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2019/07/11

どこか不気味なクレア・ヘイスティングズが好き

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https://open.spotify.com/album/53uaFPysAodYgJwu0OHWdn?si=FLdrAVeWR1eRuAwpUBBh3w

 

これまたスコットランドの若手歌手クレア・ヘイスティングズの新作『ゾーズ・フー・ローム』(2019)。これもかなりいい内容ですよねえ。アイオナ・ファイフやハンナ・ラリティほどのことはないなあと思っていましたら、いつの間にか数知れずくりかえし聴いているから不思議です。クレアのどこにそんなチャームがあるのか、ちょっと考えてもよくわからないのですけど、惹きつけられる声の持ち主と言えましょう。

 

クレアの『ゾーズ・フー・ローム』は、アルバム題からも察せられるとおり「旅」がテーマになっている作品。それにもとづいて選曲された伝承曲や、あるいは自作や他作曲もすこし織り交ぜながら、ギター、フィドル、ピアノ、アコーディオンのシンプルな編成の伴奏で、地味だけど落ち着いた透明感のある発声と歌いかたをしているんですね。

 

CD パッケージのどこにもクレジットはないものの、シンセサイザーに違いないサウンドもところどころで聴かれ、とてもいいエフェクトになっているのも印象に残ります。特に幕開けの「ザ・ロージアン・ヘアスト」と幕締めの「テン・サウザンド・マイルズ」でそれがよくわかります。後者はボブ・ディランらも歌ったので知名度があるはずです。

 

しかも「テン・サウザンド・マイルズ」では楽器伴奏がかすかに漂うシンセサイザーだけで、あとはクレアのヴォーカルの(オーヴァー・ダビングによる)多重唱だけというもの。だからまあほぼ声だけなんですよね。トラッド歌手の世界では無伴奏で歌うのが日常的であるとはいえ、ここでのクレアのヴォーカルはかなり聴かせる説得力を持っています。

 

また、出だし1曲目や、また4曲目「セイリンズ・ア・ウィーリー・ライフ」などでは、クレアの背後の楽器伴奏で緊張が走ります。やや不気味なサウンドを出しているのがわかりますよね。音をあえて外し不協和な響きにして、音色もゆがめて、わざとギギッ〜っていう不気味な伴奏を楽器がやっているんです。UK トラッドの世界でぼくはあまり聴いたことのないサウンドです。

 

こういった微妙な緊張感は、実はクレアのこのアルバム全体を貫いておりまして、この音楽にリラックス・ムードよりもテンションをもたらし、その結果音楽のキリリとした美しさを際立たせる役目を果たしていると思うんですね。おもしろい演出です。

 

旅、というか sail、sailing ということばがよく聴こえるアルバムですので船旅がテーマなのでしょうか、旅立ちにつきものの(人との)別れも歌われたりして、そんなテーマ設定もお気に入りですし、声も伴奏もよくて、くりかえし聴くのにちょうどいい40分というアルバムの長さですし、最初はピンとこなかったんですが、聴き込むうちに離れられなくなる魅力をもった不思議な音楽です。

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