2023/12/06

しんどいとき助けになる音楽(55)〜 ルー・ドナルドスン

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Lou Donaldson / Alligator Bogaloo

https://open.spotify.com/album/4XBcW9JiDXOxXb9sfI1CiX?si=7LoY-q1FSrerpToNWpF_tQ

 

ルー・ドナルドスンの『アリゲイター・ブーガルー』(1967)は “Boogaloo” じゃなくて “Bogaloo” なんですね。たったいま気づいたような気がします。長年勘違いしていたかも。どっちのつづりもあるってことなんでしょうか。

 

ともあれ、このアルバムは大好物。やっぱり幕開けのタイトル・ナンバーですよね。カッコいい。特にこのリズム。まさしくブーガルーとのことばにピッタリで、ルーってビ・バップ時代から活動しているミュージシャンなんですけど、ちゃんと時代に対応しています。

 

1960年代後半のジャズ・シーン in the USA って、こうしたジャズ・ロックっぽいものとか、ソウル、ファンクなどと合体し、新しい時代の音楽を生み出そうとする動きが顕著でした。

 

本作もそうした流れのなかにある傑作。オルガン・トリオを伴奏に据えるという点からしてもソウル・ジャズ的ですし、ラテンなファンキー・フィールも濃厚で、またレア・グルーヴ的な聴きかたもできるっていう。

 

リー・モーガンなんかも同じようなことを60年代にやっていたし、主にブルー・ノート・レコーズを舞台にラテンなブーガルー・ジャズ、ソウル・ジャズ的な動きがはっきりありました。

 

そういうのって、いままた復権しつつあるっていうか、ふたたびよく聴かれるようになってきているし、流れとして現在のクロス・ジャンルなコンテンポラリー・ジャズの祖先だという考えかたもできると思います。

 

(written 2023.11.19)

2023/12/05

しんどいとき助けになる音楽(54)〜 ブルーズ・ロック・ギターをちょっと

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Some Blues Rock Guitars

https://open.spotify.com/playlist/4C3lknWolY212BM93KqBKU?si=d15df294146b4284

 

ジャズ・ブルーズが好き(それもハード・バップで聴けるようなごくありきたりの典型的なやつ)なように、ブルーズ・ロックも大好き。エレキ・ギターのソロがたっぷりあるようなのが特に。ブルーズ要素が好きなんですよね、要するに。

 

個人的にはブルーズ・ミュージックそのものもいいけどそれ以上にジャズやロックその他USアメリカン・ミュージックにブルーズが活かされているのが大好きで、なんでしょうねこれは。でも好きなものは好きなんで、これはだれがなんと言おうともゆずれません。

 

そんなわけでブルーズ・ロックでエレキ・ギターがたっぷり味わえるやつをならべておいてたっぷり楽しめるようにしておいたのが上のプレイリスト。こういう音楽が好物だっていうこと。だって気持ちいいもんね。

 

プレイリストは2018年に作成したものですが、そこからずっと忘れずときどき聴いては癒されているっていう。けっこうエモーショナルで(クールなやつもあるけどザッパとか)激しく燃え上がるのが多いですが、いま体調が悪い時期にも聴けば楽しくて、痛みをいっとき忘れるんですから、心底好きなんですねぇ。

 

1 The Allman Brothers Band / Statesboro Blues
2 Mike Bloomfield / Albert’s Shuffle
3 Fleetwood Mac / Shake Your Moneymaker
4 Jeff Beck / I Ain’t Superstitious
5 Derek & The Dominos / Have You Ever Loved A Woman
6 Frank Zappa / Cosmik Debris
7 Led Zeppelin / I Can't Quit You Baby
8 The Rolling Stones / Stop Breaking Down
9 Van Morrison / Bring It On Home To Me
10 Stevie Ray Vaughan / The Sky Is Crying
11 Jimi Hendrix / Red House
12 Prince / The Ride
13 Paul McCartney / Matchbox

 

(written 2023.11.12)

2023/12/04

しんどいとき助けになる音楽(53)〜 ビートルズ『アンソロジー』

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The Beatles / Best from Anthologies

https://open.spotify.com/playlist/5PSewTdqkZP678KqaZlhH3?si=beaee78bbdf44707

 

ビートルズの『アンソロジー』CD全三巻(1995、96)から自分好みの曲やテイクを抜き出していい感じに並べておいたのが上記リンク。『アンソロジー』シリーズがなんであるか説明の必要はないと思います。なんだかんだいってけっこう熱心に聴いたというのが事実。

 

当時の新曲二つ「フリー・アズ・ア・バード」「リアル・ラヴ」も大好きだったし、いまでも聴けばいいなぁって思います。特に前者。さらに本編たる未発表テイク集についても、さがせばかなりいいものがあるぞと思うんですよね。

 

そのへん、発売から時間が経ってみんなが冷静に考えることができるようになったと思いますから、当時は賛否両論でしたけど、実は中身にすばらしいものも相当数まじっていたと言えるはず。ほとんどが1960年代に発売されていたオリジナル・ソングの別ヴァージョンとかですけれど。

 

『レット・イット・ビー』にようやく収録された「ワン・アフター・909」は、当時から言われていたようにバンドのキャリア初期にできあがっていた曲。その初期ヴァージョンが収録されているのも出来がよくて、特にノリの深いビート感なんか聴きごたえがあります。

 

さらに「ワン・アフター・909」はトレイン・ピースであるということで、ブルーズの伝統にのっとったものだということもわかりますし、慎重に検討すればロバート・ジョンスン「ラヴ・イン・ヴェイン・ブルーズ」の血を引くものだとはっきりしていますし、その点ではローリンズ・ストーンズとの関連も見えてきます。

 

アクースティック・ヴァージョンというか、お化粧をほどこす前、電気楽器もオーケストラも入っていない素朴なデモみたいなもののなかにもかなりいいものがあります。

 

たとえば「ワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ」「マザー・ネイチャーズ・サン」「サムシング」など。けっこう聴きものですよ。

 

「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」だって「レット・イット・ビー」だってポールの意図したとおりの簡素なサウンドでのテイクがあるし、「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド(リプリーズ)」のラフでワイルドな魅力もステキです。

 

ライヴ収録のものもふくめスタジオ演奏でも、四人の演奏力の高さだって、あるいはポールのワーカホリックぶりがバンドのキャリアを支えていたんだということだって、よくわかります。

 

(written 2023.11.8)

2023/12/03

ぼくのSpotifyまとめ 2023

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Your Top Songs 2023

https://open.spotify.com/playlist/37i9dQZF1Fa1IIVtEpGUcU?si=21248dd38feb47d4

 

今年もふりかえりの時期になったということで、リリースされました「Spotifyまとめ 2023」。ぼくのそれによれば、今年最も聴いた音楽家は、去年同様原田知世だったみたい。

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そこまでの実感はないんですけども、聴いたんでしょうね、データで出ていますから。そしてぼくはSpotify上で知世リスナーの上位0.01%にいるってことで、これは実質ほぼNo.1といえるんじゃないでしょうか。

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そういえば、今年一年で聴いた総時間も世界の上位0.05%に入っているそうです。合計時間にして310,898分。換算すると一日平均約14時間は聴いていたということになり、ほぼ一日中音楽を聴いていることになります。

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トップ・アーティストの上位五人はこんな感じ ↓。これはこんなもんかなと思います。

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同じく実感があるのが、今年いちばん聴いた曲。ドナルド・フェイゲン『ザ・ナイトフライ・ライヴ』の「I.G.Y.」。これはまとめが公開される前から間違いないと思っていました。

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上位五曲はこう ↓

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ジャンル分けで最も聴いたのが以下 ↓。これも思っていたとおりです。

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ちょっと意外でもあったのは、ぼくにとっては台湾の台北市がいちばんピッタリの場所だったこと。でも意外っていうより、たしかにリニオン、9m88、チェンチェン・ルーなど好みの音楽家がたくさんそろっているともいえますね。

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(written 2023.12.1)

2023/11/30

ロックだってソウルにカヴァー 〜 イーライ・ペーパーボーイ・リード

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Eli Paperboy Reed / Hits and Misses: The SIngles

https://open.spotify.com/album/2eDHdAH6Zzb4lNXzzO0hjf?si=f1kPVfVUT-ifDY1NSTz3Ag

 

萩原健太さんのブログで知りました。

https://kenta45rpm.com/2023/10/20/hits-and-misses-the-singles-eli-paperboy-reed/

 

イーライ・ペーパーボーイ・リードは往年のリズム&ブルーズ、ソウル・ミュージックへの愛を隠さない歌手。そういう路線の作品をずっとリリースし続けてきましたが、最新作『Hits and Misses: The SIngles』(2023)でもそれは変わらず。レア・シングル集で既発ものばかりの寄せ集めですが、新作として聴けるおもむきがあります。

 

三曲を除きカヴァー集なんですが、とりあげあられているもののなかにはロック・ナンバーも三つあります。しかしそれらだってペーパーボーイのここでの解釈は完璧なるソウル流儀。スティーリー・ダンやボブ・ディランがこんな感じになるなんてねえ。

 

まるでサム・クック、オーティス・レディング、アリーサ・フランクリンなどを聴いているようなアレンジとヴォーカル・フィールで、レトロ・ソウルというもおろか、これは一個の立派な愛です。時流に乗ってレトロをねらったんではなく、もとからこういう人物なんですよね、ペーパーボーイは。

 

個人的にいまどきのコンテンポラリーR&Bにいまいちノリ切れない身としては、たまにあるこうしたニュー・リリースでひとときのノドのうるおしを得るといった具合であります。

 

(written 2023.10.25)

2023/11/29

しんどいとき助けになる音楽(52)〜 映画『マンハッタン』サウンドトラック

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(3 min read)

 

Manhattan: Original Motion Picture Soundtrack

https://open.spotify.com/album/71aKU2RUyaBJLslyH0WEAA?si=CLsX2sgzRui5shNiXICcOQ

 

ウディ・アレンの映画『マンハッタン』(日本での劇場公開は1980年)のサウンドトラック・アルバム(79)が大好き。映画館で本編を見るよりも前にサントラ盤LPがレコード・ショップに並んでいて、モノクロの摩天楼をあしらったジャケットが好きになって買って聴いて、その音楽のファンでした。

 

映画のほうは個人的にさほどでもなかったんですが、ジョージ・ガーシュウィン一色で塗り込められたサントラのほうは当時からいまでもずっと愛聴しています。Spotifyにあるのを見つけたときはそりゃあうれしかったなあ。

 

レコードのA面が「ラプソディ・イン・ブルー」でB面は小品集。いずれもズービン・メータ指揮ニュー・ヨーク・フィルの演奏です。「ラプソディ・イン・ブルー」はこのアルバムで知った、わけじゃなかったんですが、いままでにいちばんたくさん聴いたのは間違いなくこのヴァージョン(ピアノはゲイリー・グラフマン)。

 

それもすばらしかったけど、個人的にことさら愛聴してきたのはB面のガーシュウィン・メドレーです。ジャズ・ミュージシャンもよくやってきた小唄ばかり、それをクラシックのシンフォニー・オーケストラがやるとこんなふうになるんだという新鮮さで、いま聴いても大好き。

 

ジャズの歌手や演奏家がやるときとは曲メロのアクセントというか歌わせかたがかなり違っていて、えっ?これがあの曲?とトラックリストをながめながら違和感をいだくことも最初はありました。同じ曲だとわからなかったりもして。

 

いまではクラシック音楽ならではのフレイジングがあるんだと理解できるようになりましたし、やっぱりオーケストラの、特にストリング・セクションが出す優雅な響きがぼくは大好きなんですね。それでもって聴き慣れたガーシュウィンの曲がこんなふうになれば、もう文句なしの心地よさ。

 

なお二曲だけオーケストラではなくジャズ・コンボによる演奏がフィーチャーされています。

 

(written 2023.11.7)

2023/11/28

しんどいとき助けになる音楽(51)〜 ONB

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Orchestre National de Barbès / en concert

https://open.spotify.com/album/3YE9FR1smbDWlubFqkHc49?si=Tg7HSgvrSHmi6OdStczLpQ

 

