ジェリー・ロール」。ピアノ・リフや、ソロ背後で入るホーン・リフを聴いてほしい。笑っちゃうほど「ザ・サイドワインダー」でのバリー・ハリスのパターンにウリ二つじゃないか。曲題ほどは猥雑感と粘っこさのないあっさりジャズ・ロックだけど、これはひょっとしてリー・モーガンの『ザ・サイドワインダー』に参加していたビリー・ヒギンズが主導権を握っていたかもしれないね。ドラミングといい、曲全体のリズム・パターンを主導している印象がある。

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