マイルス、東京、1973
YouTubeに上げたマイルス・デイヴィス1973年東京公演(6/19)、楽しいよねえ。セカンド・セットも上げたけど、まあそっちは個人的にはイマイチという感じだ。やっぱりファースト・セットが断然いいと思うなあ。
1970年代マイルス・デイヴィスの日本でのライヴといえば、75年の『アガルタ』『パンゲア』で決り、というか公式盤がその二つしかないから当然そうなるし、音楽的内容からしても、その時点までの米ブラック・ミュージック集大成のようなその二つが決定盤なんだけど、個人的な好みでいえば、実は73年の方が好き。
スタジオ録音についても言えることなんだけど、1973年のマイルス・ファンクには、それ以前にもそれ以後にも聴かれない、一種の爽快な軽みがあって、彼以外のブラック・ミュージック界を探してみても、そういう爽やかなファンク・ミュージックというのは、他には68/69年頃のスライぐらいしか見当らない。ファンクって、だいたい暑苦しいもんだ。
そういう軽みが、1973/6/19東京公演一曲目の「ターナラウンドフレイズ」に典型的に表れているわけだけど、同じ73年のいろんなライヴ音源をブート盤やYouTubeでいろいろ聴くと、一曲目は全部「ターナラウンドフレイズ」。同年日本のライヴでも、翌20日のがNHKでテレビ中継された。
「ターナラウンドフレイズ」は、1974年カーネギー・ホールでのライヴ『ダーク・メイガス』でも一曲目だけど、そこではかなりヘヴィーになっている(それがこのライヴの魅力なんだけど)。また75年の『パンゲア』でも一曲目で、しかしそこでは、今度は走りすぎていて軽すぎる感じだ。
テレビ放送された1973/6/20、これ→ https://www.youtube.com/watch?v=QiArn_8RA4Y 他にも何種類か上がっている。来日当時にNHKで録画中継されたものだけど、数年前にもリバイバル放送された。こういうのが公式に残っているんだから、音だけでなく映像も含め、公式にDVDで出せばいいのに。
1973/6/19の音源は、かなり前からブートCDで出回っているもので、僕は最初『ブラック・サテン』という二枚組CDになっていた(それが最初だと思う)のを、御茶ノ水のディスクユニオンで買った。確か91年頃の話。音質がかなりモコモコだったけど、当時は73年の東京公演を聴けた感動で一杯だった。
中山康樹さんのマイルス・ブート紹介本『マイルスを聴け!』でも、初版ではその『ブラック・サテン』が紹介されていたはず。その後しばらく経って、名古屋のブート・ショップ、サイバーシーカーズから『アンリーチャブル・ステイション』というタイトルで出て、それでは音質が劇的に向上していた。
直後の『マイルスを聴け!』第何版かでも、すぐに『アンリーチャブル・ステイション』が代って載るようになった。しかしながら、この二枚組、一枚目にセカンド・セットが、二枚目にファースト・セットが収録されていて、最初はなんじゃこりゃ?と思ったんだよね。すぐに修正されたけど。
そして、2007年に同じ音源が『730619 Tokyo Definitive Edition』というタイトルでリイシューされ、渋谷のマザーズで売られるようになり、リマスターによる大幅な音質向上を謳ってはいたけど、リマスターといっても、ブートだから、大した違いはなかった。
ただし、その『730619 Tokyo』は、『アンリーチャブル・ステイション』にちょっとだけあった、ほんの一瞬の音飛びとかクリップノイズとかが完全になくなってはいたので、嬉しかったのは事実。もっとも、中山康樹さんのマイルス本では相変らず『アンリーチャブル』が載っているけど。
ところで、この1973/6/19音源、昔から現在に至るまで、どのブートCDでも、マイケル・ヘンダースンのエレベとアル・フォスターのバスドラが全く聞えないというのが、最大の欠陥。ファンク・ミュージックでそういう低音部が欠けているというのは、ちょっとイカンよなあ。会場ではちゃんと鳴っていたんだろう。
オープニングの「ターナラウンドフレイズ」でも、出だしのマイルスの吹く電気トランペットの音がかなり小さいというかオフ気味で残念。すぐに聞えるようになるけど、やっぱり一音目からしっかり聴きたかったなあ。そういういくつかの欠点を差引いても、やっぱり聴いていて凄く楽しいよねえ。
ピート・コージーの弾くギターの音は、この1973年公演時点では、まだまだ細いというか、クリーン・トーンに近くて、これが最初から会場でもこんな音で鳴っていたのか、はたまた録音の問題なのか、その辺が判然としないんだけど、世界中の他の73年音源を聴いても殆どは似た感じだから、こういうもんなんだろう。
1975年の『アガルタ』『パンゲア』でのピート・コージーの、あのファズを限界まで目一杯深くかけたようなギター・ソロの音が僕は大好きで、ジャズもロックもファンクもなにもかも含めての全ギター演奏の中でも、一番好きだと思ってしまうくらいなんだけど、ああいうサウンドは、75年でも他では聴けない。
ということは、『アガルタ』『パンゲア』におけるピート・コージーのグギャゴゲ・ギターは、1975年大阪公演だけの特別なサウンドだったのだろうか?ちょっと不思議だなあ。でもマディ・ウォーターズの『エレクトリック・マッド』(68年)でも、ピート・コージーは同じ音を出しているんだけど。
だいたい、あんなに深くファズをかけたら、もうどんなギターを弾いているのかは全く分らない。ステージ写真とかでは、その時その時によって映っているギターの種類が違うし。それにピート・コージーは、実は、マイルスのスタジオ作品にはあまり参加していない。聴けるものは少ないのだ。
マイルスのスタジオ作品でピート・コージーがソロを弾いているので、僕がすぐに思い付くのは、1973年録音の「ビッグ・ファン/ホーリー・ウード[テイク3]」だけだ。ここでもクリーン・トーンに近い音色。しかも、当時発売されたのは、ここから編集されたシングル盤で、彼のソロはカットされている。
というわけなので、僕もブートCDで聴くまで、1973年来日時のピート・コージーのギター・ソロを聴いたことがなかったわけだけど、聴いてみたら、案外ショボい。73年は、ブート盤の『コンプリート・ベルリン 1973』を除いては、彼のギターを聴く音源じゃないね。75年はほぼそれ目当で聴いているけど。
『コンプリート・ベルリン1973』は、73/11/1の快演で、今年七月リリースの四枚組で公式化した音源。音質的にはブートも公式も全く同一。それにしても「ターナラウンドフレイズ」とか「チューン・イン・5」とか、元はブート盤で使われはじめた曲名のはずだけど、公式盤でも同じだなあ。それなら『ダーク・メイガス』『アガルタ』『パンゲア』も、トラック切って曲名も付けて、出し直してくれよな。
ちなみに、故中山康樹さんは、マイルス・ライヴ初体験が、その1973年だったらしい。羨ましい限り。彼は僕よりちょうど10年早く生まれているので、73年時点では21歳だったはず。彼自身もどこかで言っていたけど、これが64年だったり75年だったりしたら、その後のマイルス遍歴も違っていたはずだ。
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