オルケルトル・ナシオナル・ドゥ・バルベスのデビュー作『en concert』(1997)は、いま考えても大傑作でした。かなり元気な音楽なのにしんどいときに聴けるのは、それだけ愛着を持っているということでしょう。

 

個人的にはライやシャアビ、グナーワなどマグレブ音楽への入門、道案内になってくれた一作で、これを足がかりにそうした世界に踏み込んでいったのでした。ですから大恩人ともいえるライヴ・アルバムで、いまだに忘れられないっていうわけです。

 

電撃的にONBのファンになり、しかしその後これといってパッとしたアルバムがないのは、基本的に寄せ集めの集合体で、録音したりライヴしたりするそのつどにメンバーを集める形式で、しかも本質的にライヴ活動を中心とするバンドだからなんでしょう。

 

『en concert』は、そんなこのバンドの最高の瞬間をとらえたもの。デビュー作にしてライヴでしかも最高傑作になってしまったから、その後(アルバム・リリースという観点からは)イマイチなのもしかたがないのでしょう。しかしライヴはONBの名義で現在も元気に続けている模様ですよ。

 

マグレブ音楽といってもONBがやっているのはミクスチャーで伝統そのままじゃありません。ジャズやロックなどで使われる楽器を大胆に使い、いはばごた混ぜのフュージョン状態にしてあるのがキモ。

 

それまでマグレブ音楽に縁のなかった身としてはそのほうが聴きやすくとっつきやすかったというのが事実です。でも、どんどんマグレブ音楽をディグしていくようになると、ONBのやっていることがイマイチに聴こえるようになってきたというのもまたたしかなことで、だから入り口だった『en concert』こそいちばんいいと、いまでも思えるのはとうぜんでしょうね。

 

(written 2023.11.6)

2023/11/27

しんどいとき助けになる音楽(50)〜 ビリー・ジョエル『52nd Street』

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Billy Joel / 52nd Street

https://open.spotify.com/album/1HmCO8VK98AU6EXPOjGYyI?si=EhpegzaMTsypSBOkxttjJg

 

ビリー・ジョエルの『52nd Street』(1978)はこのタイトルでもわかるようにニュー・ヨーク・ジャズをテーマにした作品。当時は一大フュージョン・ブームだったので、プロデューサーのフィル・ラモーンともどもそれを意識した新作アルバムを制作しようとなったのでしょう。

 

ジャズ・フュージョン好きなぼくにはうれしい内容でしたが、といってもぼくがそっち方向へのめり込むことになったのは79年以後なので、ビリー・ジョエルのこれはジャズなんてこれっぽっちも知らない時期に当時話題のニュー・リリースとして買ったのでした。

 

だから当時高校生のころは、ジャズとは無関係な2「オネスティ」、3「マイ・ライフ」とかがお気に入りの曲でした。これら二曲、特に前者にかんしてはちょっと恥ずかしい赤面エピソードもあのころあって、いまでも鮮明に憶えていますが、マジで恥なので書きません。

 

いまとなってはやっぱりA-4「ザンジバル」以後のジャズ・フュージョン・パートこそ大好き。フレディ・ハバードとかマイク・マイニエリとか、本レコード買った当初は知らない名前でしたが、サウンドを聴いてなんとなくのムードに高校生でもひたっていたかもしれませんね。

 

そういうジャズがテーマのアルバムなんであると理解できるようになったのはジャズ・ファンになって以後のこと。フュージョン・ブームだったこともようやく知るようになり、そうなってみると聴こえかたが変わってきました。

 

そうそう、フュージョンというタームは79年に登場したものだから、それ以前の作品はフュージョンではない、クロスオーヴァーであるとおっしゃる向きもありますが、ちょっとどうなんでしょう。ビリー・ジョエルのこれだって78年のリリース。

 

タームができるようになるすこし前からフュージョン(と呼ばれるようになる音楽)の動きはもりあがってきていたんです。そもそもタームなんてものは現象じたいが活性化してしばらく経ってから遅れて付けられるものですから。

 

ジャズやロックという呼称だって、これらの用語がなかったプレ時代のものはその音楽ではないなんていうことを言いはじめたら笑われますよね。用語の登場はやや遅れるもの。フュージュンということばが出てくる前からフュージョンはあったんです。

 

ビリー・ジョエルとフィル・ラモーンが78年に『52nd Street』というアルバムをつくって出したということだって、その立派な証拠じゃありませんか。78年にフュージョン・ブームがなかったら誕生するはずがなかった作品です。

 

(written 2023.11.1)

2023/11/26

カリビアンなクリスマス 〜 チャーリー・ハロラン

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Charlie Halloran & the Tropicales / Presents for Everyone!

https://open.spotify.com/album/67naZE4UVz9zvqYgZJeXmz?si=hmwTX59aTFOi4WfsxPU3iw

 

今年のクリスマスはこれで書こうと思っていたチャーリー・ハロラン&ザ・トロピカルズのアルバム『Presents for Everyone!』(2023)。ところがその後ノラ・ジョーンズ&レイヴェイという夢の共演によるクリスマス・シングルが出て、あ、こっちでいこうかなとなりました。

 

とはいえチャーリー・ハロランのほうもかなりいいのでスルーするわけにもいかず、これはこれで書いておこうと思います。この音楽家のことは以前bunboniさんが紹介していましたね。ニュー・オーリンズのバンドで、オールド・タイム・カリビアンをやっています。

 

『Presents for Everyone!』はクリスマス向けの季節商品ですが、これまたカリプソ、ビギンといったカリビアン・ミュージックで仕立て上げられていて、とっても楽しいですよ。

 

スタンダードなクリスマス・キャロルはやっていないんですけれど、そこここに楽器演奏でそれが引用されながら、全体的にはバンド・メンバーが曲を書いているんでしょうか、すべて今作のためのオリジナルと思います。

 

インスト・ナンバーも一個あり。それ以外の曲でだれが歌っているのか情報がありませんが、女声も部分的に聴こえます。演奏は楽器インプロ・ソロたっぷりでジャジーでもあり、かつカリビアン・テイストを濃厚にただよわせながら、ひたすら楽しくワイワイやっています。

 

(written 2023.11.17)

2023/11/23

ブリティッシュ・インヴェイジョン再燃 〜 ビートルズ、ストーンズ

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The Beatles / Neither Red Nor Blue 1963-1970

https://music.apple.com/jp/playlist/nothing-but-pop-file-vol-79-the-beatles-neither-red/pl.u-A8xkC25ge26?l=en-US

 

萩原健太さんのブログからパクりました。

https://kenta45rpm.com/2023/11/16/nothing-but-pop-file-vol79-the-beatles-neither-red-nor-blue-1963-1970/

 

ビートルズのいはゆる赤盤青盤も2023年増補エディションがこないだ出ましたが、そのどっちにも入っていない秀曲を時代順に選んだものがいちばん上の健太さんプレイリスト。聴いているとなかなか楽しいですよ。

 

ファンなら知っているものばかりですから、ぼくなんかがいまさら言うことなんてないんですけれども、それにしてもここのところのビートルズ人気再燃ぶりはかなりなものですよね。

 

今年後半はまずローリング・ストーンズの新作アルバムが出て、それもかなり大きな話題だし、続くようにビートルズ最後の新曲「ナウ・アンド・ゼン」がリリースされ、それがブリティッシュ・インヴェイジョン再燃を決定づけました。

 

次いで赤盤青盤の最新エディションも出たということで、さまざまな音楽チャート上位をビートルズとストーンズが独占するなんていう事態になってしまい、こんな2023年、だれが想像できたでしょうか。

 

やっぱりロック界も定番ものっていうかクラシカルなものがいつまでもすたれず人気だってことなんでしょうね。ブランド力というか。こういうのを見ていると、ロックは既成のものに対する反抗・抵抗だとするむかしからある一部言説がまやかしにすぎないことがよくわかります。

 

いまだ現役のストーンズなんか来年春からUSツアーをやるそうですから。

 

(written 2023.11.21)

2023/11/22

しんどいとき助けになる音楽(49)〜 ドルサフ・ハムダーニ

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(2 min read)

 

Dorsaf Hamdani / chante Barbara & Fairouz

https://open.spotify.com/album/1GDQ89kQyz1755fry29kVm?si=OxbsrUQqTVeki9FPwz1IaQ

 

チュニジア出身フランス在住の歌手、ドルサフ・ハムダーニの『chante Barbara & Fairouz』(2014)のことを思い出すきっかけがありました。聴きかえしてみたらやっぱりとてもよくて、ぼくこれ大好きです。バルバラとフェイルーズのレパートリーをフランス語とアラビア語で交互に歌ったもの。

 

ときにギター一台だけとかウード一台だけみたいな必要最小限のシンプルな伴奏なのに不足感がまったくなくて、しっかり聴かせる充実の音楽になっているのは、曲がいいということもあるでしょうが、なによりドルサフの歌ぢからとでもいうようなものがとても強いからでしょう。

 

シャンソンとアラブ歌謡という水と油みたいな二つの世界を自在に行き来するヴォーカル技法はみごとのひとこと。音楽監督となっているダニエル・ミーユがアレンジをほどこしたと思いますが、なにもやっていないというスポンティニアスさが一貫しているのもすばらしい。

 

正直いってバルバラなんて本人の歌を聴いてみてもイマイチなんですが、このアルバムではほんとうにいいなあと思えてくるのがドルサフならではの表現力というもの。アラブ歌謡と交互にならぶことで、それまで気づかなかった相貌をみせているといえます。

 

ずっと以前、アルジェルア出身でやっぱりフランスで活動するHKがやったシャンソン集に触れ、そうだよシャンソンなんてそのままじゃおもしろくないけど、こんなふうにシャアビふうにやれば楽しいじゃん!と書いたことがありました。

 

ドルサフの本作も、シャンソンだってここまでセクシーな音楽になりうるという解釈をみせてくれた立派なお手本ですね。この作品以後10年近くドルサフはずっと沈黙しているようですけれども、元気に活動しているでしょうか。

 

(written 2023.10.30)

2023/11/21

しんどいとき助けになる音楽(48)〜 スモーキー・ロビンスン

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(1 min read)

 

Smokey Robinson / Gasms

https://open.spotify.com/album/14xK4FTz2jDiWE8vL1rZaK?si=5OsEyS8gTi-mtKT36TtLOQ

 

スモーキー・ロビンスンの甘くてメロウな歌声が、心身の弱っているときにはピッタリ。もちろん元気なときに聴いたってとってもいいんですけど、最新作『Gasms』(2023)なんかもおだやかな官能をつづっていて、ほんとうに心地いいです。

 

なかでも特に好きな曲は1「Gasms」、6「Beside You」、8「You Fill Me Up」。6なんか50年代のドゥー・ワップふうオールディーズだし、8はゴスペル・タッチなのがいいですね。スモーキーとしては若い時分に親しんだ音楽ってことでしょうけど、ぼくら世代がいま聴くとかえって新しく、レトロなファッション意識を刺激されます。

 

アルバム全体でも、ジャジーでさわやかなフュージョンふうのサウンドに乗せてじっくりと老熟したエロスを語るスモーキーの曲とヴォーカルがチャーミング。いやらしい感じがちっともせず、逆にすずやかな青春の風のようなものすら感じさせるのは驚異ですよ。

 

(written 2023.10.17)

2023/11/20

しんどいとき助けになる音楽(47)〜 チェンチェン・ルー

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Chien Chien Lu / The Path

https://open.spotify.com/album/0fo6PcE438y9Ob8cDVF75m?si=beJiHzTqTyqjUA_9irDTHQ

 

台湾人で在NYCのジャズ・ヴァイブラフォン奏者、チェンチェン・ルー。最新作がついこないだ出たばかりですが、それは聴き込んでからそのうち書くとして(もう書いてアップもした、11/20記)、やっぱり体調が悪いときによく聴いているのはデビュー・アルバムの『The Path』(2020)です。

 

このヴァイブを台湾人が叩いているとは思えないくらいのUSアメリカン・ブラック・ジャズになっていて、ファンキーでソウルフル。ロイ・エアーズもかくありきといったソウル・ジャズまっしぐらですから、2020年代の音楽性としては必ずしもコンテンポラリーとはいえないですけどね。

