初めて買ったピアノ・トリオ・アルバム
僕が最初に買ったジャズのピアノ・トリオ作品は、トミー・フラナガンの『オーヴァーシーズ』だったけど、これは大正解だった。ピアノ・トリオと言わず、人生で初めて買ったジャズ・レコード二枚のうちの一つ。もう一つはMJQの『ジャンゴ』。どっちも店頭で見たら凄くジャケットが気に入った。
ジャケットが気に入ったと言っても、僕が買った『オーヴァーシーズ』は、上掲左のプレスティッジ盤ジャケットだった。アメリカでは(日本でも?)、メトロノーム盤でも出ていて、ジャケットは上掲右。どっちがオリジナルなんだろう?
このメトロノーム盤ジャケットを、当時日本で知っていた人は多くなかったんじゃないかなあ。少なくとも僕は全く知らなかった。『オーヴァーシーズ』は1957年ストックホルム録音で、最初はスウェーデンで10インチ盤が出たらしいけど、それは当然知らない。でもプレスティッジからの12インチLPでみんな知っていた。
僕がさっき貼ったメトロノーム盤ジャケットを見たのは、CDリイシューされた時が初めて。『オーヴァーシーズ』は、プレスティッジ盤ジャケットより、メトロノーム盤ジャケットの方で先にCDリイシューされたのだった。早くCDにならないかなと思っていたから、僕は速攻で飛びついた。
プレスティッジ盤ジャケットでOJCからリイシューされたのは、それよりやや遅れてのことだったと思う。やっぱり僕や日本の多くのファンにとっては、ジャケットも曲順もこっちなんだよなあ。メトロノーム盤では、オリジナル収録曲とボーナス収録の別テイクが混在していたけど、OJC盤ではボーナス・トラックは最後にまとまっている。
メトロノーム盤ジャケットは見たことなかったし、曲順もだいぶ違っていたので、違和感が強かった。アメリカのジャズ・ファンの多くも、ひょっとしたらそうかも。以前の日本では、ある時期『スイングジャーナル』誌主導の<幻の名盤>とかなんとか、そんな名前の復刻LPシリーズで、プレスティッジ盤LPが出たのだ。
何年頃のことか知らないが、多分1970年代だろうと思う。ということは、それまで『オーヴァーシーズ』は、日本では入手困難なレア盤だったんだろうなあ。僕が買ったその復刻シリーズの日本盤LPのライナーノーツは、これもまた油井正一さんが書いていた。内容はかなり忘れてしまったけど。
一曲目が「リラクシン・アット・カマリロ」で、僕はこれでチャーリー・パーカーの名前と彼が書いた曲を知ったわけだ。初めて買ったジャズ・レコードだったんだから当然。 カッコイイんだよねえ。これで一発KOされちゃったんだなあ。疾走感がいい。
当然ながらトミー・フラナガンというピアニストを聴いた最初だったんだから、彼はこういう激しいプレイが真骨頂のジャズマンなのかと思ったのだった。この当時はリーダー・アルバムがこれしかなくて、サイドマンで光っている名脇役だということは、後になって知ったこと。エルヴィン・ジョーンズだって初めて聴いた。
そのエルヴィンも凄いよねえ。ブラシを使って、こんな急速調でドライヴできるドラマーは、しばらく経ってバド・パウエルのバックで叩くマックス・ローチもいることを知った。その後いろんなジャズ・ドラマーを聴いたけど、おそらくこの二人だけだろう。『オーヴァーシーズ』でのエルヴィンも全曲ブラシ。
バド・パウエルのバックでマックス・ローチがブラシしか使っていないのは、バドの指示だったらしいけど、このトミー・フラナガンのバックで、どうしてエルヴィンが全曲ブラシなのかは、今でもよく分らない。当時通っていたジャズ喫茶でも話題のプレイだった。
また二曲目が「チェルシー・ブリッジ」で、これももちろん初めて聴いたわけだから、エリントン(というかストレイホーンだけど)のこの名曲を初めて知ったわけだった。https://www.youtube.com/watch?v=9I4dLLA2lk8 これら二曲と、ラストの「柳よ泣いておくれ」以外は、全部トミー・フラナガンのオリジナル曲。
オリジナル・ナンバーの中では、B面一曲目の「リトル・ロック」を、ライナーの油井さんがえらく誉めていたことだけは憶えている。 ブルーズ・ナンバーなんだけど、一瞬ブルーズ・フォーマットだと分りにくい曲で、最初は僕もよく分っていなかった。
トミー・フラナガンってブルーズの上手いピアニスト(だということを、少し経って知った)なんだけど、「リトル・ロック」は曲調もフラナガンのプレイも、あまりブルージーじゃないよねえ。同じアルバムなら、ラストの「柳よ泣いておくれ」の方が断然ブルージーだしなあ。あっちの方が当時は好きだった。
YouTubeに上がっているもののうち、お馴染みのプレスティッジ盤ジャケットの画像を使って上げている方は、なんだろう?同じフラナガンの「柳」なんだけど、マスター・テイクでもなければ、現行CDにボーナス・トラックとして収録されているテイク1でもない。聴いたことがない。
トミー・フラナガンの弾くブルーズで、妙に印象に残っているのが、ソニー・ロリンズ『サクソフォン・コロッサス』のラスト・ナンバー「ブルー・7」。ブルーズだけど、全くブルージーじゃない曲調で、ロリンズも淡々と黒くないソロを吹くんだけど、フラナガンは構わず、真っ黒けでブルージーなプレイ。
もちろんその『サクソフォン・コロッサス』も、コルトレーンの『ジャイアント・ステップス』も、カーティス・フラーの『ブルースエット』もすぐに聴いて、<名盤の脇にトミフラあり>とまで言われる、彼のサイドメンとして光る名脇役ぶりを知ることになる。当時はむしろそういうのが彼の本領だったようだ。
今では僕の一番好きなフラナガンの脇役ぶりは、マイルス・デイヴィスの隠れたB面名盤『コレクターズ・アイテムズ』でのプレイだ。A面の1953年録音は、テナーで参加しているパーカーがパッとしないし、マイルスもイマイチなんだけど、ソニー・ロリンズが参加しているB面の56年録音は、本当にいい。三曲しかないけどね。
フラナガンが印象的なイントロを弾く「イン・ユア・オウン・スウィート・ウェイ」は、同年の『ワーキン』収録ヴァージョンより断然いいし、以前書いたように、同じアルバムに「トレーンズ・ブルーズ」として再演されている「ヴィアード・ブルーズ」でのプレイも、ブルーズ好きのフラナガンらしい弾きっぷりでいいんだ。
フラナガンは、『オーヴァーシーズ』の日本盤が出たらしい1970年代に、日本でもかなり人気が出て、亡くなるまでリーダー・アルバムも数多く制作されるようになった。そういうのも買って聴いたんだけど、エルヴィンとの再共演もありはするものの、いいと思ったものは殆どない。コルトレーンの伴奏でやったオリジナルでは惨敗だった「ジャイアント・ステップス」も再演して健闘してはいるけどさ。
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