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2019/09/18

衝撃のチャールズ・ロイド『ヴァニッシュト・ガーデンズ』

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https://open.spotify.com/album/2q6z7yobPwN2YTkR8U4i1z?si=IeCXe3NISU-kqs1eofePXg

 

チャールズ・ロイドがマーヴェルズを率いルシンダ・ウィリアムズと組んだコラボレイション・アルバム『ヴァニッシュト・ガーデンズ』(2018)が傑作でしたよねえ。ぼくが知ったのは今年に入ってからのことです。なにかのきっかかで Spotify で気づき、どんなもんかちょっとだけ…、と軽い気持ちで聴きはじめ、ぶっ飛んじゃいました。なんてスケールの大きい、懐の深く広い、そして情け深くあったかい音楽なのでしょうか。ロイドもいい歳なんで最近あなどっていました。ごめんなさい。

 

シンガー・ソングライター、ルシンダ・ウィリアムズと組んだのが今回の大きな目玉でしょうけど、マーヴェルズを率いる近年のチャールズ・ロイドははじめて聴きましたので、このサウンドにはかなりビックリしました。バンドの中核はエレキ・ギターのビル・フリゼールとペダル・スティール・ギターのグレッグ・リーズの二名です。この二名の出す浮遊感とひろがりのあるサウンドは、アメリカーナへと大きく舵を切ったいまのロイドにとってまさにピッタリ。

 

アルバム『ヴァニッシュト・ガーデンズ』の全10曲は、偶数曲がルシンダのヴォーカルが入る彼女自身のオリジナル・ソング(過去曲の再演あり)で、ロイドのテナー(と一曲だけフルート)をフィーチャーしたインストルメンタル・ナンバーと交互に並んでいます。ルシンダのヴォーカルがあってもなくても、サウンドの統一感に差異や乱れはなく、全体がスーッと違和感なく流れていきますね。古参人のジャズ・アルバムとしては驚異的とも言えるかも。

 

ロイドがルシンダと組んだのは、たぶん彼自身の近年の音楽性ゆえですよね。悠然とした広大なアメリカの大地をおもわせるようなフォーク、カントリー、ブルーズ、ゴスペル、ジャズ、ロックなど、さまざまなルーツ・ミュージックが渾然一体とした近年のいわゆるアメリカーナを表現する方向にロイドは向いているので(その点、ビル・フリゼールの貢献も大と思えます)、そんな世界でいぶし銀の歌を聴かせるルシンダとのコンビを考えたのでしょう。

 

アルバム出だしの「ディファイアント」の出来がとにかくすんばらしくて、もうぼくにとっては衝撃ですらあったほどの見事さで、なんなんですか、ロイドのこのテナー・サックス・ブロウは。二名のギターリストがからみあいながら創る空間で、印象的なハチロク(6/8拍子)のビートに乗って、ロイドは実に雄大な演奏を聴かせます。しかもこのフィーリングというか情緒感がこれまた物哀しくて切なくて、もう聴いていて感極まってしまうんですね。

 

ロイドのテナー・プレイは、ひょっとしたらいま絶頂期にあるのかもしれないとすら思えるほど、このアルバムでは絶好調じゃないでしょうか。切なくしかし力強い音色、怒涛の迫力ブロウ、大きくしかも細かくフレイジングしていく奔放自在なさま、リスナーの心にすっと自然に入ってきて揺り動かすような、そんな感動的な表情 〜〜 どこをどう切り取っても現在最高のジャズ・テナー演奏家かもしれないです。

 

アメリカのなにもない広大な大地を思わせるような、そんな悠然としたサウンドをつくるのに貢献しているのは、やはり二名のギターリストですね。ビル・フリゼールとグレッグ・リーズの二人をバンド・サウンド形成の中核に据えたことも、ロイドの目の確かさを物語るものですし、いま自分がどんな方向性の音楽を目指しているのか、そのためにはどんな演奏家を呼べばいいのか、しっかりわかっている証拠です。

 

アルバム・タイトル曲の3「ヴァニッシュト・ガーデンズ」では、バンド・メンバーの四人がまったく対等な比率でからみあいながら演奏が進むのも印象的で、ほとんどの曲でロイドを大きくフィーチャーしているだけに、ここではテナー、2ギターズ、ベース、ドラムスとみんなが同じように音を出しながらコレクティヴ・インプロヴィゼイションをくりひろげているのがおもしろいところです。

 

後半で熱く(特にドラマー)盛り上がる8曲目「アンサファー・ミー」を経て、アルバム・ラストの二曲は有名曲のカヴァーです。セロニアス・モンクの「モンクス・ムード」とジミ・ヘンドリクスの「エンジェル」。しかもこれら二曲では伴奏がビル・フリゼールひとりだけなんですね。「モンクス・ムード」ではロイドとのデュオで、「エンジェル」ではそれにルシンダの歌が入るトリオでという具合です。

 

それら二曲での落ち着いたフィーリングもなかなかの聴きもので、ぼくは大好きですね。こういった静かなムードで、動的なアルバムをしめくくったのには、ロイドのトータリティ志向があるんじゃないかと思います。「モンクス・ムード」のほうは標準的な演奏内容かもしれませんが(どっちかというとビルの生み出す空間を聴くものかも)、ジミヘン「エンジェル」はおそろしいと思いますよ。心の奥底から滲み出てくるような悲哀に満ちていますよね。三人ともすごい。

 

(written 2019.8.22)

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