 

でもぼくはこんなグルーヴィなソウル・ジャズがたまらなく大好き。聴けば気持ちいいんだもんね。リズム・セクションもカッコいいし、それになんたって左右に握った二本でがんがん叩くチェンチェンのマレットさばきが完璧なる肉体派で、あたまに浮かんだフレーズをそのまま直で腕に伝達していて、もう大好き。

 

マイルズ・デイヴィスの「ブルー・イン・グリーン」ではどこまでもメロウに攻めるR&B解釈になっているのも最高だし、出会って以来このアルバムはいまのぼくの人生に必要不可欠なものとなりました。

 

(written 2023.10.15)

2023/11/19

貞夫ワールドの真骨頂 〜『渡辺貞夫 meets 新日本フィルハーモニー交響楽団』

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(3 min read)

 

渡辺貞夫 / meets 新日本フィルハーモニー交響楽団

https://open.spotify.com/album/0TkyL38ugATzAuQkJoLs7P?si=QzFf6DvJSPqVsn4ERhgmww

 

渡辺貞夫90歳の最新作は『渡辺貞夫 meets 新日本フィルハーモニー交響楽団』(2023)で、文字どおり新日フィルとのライヴ共演。今年4月29日にすみだトリフォニー・ホールで録音されたものです。こ〜れがすばらしいできばえですよ。両者の共演は30年以上ぶり。

 

曲はすべて貞夫さんのオリジナル・ナンバー。それをバンドが支え、さらにアレンジをだれがやったのか見事なオーケストラ・サウンドがいろどりを添えています、っていうよりがっぷり四つに組んだような演奏ぶり。90歳でここまでできるんだ!と思うとうれしくなります。

 

ジャズというよりフュージョン系の曲ばかりで、それを生演奏オケとの共演でライヴ演奏するというのは、実をいうと『How’s Everything』(1980)以来の貞夫さんのお得意パターン。サウンドがゴージャスになるのはフュージョン・ミュージックの特質とそもそも相性がいいと思います。

 

今作でもネオ・クラシカルなサウンド寄りでフュージョンの2020年代的コンテンポラリーネスを聴かせているし、それに乗ってアルト・サックスに専念の貞夫さんは快調に歌うように吹くしで、もはや文句なしの内容です。

 

個人的に特にグッとくるのは哀切系のバラード・ナンバー。3「つま恋」、5「オンリー・イン・マイ・マインド」、7「レクイエム・フォー・ラヴ」の三曲。4「ボア・ノイチ」をふくめてもいいかな。貞夫サウダージとでもいうような独自の哀感がたまりません。

 

なかでも7「レクイエム・フォー・ラヴ」があまりにもすばらしい。オーケストラのサウンドもきれいだし(ほんとアレンジャーだれ?)、こういう涙腺を刺激するような切ないバラードは「コール・ミー」(『オレンジ・エクスプレス』)以来貞夫ワールドの真骨頂ですね。

 

(written 2023.10.29)

2023/11/16

ASD(=ぼく)が苦手に感じる人たち

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(50 sec read)

 

