マグリブ音楽に導いてくれた大恩人
オルケストル・ナシオナル・ドゥ・バルベス(ONB)のデビュー・ライヴ・アルバムから、冒頭三曲のメドレーをYouTubeにアップした。一続きになっているのに、三曲続いている状態でアップされているものが一つもなかったから。
ついでに、そのONBのヴィデオ(静止画だけど)、録音年月日、録音場所、パーソネル等の録音データも、全部ちゃんと書いておいた。これらは、まとめてどこかに記載されてはいないので、全部知るのにちょっとだけ時間が掛った。CDアルバムは元々フランス盤なのだが、それに付いている紙の小さな字を老眼鏡をかけて読直した。
そのONBのデビュー・ライヴ・アルバム、1998年リリースだと思っていたけど、調べてみたら1997年のリリースだった。もっともそれは、フランス原盤のリリース。日本盤が出たのはその翌年のはずだ。僕が当時やっていたパソコン通信の音楽フォーラムでの知合いに勧められて買ったのも、同年。その友人と一緒に渋谷HMVへ行き、ワールド・ミュージック・コーナーで勧められて買ったのだった。彼は、独力で見つけて買ったと言っていたなあ。そのONBのデビュー・アルバムで、マグリブ音楽にはまってしまった。
特に、僕がアップした冒頭三曲のメドレーにやられてしまったんだよなあ。一曲目の出だし、聴いたことのないカシャカシャという金属音(それがカルカベという鉄製カスタネットであることを、直後に知った)に導かれ、歌が始り、しばらく経ってバンド全体が加わる辺りのスリルはたまらない。
もう無数に繰返し聴いたので、今では聴き返してもさほどのスリルは感じないのだが、最初に聴いていた頃の、特にベースとドラムスが入ってきてグルーヴし始める瞬間の、背筋がゾクゾクする感じは、今でもよく憶えている。あの瞬間に、このアルバムは大傑作だと確信できるものだった。
1998年に、そのONBのアルバムを初めて聴いた時は、恥ずかしながらまだ「マグリブ」という言葉すら知らなかった。そのアルバムの日本盤ライナーに書いてあって、それで初めて知ったのだった。僕が渋谷HMVで買ったのはフランス盤で、日本盤を買った先の友人が日本語ライナーノーツをコピーしてくれたのだった。
前にも一度書いた気がするけど、一応シェブ・ハレドくらいは聴いてはいた。シェブ・ハレドはアルジェリア(つまり、いわゆるマグリブ地域)出身のライ歌手。ONBのデビュー・アルバムでもライ・ナンバーがあって、最初に書いた三曲メドレーの三曲目「ハグダ」が、まさにライ。でも違って聞えたんだなあ。
シェブ・ハレドはいいとはおもっても、そんなにハマらなかったのに、なぜONBのデビュー・アルバムで聴けるライ・ナンバーにはハマってしまったのか、その辺は自分でも分らない。ONBのデビュー・アルバムには、ライだけでなく、グナーワやシャアビなど、まさに汎マグリブ音楽という趣があった。
念のために書くと、マグリブ(Maghreb)地域とは、モロッコ、アルジェリア、チュニジア、西サハラといった北アフリカの旧フランス領(西サハラは旧スペイン領)のアラブ・アフリカ諸国を指す言葉。リビアを含めることもある。それらの地域の歌手やミュージシャンで腕に覚えのある者は、フランスに渡って活躍する人も多い。
ONBもフランスで1995年に結成されたバンド。中心人物は、やはりアルジェリア出身のベーシストであるユセフ・ブーケラ。ユセフはアルジェリアのライ歌手、シェブ・マミの伴奏を務めていた経験がある、腕利きベーシストにしてコンポーザー。その他、初期はアジズ・サハマウイもいた。
ONBのデビュー・アルバムには、ライ(アルジェリア)、シャアビ(アルジェリア)、グナーワ(モロッコ)などのマグリブ音楽が息づいているだけでなく、それらが現代ポピュラー・ミュージックのバンド編成によって、ジャズやロックなどと渾然一体となって溶け込んでいて、門外漢にも聴きやすかった。
それで僕の興味は、そうしたミクスチャー系サウンドには向わず、ルーツであるアルジェリアやモロッコのマグリブ音楽を探究する方向へ向った。だから、それ以後一層ミクスチャー度を強めていくことになった三作目『エリク』以後のONBのアルバムは、あまり好きではない。大恩人だし惚れた弱みで、全部買い続けてはいるけど。
今では初期ONBの重要人物で、デビュー・アルバムにも参加しているアジズ・サハマウイも、バンドを去っている。ONBはアルバムを作り続けているし、ライヴ活動などはフランスを中心に今でも活発に行っているようだけど、現在のONBにはあまり興味はない。1997〜99年頃ならライヴも凄く観たかったけど。
だから、シェバ・ジャミラ&リベルテの2007年のライヴ・アルバム『Enregistrement Public Au Festival Les Escales 2005』には、凄く狂喜した。アルジェリアのライ歌手のフランスでのライヴ盤なんだけど、バック・バンドがほぼONBらしかった。
あのシェバ・ジャミラのライヴ・アルバムには、ONBにはいないヴァイオリン奏者が参加しているけど、他はバック・バンドのリベルテとは、ほぼONBのようだ。さすがは経験を積んだ熟練バンドらしい手腕で、ライヴで本領を発揮しているのがよく分る、コクのある演奏だった。インスト曲もある。
だけど、その後に出た、2013年のONBの二枚組ライヴ盤は、ちょっと試聴したらいいと思って買いはしたものの、じっくり聴いたらそうでもなくて、やはりガッカリしてしまったんだよなあ。その他のスタジオ盤もそうだった。今後、このバンドがどうなっていくのかは、僕には分らないけど。
あのONBのデビュー・ライヴ・アルバムは、全部通して78分以上もあるので、最後まで集中力を保ったまま聴き通すというのは、ちょっとしんどいことではある。僕も最初の頃は通して繰返し聴いたけど、最近は特定の曲(群)だけを抜出して聴くとかいうことが多い。
僕のMacのiTunesには、ONBは一作目の『アン・コンセール』だけでなく、二枚目のスタジオ作『プリナ』までは入れてある。『プリナ』は、マグリブ色が強くてまだそんなにミクスチャー風ではなく、一作目に似ている感じで、かなりいいよね。ノイジーな打楽器がブンブン鳴るレゲエ風のタイトル・トラックとか、ゲンブリと手拍子と歌だけ(カルカベが入ればもっといいのに)のグナーワ・ナンバー「マリアマ」とか、最高だ。
ついでに書くと、バンド名に入っている「バルベス」というのは、パリ18区のアラブ人地区のこと。オルケストル・ナシオナル・ドゥ・バルベスとは、バルベス国立楽団という意味だけど、別にそういう国があるわけではない。でも架空のというか、バルベス地区に象徴されるアラブ音楽のバンドというわけ。
余談だけど、ONBのデビュー作を買って聴いた1998年には、ハレド+ラシード・タハ+フォーデルによるフランスでのライヴ盤『アン・ドゥ・トロワ・ソレイユ』もあって、あれには大いに感銘を受けて、タハ、フォーデルという二人を知っただけでなく、ライを本格的に掘下げるきっかけにもなったのだった。
なお、ONB関連でネット検索すると、ライのページに行着くのは当然としても、そのライのなかにグナワ・ディフュジオンを含めている文章がある。これはちょっとどうだろうか?グナワ・ディフュジオンはライをやったことは全くないはず。初期の頃は、フランスでも、この誤解を解くのに苦労したらしいが・・・。
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