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2019/01/23

『ウィ・ウォント・マイルズ』一枚目の急速二曲がけっこうすごい

こないだ、マイルズ・デイヴィス人間化提言(?)の記事を書いたでしょ。このトランペッターが帝王化したのはたぶん1981年の復帰後と判断して、そのへんのアルバムを聴きながらだったんだよ。それで発見したのが、復帰第二作の二枚組ライヴ・アルバム『ウィ・ウォント・マイルズ』一枚目にある急速調の二曲で、特にバンドが、いや、マイルズも、かなりすごい演奏を展開しているなということだった。

すなわち「バック・シート・ベティ」と、「ファスト・トラック」(との記載だが「アイーダ」)。そもそも『ウィ・ウォント・マイルズ』では、二枚目 A 面いっぱいを占めていた「マイ・マンズ・ゴーン・ナウ」がいちばんいいということに長年(ぼくのなかでは)なっていて、ぼくだけじゃなく同様の意見を表明なさるかたはわりといた。ま、いまでもぼくは基本そうなんだけど。

一枚目だと、東京は新宿西口広場でのライヴ収録である「ジャン・ピエール」がなんともおもしろくなくて、それがしかもレコードのオープナーとクローザーみたいに置かれて二回出てくるので、正直言ってちょっとこれは、テオ、なんだよ〜、バンドは大健闘だけど…、って感じてたんだよね。そのせいか、それにはさまれた「バック・シート・ベティ」「ファスト・トラック」にしっかり耳を傾けていなかったかも。

整理しておくと、「バック・シート・ベティ」は1981年7月5日、ニュー・ヨークのエイヴリー・フィッシャー・ホール公演から、「ファスト・トラック」は同年6月27日、ボストンのクラブ、キックスでの公演から、それぞれ編集されて収録されている。どっちもブートレグでオリジナル演奏を聴けるので、かなりな程度までテオが手をくわえているとわかっている。

しかしバンドの演奏やボスの吹奏ぶりそのものを変更できないもんねえ。実際、マイク・スターン(g)+マーカス・ミラー(b)+アル・フォスター(d)の三人は、はっきり言って大名演として問題ないほどのものすごい演奏を展開。そこにパーカッションのミノ・シネルも加わって(ミノはボストンでマイルズがスカウトした)、このリズムの躍動感はなかなかすばらしいものだよねえ。

「バック・シート・ベティ」では、スタジオ作『ザ・マン・ウィズ・ザ・ホーン』で聴けるミディアム・テンポでのゆったりした、しかし複雑にレイヤーされたグルーヴは影をひそめ、激速的とまで言えるほどの壮絶なワン・トラックにアレンジしてある。リズム・パターンはかなり整理されてシンプルになっているが、ここではそれがいい方向に作用している。

マイルズは最初ハーマン・ミュートをつけて控えめに吹きはじめるのだが、そこからしてすでにただならぬ妖気がただよっていると、いまのぼくなら感じる。そのミューティッド・ソロのあいだ、バンド、特にマーカスとアルが協調して盛り上げて、マイクがそれに引っ張られ合わせているように聴こえる。しかしまだまだ序章だ。

3:06でいきなりオープン・ホーンで一音高らかに吹いてからが本番。そのトランペット・サウンドも熱気をはらんでいるが、バンドがいきなり四音のストップ・タイム的ブレイクふうなパターンに移行。四つ目を合わせた次に五つ目のバン!が来るこのリズム・パターンは、しかし事前のアレンジじゃない。エイヴリー・フィッシャー・ホールの演奏現場でのアド・リブ着案なんだよね。それなのにドンピシャのタイミングで四人が合奏。マイルズもあおられて、ソロ内容がどんどん高揚していく。

クライマックスは、4:55 〜 5:06。ここも事前に用意のないアド・リブだと思うけれど、マイルズが吹く背後でギターとベースが止んで打楽器二名オンリーの伴奏になっている。この約10秒間でマイルズはこれ以上ない最高のフレーズを発しているよね。吹き終わりで、だれかがイエィ!って叫んでいるもん(ミノ?)。ギターとベースが再開してからも(ブロック・リフを演奏しつつ)熱は下がらず、高温沸騰したまま例のギター・ファンファーレみたいなのが来て、この興奮のワン・トラックは突如終了。いやあ、すごいなあ。

続く「ファスト・トラック」は、キックス現場での演奏「アイーダ」を収録したテープの回転数を上げテンポを速めてある。そうだとうなずける音響だよね。悪く言えばやや不自然で人工的に響くのだけど、しかしテオのそういった編集作業が、ここでも功を奏し、急速調の興奮をさらに一層かきたてることに成功しているんだよね。

「ファスト・トラック」では、7:14 からはじまるボスの二回目のソロからものすごいことになっているじゃないか。本人の熱の入りようも尋常じゃないが、バンドもどうしたんだこれ?そのままミノのコンガ・ソロになり、それが終わってからの 10:00 過ぎあたりからがいよいよこの世のものじゃない異次元に六人が飛躍していってしまう。

マイルズも(このころまだ体調がおもわしくなかったにもかかわらず)ハイ・ノートをどんどんヒット。しかもパワフルだ。マイクのギター・コード・ワークを中心として、ちょっとふつうじゃない妖気をバック・バンドが放っている。そして13分過ぎごろから、完全なる宇宙空間へ飛び出しているよねえ。なんなのここは?いったいどうしちゃったの?

今日書いたことは、すべて事前打ち合わせなどで実現できることじゃない。現場での瞬時な即興であるからこそかなえられた展開なのだ。いやあ、この1981年のカム・バック・バンド、いまさらだけど、やっぱりなかなかすごい実力を持っていたんだよなあ。ボスのトランペット吹奏能力も1983年ごろにようやく戻ったなどと思っていたのだが、とんでもない。いまごろ気づいたのはぼくだけに違いない。

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