・ロゴスが通じない人

・事実や正しさを第一優先にしない人

・時間にルーズな人

・集団行動(チーム・ワーク)を強いる人

・精神論をふりかざす人

・明確に言わず、察しろという人

・自分でこうと決めたルール、信条・信念を守り抜かない人

・首尾一貫しない人

・ウソをつく人

・言外の意味を込める人

・本音と建前を使い分ける人

・おおざっぱでテキトーな人

 

~~~

ASDのコミュニケーション特性は、社会との相性が悪すぎる。「空気を読む文化」では、非言語的なやり取りや暗黙の社会規範が重視されて、率直さや理屈っぽさが売りのASDは、日常で違和感や苦痛が絶えない。

 

(written 2023.11.10)

2023/11/15

しんどいとき助けになる音楽(46)〜 ニュー・クール・コレクティヴ

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(2 min read)

 

New Cool Collective / Opus 127

https://open.spotify.com/album/6AgECLoboHcH2LgWwuxc8H?si=VF47cXc1QI-v7pFOGiG0Hg

 

オランダのジャズ・ユニット、ニュー・クール・コレクティヴの最新作『Opus 127』(2023)は、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲をとりあげてジャズ・アレンジしたもの。これがほんとうに涼やかで心地いいんですよね。もう大好き。

 

特に1曲目になっている第二楽章は優雅なボレーロになっていて、こんなエレガンス聴いたことないよねえ、これ、もとはクラシックの曲なんだけど〜と思うと、ほんと気持ちよさにため息が出るくらい。カッコいいし、ゆったりおだやかで、いいですよマジで。

 

2曲目以後の第三、第四楽章はビートが効いていて、べつにキューバンなそれじゃないんですけど、これらも聴きやすいし、各メンバーのインプロ・ソロも充実していて、やはり聴き逃せません。

 

でもぼくにとってはやっぱり1曲目のキューバン・ボレーロですね、これがすべて。これでもう全体の印象が決まっちゃうって感じ。ベートーヴェンのオリジナルとはかなり様子が違う大胆なアダプトで、それでこそジャズ!だと言えるものです。

 

(written 2023.10.11)

2023/11/14

しんどいとき助けになる音楽(45)〜 ビートルズ「ホワイト・アルバム」

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(2 min read)

 

The Beatles / The Beatles

https://open.spotify.com/album/1klALx0u4AavZNEvC4LrTL?si=LPIrAMR2QDmAJpzT4vZt4g

 

ビートルズの『イーシャー・デモ』を聴いていたら、やっぱり『ホワイト・アルバム』本体も聴きかえしたくなって、そうしていました。いま体調最悪だからだいじょうぶかな?聴けるかな?「ヘルター・スケルター」「リヴォルーション 9」とかあるしなって警戒しましたが、平気でした。

 

こりゃちょっと不思議な気もします。『ホワイト・アルバム』のなかにもエレキ・ギターがけばけばしく響くハードなナンバーがけっこうありますからね。それでもだいじょうぶだったというのはなぜなんでしょう。

 

思うに、おそらくバンドの倦怠期に制作されたアルバムだからなのかもしれません。ちょっぴりダルいようなフィーリングが全体にただよっているっていうか、録音だってオーヴァーダビングのくりかえしで進み、ヴォーカルはそんなカラオケを聴きながらラストに入れたっていう。

 

それでいてナマナマしいバンド感みたいなもの、グルーヴというか、それはしっかりあるし、やっぱりむかしからなんど聴いてもわかりきれない不思議な音楽ですね、『ホワイト・アルバム』って。

 

今回の新発見は、なんといっても「リヴォルーション 9」があんがい聴きやすかったことです。しかもなんだかヒューマンでハート・ウォーミングな印象すらあるっていう。それに気づいてからはこれが流れてくるのを楽しみにするようになりました。長年いだいていた感想からしたら、この事実もかなり意外です。

 

(written 2023.10.14)

2023/11/13

しんどいとき助けになる音楽(44)〜 ビートルズ「イーシャー・デモ」

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(2 min read)

 

The Beatles / Esher Demos

https://open.spotify.com/playlist/3WurAHDJTBrWPKpMBDapIY?si=d1c185161c35444c

 

ビートルズの『ホワイト・アルバム』50周年記念で2018年にリリースされたスーパー・デラックス・エディション六枚組。1枚目と2枚目は『ホワイト・アルバム』本体のニュー・リミックスですが、3枚目に収録されている『イーシャー・デモ』のことが、初お目見えだった当時からいまでも好き。

 

イーシャー・デモとはなにか?ってなことはちょっと検索すればすぐわかります。『ホワイト・アルバム』収録曲の多くを、その制作初期段階においてデモとしてアクースティック・ギターのみで弾き語ったものをそのまま収録しています。

 

特にアクースティック・ギターのみで、っていうところがいまのぼくの好みにピッタリ合うところ。ベースもドラムスもないんですからね。どんな曲も、あんなだったすべての曲がアクースティックになっていて、これがいいんです。さっぱりしているしおだやかでアット・ホームで。

 

もちろん完成品の『ホワイト・アルバム』にもアクースティック・ナンバーはたくさんあります。それこそが特色だったといってもいいくらいなアルバムでしたが、エレキ・ギターで派手に仕立て上げていたすべての曲も、『イーシャー・デモ』ではアクースティック。

 

終盤には『ホワイト・アルバム』収録曲じゃないものがすこし並んでいます。「ジャンク」とか「ジェラス・ガイ」(曲題も歌詞も違っているけど)みたいな解散後のソロでの有名ナンバーもあり。『ホワイト・アルバム』制作の前段階ですでにひな形ができていたとわかります。

 

(written 2023.10.13)

2023/11/12

マイルズ入門にまずこの四枚 ver.2023

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(2 min read)

 

Relaxin’ (1958)

https://open.spotify.com/album/0dyIXPKoUBt1vFJHX57dqt?si=RFSEa7wZSOCjBjBABlzINg

Miles Ahead (57)

https://open.spotify.com/album/4ZhmiWgc0KsRjV5samK6wG?si=HUgHGUzMSZmmHPcz6ell8A

Someday My Prince Will Come (61)

https://open.spotify.com/album/4Khts8jtPr6XbQP10q80Hw?si=TojEv_WWSx-yr54rRa44rA

Miles Smiles (67)

https://open.spotify.com/album/7buEUXT132AA4FPswvh9tV?si=4bxeQMkdQQaV3-dqt87DJQ

 

アクセス解析をながめていると、マイルズ・デイヴィス入門にまずなにを聴いたらいいのか?という情報をやっぱり求められているみたい。それも手っ取り早くこれだ!っていう一枚とか二枚とか、とりあえずのマジの入り口を。

 

だからよくある10枚20枚とかのリストじゃダメで、そんなたくさんのアルバム数は入門に向きません。とりあえずパッと聴いてもらえなかったら意味ないので。四枚にしぼりました。いったんは三作にまでしたんですが、それだと画像をタイルできません。

 

1969年以後の電化マイルズは省略。なぜならレトロもふくめ2020年代的なコンテンポラリー・ジャズなどにはアクースティック生演奏回帰という方向性が鮮明に打ち出されていますからね。

 

その上でなにを選ぶか?も現代ジャズの傾向から勘案しました。リラクシングな室内楽コンボ、ラージ・アンサンブル、レトロでイージーなくつろぎムード、いまどき先進ジャズにつながる新主流派。

 

どれからでもいいので、サブスクでもフィジカルでもいい、まずは聴いてもらえたらと思います。くわしい解説やマイルズの世界を本格的に掘り込むなどはそのあとの話。

 

(written 2023.11.11)

2023/11/09

フランス語でシャンソンを歌ってもいつもとかわらない 〜 ジャネット・エヴラ

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(2 min read)

 

Janet Evra / Meet Me in Paris

https://open.spotify.com/album/6V9SmJ583uDr8llzv266iz?si=bCMJNHS0QmyIN2TN22__SA

 

お気に入りのジャズ歌手、ジャネット・エヴラ最新作『Meet Me in Paris』(2023)は、パリがテーマのシャンソン曲集。一曲だけ、7「Paris」はファースト・アルバムで歌っていた自作英語曲の再演で、パリがテーマだからとりあげたんでしょうね。

 

それ以外はフランス語の歌詞がついてフランスで歌われていたもの。それをジャネットもおおむねフランス語のままで歌い、部分的に英語詞もおりまぜながら、かわいくチャーミングに歌っているというのが特徴でしょうか。

 

なかにはいままでになかったセクシーさを香らせているケースもあったりして、ややおもむきの異なる新作になりました。この歌手は発音が明瞭でハキハキさわやか歯切れよくというのがメリットだったんですが、フランス語で歌ってもそれは変わらず。

 

UK出身だけにフランスへの距離感はUSアメリカ人とやや違うものもあるのでしょう。それに本作でとりあげられているシャンソンのほとんどは英語詞ができて英語圏でもさかんに歌われてきたものですしね。

 

フランス語でフランスの歌ばかりを歌っているということで、最初はやや驚きもあったんですが、聴いてみればいつもと変わらない軽やかなジャネットの音楽があります。ほっと一安心。

 

(written 2023.10.24)

2023/11/08

しんどいとき助けになる音楽(43)〜 サラ・ヴォーン

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(2 min read)

 

Sarah Vaughan / Crazy and Mixed Up

https://open.spotify.com/album/5EVYcc70MKjg1w55PommMO?si=C9OvddHgTt-Whvm3yf4H4Q

 

ぼくが二十歳のときに出たサラ・ヴォーンの『Crazy and Mixed Up』(1982)では、やっぱりA面3曲目の「枯葉」でのスキャット炸裂がいちばんの話題ですよね、むかしもいまも。なんたって日本盤レコードのタイトルが『枯葉』でしたし。

 

それもいいと思うんですけど、そればっかりじゃちょっとね。全体的にレベルが高いこのアルバムでは、もっとほかの歌もののほうが聴きやすくていいんじゃないかと個人的には思っています。スキャット一本槍ではなく、適度にそれをおりまぜながらしっとりとした歌を聴かせるもののほうが。

 

A1「I Didn’t Know What Time It Was」もいいし、ちょっと元気な2「That’s All」も共感できます。ゆったりしたテンポでおだやかにつづる4「Love Dance」も好き。

 

そしてなんたってこのアルバムの白眉は、続くイヴァン・リンスのB-1「The Island」です。寄せては返す波のようなくりかえしでほんとうにゆっくりゆっくり徐々に熱を高めていきながら、最終的には大きなうねりのごときエクスタシーが来るっていう流れは、まるでセックスのメタファーであるかのよう。

 

その後の三曲も、有名曲やそうでないものなどさまざまなものをとりあげて、自分の世界へと仕立て上げていくサラの力量に脱帽します。ツヤとノビのある声がしっかり出ているし、文句なしですね。

 

(written 2023.10.10)

2023/11/07

しんどいとき助けになる音楽(42)〜 エルヴィス・コステロ & バート・バカラック

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(1 min read)

 

Elvis Costello, Burt Bacharach / Painted from Memory

https://open.spotify.com/album/0rhmwOflgYrPntNuEe8chN?si=UWnvyP5oSY-Kq1izzQLnBg

 

エルヴィス・コステロ不感症のぼくが唯一聴くのがバート・バカラックと組んでやった『Painted from Memory』(1998)。バカラックはもちろんソングライティングに徹し、歌うのはコステロ。でもここでは色気のあるかなりいい声だぞと感じるからバカラック・マジックですよね。

 

そう、どの曲もバカラックが書いたんだとはっきりわかる鮮明な特色があきらかで、大のバカラック・ファンであるぼくはそこが好きなんですよね。コステロのヴォーカルをフィルターとすることで、かえってバカラック・カラーが鮮明になっているようにも聴こえるから不思議です。

 

暗く濃い官能がただよう曲や、ふわっと軽いブラス・アレンジに乗ったほんのりラテン(メキシカン)・タッチなポップスなど、まぎれもないバカラック・ワールドが展開されていて、アレンジも間違いなくバカラックが手がけたもの。コステロみたいな声の持ち主がそれらをここまであざやかに歌いこなせるとわかったのは収穫でした。

 

(written 2023.10.9)

2023/11/06

しんどいとき助けになる音楽(41)〜 ドナルド・フェイゲン

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(2 min read)

 

Donald Fagen / The Nightfly Live

https://open.spotify.com/album/5C5qAs32rM9PXL6MNuxTDp?si=9t8JbjezSLWDQseYJyl-Og

 

ドナルド・フェイゲン。スティーリー・ダンも好きなうえ、初ソロ・アルバム『ザ・ナイトフライ』(1982)が大好きだったから、それがライヴになった『The Nightfly Live』(2021)なんてもう、たまらない大好物。

 

どの曲が、とかいうんじゃなく、全体がすみからすみまで大好きで、なかなかここまでのアルバムってないんですよね。ライヴっていうのがまたいいじゃありませんか。一回性の生演奏でこれが聴けるっていうのが。

 

一回性といっても、収録場所は複数にわたっていますから一連の流れではないんですけど、あたかもそうであるようにみごとに編集されています。一回のライヴ・パフォーマンスをそのまままるごと収録したみたいなものとして違和感なく聴けますよね。

 

