クーティー・ウィリアムズはジャズもジャンプも最高だ
HK&レ・サルタンバンクの今年の新作、しばらく聴続けて、ようやく良作だと確信するようになったと以前書いたけど、こういう音楽の良さがなかなか分らないっていうのが、僕の耳もまだまだ大したことはないという証拠だよなあ。
僕の場合、チャールズ・ミンガスなどでも、代表作とされている『直立猿人』を大学生の頃に初めて聴いても、どこが面白いのかサッパリ分らず、その後も25年くらい理解できなかった。『クンビア&ジャズ・フュージョン』とか『メキシコの想い出』とかが大好きで、それらばっかり聴いていた。
音楽の傑作には、一回聴いて即座に面白さが理解できる種類のものと、時間をかけて何回も聴かないと良さが理解できない種類のものがあるよね。経験的にもそれは誰でも実感していることのはず。でもミンガスの『直立猿人』は、分るまでに30年近くもかかったからなあ。
今考えてみれば、ジャズのLPばっかり買っていた大学生の頃から、ラテン・テイストが好きだったんだから、後のワールド・ミュージック指向の芽はあったのかもしれない。ミンガスの場合は、エリック・ドルフィーやローランド・カークがいた頃のアルバムも、その後大好きになりはしたけど。
ドルフィーに関してもカークに関しても、僕はミンガスのバンドでやっているのが一番好きで、今でも彼らのリーダー・アルバムよりもいいんじゃないかとすら思っている。まあそういう意見の持主は少数派なのかもね。ただ、ミンガスにしろマイルスにしろ、サイドメンの持味を充分以上に活かせる人だった。
昨晩書いたデューク・エリントンなんかもそうだね。エリントン楽団では素晴しく響くジャズマンも、独立して自分のバンドを持ってからの作品は、あまりパッとしない人が結構いる。クーティー・ウィリアムズにしてもジョニー・ホッジズにしてもそうだ。結局、この二人は、その後エリントン楽団に舞戻ったしね。
もっとも、クーティー・ウィリアムズの場合は、独立後1940年代に展開していたジャンプ(リズム&ブルーズ)・バンドはむちゃくちゃ楽しくて、日本にもファンがかなりいるはず。粟村政昭さんが、ジャンプを「黒人音楽の悪しき伝統」と貶したのも、この40年代のクーティー・ウィリアムズ楽団のことだった。
クーティー・ウィリアムズ楽団の40年代マーキュリー録音は、以前、ラジオの型のボックス・セット(『ブルーズ、ブギ&バップ』というCD七枚組)に、他の黒人ミュージシャンと一緒にリイシューされていて、僕も聴きまくったんだけど、今はそのボックスは入手しにくいみたいだなあ。最高に楽しいのに。
その後、復刻専門レーベルの仏Classicsから、クーティー・ウィリアムズ楽団の40年代後半録音だけ22曲集めた『1946−1949』が出ていて、それも僕は持っているんだけど、そっちも廃盤だなあ。でもiTunes Storeでは生きている。
自分のバンドを経て、1962年にエリントン楽団に再加入してからのクーティーは、往年の輝きをすっかり失ってしまっていて、63年の二枚組『グレイト・パリ・コンサート』などでも、彼がフィーチャーされる数曲は聴くのがツラいと思ってしまうくらいだ。66年の『ザ・ポピュラー』なんかではまだいいけど。
同じく一度退団して自楽団を持ってから、56年にエリントン楽団に出戻ってきたジョニー・ホッジズが、死ぬまで輝きを失わず、色気たっぷりの豊満なサックスを聴かせてくれたのとは対照的だ。『グレイト・パリ・コンサート』にホッジズ・フィーチャーのセクションがあるけど、本当に素晴しいものだ。
粟村政昭さんは、大のクーティー・ファンで、自著の中でも、エリントン楽団での40年録音「コンチェルト・フォー・クーティー」を、自分の一番好きなレコードだと断言していた。だからこそ退団後のジャンプ路線やその後の凋落にガッカリしたのだろうなあ。僕はちょっと分る気もするのだ。
40年エリントン楽団「コンチェルト・フォー・クーティ」→ https://www.youtube.com/watch?v=EGiI2sI_aeg
49年クーティー・ウィリアムズ楽団「マーセナリー・ パパ」→ https://www.youtube.com/watch?v=05jhY0dAAeY
どっちがより素晴しいかとかいう議論は無意味だね。
“ピュア”・ジャズ・ファンは、もちろん40年の「コンチェルト・フォー・クーティー」が最高だと言い、49年のマーキュリー録音の方は毛嫌いするだろう。粟村政昭さんのように。一方、”下世話な”ブラック・ミュージック・ファンは、絶対後者の方が好きだ。僕は、今ではどっちも最高と思うなあ。
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