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2015/09/12

マイルス ー 「ディレクションズ」 の変遷 1968〜71, Part 2

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昨日から、マイルス・デイヴィス、69〜71年のライヴでの「ディレクションズ」にこだわっているけど、このジョー・ザヴィヌルの曲がマイルスによって初めて取りあげられたのは、昨日も書いたように、1968年11月のスタジオ録音→ https://www.youtube.com/watch?v=GOGX6XF6bpg

 

 

このスタジオ・ヴァージョン、エレピが低音部で弾くリフがカッコいいんだけど、これにはチック・コリア、ハービー・ハンコック、ザヴィヌルの三人が参加していることになっていて、一体誰がそれを弾いているのか、僕の耳では判断できない。だけど、そのリフを作ったのが、作曲者のザヴィヌルであることだけは、間違いない。

 

 

68年11月だから、これを書いたザヴィヌルはキャノンボール・アダレイのバンド在籍の末期。ザヴィヌルは、キャノンボールのバンドでは「マーシー、マーシー、マーシー」とか「カントリー・プリーチャー」とかの真っ黒けな曲を書いていて、これがウィーン生れウィーン育ちの白人によるものとは信じられないほどだ。

 

 

この68年11月のスタジオ録音直後から、マイルス・ロスト・クインテットのライヴでの定番オープニング・ナンバーとなって、昨日も書いたように、69年に多くのライヴ録音が残されている。もう一回11/5のを貼っておこう→ https://www.youtube.com/watch?v=jI02ZaZWfL4

 

 

でも、こういう69年のロスト・クインテット時代のライヴでの「ディレクションズ」は、ファンキーな感じはあまりしない。むしろ前年のスタジオ・ヴァージョンの方がファンキーに感じるほどだ。この曲がマイルスのバンドのライヴでファンキーな感じに変貌するのは、70年に入った頃からのことだ。

 

 

公式に発売されているものだけだと、70年は3月のフィルモア・イーストでの音源が最初になる→ https://www.youtube.com/watch?v=nla8UCWUhPk サックスがショーターのままのロスト・クインテットにアイアート・モレイラが加わっただけなのに、リズムが69年とは全然違ってタイトになっている。

 

 

余談だけど、ブラジル出身のドラマー/パーカッション奏者のアイアート・モレイラは、この70年頃、ウェザー・リポートからも、バンドのレギュラー・メンバーにならないかと誘われていたそうだ。実際、ウェザー・リポートのデビュー・アルバムの録音には参加しているけど、レギュラー・バンドとしては、結局マイルスの方を選んだようだ。

 

 

さてこの頃は、ホランドのエレベのラインはまだそんなにファンキーでもないし、チックのエレピも基本的にはロスト・クインテット時代のパターンをほぼそのまま弾いている。違うのはディジョネットのドラムスだけだ。だけと言っても、それが大きな違いだけど。このライヴ音源は2001に発売されたの。

 

 

実を言うと、70年にはNYのフィルモア・イースト、サンフランシスコのフィルモア・ウェストの両方に、マイルス・バンドは相当な回数出演していて、それらはほぼ全てコロンビアが公式録音したらしい。その中から今までに公式で出ているのは、この3月7日と4月10日と6月の四日間の三種類だけだ。

 

 

3月の録音が2001年に出るとなった時、4月(『ブラック・ビューティー』)や6月(『マイルス・アット・フィルモア』)でのグロスマンがダラしないから、3月はショーターなので期待したんだけど、いざ聴いてみたら、この頃にはもうショーターの音はやや古くて、バンドに合わなくなっているのが分ってしまった。それに、この頃のマイルス・バンドでのスタジオ録音では全部ソプラノなのに、ライヴではなぜか全部テナーだ。

 

 

だから、ダラしないけど音色そのものは新しいグロスマンの方がまだちょっとマシだったんだと分ったというわけ。そのグロスマンが参加してからの初のライヴ録音、4月のフィルモア・ウェストでの「ディレクションズ」。 たった一ヶ月でかなり違う→ https://www.youtube.com/watch?v=0dYqZSuBAog

 

 