そういうプリテンティングっていうかメイク・ビリーヴを可能にするのがライヴならではの魅力。曲もアレンジもオリジナルどおりのそのままなのに、なぜか『The Nightfly Live』のほうがイキイキしているように聴こえちゃいます。

 

それでこそライヴ。っていうかレトロな音楽ではあるけれど2020年代の演奏にはそれなりの現代性みたいなものがこもるっていうことなのかもしれません。

 

(written 2023.10.8)

2023/11/05

シモン・ムリエ最新作『Inception』がほぼ名作

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(3 min read)

 

Simon Moullier Trio / Inception

https://open.spotify.com/album/39enGgghe9HiH7ruXEGz2c?si=RYbfMEtwTvS93ZvG5IJujw

 

フランス出身在USAのジャズ・ヴァイブラフォン&バラフォン奏者、シモン・ムリエ最新作『Inception』(2023)がめちゃめちゃいい。ほとんど名作といっていいできばえです。バラフォンも弾いているのはグッドですが、さらに本作は基本カヴァー集なんですよね。

 

ラストの「RC」がシモンの自作なのを除けばすべてカヴァーで、なぜかの「デザフィナード」なんかもあったりしますが、それ以外はジャズ・ソング、それもモダン・ジャズ系のもの。ホレス・シルヴァー、マッコイ・タイナー、チャールズ・ミンガス、マイルズ・デイヴィス、ウェイン・ショーター、ビル・エヴァンズ。

 

ビリー・ストレイホーンの「ラッシュ・ライフ」なんかはみんながやっている有名曲ですが、知名度の低い曲を中心に選んでいるように思えます。マイルズのブルーズ「フランシング」とか、カヴァーされているの初めてみましたよ。

 

その「フランシング」は先行リリースされていて前から聴けたんですが、テンポを上げ速めの調子にアレンジ。と同時にいはゆるブルーズくささを完璧に抹消し、情緒感のない現代ジャズに仕立てあげているのが特徴です。

 

そういえばどのカヴァー・ソングも古いジャズ・オリジナルをとりあげてコンテンポラリーにやってみせるという意図があったんじゃないかと思える内容で、以前もいいましたがシモンはバップ以来の伝統を尊重しつつそれを現代ジャズへと変換するというタイプの音楽家であろうと思います。

 

個人的に本作でことさら気に入っているのは激速テンポで演奏されている2「Inception」、9「RC」の二曲。疾走感が実にすばらしく、まるで陸上競技の100m走を見ているかのような極上のスリルと快感です。

 

どちらでも、あるいはほかの曲でもそうですが、シモンはフレーズをやや大きな声でうなりながら弾いていて、それがなくたって完璧なる肉体派とわかるマレットさばき。聴いていて気持ちいいったらありゃしません。

 

ここのところ毎日これしか聴いていないといってもいいくらい惚れちゃいました。年末のベスト10入り確実。

 

(written 2023.10.27)

2023/11/02

レイヴェイの官能 〜 新曲「A Night to Remember」

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(2 min read)

 

beabadoobee, Laufey / A Night to Remember

https://open.spotify.com/album/73wBVA41AulgjGiL3rBwfe?si=vK7a6bveT0GrJCGKEgBJwA

 

レイヴェイ関係で以前も言いましたけど、新曲一つ出るたびに話題にしていたらキリないですよね。でもホント、今度の「A Night to Remember」(2023)はとってもチャーミングで、大好きなんです。キリがないけど書いておきたい、それほどレイヴェイが心底好きだというファン心理もまた、わかっていただけるものじゃないかと。

 

「A Night to Remember」はロンドンの歌手、ビーバドゥービー(ってだれ?)とのデュオで、じっさい二人の声が聴こえます。ビーバドゥービーの若くて細く高音寄りのかわいいさえずり声と比べたら、レイヴェイはより丸く太く中低音寄りのスモーキーな声質なんで、聴き分けは容易。

 

曲も二名の共作となっています。それがまたこれほどいい曲があるのだろうかと思うほど魅力的。軽いボッサ・ポップスなんですけど、曲題でも推察できるようにアダルトなセクシーさがただよっていて、いやぁいいなあ。

 

その官能は、ちょうどリオン・ラッセルが書きカレン・カーペンターが歌った「ディス・マスカレード」「スーパースター」あたりを想起させるもの。特に前者ですね、リズムのスタイルといい曲調といい、これを真似して書かれた新曲じゃないのか?と思えるほどソックリ。

 

こういうセクシーな曲が大好きなんですよね。ビーバドゥービーのほうはともかく、レイヴェイの低くたなびく暗めのアダルト・アルト・ヴォイスはセクシー&ムーディな曲想にとてもよく似合っています。

 

(written 2023.10.23)

2023/11/01

しんどいとき助けになる音楽(40)〜 ヤマンドゥ・コスタ&グート・ヴィルチ

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(1 min read)

 

Yamandu Costa, Guto Wirtti / Caballeros

https://open.spotify.com/album/3LmEVa4Iw5VtuFrQawrNTG?si=vPoos5iKTy2QlRJ8ZlThkw

 

ナット・キング・コールのラテン歌曲集で思い出し、やはり同じ(主に)スペイン語圏のラテン・ナンバーを、こっちはギターとベースでインスト演奏したヤマンドゥ・コスタ&グート・ヴィルチの『Caballeros』(2021)を聴きかえしていました。

 

ヤマンドゥが七弦ギターでグートがギター型のアクースティック・ベースなんですが、このデュオは以前から評判が高くって、ぼくも大好きです。『Caballeros』では1トラック目のメドレーからデリケートさがきわだっていて、大人のエロスを感じる内容。

 

まるでセックスのときのようにゆっくりやさしく相手を愛撫していくかのような、そんな繊細なタッチが聴けて、それは2曲目以後もずっとラストまで同じです。ハーモニクスも織り交ぜながらのヤマンドゥの出す音の強弱、緩急が実にみごとで、微細部にまで心配りが行き届いているなぁっていう、そんな印象です。

 

これだけきれいなラテン・アクースティック・インストって、なかなかないんじゃないですかね。なお3曲目はブラジルの曲です。本作、残念ながらフィジカルがないので、ぼくの目の届く範囲では話題にしているかたがかなり少ないのがなんとも。

 

(written 2023.9.30)

2023/10/31

しんどいとき助けになる音楽(39)〜 ナット・キング・コールのラテン歌曲集

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(3 min read)

 

Nat King Cole / Latin American Tour with King Cole

https://open.spotify.com/playlist/7GlR8e592Xomud4vjHrN9h?si=fe5d4246adb14740

 

ナット・キング・コールでもう一個、ラテン歌曲集の話をしたいと思います。ジャズ・ファンにとっての戦後のナットが『アフター・ミッドナイト』であるなら、一般のポップス・ファンにはむしろラテンでしょうしね。個人的にも大好き。

 

ぼくなんか大のナット好きでありかつラテン・ソング好きなんだから、気に入らないわけがないっていう。上のSpotifyリンクは自作プレイリストですけれど、ただの私的ベストじゃありません。ナット生誕100年記念で2019年にテイクオフ/サンビーニャからCDリリースされた『キング・コールと行くラテンアメリカの旅』と同内容。

 

ベスト・アルバム的コンピレなのでそのままではサブスクに載るわけありませんが、もとのラテン・アルバム三枚はもちろんあるので、編者の竹村淳さんの真似を勝手にしてSpotifyで編んでおいたものというわけです。これが楽しい。

 

あの時代の日本の洋楽好きにとってのナット・キング・コールとはどういうものだったのかを如実に物語るセレクションで、いまの時代までもこうした歌は永遠に愛されるものだなあと実感します。

 

原語(スペイン語、ポルトガル語)のままナットは歌っているわけですが、いずれもちっともしゃべれなかったそうです。まさに一音一音なぞるようにコピーしながら発音し歌っていったらしいのですが、それを考慮に入れれば大健闘というべき内容でしょう。

 

実際ナットのラテン・アルバムは中南米諸国でも受けがよく、かなり売れたそうですから。歌手としての存在感ということでしょうけど、しっかりアレンジされたオーケストラ・サウンドもよく練れているし、ラテン・テイストがほどよくブレンドされているっていうか、中庸な味で、聴きやすいですよね。

 

(written 2023.9.27)

2023/10/30

しんどいとき助けになる音楽(38)〜 ナット・キング・コール『アフター・ミッドナイト』

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(2 min read)

 

Nat King Cole / After Midnight

https://open.spotify.com/album/30S26T1LJHuWoMl8xb6Wl4?si=kkEYq0fYSNe5NlFXtPNF2w

 

だれがどう言おうとナット・キング・コールが好き。なめらかで丸く甘い歌声がですね、ほんとうに気持ちいなぁって。1957年のアルバム『アフター・ミッドナイト』は、ポップ歌手として大きな成功をおさめたのちにやったジャズ回帰作で、とってもいいんです。

 

原点回帰ってわけで、もちろんナットもジャズから出発したのでした。本作のレパートリーのなかには1940年代初期のピアノ・トリオでやった曲の再演もあるし、ほとんどすべてがスウィンギーなジャズ・ナンバーで、痛快。

 

むろんなかにはポップに寄ったような曲もあるんですけど、そうかと思えばごく初期のデビュー当時(デッカ時代)を思い起こさせるようなジャイヴなフィーリングも聴けたり、ラテン・ナンバーもあったりと、さまざまな切り口からこの歌手を楽しめるいい作品ですよね。

 

スタンド・マイクで大きなオーケストラをバックに歌うようになっていたナットが、ひさびさにピアノの前にすわって、弾きながらコンボで歌っているし、その腕前もかつてのまま立派です。ピアノをかなりたくさん弾いているし、メンバーのジャジーなソロやオブリガートもたっぷり。

 

40年代と比べればいっそう声が丸くソフトで甘口になったなあという実感もあり、そういうほうが好きなぼくなんかにはむしろ『アフター・ミッドナイト』こそ好ましいと思えたりしますからね。

 

(written 2023.9.26)

2023/10/29

秋の陽だまりのように快適 〜 原田知世『恋愛小説 4』

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(3 min read)

 

原田知世 / 恋愛小説 4〜音楽飛行

https://open.spotify.com/album/5OrIKp4u65lKY1MGvhzWZB?si=_xQK-YW6ScmmuqNXXW7rjQ

 

リリースされたばかりの原田知世最新作『恋愛小説 4〜音楽飛行』がかなりいい。伊藤ゴローがプロデュースするこのカヴァー・ソング・シリーズのなかでは最高の出来になったんじゃないかという気すらします。ほとんど傑作といっていいです。

 

今回はすべて洋楽ソングのカヴァーで、1960〜70年代初演のものばかり。ビートルズ、モンキーズ、カーペンターズ、ニール・ヤング、ジョニ・ミッチェル、ロネッツ、スティーヴィ・ワンダー、ビリー・ジョエル。一定世代にはこたえられない選曲でしょう。

 

ゴローは基本的にオリジナルのアレンジを尊重し、でありつつフレイジングはそのままに楽器を置き換えたり、ジョニの「Both Sides Now」で聴かれるマリンバのかすかなサウンドなど細かく手のこんだ隠し味までていねいにほどこしているのがわかります。

 

そしておどろくのは知世ヴォーカルの成熟ですね。以前からくりかえしていますように50歳を超えたあたりから歌手としての円熟とめざましい成長・完成をみせるようになり、キュートでチャーミングな持ち味はそのままに歌手として安定するようになりました。

 

今作でも全曲英語詞ということで歌いにくさがあったのでは?とリリース前はぼんやり想像していましたが、いざ聴いてみたらとんでもない、非の打ちどころのない歌いこなしで、これなら日本語歌手による洋楽カヴァー集として文句なしに推薦できる内容です。

 

ちょうどいまぐらいの秋の心地いい晴れた日の午後の陽だまりを思わせる本作での知世の歌(をゴロー・サウンドが支えているわけですが)を聴いていると、ほんとうに心地よくて夢見心地。このままこの時間が永遠に続けばいいのにと感じるほど。

 

ほんとうに歌手として知世は成長した、円熟してきているというのを心の底から実感できるアルバムです。永年の愛聴作になりそう。

 

(written 2023.10.28)

2023/10/26

タイトなコンテンポラリー・ジャズ 〜 チェンチェン・ルー

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Chien Chien Lu / Built in System: Live in New York 内建系統

https://open.spotify.com/album/1w8DTGBEwQ3YRsDTC9Mv0o?si=V7E-APnASpGYAcbnHd-Mkw

 

チェンチェン・ルーがいいぞと日本語で話題にしているのがほとんどぼくだけのような気がして、これこのままでいいんですかね。たしかに世間的にヒットする要素がまったくないわけですけども、音楽はごく上質の台湾人ジャズ・ヴァイブラフォン奏者であります。

 

そんなチェンチェン、つい先週出た最新作『Built in System: Live in New York 内建系統』(2023)は、今年二作目で通算三作目。といっても今年一つ目はリッチー・グッズとの共作名義による企画アルバムでしたから、単独名義のソロ作品としてはキャリア通算で『The Path』に続く二個目です。

 

その『ザ・パス』が明快な1970年代ふうソウル・ジャズでファンキー路線まっしぐらだったのに比べたら、最新作『Built in System』は情緒感を消したコンテンポラリー・ジャズ路線といえます。こういうのもいいですね。

 

編成は、ふだんのボス、ジェレミー・ペルト(tp)に、リッチー・グッズ(b)、アラン・メドナード(dms)というカルテット編成。鍵盤楽器やギターがいないというのもタイトなサウンド・カラーを決定づけている大きな理由でしょう。

 

またドラムスのアランがかなりの好演を聴かせていて、細かな手数の多い細分化ビートを叩き出すありさまは、まさにいまのコンテンポラリー・ジャズではドラムスが鍵を握っているぞと実感させるものがあります。

 

ファンキーだったりメロウだったりすることがないのは、プロデューサーがジミー・カッツに交代したのが理由かも。ジミー・カッツはNYCで非営利のジャズ・レーベルを運営する人物で、レコーディングし作品をリリースするチャンスがなかなかないけれど音楽的にはすぐれているというミュージシャンに門戸を開いているという存在です。

 

