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2018/12/13

ライヴ・エルヴィス 1954〜1955

昨日の続き。2017年の三枚組『ア・ボーイ・フロム・テュペロ:ザ・コンプリート 1953-1955 レコーディングズ』の CD3、つまりライヴ&ラジオ・マテリアル。録音時期は1954/10/16〜55/10/29で、全32トラック。なかには紹介やインタヴューやコマーシャル・メッセージ(ラジオ放送用)だけのトラックもあるので、歌はぜんぶで30トラック。ソング・トラックの冒頭にも紹介の声など、どんどん入る。

演目はわりとだぶっていて、いちばんたくさんやっているのは「ザッツ・オール・ライト」の六回。そのほかサンでスタジオ録音している曲が中心だけど、そうじゃないのは「シェイク、ラトル・アンド・ロール」「フール、フール、フール」「ハーツ・オヴ・ストーン」「トウィードリー・ディー」「マニー・ハニー」「リトル・ママ」「アイ・ガット・ア・ウーマン」「メイベリーン」。

『ア・ボーイ・フロム・テュペロ』三枚目のライヴ&ラジオ音源集を聴くと、サン時代のスタジオ録音ではエルヴィスもまだかなり抑制を効かせていたんだなとわかる。生演唱だとエネルギーが解放され気味なのだ。といっても後年の爆発的なハード・ロックなバンド連中のそれとは比較できないが、1950年代半ばというロック台頭間もないころの、それもデビューしたての白人歌手としては、かなり激しいと言える。

なんども収録されている「ザッツ・オール・ライト」でもそれはわかる。あんな中庸でおとなしいフィーリングだったスタジオ・ヴァージョンだけど、それはサン録音のだいたいのトラックについて言えたことで、腰が動くようにハードで猥褻なイメージはまだないよね。ところが同時期のライヴ・マテリアルではそんなような激しい雰囲気に近づいているのだ。

昨日の記事では、エルヴィスはロッカーというよりどっちかというとバラディアーだと書いたんだけど、『ア・ボーイ・フロム・テュペロ』三枚目収録のライヴ&ラジオ・マテリアルではこの印象が逆転している。テンポはやはり中庸な「ザッツ・オール・ライト」や「グッド・ロッキン・トゥナイト」なんかでも、伴奏陣二名はほぼ同じだけど、主役歌手は発声そのものからして違っているんだ。今日上で使った写真に見えるエルヴィスの姿、これがピッタリ来るような躍動感を聴かせている。

発声も違えば、フレジング、節まわし、フレーズ末尾の微妙な震え&持ち上げ具合などもグンと生々しくなっていて、まさに live & raw なロック・ヴォーカリスト、エルヴィス・プレスリーがここに誕生している。サンのシングル・レコードもメンフィス・エリアを中心に売れラジオ放送もされたろうけれど、『ア・ボーイ・フロム・テュペロ』三枚目で聴けるライヴ&ラジオ・エルヴィスこそ、次世代を担うポップ・シンガーとして、つまりまだこのジャンル名は確立されていない<ロック>歌手として、メイジャーの RCA が白羽の矢を立てたものだったかも。

シンプルに言えは、1954/55年のライヴ・エルヴィスは、ハメを外しはじめている。エネルギー、エモーションを解放・放出しはじめているんだ。彼自身の、そして1955年という時代のそれを。それでもってしか、新しい音楽は生まれえなかった。いつでもそうだけど、このロック台頭の契機も、やはり個人=社会の脱皮・飛躍にあったと言えるはず。

そんなことは、『ア・ボーイ・フロム・テュペロ』三枚目のライヴ・マテリアルで聴けるオーディエンスの反応のよさからもうかがえる。嬌声が飛んでいるが、「ザッツ・オール・ライト」なんかでも、ある時期以後のものは、エルヴィスが「ザッツ・オール・ライト!」と強く叫ぶように歌い繰り返すと、客席から「ザッツ・オール・ライト!」とおうむ返しでレスポンスの合いの手が飛んでいる。熱気がかなりなことになっているんだよね。

こういった雰囲気は、新しい音楽が生み出されようとしているそのときその現場ではいつでも聴けるものなんじゃないか。エルヴィスがロックを生んだとか、ロック歌手第一号だったと言えるかどうかは微妙だ。同じような内容の歌やヴォーカル表現が、もっと前から徐々に出現し、かたちを整えはじめていたと思う。がしかし、ここまで満ちたエネルギーが辛抱ならず爆発しそうになっている瞬間は、ロックのばあい、これまでほかの音楽家では聴けなかったはずだ。

個人的にはサン・レーベルでのスタジオ録音レコードで聴けるのんびりのどかで中庸なムードが大好きで、ポップで聴きやすいしって思うんだけど、そして(同時期のエルヴィスの)音楽や歌のクォリティとしてはやっぱりそっちのほうが高かったんだと言わざるをえないけれど、この時期のエルヴィスは、間違いなく<なにか>を産もうとしている。そんなエネルギーが充満し爆発しかけているんだよね。新時代がすぐそこまで来ている。

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