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2018/09/14

オールド・ワイン、ニュー・ボトル、になりかけ? 〜『マイルズ・イン・ベルリン』

マイルズ・デイヴィスの『マイルズ・イン・ベルリン』。このジャケットをご覧いただきたい。右上に「ステレオ」って堂々と書いてあるよね。ものによってはこれがない(日本盤はむかしもいまもない。ドイツ盤も?)。そりゃそうだよ、ウソだもん。中身はリアル・ステレオじゃない。「ステレオ」と銘打ったものは擬似ステレオっていうやつ。現場ラジオ局のスタッフが録音したオリジナル・テープは、モノラルのものしかない。

『マイルズ・イン・ベルリン』は1964年9月25日の西ベルリンでのライヴ収録で、まずドイツ CBS から1965年2月1日に発売されたレコードが初版。それをもとに日本でも1968年にレコード発売された。母国アメリカで発売されたのがいつのことか、調べてもわからなかった。データを自力で発見できなかったけれど、どなたかご存知のかたがいらっしゃると思いますので、教えてください。さらにどの段階で疑似ステレオで発売され(アメリカでだけ?最初から?)、いつごろのリイシュー CD からちゃんとモノラルに修正されたか(ドイツと日本ではずっとモノ盤だけのような?)も、きちんとしたデータを見つけられなかった。どうかお願いします。

ぼくの記憶が間違っていなければ、35年以上前の大学生のころに買ったレコードは疑似ステレオだったように思う。21世紀に入りしばらくしてからのぼくがふだん聴く日本ソニー発売の CD はリアル・モノラル。しかも一曲、レコードにはなかったボーナス・トラックがあって、旧 B 面の「ソー・ワット」と「ウォーキン」のあいだに「ステラ・バイ・スターライト」が入っている。これで当夜のフル・コンサートをそのままの曲順で再現だと、データ的な資料でわかっている。

ここまでは瑣末な周辺情報だった。みなさんご存知のとおり『マイルズ・イン・ベルリン』は、ウェイン・ショーターがバンドのレギュラー・メンバーとなってはじめての演奏記録だ。公式でもブートレグでもそう。ベルリンの前が、サム・リヴァーズ参加の『マイルズ・イン・トーキョー』で、このあいだには非公式音源も存在しない。

ウェインが参加してバンド・サウンドにどういった変化があるか?がやはり最大の着目点になると思うんだけど、実際、変わりはじめているよね。特にリズム面。ボスのマイルズの演奏スタイルに大きな違いは聴きとれないが、サックス・ソロ、ハービー・ハンコックのピアノ・ソロ、それら二者の背後でのリズム・セクションの動きに、柔軟性、躍動感、そして崩壊一歩寸前に達さんとする抽象化の動きまで読みとれる。しかもそれがリリシズムと一体化しているケースだってある(「枯葉」)。

マイルズの音楽はずっと生涯にわたりそうだったけれど、リズム面での革新に大きな意味を持たせているばあいが多い。『マイルズ・イン・ベルリン』で聴けるウェイン効果もやはり同じくリズム面での刷新が大きいと思う。(現行)アルバムの全五曲中、それが最もわかりやすいのが「枯葉」と「ウォーキン」じゃないかな。実際、この二曲がこのライヴ盤のハイライトだ。

「枯葉」では、絶妙きわまりないリリカルさを発揮するマイルズのソロがやはりいちばんいいんだけど、みんな、その次、二番手のウェインのソロをあまりにも軽視しすぎだ(特に某ナカヤマさん)。テナー・サックスで吹くフレイジングの表情にリズミカルな変化をつけ(発音の質、音量も多彩だが)、細かくクネクネとうねったり、大きな同一フレーズをシンプルにリピートしたりなどしながら、リズムの三人を刺激している。実際、ピアニスト、ベーシスト、ドラマーは、マイルズのバックでの淡々とした伴奏では聴けない変幻するカラフルな表情を見せているよね。

三番手ハービー・のピアノ・ソロ(四番手ロン・カーターのベース・ソロはなんでもない)だって、ウェインがつけたリズムの陰影をそのまま引き継いでいるじゃないか。かなり刺激されているとわかる。テナー・サックス・ソロの最終盤でウェインが同一フレーズを反復し、その背後でリズム三人がブロック・リフを合奏して、四人でグイグイ盛り上がるところは最高なんだけど(某ナカヤマさん、聞いてますか?)、そのままサックス・ソロが終わるので、次のハービーのソロへの大きなお膳立てにもなっているんだよね。

こういったことがさらに顕著になっていてわかりやすいのが「ウォーキン」。この演奏で、新クインテットの新化学反応を最も強く感じることができる。やはり三番手ウェイン、四番手ハービーのソロが聴きもの。ウェインはかなりな程度まで抽象化を推し進めているよね。ことにテンポの扱いが柔軟というか、種々の変化をつけて、あわせてフレイジングも変えている。ってか、こんなフレーズを吹きたいからこんなふうに自在にテンポ・チェンジするってことか。もはやソロ全体の均衡や統一性を欠く一歩手前まで来ている。

背後の三人、特にハービーがあまりにも強くそんなウェインのソロ内でのテンポ・チェンジに影響を受けたバッキングをしているでしょ。ウェインがソロの最後で、曲「マイルストーンズ」のテーマ・リフを引用して終わると、次の四番手ハービーのソロは、途中からガクンとテンポ・ダウンし、スロー・ブルーズになってしまう。しまう、というのは悪い意味じゃなく、とても美味しい。エイヴリー・パリッシュの「アフター・アワーズ」みたいで、とてもいいよね。

そこだけじゃなく、一個のピアノ・ソロのなかでこんなにどんどんテンポを多彩にチェンジさせながら弾くハービーは、この「ウォーキン」でしか聴けないんじゃないかと思う。ベーシストとドラマーもすべての局面で即応しているしね。ピアノ・ソロの最後にはもとどおりの急速調になって、テーマ合奏に戻る。

『マイルズ・イン・ベルリン』の全六曲は、他作スタンダードもマイルズ自作も、すべて古いもの。『E.S.P.』を録音するまでは新レパートリーがないんだから当然だけど、それにしても古酒だ。しかし1963年以来マイルズが繰り返してきたライヴ・ツアーのその記録されているもののなかでも、ベルリン・ライヴは新めの容器に入っている、やりかたが斬新だという感があって、やはりな、さすがはウェイン、そしてそれを見抜き招いたマイルズだけあるな、と感心する。

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