そんなわけもあってか、本作でのチェンチェンはエンタメ路線ではなくややネオ・クラシカルな現代ジャズを志向していて、リリカルだったりする部分がまったくない硬質なサウンドを心がけているのがよくわかります。今回マリンバは弾かずヴァイブに専念しているのも特色でしょうか。

 

(written 2023.10.22)

2023/10/25

しんどいとき助けになる音楽(37)〜 ソウル II ソウル

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Soul II Soul / Club Classics Vol.One

https://open.spotify.com/album/5VxTLm2IZsDQn3r9eX1qfa?si=EewlEFr7TVqtD1AkoegODQ

(オリジナル・アルバムは10曲目まで)

 

ソウル II ソウルのことはいまでも大好き。このユニットっていうより、ファースト・シングルとして大ヒットした「キープ・オン・ムーヴィン」(1989)がもう好きで好きで、その気持ちはずっと変わらず続いています。

 

日本でこの曲のスタイルはグラウンド・ビートと呼ばれていて、「キープ・オン・ムーヴィン」一曲お聴きになれば、ご存知ないかたでもああこんな感じねと納得していただけると思うんですけど、それがぼくはもう大好きでたまらないわけです。

 

間違いなく御茶ノ水ディスクユニオンで耳にし、そう、あのころ(1980年代末〜90年代前半)明治大学の駿河台キャンパス夜間に非常勤で毎週金曜日通っていて、授業開始まで余裕のあったときは入りびたっていました。その後山の上ホテルのカフェでコーヒーっていうルーティン。

 

記憶が確かならまずファースト・シングルとして「キープ・オン・ムーヴィン」が出て、その後それを1曲目に収録した一枚目のアルバム『クラブ・クラシックス Vol.1』が出たんだったと思います。どっちも買いました。

 

っていうかアルバムのほうは、ひょっとしたら『キープ・オン・ムーヴィン』とのタイトルを冠したアメリカ盤のほうを買っていたかもしれません。中身は同じなんですけど、ヒット曲の名前を出したほうが売りやすいだろうとの判断だったかもしれませんね。

 

個人的には、打ち込みビート+アクースティック・ピアノ+ストリングス+キャロン・ウィーラーのヴォーカルだけっていうシンプルでスペイシーな「キープ・オン・ムーヴィン」という曲のことが大好きなだけだったから、アルバムのほうは2曲目以後イマイチな感じがしていました。いま聴きかえしても同じ気持ちですね。

 

世間的には「バック・トゥ・ライフ」とかのほうが売れたんですけど、ぼくにとっては「キープ・オン・ムーヴィン」一曲がすべてのユニットでした。

 

(written 2023.10.6)

2023/10/24

しんどいとき助けになる音楽(36)〜 カーティス・メイフィールド

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Curtis Mayfield / New World Order

https://open.spotify.com/album/4M8Zce860gRCdyv1hXOK32?si=Xc9Tbl_eTh-mKni5klpCTQ

 

ダークでペシミスティックなトーン 〜 これがカーティス・メイフィールドの最終作『ニュー・ワールド・オーダー』(1996)を支配しているフィーリングですが、そうであるがゆえにいまのぼくはとても強く共感し、そうだよねえと納得できるんですよね。

 

明るめの曲もあるにはありますが、全体的にはどこまでも暗く、とまで言わなくても落ち着いた渋い色調で塗り込められているでしょう。あらゆる面で絶好調だった30代なかばで出会ったんですけども、歳とって、さらにきびしく体調が悪化して悲観的な気分になってきている現在では、かけがえのない大切な音楽に聴こえるんですよね。

 

だからといってカーティスは決して絶望しているわけでもありません。若さと健康の貴重さを一つのテーマとして扱っている作品のように思えますが、ここでのカーティスならではの人生に対する深い理解、納得感、そしてある種のポジティヴィティも込められているんです。

 

こういった音楽は、カーティスと似たような境遇にある人間をなぐさめてくれるだけでなく、人生が思ったようにならず、不健康で、落ち込んでいるすべてのみんなに向けられたもの。聴けば慰撫されるし、つらいことばかりの人生も、だからこそ美しいんだと語りかけてくれているかのようです。

 

(written 2023.10.4)

2023/10/23

しんどいとき助けになる音楽(35)〜 カウント・ベイシー&カンザス・シティ7

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(2 min read)

 

Count Basie and the Kansas City 7

https://open.spotify.com/album/38hVn63tek1lRKfkvZiZpk?si=Zqy0TJFqQ56b7r4MmmINDg

 

音のよい戦後録音でカウント・ベイシー・バンドの実力がとてもよくわかる『Count Basie and the Kansas City 7』(1962)は、むかしもいまもぼくの大推薦アルバム。しかもここでは少人数のコンボ編成でモダン。

 

ベイシー・バンドが編成を小さくしてやるときには戦前からカンザス・シティ6とか7とかの名前をよく使うんですよね。このアルバムのばあいは細かい部分までかなりしっかりアレンジされているなという印象があって、リズムのストップ&ゴーとかホーン・リフのフレーズや出入りなど、譜面なしでは不可能な内容。

 

アレンジを書いたのはフルートで参加しているフランク・ウェスでしょうね。細かくていねいに練り込まれていながらも、このカンザス・バンドのイキイキとしたスポンティニアスさをちっとも殺さずかえって引き立てるみごとなアレンジ手腕と思います。

 

ソロをとるメンバーのなかでは、特にベイシーのピアノが目立ちます。思わず「うまいなぁ〜」と声が出そうになるほどの闊達さで、といっても例によって音数はかなり少ないんですが、要所のみを確実に押さえていく様子はさすがとしか言いようがありません。

 

そのベイシーのピアノを中心とする4リズムのまるで生きもののような躍動感こそ本作の聴きどころ。フロントで吹かれるホーン・ソロはそんな特筆すべきできばえでもないように思いますが、リズム・セクションのピチピチしたみずみずしいスウィング感ですべてを納得させてしまうものがあります。

 

(written 2023.10.2)

2023/10/22

打ち込みでやっていても、打ち込みでつくりましたなデジタル感なしっていうのがレトロ・ポップ 〜 サラ・カン

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Sarah Kang / Hopeless Romantic

https://open.spotify.com/album/4T9XmSaKAXnEYyNn8ILJK2?si=j2gNUlaFSmGyeZyLythsOQ

 

お気に入りのレトロ歌手、サラ・カン。韓国出身でUSアメリカを舞台に活躍しています。そんなサラの今年出た『Hopeless Romantic, Pt.1』のことは以前書きましたが、パート1となっているし、本人のインスタでも first half って書いてあるしで、こりゃ来るフル・アルバムの前半部かもしれないなと。

https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2023/07/post-31160e.html

 

そうしたら、やっぱりフル・アルバム『Hopeless Romantic』(2023)が10月6日にリリースされました。うれしい。前半部の五曲で聴けるレトロ・ポップぶりにすっかり骨抜きにされていたぼくは、フル・アルバム大歓迎。

 

後半部に五曲が追加され計10曲となりました。後半のそれら五曲も前半部とまったくムードは変わらず。はかない恋愛風景を甘く切ないジャジーなレトロ・ポップでつづる内容で、ビートはやはりDAWでつくっている模様。

 

そこにピアノやギターその他の演奏楽器がくわえられ、サラが自身の書いた歌をキュート&スウィートに乗せるといった感じ。このひとはただ書いて歌うだけでなく、演奏もアレンジも自分でやっているDIY派なんで、今回の後半部もそうやっているはず。

 

ただ折々にゲスト歌手は参加していて、いろどりを添えています。DAWビートやシンセサイザーもサラは自分でやっているわけですが、特色は生演奏楽器のようなオーガニックなサウンドに仕立て上げられているというところ。レトロ・ポップですからね、それが命です。

 

打ち込みでやっているにもかかわらず、打ち込みでつくりましたなデジタル感が絶対にないっていう、そのへんが一部のロックや、ハウス、ヒップ・ホップなどとの違いですね。

 

レトロ・ポップは懐古的なアナログ感が大切にされるようになった2020年代のファッションなんで、最新のサウンド・メイクでやってはいても、そこのフィーリングは絶対に失わないわけです。おわかりですか。

 

(written 2023.10.21)

2023/10/19

ダウナーなレトロ・ジャズ 〜 リッキー・リー・ジョーンズ

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Rickie Lee Jones / Pieces of Treasure

https://open.spotify.com/album/1uj9iLqDY2alHSLYnTE9wY?si=bW1_EtUWRau72F2BuDy2rw

 

レトロばやりってことで、なんとリッキー・リー・ジョーンズまでもやってしまった最新作『Pieces of Treasure』(2023)というジャズ・アルバム。ティン・パン・アリーのグレイト・アメリカン・ソングブックを歌ったもので、本人というよりプロデューサーのラス・タイトルマンがアプローチして実現したとのこと。

 

それにしても、四月末にリリースされていて速攻で聴いたにもかかわらず、書くのがずいぶん遅れてしまったのは、どうも本作で聴けるリッキー・リーのヴォーカルがですね、う〜んどうも、イマイチ好みじゃないっていうか、なんだかダラダラしていてしまりがなく、だらしないと思ったからなんです。

 

ひょっとして前からこんな歌手だっけ?と思ってデビュー期から聴きなおしてみてもやはりこうではなく、だから本作ふくめ近年の傾向ってことなんですね。う〜ん。ともあれリッキー・リーはこうしてスタンダードを歌ったりジャジーなアプローチをみせることも従前からときどきありはしました。

 

そこへもってきて、ここのところのレトロ・ブーム(をラスは意識したはず)と、さらにリッキー・リー自身もだいぶ年老いてきたっていう、なにか心境の変化みたいなのがあったのか、それでこのアルバムの制作に至ったのではないかというのがぼくの推測です。

 

上で書いた「ダラダラしていてしまりがな」い歌いかたっていうのも、最初ぼくはこんなんじゃあちょっとね…と思いましたけど、老齢者ならではの黄昏のメンタリティというか、人生の終盤にさしかかってのダウナーな気持ちのストレートな反映と考えれば、これはこれで一つの立派なリアリティだよなあと。

 

考えてみればここでカヴァーされているスタンダードの数々がつくる世界観とはいままでずっとゴージャスで華やかだったもの。ほとんどどんな歌手、アレンジャー、演奏家がやったものでもそうでありました。リッキー・リーの本作はそういう世界に対するある種のアンチ・テーゼになっているともいえます。

 

それはかつて1970年代末にデビューしたころの自分自身からの変貌であり、老境ならではの低く暗いムードの音楽。ぼく自身(にぎやかなものより)落ち着いた音楽を好むようになってきているのもやはり初老の入り口に来たからでしょうけど、そういうときにリッキー・リーのこのスタンダード曲集は内面に寄り添ってくれる深みというか吸引力を持っているのかもしれませんよね。わからないけど。

 

(written 2023.6.18)

2023/10/18

9m88の新作アルバムがホントかなりいい

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9m88 / Sent

https://open.spotify.com/album/6vR0QbkphxTdgADE0Y7MEB?si=XFd-KLy7R8yaqSOjMYbCQg

 

先週末の来日公演も成功させた9m88(じょうえむばーばー)。台湾出身在NYCのジャズ/ネオ・ソウル・シンガーです。来日にぴったりタイミングをあわせるかのようにして6日にリリースされた新作アルバム『Sent』(2023)が、ホントとってもいいですよね。

 

本人のInstagramとかみているとかなり好評なようで、そりゃあそうですよこの内容だもん。七月に一度9m88について書いたとき、今年の新曲「若我告訴你其實我愛的只是你」がとってもいいけどこの一曲しかなく、この感じで満たされた30分くらいのアルバムが出るといいなあって言ったんですけど。

 

まさしくそのとおりになって、もううれしいのなんのって。「若我告訴你其實我愛的只是你」はもちろん収録されているし、そのほかもジャジーなネオ・ソウルやジャズ・ソングが中心で、ぼく好み。おだやかでさわやか。じゃないけっこうエッジのとんがったハードな曲も二つありはしますけどね。

 

コントラバスだけの伴奏で歌い出す1曲目から、この歌手の新世代感がフルに発揮されています。その後ストリングスも入って、この曲はまさしくジャズ・ソング。

 

2曲目もフルート・アンサンブルが特徴的なさわやか路線なネオ・ソウルで、聴いていて実に心地いい。アルバム・タイトルになった4曲目は淡々とゆったりしたバラードで、バーバーの歌唱力がよくわかります。

 

けっこう激しめな曲や「若我告訴你其實我愛的只是你」を通過して、7曲目はやはりジャズ・バラード。これもいいね。ラスト8曲目はなぜかのナイロン弦ギターをフィーチャーしたブラジリアン・テイストなボサ・ノーヴァでさわやかに後口よくしめくくり。

 

(written 2023.10.18)

2023/10/17

しんどいとき助けになる音楽(34)〜 Airi

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Airi / City Pop Rendez-Vous

https://open.spotify.com/album/6x5KIXv4960MZ0Vy5SSZVg?si=79d4lhtrTTqH_AIBFKb4Ow

 

最近特によくふたたび聴くようになっているのが日本人ジャズ歌手、Airiの最新作『City Pop Rendez-Vous』(2023)。夏ごろに一度書いたばかりですけどね、そこから時間が経っていないのに、またとりあげてごめんなさい。でもいまは体調が…。

 

このアルバム、聴くとなんか癒されるんですよね。それに妙に耳残りするっていうか、脳内でいつまでもくりかえしずっと鳴っているんです。どうも不思議な引力があるんじゃないですかね。

 

