マイルスのブルーズ〜アクースティック篇
二ヶ月ほど前に、ある女性にプレゼントするので、新たにもう一枚CDRを焼いた自作のマイルス・デイヴィスのブルーズ・コンピレイション。iTunesのプレイリストは三年ほど前に作っていたものだけど、プレゼントした後少し気になって、焼いたCDRを自分でも聴直していた。自分で言うのもナンだけど、緩急というか起伏があって、なかなかよくできたコンピレイションだ(笑)。
そのマイルス・ブルーズ集の一曲目は、55年の『マイルス・デイヴィス・アンド・ミルト・ジャクスン』収録の「ドクター・ジャックル」なんだけど、この隠れた名盤(これを隠れた名盤扱いしている文章に、今まで一度も出会ったことがない)からはもう一曲、ラストの「チェンジズ」も選んで、コンピでもラストに入れている。締め括るのに相応しい雰囲気だ。
「ドクター・ジャックル」はジャッキー・マクリーン、「チェンジズ」はレイ・ブライアントの曲なんだけど、どっちも一番いいのは、ブルーズの得意なミルト・ジャクスンのファンキーなソロ。ホント旨味だよなあ。ボスのマイルスよりだいぶいいぞ→ https://www.youtube.com/watch?v=Y5lXtN5_Jqc
マイルスはこの「ドクター・ジャックル」を「ドクター・ジキル」というタイトルで、58年に再演している(『マイルストーンズ』収録)。そっちはかなりテンポが速くなって、全く違う感じになってしまい、曲のテーマが持つ面白さは消えている→ https://www.youtube.com/watch?v=YZ5TT-ND4mQ
『マイルストーンズ』にはもう二曲、「シッズ・アヘッド」と「ストレート、ノー・チェイサー」の二つのブルーズがある。そのうち、モンク・ナンバーの後者では、特にコルトレーンとキャノンボールの二人のサックス・ソロなんか相当にいいと思うんだけど、ボスへのゴマスリを弾くレッド・ガーランドのソロがどうも気に入らないんだなあ。
『マイルス・デイヴィス・アンド・ミルト・ジャクスン』の「チェンジズ」の方は、ちょっと聴いた感じではブルーズ進行だと分りにくい曲なのだが、「ブルーズ・チェンジズ」とタイトルを替えて、作曲者のレイ・ブライアント自身がプレスティッジの『レイ・ブライアント・トリオ』でやっている。そっちは56年録音。元々ブルーズの上手い人だからねえ。
レイ・ブライアントのブルーズの上手さが一般に認識されるようになったのは、リアルタイムでは72年のライヴ録音『アローン・アット・モントルー』かららしい。オスカー・ピータースンの代役として出演したものだけど、一夜にしてレイを人気ピアニストにしたようだ。あのアルバムはほぼ全編ブルーズ。
僕がジャズを積極的に聴始めたのは79年なので、最初から一番有名なその『アローン・アット・モントルー』でレイ・ブライアントに入門したから、最初からこの人はブルーズ・ピアニストなんだろうみたいな認識だった。あのエイヴリー・パリッシュの名曲「アフター・アワーズ」も、このアルバムで知った。
レイ・ブライアントとブルーズ、「アフター・アワーズ」といえば、大学三年の時(1982年)、来日公演を松山でもやって、しかもそれは小さなジャズ喫茶店内でのライヴだったから、すし詰めの店内で、僕は目前約1メートルの距離で、アップライト・ピアノを弾くレイ・ブライアントのプレイを聴いた。「アフター・アワーズ」もやった。
マイルスのブルーズ・コンピに話を戻すと、その四曲目に、『コレクターズ・アイテムズ』収録の「ヴィアード・ブルーズ」を入れてある。この56年録音は、ピアノが同じくブルーズの上手い、僕の大好きなトミー・フラナガンなのだ。この曲、実は『ワーキン』収録の「トレーンズ・ブルーズ」と同じ曲。
「ヴィアード・ブルーズ」→ https://www.youtube.com/watch?v=DabNQMNsFJk
「トレーンズ・ブルーズ」→ https://www.youtube.com/watch?v=LjA1CD2E89M
作曲者のクレジットは、前者がマイルス、後者がコルトレーンになっていて、どうも真相が分らない。後者のピアノはレッド・ガーランド。
作曲者のクレジットは、前者がマイルス、後者がコルトレーンになっていて、どうも真相が分らない。後者のピアノはレッド・ガーランド。
録音は「ヴィアード・ブルーズ」を含む『コレクターズ・アイテムズ』B面の方が二ヶ月だけ早い。聴くと、テーマのメロディ・ラインがちょっと「ドキシー」みたいな雰囲気もあって、録音に参加しているロリンズの曲なんじゃないかと疑ってしまう。そして僕はやっぱりフラナガンの弾くブルーズの方が好きだ。
このブルーズ・ナンバーは、『ワーキン』収録の「トレーンズ・ブルーズ」ヴァージョンよりも、「ヴィアード・ブルーズ」ヴァージョンの方が、若干テンポが遅くて面白い気がするんだなあ。当時のバンドのレギュラーだったレッド・ガーランドもブルーズの上手いジャズ・ピアニストではあるけど。
ついでだけど、ブルーズではないが、デイヴ・ブルーベック作曲の「イン・ユア・オウン・スウィート・ウェイ」も、マイルスがやったものでは、『ワーキン』収録ヴァージョンより、『コレクターズ・アイテムズ』のヴァージョンの方が断然好き。イントロのフラナガンのピアノもいい雰囲気だし、ロリンズのソロもいい。
ミドル・テンポやスローな演奏が三分の二を占める僕のマイルス・ブルーズ・コンピCDRだけど、入れてある数少ないアップ・テンポの曲(アップ・テンポなマイルスのブルーズで、いいと思えるものは少ない)が、『ウォーキン』収録の「ブルー・ン・ブギ」。これは凄くいい。大学生の頃から大好きなナンバー。
その「ブルー・ン・ブギ」では、わりとアレンジされている部分があって、ヘッド・アレンジではなく譜面があったように聞えるね。マイルスのセッションに参加経験のある菊地雅章は、マイルスの録音で譜面があったら、それは全部ギル・エヴァンスが書いているんだと言っていたけど、これはどうも違うんじゃないかなあ。
『ウォーキン』の録音(54年)にギルが参加していたという話は全く聞かないし、聴いた感じでは、ピアノで参加しているホレス・シルヴァーがアレンジを書いているように思う。マイルスもなにかの述懐で、あのアルバムでのホレスの貢献度を語っていたことがあるしね。あくまで僕の適当なヤマカンだけど。
69年録音の『ビッチズ・ブルー』一曲目の「ファラオズ・ダンス」(ブルーズではない)も、終盤多少アレンジされていて、これも菊地雅章の言葉に反して、ギルじゃないだろう。作曲者のジョー・ザヴィヌルが書いたものだね。ザヴィヌル自身もそう言っていたことがある。ザヴィヌルは言葉があまり信用できない人だけど、この場合は間違いないだろう。
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