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2015/09/04

マイルスのオススメは、ちょっと難しい

Miles_5

 

 






Twitterで求めに応じて、マイルス・デイヴィスのオススメ盤を何枚か書いた。僕がネットを始めた1995年以来、この手の相談はもう無数に受けていて、その度にそれなりの回答をするのだが、何度書いてもなんだかスッキリせず、モヤモヤした思いが残ってしまう。これは僕がマイルス・マニアだからだろうか?

 

 

いや、多分フランク・ザッパなどのマニアも、オススメ盤を聴かれたら、同じような思いをするんじゃないかという気がする。20世紀以後の大衆音楽の世界では、デューク・エリントン、マイルス・デイヴィス、フランク・ザッパ、ジェイムズ・ブラウンが、アルバム枚数の多い四天王じゃないかなあ。

 

 

 

この四人のうち、デューク・エリントンとジェイムズ・ブラウンは、オススメ盤を聴かれても、おそらくそんなに困らないはず。生涯を通じて、音楽性があまり変化していないし(まあそれでも変化してはいるけど、比較したらの話)、一番良かった時期というのも、まあまあはっきりしているからなあ。

 

 

その二人に比べて、マイルスとザッパは、その音楽性が非常に多岐に亘り、ファンとしては本質はそんなに変っていないとは思うものの、ちょっと聴いた感じがアルバムによって全く異なっていて、それぞれに固有のファンがいて、しかも生涯を通じて長らくピークが続いているから、オススメ盤は難しい。

 

 

まあザッパについては僕はシロウトなんで、語らないことにして、マイルスだけに限って話をするけど、マイルスの全時代のあらゆるアルバムを通じてファンであるという人は、僕の今までの経験から言うと、かなり少ない。まあそれはアルバム枚数が多すぎてついていけないというのも一因ではあるだろう。

 

 

マイルスの場合は、アクースティックなジャズ・ファンだけに限定しても、好きな時代が人によってかなり分れている。昔、僕は1950年代中頃のファースト・クインテット(コルトレーン、レッド・ガーランド時代)より、60年代半ば以後のハービー、ロン、トニー時代の方が圧倒的に凄いと思っていた。

 

 

それはスタジオ・アルバムでそう思っていたのではなく、一連のライヴ・アルバムを聴いた印象で、特に大学生の頃に二枚LPが出てたプラグド・ニッケルのライヴを聴いて、こんな凄いバンドはないだろう、これはアクースティック・ジャズの極地なんじゃないかと思っていたわけだ。

 

 

正直言うと、今でもそうなのだが、昔からウェイン・ショーター加入後の、いわゆる黄金のクインテットのスタジオ・アルバムは、どうもイマイチ良さが分っていない。『E.S.P』がまあ良いと思うくらいで、世評の高い『ソーサラー』『ネフェルティティ』の二枚は、どこがいいのかよく分っていない。

 

 

一応言っておくと、『マイルス・スマイルズ』『ソーサラー』『ネフェルティティ』の三枚を嫌いだとか評価しないというのではない。聴けばそれなりに楽しめるし、傑作だとも思う。がしかし、似たような面子による似たような音楽なら、同時代のブルーノートの諸作品、いわゆる新主流派が断然好きなのだ。

 

 

そして新主流派の作品よりも、60年代半ばのマイルス・クインテットによる一連のライヴ・アルバム(時期が違うけど、『プラグド・ニッケル』も)が、やっぱり魅力的に聞えてしまう。しかしながら、世評というか定説というか、このバンドの評価が高いのは、『ソーサラー』『ネフェルティティ』の二枚。

 

 

しかも、この十年くらいは、そういうハービー+ロン+トニー時代より、50年代半ばのファースト・クインテットによる、マラソン・セッション四部作(プレスティッジ)の方が凄いような気がしているのだ。まあどう聴いても普通は60年代半ば以後のアルバムの方が評価が高いけど、最近の僕は違う。

 

 

油井正一さんが、昔は50年代のファースト・クインテットの方が良いと思っていたけど、最近は60年代のクインテットの方が凄いと実感するようになったと書いたことがあった。僕は、全く逆のパターンを踏んでいる。マラソン・セッションなんか、あれが全部ファースト・テイクだったとは、信じがたいほど。

 

 

50年代と60年代で分れるだけでなく、50年代末のビル・エヴァンス在籍時が一番いいというファンは多いし、またウィントン・ケリー在籍時のリズム・セクションが一番スウィングしているというファンも結構いる。生楽器によるジャズ時代だけでもこんな具合だから、電化時代も含めたらもうねえ。

 

 

ジャズ時代だけでもこんな感じだから、68年以後のマイルスの電化時代については、それ以前のアクースティック時代とは、ファン層がかなり違っている。中山康樹さんや僕みたいに、総体としてのマイルス・デイヴィスを愛するというファンは、案外少ない気がするなあ。まあまあいることはいるけど。

