クラプトンのブルーズ
エリック・クラプトンの『461・オーシャン・ブルヴァード』を初めて聴いた頃に気に入っていたのは「ウィリー・アンド・ザ・ハンド・ジャイヴ」だったことを書いたけど、B面トップのエルモア・ジェイムズ・ナンバー「アイ・キャント・ホールド・アウト」も大好きだった。
クラプトンのアルバムで最初に聴いたのは、デレク・アンド・ザ・ドミノスの『レイラ』で、これはロック好きの弟が買ってきたものだった。その中にもブルーズ・ナンバーがあったわけだけど、クラプトンのやるブルーズ・ナンバーで最初に好きになったのが、その「アイ・キャント・ホールド・アウト」。
あのちょっとエッチな内容のブルーズ・ナンバー、その歌詞の様子をそのまま表現したようなクラプトンの歌い方とスライド・ギターも大好きだった。でもそれですぐにエルモア・ジェイムズのオリジナルを聴いてみようとはならなかったんだよなあ。むしろ、クラプトンのやる他のブルーズを聴きたくなった。
「アイ・キャント・ホールド・アウト」のエルモアによるオリジナル「トーク・トゥ・ミー・ベイビー」は、三連のいわゆるエルモア節。
これをレイド・バックした感じに解釈し直したクラプトン・ヴァージョンだって、今聴いてもいい感じだ。
クラプトンに、ブルーズに半端じゃない思い入れがあることを知るのはもうちょっと先のことだったけど、だいたい彼のどんなアルバムにもブルーズ・ナンバーがあったから、そういうのを楽しんで聴いていた。大学生の頃に買った『E.C.・ワズ・ ヒア』(邦題ダメ)の一曲目なんか、ホント凄かったもん。
すなわち、「ハヴ・ユー・エヴァー・ラヴド・ア・ウーマン」。このブルーズ・ナンバーは『レイラ』にも入っていたので、それで初めて知った曲だったけど、僕には『E.C.・ワズ・ヒア』のライヴ・ヴァージョンの方がよく聞えたのだった。
このフレディ・キング・ナンバー、クラプトンは2006年のデラックス・エディションで初めて出た1966年のブルーズ・ブレイカーズでの録音(歌はボスのジョン・メイオール)以来現在に至るまで、それはもう何度もやっていて、録音されてアルバムに収録されたものだけでも何種類もあるけど、『E.C.・ワズ・ヒア』のライヴ・ヴァージョンを超えるものはないだろう。
同じライヴ・ヴァージョンでも、1991年の『24・ナイツ』に収録されているものは、あまりにも小綺麗にまとまりすぎていて、なんのエモーションも感じないし、こういう感じでブルーズが継承されるのに危惧を感じたりしてしまうものだけど(『アンプラグド』に数曲あるブルーズ・ナンバーも同様)、『E.C.・ワズ・ヒア』のは、歌もギターも、まさに溢れ出る激情を抑えきれないという感じ。クラプトンによるあらゆるブルーズ演唱で、生涯No.1じゃないだろうか。
全曲ブルーズ・カヴァー・アルバムである1994年の『フロム・ザ・クレイドル』には、この曲は入っていないけど、一曲目のリロイ・カーの「ブルーズ・ビフォー・サンライズ」では、まるでエルモア・ヴァージョンそのまんまの三連スライドに、思わず笑ってしまうくらいの、ギター完コピぶりだった。敬愛の情は感じる。
『フロム・ザ・クレイドル』は、僕みたいに単なる遊びでブルーズをやるようなアマチュア向けの教科書としては、格好のアルバムなんだろうとは思う。1995年に始めたパソコン通信で知合った仲間と、あの中から何曲かコピーして、スタジオで音出してよく遊んだものだった。
だって「フーチー・クーチー・マン」にしたって、マディ・ウォーターズのヴァージョンは、あのフィーリングはとてもコピーできるもんじゃないと観念していたからなあ。その点、『フロム・ザ・クレイドル』収録のなら、まだなんとかなるんじゃないかと思ったのだ。
もちろんクラプトンの『フロム・ザ・クレイドル』ヴァージョン(「フーチー・クーチー・マン」以外も)だって、なんとかなるんじゃないかと思ったのが、途轍もなく甘すぎたわけだけど(恥)。でも、マディのヴァージョンなんかをお手本にしようとしたら、もうなんにもできないからなあ。
