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2019/08/17

デモでもマジなプリンス 〜『オリジナルズ』

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https://open.spotify.com/album/1X1So5oX4TCFGdK6BN9UXs?si=ijR9v4rKS1GFeZx_X-I8iQ

 

1「セックス・シューター」(アポロニア 6)
2「ジャングル・ラヴ」(ザ・タイム)
3「マニック・マンデイ」(バングルズ)
4「ヌーン・ランデヴー」(シーラ E)
5「メイク・アップ」(ヴァニティ 6)
6「100 MPH」(マザラティ)
7「ユア・マイ・ラヴ」(ケニー・ロジャーズ)
8「ホーリー・ロック」(シーラ E)
9「ベイビー、ユア・マイ・トリップ」(ジル・ジョーンズ)
10「ザ・グラマラス・ライフ」(シーラ E)
11「ジゴロズ・ゲット・ロンリー・トゥー」(ザ・タイム)
12「ラヴ…ザイ・ウィル・ビー・ダン」(マルティカ)
13「ディア・ミケランジェロ」(シーラ E)
14「ウドゥント・ユー・ラヴ・トゥ・ラヴ・ミー?」(タージャ・セヴィル)
15「ナシング・コンペアズ・2 U」(ザ・ファミリー、シネイド・オコナー)

 

今2019年の6月下旬ごろリリースされたプリンスの未発表集『オリジナルズ』。収録曲はどれもほかの歌手たちが歌うためのものとしてプリンスが書き提供したもの。それらのプリンス本人ヴァージョン集ですね。これらはガイド・テープというか、デモというか、こんな感じですよ〜と教えるためのものとして録音したものだっていうことなんでしょうね。それともたんなる録音癖?デューク・エリントンとかフランク・ザッパみたいな。そういえば、これら三者の音楽家たちは、似てますねぇ。

 

そんな大きなテーマは今日はおいといて、プリンスの『オリジナルズ』。12曲目の「ラヴ…ザイ・ウィル・ビー・ダン」だけが1991年の録音となっていますけど、それだけを例外とし、ほかはすべて1981〜85年に録音したものです。たしかにそれらの曲の提供先歌手たちによる初演ヴァージョンもそのころでした。プリンス自身の作品でいうと、ちょうど『1999』『パープル・レイン』『アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ』のあたりですよね。昇竜のごとき勢いで音楽界を猛烈に駆け上がっていた時期であります。

 

そのころのプリンスは、初期の密室独りスタジオ作業癖から一歩抜け出て、リアルなバンド編成サウンドをも試みていましたよね。でもアルバム『オリジナルズ』収録のものは、どれもほかの歌手に提供するためのデモなためなのか、ぜんぶプリンスひとりで音をつくっています。すべての楽器演奏と歌がプリンスだけによるスタジオ作業で完成しているんですね。

 

CD 付属リーフレット掲載のクレジットにありますように、サックスとかチェロとかはプリンスじゃない演奏者が参加しているんですけれども、全15曲、これはほぼすべてプリンスひとりのパフォーマンスで完成させたとして過言ではありません。そのほかギターやバック・ヴォーカルで若干名の参加があるばあいも見られますけれども、本質的にこの『オリジナルズ』はオール殿下です。

 

そう、完成させたと言いましたが、このガイド・デモみたいなテイク集は、実質、完成品と呼んでさしつかえないレヴェルだと思うんですね。このことは、なにより当時発売されていたほかの歌手によるオリジナル・ヴァージョンと『オリジナルズ』収録のプリンス・デモを聴き比べればハッキリします。だいたいどの歌手のオリジナル・ヴァージョンもプリンス・デモと大差ないといいますか、それに沿って歌を入れ直しただけというに近いものだったと判明したからです。

 

ここが今年六月の『オリジナルズ』発売最大の意義でしょう。ソングライターによるガイド・デモがすでに完成品としてもいいできばえであった、それがプリンスという音楽家のすごさ、すばらしさだったとわかったということです。というかですね、このアルバムを聴いていての実感なんですけど、プリンスはガイド・デモをちょこっととかいうんじゃなく、これは本気ですね、マジで演奏し歌っています。このひとが本気でやるとどうなるかを彼自身のアルバムで知っていると、これは間違いないと思えます。

 

最初は他人に歌ってもらうために書いて、そのデモを…という気持ちもあったかもしれませんが、スタジオで作業していくうちどんどん気持ちが入っていってマジになってしまう、っていうのはよくあることだと思うんですね、音楽家のばあいだけでなく、みなさんも仕事や趣味でそういった憶えがあるでしょう。ましてやプリンスの、この天才の、1980年代前半といえば最も勢いがあった時期だったんですから、当然です。

 

こんなガイド・デモのテープを渡されたどの歌手も、本当はちょっと戸惑ったかもしれないです。わたしたちはいったいなにをしろというのかと。曲もすばらしいけれど、演奏と歌の完成度がここまで高いデモをもらってしまったら、これをどうすればいいのかと、ただこのまま忠実に演奏と歌を(自分たちが)再現するしかないじゃないかと、そう感じたんじゃないかと推測します。

 

で、上で書きましたように、みんなのヴァージョンもだいたいプリンス・デモをそのままなぞったような内容になったというわけです。プリンス本人ヴァージョンは今回はじめて聴けたものですから、この事実が証明されたわけですね。ああ、プリンスって、なんという天才だったのでしょうか。しかも『パープル・レイン』前後あたりの時期ですからね。多産豊穣だった本人のアルバムに収録されていても不思議じゃないものが多いです。

 

なかでも、バングルズに提供した「マニック・マンデイ」とケニー・ロジャーズのための「ユア・マイ・ラヴ」が、特別ぼくの耳を惹きました。なんてポップでなんて軽みがあって、なんていい曲なのでしょうか。正直に言いますが、バングルズのやケニー・ロジャーズのやったオリジナルをしっかり聴いたことがなかったのですが、ここで聴けるプリンス・ヴァージョンがあれば充分だという気がします。いやあ、好きですね、こういったライトでポップなプリンス。ぼくがプリンスで最も好きな部分のひとつです。

 

アルバム『オリジナルズ』ではほぼ唯一と言っていいんですけど、末尾に収録されている「ナシング・コンペアーズ・2 U」のシネイド・オコナー(のは初演じゃないって今回はじめて知りました)・ヴァージョンだけが、プリンス・デモとは大きく異なっています。シネイドのヴァージョン(1990)がヒットしてこの曲もシネイドも認知されましたが、それをいちおうご紹介しておきましょう。
https://www.youtube.com/watch?v=0-EF60neguk

 

この「ナシング・コンペアズ・2 U」という曲のことがぼくは本当に大好きで、なんて切なく哀しい歌なのかと、聴くたびに泣いちゃいそうになるんです。この曲のプリンス・デモだけは、昨2018年春に配信リリースされていたもので、今回のはその再録です。これで公式発売されているこの曲の本人ヴァージョンは、計三つとなりました。

 

この大好きな切哀歌のことは、また別の機会にじっくり書いてみることとして、今日のところはこれにて筆をおくこととします。

(written 2019.7.25)

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