ジャズ・アルバムですが、とりあげられている曲は1970〜80年代のJシティ・ポップばかり。それをジャズ・アレンジしています。そういう企画アルバムなんですが、つまりはもとから曲がいいっていうことなんでしょうか、耳に残るのはですね。

 

曽根麻央がつくりあげたサウンドがこりゃまたおしゃれ。ピアノ(やエレピやシンセなど)+ベース+ドラムスのリズム・セクションをサウンドの軸にして、そこに曽根自身のトランペットや、あるいはギターやパーカッションなどがいろどりを添えています。

 

特にパーカッションですかね、大活躍しているのは。ラテン・テイストも強いアルバムなんですが、ジャジー・ラテンっていうかそんな傾向にパーカッションが大きく寄与しています。

 

この曲、この(特にラテンな)アレンジ、このサウンド、そしてこのヴォーカルがあれば、いまはじゅうぶん満足できる気分になれちゃうっていう、そんな一作です。ジャズとシティ・ポップの両方が好きな向きにはオススメですよ。

 

(written 2023.10.1)

2023/10/16

しんどいとき助けになる音楽(33)〜 マイルズ『リラクシン』

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Miles Davis / Relaxin’

https://open.spotify.com/album/0dyIXPKoUBt1vFJHX57dqt?si=NObnh3XMQcWDk798PPAvuQ

 

マイルズ・デイヴィスがプレスティジでやった例のマラソン・セッション(1956)から誕生したいはゆる四部作のなかでは、むかしもいまも『リラクシン』(58)がいちばん好き。

 

音楽的に最もすぐれているとかは思わないんですけど、とってもくつろげる音楽だなあって、アルバム題どおり。これ聴くと気分がラクになってきますもん。演奏前演奏後のスタジオでのトークがけっこう収録されているというのも一因かも。

 

曲も好きなものばかり。といってもジャズ・スタンダードのラスト「Woddy’N You」以外はこのアルバムではじめて知ったものなんですけど、その後ヴォーカル・ヴァージョンふくめさまざまなのを聴くようになりました。

 

けど、どれ聴いても結局マイルズのこれに戻ってきちゃうっていうか、これがいちばんいいなと感じてしまうのは、やっぱりファンだからなんでしょうね。演奏もほんとうにすぐれていると思うんです。一発即興だったことが信じられないくらい完成されているし。

 

じっさい演奏前の会話とか聞いていると、ボスはサイド・メンバーにあれこれ指示を出しているのがわかります。音を出す前にイメージがあたまのなかにしっかりあったことをうかがわせる内容で、バンド全体のサウンドをどう構築するか?ということに生涯腐心した音楽家らしいなと思います。

 

マイルズ入門にどれか一枚好適なのを教えて!という向きがもしあらば、この『リラクシン』を迷わず差し出したいという気がしています。

 

(written 2023.9.23)

2023/10/15

しんどいとき助けになる音楽(32)〜 サマーラ・ジョイ

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Samara Joy / Linger Awhile

https://open.spotify.com/album/1TZ16QfCsARON0efp6mGga?si=ihON8JR_TZqefxv9fOLCuw

 

みなさんよくご存知のとおり、ぼくはコンテンポラリー・ジャズにおけるレトロ・スタイルがこのうえなく大好き。そもそも大学生のころから1920年代ディキシー/30年代スウィング・ジャズの古いSP音源をリイシューしたLPレコードばかりこれでもかと親しんでいましたから、現行レトロ・シーンにはまっちゃうのは必然みたいなもんでした。

 

サマーラ・ジョイもまたそうした黄金時代へのノスタルジアを音楽で表現している歌手。デビューしたときからファンでしたが、二作目『Linger Awhile』(2022)でますます大好きになりました。だって聴いていると気持ちいいんだもんね。

 

管楽器が参加している曲もありますが、基本的にはギター+ピアノ・トリオというシンプルな編成で、淡々とおだやかに歌うサマーラがいいと思います。まったくなんの変哲もないスタンダードなジャズ・ヴォーカルで、個人的にはそんな音楽もまた大の好みなんです。

 

いまはもう2020年代なんだから、なにかもうちょっと新しいことできないの?という向きもあるかもしれませんが、現行レトロ・シーンにそんなことを言ってもムダなこと。それになにより本人たちがこうした音楽が大好きで心から楽しんでやっているとよくわかるじゃないですか。

 

こないだレイヴェイの記事が『Variety』誌に載っていましたが、いはく「まるでちょうど100年前に生まれてきたような音楽家」ですって。まさにそうですよね。サマーラ・ジョイについても同じことが言えます。

 

(written 2023.9.22)

2023/10/12

いまどきラーガ・ロックな弾きまくり 〜 グレイン・ダフィ

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Gráinne Duffy / Dirt Woman Blues

https://open.spotify.com/album/3pEr5QdlF89ufMoOHASyum?si=X3JaeVHPQEmI_CCIHQSunA

 

アイルランドのブルーズ・ギターリスト、グレイン・ダフィは、いままでにヨーロッパで多くの音楽賞を受けてきた存在らしく、なんでもアイルランドを代表するブルーズ・ギター・ウーマンと評されているとのこと。

 

そんなグレイン、USアメリカ進出六作目にあたる最新作『Dirt Woman Blues』(2023)が出ましたので、ちょこっと手短に書いておきましょうか。聴いてみたら、特にギターのほうは印象に残るものがありましたから。

 

ダートなんていうことばを使ってあることがブルーズ・ミュージックなんだという端的な表現ですが、実際の音楽はそんな泥くさくナスティな感じはせず、もっとさっぱりしている印象です。ブルーズというよりロックですしね。

 

それでもぐいぐい弾きまくり聴き手をうならせる場面が多少あります。特に6「Sweet Liberation」後半のジャム・パートとか、8「Yes I Am」のギター・ソロ・パートとか。後者なんかむかしのことばでいうラーガ・ロック(古っ!)そのもので、70年代にいっぱいあったあんな雰囲気そのまんまの熱い熱い弾きまくり。

 

こうした部分はギターリストとしての腕前を存分にみせつけるもので、じゅうぶん聴きごたえがあります。もちろんスタイルとしては古いんで、エレキ・ギター弾きまくりソロのあるブルーズ・ロックとかは、ぼくは大好きだけど新世代音楽好きとかにはアピールしない音楽かもしれません。

 

(written 2023.6.4)

2023/10/11

しんどいとき助けになる音楽(31)〜 ニーナ・ベケール

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Nina Becker / Minha Dolores

https://open.spotify.com/album/4KKDLia9xJT8NM98jPfRvM?si=mum0iq8rR5-cLtZnH1WEFg

 

ルイス・バルセロスでもう一つ。これもブラジルの歌手、ニーナ・ベケールのアルバム『Minha Dolores』(2014)のこともとっても大好き。サンバ・カンソーンのシンガー・ソングライターだったドローレス・ドゥラン・トリビュートで、ドローレスの曲を歌ったもの。

 

その曲々がとってもいいですよね。個人的にはドローレスのファンというわけでもなかったんですが、ニーナの歌うのがあまりにもチャーミングなのでちょっと聴いてみましたからね。そうしたらすばらしくって、こんなことならもっと前から聴いておけばよかったと思いました。

 

ニーナの本作は、七弦ギターとバンドリンの二人だけっていうシンプルな伴奏。曲によってはゲストでエレピやエレキ・ギターのソロもありますが例外的で、どこまでも二人だけでのショーロふうな簡潔なサウンドなのが音楽にひろがりを生んでいて、歌を活かすことにつながっているのもいいです。

 

だから大好きなルイスのバンドリンも大活躍でたっぷり聴けるのがうれしいんです。よく歌うバンドリンですし、音色がシャープで硬質なのが好印象。七弦ギターのほうはゆんわり優雅な印象ですが、それに乗るニーナの声もふんわりとソフトで、あたたかみがあって、曲もいいし、もうどこからどう聴いてもみごとな音楽だとしか言いようがないですね。

 

(written 2023.9.21)

2023/10/10

しんどいとき助けになる音楽(30)〜 ニーナ・ヴィルチ

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Nina Wirtti / Joana de Tal

https://open.spotify.com/album/0Oivkm8f3O3YIIvPEJJr05?si=2uY8yn3XR3qnAfTcPSYqxA

 

ルイス・バルセロスでニーナ・ヴィルチのファーストを思い出し、その『Joana de Tal』(2012)を聴いていました。バンドリンでルイスが参加しているんですよね。それもなかなかいいプレイぶり。

 

少人数のショーロふうな伴奏に乗せて歌われる室内楽サンバで、かわいくてとってもキュート。こういうのに弱いんですよ。ルイスの10弦バンドリンも随所で光る演奏ぶりで、ニーナのクラシカルな声を引き立てています。

 

サンバ・カンソーン・ナンバーの1「Noticia de Jornal」から快調で、2曲目はノエール・ローザ作の小粋なサンバをトラディショナル・ジャズふうな2/4拍子で。それもかわいいし、全体的にキュートなチャーミングさが目立っているのがいいですね。

 

ぼくの愛するラストの「Zé Ponte」だけはヤマンドゥ・コスタの七弦ギターとグート・ヴィルチのベースだけというシンプルなバックで、ニーナは落ち着いて淡々と歌っています。ヤマンドゥのギターもすばらしく、ソロに伴奏にと腕を聴かせます。

 

(written 2023.9.20)

2023/10/09

しんどいとき助けになる音楽(29)〜 ルイス・バルセロス

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Luis Batcelos / Depois das Cinzas

https://open.spotify.com/album/5qoBExC4dVsx6ZAij7w51h?si=HH1OkvKgTgyhND8qo05nIA

 

ブラジルのショーロ10弦バンドリン奏者、ルイス・バルセロスのことを思い出すきっかけがあって、アルバム『Depois das Cinzas』(2014)を聴きかえしていました。いまぐらいの秋の季節にちょうどピッタリな風かおる音楽ですよね。

 

それはそうと、ぼくにとってしんどいときの音楽は、だいたいUSアメリカ(それも主にジャズ系)、日本、ブラジルに限定されているような感じ。たしかにそのへんがいちばん好きでなじみ深く、メンタルが落ち込んでいるときにでも聴けるってことでしょうね。

 

このアルバムもストレートなショーロ・カリオカで、かっちり枠にはまった古典的な演奏が気持ちいいなと思うんです。基本ストリング・バンドで、曲によって例外的にホーン奏者も参加しています。そんでもって全体的にとってもさわやかでおだやか。

 

そんなところがですね、体調の著しく悪い現在でも聴いてなごめるな〜と思える部分じゃないでしょうか。泣きの(サウダージな)バラード系である4「Flora」の情緒感とかもいいし、アルバム・タイトル曲の6で聴ける秋風のようなすずやかさもすばらしい。

 

ショーロってどうも日本じゃ一般的にイマイチな人気で、全世界的にそうなのかもしれませんけど、こうしたとってもきれいで楽しめるアルバムがあるし、さらにはこういう演奏がそのままサンバの伴奏になったりもするんで、やっぱりもっと聴かれてほしいです。

 

ポピュラー・ファンだけでなくクラシック音楽リスナーにも共感してもらえる音楽じゃないでしょうか。

 

(written 2023.9.19)

2023/10/08

しんどいとき助けになる音楽(28)〜 ビリー・ジョエル

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Billy Joel / ぼくのビリー・ジョエル

https://open.spotify.com/playlist/75wESlSPEmLIEeZdLPRDbP?si=e3bdff5e4e6743d2

 

このビリー・ジョエルのプレイリストは、たしかSpotifyをはじめていちばん最初につくったもののはず。と思って確認したら作成が2017年11月になっていますから、間違いないです。

 

それくらいぼくにとってビリー・ジョエルはふだんからよく聴いている大切な音楽家。高校生のころに好きになって以来ずっとこの気分が続いているんですよね。ニュー・ヨーク・シティへの個人的なあこがれとともにある音楽で、じっさいビリーの音楽は実質的にシティ・ポップに分類してもいいんじゃないかと思います。

 

そのことと関係あると思いますが、ジャズとラテンの影響も濃く、ぼくはそれらよりビリーのほうを先に知って好きになりましたが、ジャズやラテンを聴くようになってからはますますビリーの音楽のなかにあるそうした要素をはっきり楽しめるようになりました。

 

ソングライターとして超一流であるというのがなんたってこのひと最大のメリット。たぶんピアノとヴォーカルの才能じたいは、すぐれているといったってそこまでのものじゃないだろうという気がします。でも書く曲がずばぬけていい。

 

「ニュー・ヨーク・ステイト・オヴ・マインド」「ジャスト・ザ・ウェイ・ユー・アー」あたりは、なんど聴いても全世界のポップス史トータルでみてもベスト5に入るんじゃないかと個人的には思えるくらいな傑作曲でしょう。キャリア初期からいい曲を書いていましたが、プロデューサーのフィル・ラモーンとの出会いがその才能を最高の果実に仕上げる結果につながりました。

 

ベスト・セレクション的なプレイリストはいつ聴いても楽しいし、気分が落ち込んでいるときにでもす〜っとこっちの心に入ってきてなぐさめてくれるっていう、そういう魅力を持ったソングライターですよ、ビリー・ジョエルって。

 

(written 2023.9.18)

2023/10/05

なんでもないハード・バップですが 〜 ハンク・モブリー

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(4 min read)

 

Hank Mobley / Soul Station

https://open.spotify.com/album/731OW49heGHCMrMOREHYlY?si=1rflUyhXRhmwuu-zPxe-xw

 

なぜだかここのところときどき聴いているハンク・モブリーの1960年作『ソウル・ステイション』。なんでもないハード・バップですが、そういうのがとっても聴きたい気分なときもあります。このアルバムはどうやらまだ書いていなかったようですし。

 

一般的にはモブリーでいちばんのアルバムということになっているらしく、なんでもソニー・ロリンズの『サクソフォン・コロッサス』、ジョン・コルトレインの『ジャイアント・ステップス』に相当する位置づけのモブリー作品らしいです。

 