マディ・ウォーターズ(『ベスト・オヴ・マディ・ウォーターズ』)→ https://www.youtube.com/watch?v=U5QKpsVzndc
クラプトン(『フロム・ザ・クレイドル』)→ https://www.youtube.com/watch?v=dpXeJSdW1xg
音の表面上は似ているけど。
「ファイヴ・ロング・イヤーズ」も。
B.B. キング(『ザ・ジャングル』)→ https://www.youtube.com/watch?v=0ep9dvTIVMM
クラプトン(『フロム・ザ・クレイドル』)→ https://www.youtube.com/watch?v=JKTdd7awuMU
前者を聴いた直後に後者を聴くと、なんかガッカリしてしまう。
2004年にもブルーズ・アルバムであるロバート・ジョンスン集『ミー・アンド・ミスター・ジョンスン』を出しているけど、あれはもう全然ダメだった。特にリズム隊がダメ。スティーヴ・ガッドはジャズ〜フュージョン・ドラマーとしてはいいけれど、ブルーズはちょっとねえ。でもガッドの責任じゃない。使っているボスが悪いんだ。
クラプトンのやるブルーズは、1990年代に入った頃から、歌の方は技術的には向上しているものの、エモーショナルではなくなっているし、ギターに至っては完全に手癖のみのオンパレード。上手くなっているというファンもいるんだけど、それは技術的円熟とマンネリを勘違いしているだけだろう。
結局、クラプトンのブルーズは、ギターも歌も1960/70年代が一番よかった。ブルーズに限らず、クラプトンは70年代までという人も多いけど、僕はギリギリ83年の『マニー・アンド・シガレッツ』までは聴ける。あれはドナルド・ダック・ダンのいるリズム隊もいいし、ライ・クーダーも入っているし。
そしてブルーズに限定しなければ、僕が一番好きで最高と思うクラプトンは、やはりデレク・アンド・ザ・ドミノスの『レイラ』(1970年)。米スワンプ風がたまらなく好きな僕だから、あの二枚組(現行CDでは一枚)に米南部風味を感じるんだなあ。リズム隊がLAスワンプ勢だし、デュエイン・オールマンも入っているから、当然だ。ファンファーレみたいなイントロが嫌いな「リトル・ウィング」だけは飛ばして聴くけど。
米スワンプ風なら、それより三ヶ月前にリリースされたファースト・ソロ『エリック・クラプトン』がいいんじゃないかと言われそうだ。もちろんあれも好きなんだけど、デレク・アンド・ザ・ドミノスの『レイラ』の方がもっと好きなのは、やっぱりデュエインが入っているせいなのか、収録曲に好きなのが多いせいなのか。
クラプトンのそういう路線(やジョージ・ハリスンの『オール・シングズ・マスト・パス』)の元々の由来になった、デラニー&ボニーの『オン・ツアー・ウィズ・エリック・クラプトン』も、もちろん好きだ。特に2010年リリースの四枚組デラックス版では、変名で参加していたジョージのスライドもちょっと聴けるし。
ライヴ盤では、やっぱり『E.C.・ワズ・ヒア』が一番好きで、書いたように「ハヴ・ユー・エヴァー・ラヴド・ア・ウーマン」が最高だし、イヴォンヌ・エリマンとヴォーカルを分け合う「プレゼンス・オヴ・ザ・ロード」だって大変ドラマティックで、ブラインド・フェイスのオリジナルより断然いい。続く「ドリフティン・ブルーズ」も、クラプトンのアコギがいい。これ、アナログ盤では、ジョージ・テリーのエレキ・ギター・ソロが始ってワン・コーラスでフェイド・アウトしていたんだけど、CDではフル・ヴァージョン収録になっている。でも、アナログ盤通り、フェイド・アウトでよかったような感じだなあ。
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