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2019/06/26

冬美の円熟 〜『ENKA III 〜 偲歌』

61ip8r6ebilhttps://open.spotify.com/album/4N1LO6cSf23N1eiYRWcBOY?si=C36YXE-PTB2M9c3KXB0W2w

 

昨2018年12月にリリースされた坂本冬美の最新アルバム『ENKA III 〜 偲歌』は、猪俣公章生誕80周年記念と銘打たれていて、収録の10曲はすべて猪俣が作曲したものです。冬美にとっては師でもあるわけですから、やはり猪俣トリビュートという側面も強い作品でしょう。同じく猪俣の弟子であるマルシアがゲスト参加していることからもそれは読みとれます。

 

そんな冬美と妹弟子マルシアとのデュオで歌われる「大阪ラプソディー」、かなりおもしろいんじゃないでしょうか。個人的にはこのアルバム『ENKA III』での最大のお気に入りがこれです。なにがいいって、リズムですよね。アレンジャーはこのシリーズ通例でやはり坂本昌之ですが、ベースとエレキ・ギターとドラムス、そしてここではストリングスも一体となって、この軽いラテン風味の香るリズム・テイストを奏でているのが楽しいです。ふたりのヴォーカルもノリがいいですしね。

 

特に一番の歌詞で「御堂筋は恋の道」の「御堂筋」パート、二番なら「どこも好きよ二人なら」の「どこも」パートでストップ・タイムが活用されていますが、もうそこがたまらなく好きなんです。ストップ・タイム部では特にストリングスがシャッ!シャッ!と切るように演奏して効果を出しているのが印象的。坂本のペンの冴えを感じますね。

 

こんなほんのり軽いラテン香のただようライトなポップ演歌が、前作『ENKA II 〜哀歌〜』とも共通するフィーリンですから、『ENKA III』でも主流だと言えましょう。「港町ブルース」「女のブルース」「ふりむけばヨコハマ」など。また、しっとり系ですが「空港」「君こそわが命」も同じ路線に乗っているとしていいかもしれません。

 

なかでもマルシアのデビュー・ヒットだった「ふりむけばヨコハマ」なんかも出来がいいです。猪俣の弟子のマルシアの代表曲なわけで、それを姉弟子冬美がとりあげてこんなふうにしっとりと歌いこなしてみせれば、この猪俣ワールドにぼくらは降参するしかありません。「ふ、り、む、け、ば、ヨコハマ〜」とリフレインされるところで感極まってしまいます。

 

それにしても、冬美のヴォーカル表現の成熟・円熟といったらどうでしょう。ここまで軽くフワリと、ディープな情緒表出を抑え、軽く自然体で、しかしそれだからこそかえって大人の女としての切なさ・哀しみをこれでもかと感じさせるようなさりげなさ 〜 こういった視点で聴けば、いまの冬美ほどに歌える歌手は日本にいないのでは?と思えるほどのすばらしさ。聴けば聴くほどその世界のトリコとなってしまう味を持っていますよね。

 

そこまでの円熟した冬美が『ENKA III』で聴かせる寂寥は、坂本ではなく若草 恵がアレンジした二曲「ふたりの旅路」「望郷」でこそいっそうの極みにあると聴こえます。しかもアルバム中この二曲でだけポルトガル・ギターが、それも複数台使用されていて、若草のアレンジともあいまって、まるでファド演歌とでもいうべき独自の境地に達しているんです。

 

(複数台の)ポルトガル・ギターをうまく活用したファド演歌ふうな世界は、それら二曲のそれぞれ全体で表現されているわけではありません。主に前奏・間奏・終奏部ではっきりわかるといった程度です。しかし本場ポルトガルのファド歌手がそうであるように、ここでの冬美は二曲の全体で強い哀愁と寂寥をこれでもかと、しかし表面的にはサラリとあっさりオブラートに包んで、ぼくら聴き手の心に忍ばせてくれるんですね。

 

孤独、寂寥、哀愁を漂わすファドの世界を、アレンジャーの若草と歌手の冬美は、猪俣の楽曲を使いこなして表現し、いままで演歌の世界ではだれも到達したことのない世界を聴かせてくれているという気がします。「望郷」なんかあまりにも切なすぎて、歌詞が身に沁みすぎて、声のかすれかた一つ一つにまで命がこもっていて、もう聴くたびに落涙をくりかえすばかり。もうなんなんですかこの冬美ワールドは。

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コメント

坂本冬美はホントに素晴らしい!演歌系では当代随一かと(ま戸嶋さんはそうではないと思っているでしょうけど)。このアルバムも繰り返し聴いとります。
ところで、先日実演を見た折り数曲歌ったカヴァーに触れて「カヴァーって分かります?」(客席は高齢者が多い!)「他人の曲よ!笑」「取り上げているのは超有名な曲ばかりなのでイントロ聞いただけでは何の曲か分からないようにしました」とはご本人の弁。編曲の妙はプロデューサーの意向なのかご本人のアイディアなのかは不明ですがアルバムを通してなかなか冴えてますよね。
にしても「望郷」の素晴らしさよ!

アレンジの妙こそ、この三枚シリーズのキー・ポイントですよね。ぼくもライヴに行きたかったです!

坂本冬美はホントに素晴らしい!日本の歌手では当代随一かと(ま戸嶋さんには同意頂けないでしょうが笑)。このアルバムも繰り返し聴いとります。
ところで、先日実演を見た折りカヴァーを何曲か歌って「カヴァーって分かります?」(客席には高齢者が多いっすからね)「他人の曲よ!笑」「取り上げたのは超有名曲ばかりなのでイントロ聞いただけでは何の曲か分からないようにしました」とはご本人の弁。なるほど。プロデューサーの意向なのかご本人のアイディアなのか不明ですが、『ENKA』シリーズ編曲ちと凝りすぎなのもあるなと思ったのはそのような思惑もあったのかと。
にしても「望郷」の素晴らしさよ!

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