 

 

マイルスが初めて電化したのは、1968年の『マイルス・イン・ザ・スカイ』なんだけど、かつて小川真一さんは、マイルスではこれが一番好きだと言っていたことがある。僕も次作の『キリマンジャロの娘』よりは好きだけど、あれが一番好きだというは、いろんなファンがいるなあと思ったものだった。

 

 

僕が大学生の頃お世話になったジャズ喫茶のマスターは、『アガルタ』『パンゲア』になった75年大阪公演を生で体験した人だけど、それでもやっぱりアクースティック時代の方が圧倒的に好きで、例えば『ライヴ・イーヴル』や『オン・ザ・コーナー』などは、あまりちゃんと聴いていないと言っていたし。

 

 

同じ69年でも『イン・ア・サイレント・ウェイ』と『ビッチズ・ブルー』とでは、ファンが違っているようだということは、95年にネットを始めてから実感していること。ましてやそれらのファンと『オン・ザ・コーナー』のファンはかなり層が異なるし、80年復帰後は、また好きな人が違っているのだ。

 

 

電化マイルスで一番ファンが多いのは、70年代だろうと思うけど、80年復帰後のマイルスの方が好きだというファンもいることを僕は知っている。リアルタイムでは僕も復帰後しか知らないし、当時は夢中になって聴いたけど、今聴くと、どう聴いても70年代の方が凄いよなあ。まあホントいろいろだよねえ。

 

 

ついでに言っておくと、アルバム単位で一番好きなマイルスは『アガルタ』だけど、曲単位で一番好きなのは、73年のシングル盤「ビッグ・ファン/ホーリー・ウード」。これは長年公式盤CDでは聴けなかった。2007年の『コンプリート・オン・ザ・コーナー・セッションズ』で初公式CD化された。

 

 

それ以前は、73年頃のレア音源を集めたブートCDで聴いていて、こんなに軽やかで爽快なファンク・ミュージックは、他にはスライ&ザ・ファミリー・ストーンの「ダンス・トゥ・ザ・ミュージック」くらいしかないんじゃないかと思ったものだった。マイルスだけ考えても、この時期だけの特徴なのだ。

 

 

この「ビッグ・ファン/ホーリー・ウード」への愛は、中山康樹さんもことあるごとに口にしてたけど、僕もマイルスの1945年デビューから91年死去までの全ての録音の中で、このシングル盤両面(二曲)が一番好き。でもこれを今、CDで聴けるのは、公式盤では、オン・ザ・コーナー・ボックスだけ。

 

 

マイルスに関心を持った人には、そのシングル盤音源を聴いてほしいんだけど、そのためだけに六枚組ボックスを買ってくれとも言えず、悩んだ僕は自分で三年前にYouTubeにアップした。是非ちょっと聴いてみてほしい。A面「ビッグ・ファン」→ http://www.youtube.com/watch?v=li_wtDFRRP0

 

 

そしてB面「ホーリー・ウード」→ http://www.youtube.com/watch?v=ZtEbT6i9qiw さらにそれら二曲の元音源になった「ビッグ・ファン/ホーリー・ウード[テイク3]」→ http://www.youtube.com/watch?v=9WjuDH7A_K4 シングル盤両面とも、この同一ソースからテオ・マセロが編集したもの。

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コメント

初めまして、酔人婆爺と申します。
エル・スールさんの「つぶやき」から訪問させて頂きました。
私にとって、直球ど真ん中の「ススト」ネタにMILESネタ。
興味深く拝読させて頂きました。
「ススト」とガムランの関連は知らなかったので「成るほどね~~」
「プラグド・ニッケル」は私も大好きなんです。
気合を入れたい時には必須です(笑)
「アガルタ」は私の葬式でエディットVer.(単にフェードアウト)を流してもらうつもりです。

ところで「ビッグ・ファン」なんですが昔、国内盤の「マイルス・デイビス / ゴールデン・ダブル・シリーズ」SOPW-53・54)「NEW GOLD DISC」SOPO55にも収録されていたのですが、何らかの手違いで収録されているのは「ホーリー・ウード」だったんです。
同一ソースからの編集だったので聴き間違えたんでしょうね。
今となっては笑い話。

ビッグ・ファン最高!!!

酔人婆爺さん

エル・スールさん、呟いていたですねえ。フォローしているのに気付かなかったです。「ビッグ・ファン」が過去に公式日本盤に収録されていたことは、僕は全く知りませんでした。ちょっとそれ入手したいですが、今ではおそらく難しいんでしょう。「ビッグ・ファン」と「ホーリー・ウード」の二曲は、今では僕にとって、最高のマイルス・ファンクです!

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