ディジョネットのドラムスが相当にタイトでシャープ(スネアがストンストンと気持いい)だし、その上、チックがエレピで弾くイントロが、わずか一ヶ月前にはあったロスト・クインテットの残滓が完全になくなっていて、超カッコいい。最初にこの『ブラック・ビューティー』を聴いた時から、このチックの弾くイントロのエレピが大好きだ。

 

 

マイルスはもちろんだけど、このチックのエレピがむちゃくちゃいいんだよね。フェンダー・ローズにエフェクターをかけて、音を歪めたり飛ばしたりするのが、何度聴いてもカッコイイと思うなあ。なお、マイルスは右チャンネルに出たり左チャンネルに出たりして、一体どうなってるの?

 

 

69年のロスト・クインテットの頃が一番凄いチック・コリアのエレピだけど、この70年4月のフィルモア・ウェストの時点では、まだまだカッコイイね。これが二ヶ月後のフィルモア・イーストでの四日間になると、キーボードでは、もうキース・ジャレットの方に主導権が移ってしまっているんだなあ。

 

 

また、この4月の時点では、その後マイケル・ヘンダースンも踏襲したエレベのパターンを、まだホランドは弾いていないのが分る。『ブラック・ビューティー』で、ホランドのエレベが一番カッコイイのは、この「ウィリー・ネルスン」。ファンキーだ→ https://www.youtube.com/watch?v=cRNIJwt2DtA

 

 

6月のフィルモア・イースト四日間での「ディレクションズ」でのエレベのリフ→ https://www.youtube.com/watch?v=WdbgmxCYS0k これは、だからその4月〜6月の間のいつかの時期に思い付いたことになる。ファンキーでカッコイイけど、さっき貼った「ウィリー・ネルスン」のリフに少し似ている。

 

 

そして、その6月のフィルモア・イーストの頃になると、「ディレクションズ」というナンバーは、かなりファンク・ナンバーに近づいていて、半年くらい前までは、フリー・ジャズな雰囲気だったのに、大きな違いだ。僕はどっちも大好きなんだけど、多くのファンにアピールするのは70年6月の方だね。

 

 

デイヴ・ホランドの弾くベースがウッドベースからエレクトリック・ベースにになったのは大きな違いだけど、それ以外は、バンド・メンバーだって、サックス奏者が交代した程度の違いしかないのに、半年でこれだけ変るんだなあ。まあバンドのサウンドが変化するときというのは、こういうもんなんだろう。

 

 

このホランドの作り出した(と思う)「ディレクションズ」のベース・ラインは、昨晩書いたように、ほぼこのまま、その後ホランドに代って加入するマイケル・ヘンダースンにも踏襲されている。これは70年12月録音。ベース・ラインは同じだよね→ https://www.youtube.com/watch?v=M34WtN7sKhI

 

 

個人的には、昨晩も書いたように、この70年12月のセラー・ドアでの「ディレクションズ」が、マイルスのやったこの曲のヴァージョンの中では一番好きなものだけど、一般的には70年6月のフィルモアの方がウケるかもしれないね。セラー・ドアの方は、かなりヘヴィーだし、マイルスも電気トランペットになっているし。

 

 

なお、マイルスは翌71年のライヴ(主に欧州公演)でも、まだオープニングに「ディレクションズ」をやっているけど、そっちは、マトモなのがYouTubeに上がっていない。だけど、去る7月17日に発売された未発表ライヴ音源集四枚組で、その71年のライヴが初公式リリースされている(はず)。

 

 

ちなみにブートで聴く限りでは(音質明瞭なのがあまりないし、あってもアタマが切れているのが殆ど)、71年の「ディレクションズ」は、テンポがやや変ってグッと重心が低くなり、70年12月のセラー・ドアと比べても、もっとヘヴィーになって、ファンク度は増しているけど、疾走感はあまりない。

 

 

また、71年後半の欧州公演では、ドラムスがレオン・チャンクラーに交代したばかりか、パーカッションも二人になって、リズム隊が増強されている。「ディレクションズ」でもそうだし、他の曲でも、翌72年スタジオ録音の『オン・ザ・コーナー』の兆候と感じられる部分が少しあるのが興味深いところだ。

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