「なんでも」「らしい」とか書いているのは、つまり前から言いますようにぼくは長年モブリーをちゃんと聴いてこなかったんですね。軽視していたというか、マイルズ・デイヴィス・バンド時代があるもんで、前任がトレイン、後任が(実質的に)ウェイン・ショーターですから、そりゃあ分が悪かった。

 

それなもんでモブリーのリーダー作を積極的に聴いてみようという気分に従来はあまりなれませんでした。でも最近トンがった激烈なものより丸くておだやかな音楽が好きになってきましたから、マイルズ作品でもモブリー全面参加のたとえば『サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム』なんかが沁みるようになってきましたし。

 

歳をとって嗜好が変化し、徐々にモブリーみたいな持ち味のジャズ・サックスもわりといいなあと感じるようになってきたってわけで、そんなところで『ソウル・ステイション』を聴いてみたら、あらとってもいいじゃないって、そう納得しましたきょうこのごろ。

 

オープニングの「Remember」や5曲目のアルバム・タイトル・チューンに象徴されるような4/4拍子のストレート・ジャズも、変哲ないけれど、とっても聴きやすくていいし、さらに個人的にもっと気に入っているのはテーマ演奏部でラテン・ビートが使ってあるもの。

 

とか、リズムに工夫があってブレイクやストップ・タイムの活用が(テーマ部だけなんですけど)聴けるとか、そういうのは、標準的なハード・バップでも当時あたりまえではありましたけど、聴けばやっぱりいいなあと思います。

 

たとえば2「This I Dig of You」、4「Split Feelin’s」はラテン・ビートが使ってあるし(インプロ・ソロ・パートではストレートな4ビートですけどね)、6「If I Should Lose You」はストップ・タイムが駆使されています。アルバム収録曲の半数がこんな感じですから。

 

特に「If I Should Lose You」なんて、もとは悲痛なバラード、というかトーチ・ソングで、止まりそうなテンポで演奏されるかなり沈鬱なフィーリングの曲でした。それをそのまま活かすようなほかのミュージシャンによるヴァージョンがたくさんあって、ぼくも好きでしたし、こういう曲なんだと思っていましたからね。

 

それをとりあげた本作でのモブリーらは、リズム面での工夫をほどこすことでフィーリングを中和し、そこそこおだやかでなごやかなムードのレンディションにしあげているというのが、いまのぼくの気分にはちょうどよくまろやかに響きます。

 

(written 2023.5.25)

2023/10/04

しんどいとき助けになる音楽(27)〜 エドゥ・サンジラルジ

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(2 min read)

 

Edu Sangirardi / Um

https://open.spotify.com/album/278T99dsaxiUd5LR1I99jO?si=jlFZazyYRCu99cn4X6-eQQ

 

ブラジルのジャズ・ミュージシャン、エドゥ・サンジラルジのソロ・デビュー・アルバム『Um』(2022)。サブスクだとちょっぴりジャケット変わっちゃいました。エドゥの姿が消えて、えんじ一色と文字だけになっていて。

 

サブスクってたまにそういうことあるんです。歌手ジャネット・エヴラのファーストもジャケ変更になってしまって、中身の音楽は変わらないからいいようなものの、いつもジャケで認識しているぼくなんか、一瞬オリョ??ってなっちゃいます。

 

ともあれエドゥの本作でいいのはコンポジションとアレンジ、特にホーン・セクションのそれですね。きわめて美しく楽しいと思えます。ストリングスもブラスもリードも複数人使っていますが、ここまでの譜面が書けるっていうのはかなりの才能じゃないでしょうか。

 

4「Maracutaia」で聴けるブラス・アンサンブルのビート感なんか絶妙ですし、なかでもトランペットよりトロンボーンを多用してふわっとやわらかい響きに仕上げてあるところなんか感心します。トロンボーン・ソロがあって、次いでピアノ(エドゥ)、そしてアンサンブルと、流れもみごと。

 

一転しておちついたテンポの5「Estrada no Mar」なんかでも、海っていうより空の雲がゆっくりゆっくり流れていくのをしばしながめているような、そんなホーン・アンサンブルのゆったり微妙な動きかたで、ほんとうに美しいなとため息が出ます。

 

歌手アンナ・セットンの一枚目(でもピアノはエドゥだった)で歌われていた8「Toada」ではフルート・アンサンブルのきれいさがきわだっているし、リズムの緩急も自在。ホーンズのあいまを縫うようにして弾かれるエドゥのピアノもすばらしいです。

 

(written 2023.9.17)

2023/10/03

しんどいとき助けになる音楽(26)〜 スティーヴィ・ワンダー

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(2 min read)

 

Stevie Wonder / Songs in the Key of Life

https://open.spotify.com/album/6YUCc2RiXcEKS9ibuZxjt0?si=EaKao8lWQDiKo087drDwyw

 

スティーヴィ・ワンダーの音楽ってちょっと不思議な肌あたりがあるっていうか、かなりキツい差別告発とか辛辣な社会風刺とかたっぷりふくまれているにもかかわらず、音楽の感触はふわりとやわらかく、しかもなんだかとってもあったかい感じがします。体温のぬくもりがしっかりあるっていうか。

 

そんなところもスティーヴィの音楽を愛してきた大きな理由なんですが、ぼくのなかでは特に『Songs in the Key of Life』(1976)に愛着が強いです。たぶんそれはこれがはじめて触れたスティーヴィだったからでしょうね。大学生のころ最初に買ったこの歌手のレコードでした。

 

二枚組+EPっていう変則的な大規模編成だったおかげで、聴いても聴いても飽きないし、時間のあるときにあちらこちらと存分に楽しめるアルバムだったことも大きな愛好理由です。一個のテーマにフォーカスしているより、ごちゃごちゃしていて、まるでおもちゃ箱をひっくり返したような雑多感がぼくは好きなんです。

 

いろんなタイプの曲があって、LPの四面はそれぞれそれなりに起伏があるように構成されていたと思いますが、それを思い起こしながらいまではサブスクで聴いているっていうのはぼくの世代ならではですよね。CDやサブスクではじめてこのアルバムを聴くリスナーはどう感じるでしょうか。

 

ともあれ、「文は人なり」っていう有名なことばがありますが、それにならえば音楽家のばあいは「音は人なり」であるなと、スティーヴィの音楽を聴いているといつも思います。キビシいシビアな内容を歌っていても、まなざしは決して冷徹じゃない、血の通ったヒューマンなあたたかみ、やわらかさにあふれているんです。そういう人柄なんだろうなっていうのが音によく出ています。

 

(written 2023.9.16)

2023/10/02

しんどいとき助けになる音楽(25)〜 ジョン・コルトレイン

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John Coltrane / Soultrane

https://open.spotify.com/album/7pU5qUNqbOMToIyqzF0Nmg?si=Zz4TIhTkQUGucY9wi2z8Ew

 

実をいうとジョン・コルトレインの全作品でいちばん好きなのがプレスティジの『ソウルトレイン』(1958)なんですけど、こんなやつファン失格でしょうか?吹きすぎない(といってもたっぷり吹いているけど)中庸さおだやかさ加減がいいと思うんですよね。

 

大学生のころ最初に買ったトレインのレコードがこれだったという理由もなかなか大きくて、その後アトランティック、インパルスと移籍してからのものにイマイチなじめなかったぼくは、結局いつも『ソウルトレイン』に戻ってきます。

 

つまりまだスタイルが過激にとんがっていない時代のものということで、曲もオリジナルはなくてスタンダードな他作で占められているのをほどほどのいい感じに、とんがらず、吹きこなしているっていうのがですね、ぼくの趣味には合うんです。

 

だから保守派ですね、ぼくの音楽趣味は。タッド・ダムロンの1「グッド・ベイト」からのんびりのどかなフィーリングがいいし、続くビリー・ストレイホーン「アイ・ワント・トゥ・トーク・アバウト・ユー」もきれいなバラードをそのままストレートに演奏していてなごめます。A面はこの二曲だけ。

 

B面はもっといいですよ。三曲なんで一個一個の演奏時間が長すぎないのも聴きやすいし、音楽スタイルだってねえ、なめらかで、個人的にはこういうジャズこそ大好き。いまの気分だとなおさらです。

 

ところでB面の三曲でいちばん好きなのは4「シーム・フォー・アーニー」なんですけど、しずかできれいなメロディでいいですよね。でもこれだれが書いた曲だろう?と思って見たらフレッド・レイシーという名前が書いてあるんです。だれでしょうね、知らないなあ。

 

ネットで調べてもまったく情報が出てこないし、そもそも「シーム・フォー・アーニー」だってここで聴けるトレイン・ヴァージョン以外みたこともないですし、どうもあやしいぞ。ひょっとしてこの曲はトレイン・オリジナルで、なにか事情があって変名で登録したとかじゃないかという可能性があるかも。

 

(written 2023.9.13)

2023/10/01

しんどいとき助けになる音楽(24)〜 徳永英明

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(4 min read)

 

徳永英明 / VOCALIST BEST

https://open.spotify.com/playlist/2xVegNiu3RVSvD6fi3RISN?si=ed5e8be425df4491

 

いまの日本で間違いなく No.1アレンジャーだと信じている坂本昌之は、徳永英明の『VOCALIST』シリーズ全六作(2005〜15)の全曲を手がけたことで評価を確立しました。売れたんですよねえ。好みはあるにせよ音楽的にも立派な成果で。

 

もう坂本のアレンジ・ワークには心底ベタベタに惚れていて、所属事務所のフェイス・ミュージックにメール送ってしまいましたからね。ファン・レターとかではなく、どんな歌手のでも細大漏らさず「ぜんぶ」聴きたいので仕事の一覧みたいなのを教えてほしいと。

 

返信が来て「一覧のようなものは作成していない」とのこと。担当者はだいぶ恐縮していましたが、じゃあぼくがやればいいのか。しかしどうやって調べたらいいんだろう。それでもファン・レターだったら事務所のかたがご本人に転送してくださるとのことなので、そのうち書くことにしました。

 

そんなわけできょうも徳永英明を聴いていますが、坂本アレンジの妙味が存分に味わえると思います。どこまでも静かでおだやか、リズム・セクションと弦楽を中心にしたやわらかいサウンドに乗せて、徳永は歌詞の意味をていねいにじっくりつたえようとしっかり発音しています。

 

『VOCALIST』シリーズはすべてカヴァー曲なんですが、原曲を知っていればいるほど予想もできなかったであろう変貌ぶりにビックリします。たとえばTRF(小室哲哉)の「寒い夜だから・・・」なんて、エレクトロニクスをフルに駆使したものだったのが、ここでは完全アクースティックなオーガニック・サウンド。

 

この手のものがこのシリーズにはいっぱいあって、坂本アレンジのマジックを思い知ります。そして聴き終えたら「あぁ、この曲はこういうふうなものとして誕生したんだなあ、あるべき姿にいまはじめて戻った」っていうような気持ちになるんですよね。

 

『VOCALIST』シリーズでは徳永が特に気持ちを込めて、歌詞が鮮明に聴き手に伝わるようにとゆっくり発音されていねいに歌唱されていますから、坂本のアレンジ手腕もいっそう輝いて聴こえるように思えますね。

 

坂本昌之アレンジの特徴:

 

・ひたすらおだやか
・淡く薄味
・シルクのような肌心地
・細かな部分まで神経の行きとどいたデリカシー
・必然最小数の音だけ、ムダのない痩身サウンド

・アクースティック生演奏のオーガニック・サウンド
・自身の弾くピアノが軸
・リズム・セクション中心で、管弦は控えめ

・リズム楽器(ドラムス、ベース、ギター、鍵盤)をセットでかたまりとして動かす

・ブレイクやストップ・タイムなどの使いかたが、控えめだけど効果的

・(特にギターが)ショート・リフを反復する
・ラテン・シンコペイションを軽く効かせ
・フルート・アンサンブルの多用
・その他木管を使い、ブラスはほぼなし
・エレベとコントラバスを適宜使い分け

・原田知世をプロデュースするときの伊藤ゴローとの類似性

 

(written 2023.9.11)

2023/09/28

上海ノスタルジア 〜 しんどいときの音楽(23)〜 林寶

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(3 min read)

 

林寶 / 上海歌姫

https://open.spotify.com/album/10AnSSaMCdFVpsHUz0LnJU?si=y3OrCKcMS4iiCcgAOVIjCA

 

ところで「歌姫」ってことばに拒絶感を示す向きもあるようで、特に一部のフェミニスト界隈がそうなんですけど、その気持ち、実を言うとぼくもちょっとわからないでもありません。なんかね、若い女性を玩具視しているような印象がかすかに匂います。

 

がしかしそれは考えすぎというもの。歌姫はべつにそんな問題になるタームでもなく、外国語なら diva といえるものを漢字圏では歌姫というだけのことで、ディーヴァに違和感なきひとは歌姫もべつにおかしくないはずですよ。

 

そんなわけで上海出身の中国人歌手、林寶(りんばお)の傑作『上海歌姫』(2011)の話をふたたびしたいと思います。第二次大戦前のジャジーな上海歌曲をレトロにとりあげた企画作で、こ〜れがやわらかいノスタルジーにつつまれていて、実にきれい!

 

有名曲のカヴァー集なんですけど、唯一アルバム題になった3曲目の「上海歌姫」だけは本作のために用意された新曲。作品のテーマを言い表したもので、上海時代曲を歌う若い女性歌手という像をきれいに表現しています。

 

「上海歌姫」だけはサウンドもややコンテンポラリーなポップスに寄せたような内容ですが、それを除けばアルバムは全編で完璧レトロなおもむき。ピアノを中心とするリズムとストリングス+木管中心のオーケストラが奏でる響きもたおやかで実にすばらしい。

 

林寶のヴォーカルも、曲によってキュートでコケティッシュな味わいをみせたり、しっとりとした大人の女性を表現するていねいなスタイルまで、その変幻自在ぶりもあざやかで聴き惚れます。ラテン風味がまずまず出ているアレンジも聴かれるのだって、いかにもあの時代っぽいですね。

 

アルバム・ラストの10「天涯歌女」は1曲目のリプリーズですが、幕閉めらしいドラマティックな構成になっていて、歌が終わると二胡に続きピアノに導かれて聴こえてくるストリングス・オーケストラのフレーズが「在し日」への憧憬をとてもとても強くかきたてて、切ない気分にひたらせてくれます。

 

(written 2023.9.10)

«マイルズ60年ライヴの「ソー・ワット」でのトレインにしびれる

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