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2015/10/06

マイルス〜『ジャック・ジョンスン』の謎

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ルイ・マル監督の『死刑台のエレベーター』の、マイルス・デイヴィスによるサントラ盤が、ラッシュ・フィルムを観ながら即興で演奏されたものという都市伝説は、今や完全盤CDでスタジオでのリハーサルや様々な別テイクの模様が全部聴けることで、完全に否定されているのは、ご存知の通り。

 

 

それでも『死刑台のエレベーター』が、最初から映画音楽として録音されたものであることは間違いない。それに対して、マイルスによるサントラ盤では、同じように有名な『ジャック・ジョンスン』の方は、映画のサウンドトラック用として録音されたものではない。これも今では有名なはず。

 

 

『ジャック・ジョンスン』両面の大半を占める音源は、1970年4月録音。この頃、マイルスは生涯で何回目かの創造のピークにあって、アルバム発売予定のあるなしに関係なく、頻繁にスタジオに入って録音を繰返していた。「ライト・オフ」も「イエスターナウ」も、そういう当時のセッション音源から。

 

 

そういう70年当時の数多くのスタジオ・セッション音源は、『ジャック・ジョンスン』になった音源も含め、今は2003年リリースの『ザ・コンプリート・ジャック・ジョンスン・セッションズ』五枚組で聴ける。その中には「ライト・オフ」が4テイク、「イエスターナウ」が2テイク収録されている。

 

 

その「ライト・オフ」と「イエスターナウ」を録音したセッションは、ベーシスト、マイケル・ヘンダースンのオーディションも兼ねていたらしい。この時は彼がマイルスの録音に参加した最初の音源。しかし、すぐにはバンドにレギュラー参加とはならず、ライヴ・ステージでは、その後も数ヶ月間デイヴ・ホランドが弾いていた。

 

 

『ジャック・ジョンスン』A面の「ライト・オフ」を聴くと(B面「イエスターナウ」でのベース・ラインは、ジェイムズ・ブラウン「セイ・イット・ラウド・アイム・ブラック・アンド・アイム・プラウド」のパクリ)、マイケル・ヘンダースンのプレイは素晴しいの一言だから、なぜすぐにバンドのレギュラー・メンバーにしなかったのか、やや理解に苦しむ。マイルス自身がこのアルバムのジャケットに寄せた文章の中でも、かなり彼のベースを誉めているし。

 

 

ちなみにマイルスに興味を持ったロック・ファンには、ほぼ全員にこの『ジャック・ジョンスン』を推薦して、今まではほぼ成功している。マイルスのアルバムの中では、これ以上明快にロックしているものはない。ドラマーがビリー・コブハムなのも、その大きな要因の一つだろう。

 

 

ビリー・コブハムは、ジャズ畑出身の8ビート・ドラマーでは一番好きな人なのだが、彼の叩出す明快なビートに加え、ジョン・マクラフリンのギターも、ほぼ完全にロックしていて素晴しい。『イン・ア・サイレント・ウェイ』『ビッチズ・ブルー』でのプレイとは全然違う。こっちこそ彼本来の姿だろう。

 

 

特に、「ライト・オフ」序盤で、マイルスが一通り吹き終えてから、マクラフリンが自分の弾いたある音をきっかけにクリーン・トーンにして、それで軽快なカッティングを始めると、即座にそれにマイルスが反応してソフトな音色で吹き始める辺りは、何度聴いてもゾクゾクしてしまう。即興演奏の素晴しさを実感する瞬間だ。

 

 

また『ジャック・ジョンスン』でのジョン・マクラフリンのプレイで、僕がそれ以上に痺れているのは、A面「ライト・オフ」の残り約一分半くらいのところから聴ける、目一杯ファズを効かせて弾きまくる部分だ。こんなに深くファズが効いているエレキ・ギターは、なかなか聴けない。ほんの一分くらいだけど。

 

 

御大マイルスのプレイが素晴しいのはもちろんだけど、『ジャック・ジョンスン』の(特にA面「ライト・オフ」の)音楽を最高のものにしているのは、ジョン・マクラフリンのギター、マイケル・ヘンダースンのエレベ、ビリー・コブハムのドラムス、の三位一体に他ならない。聴けば誰でも分ることだ。

 

 

そしてアルバムの大部分を占めるその70年4月録音の音源の中に、ほぼ同時期の(当時の)未発表音源がいくつかインサートされていて(特にB面)、それをやったのはもちろんテオ・マセロだけど、その編集ぶりこそが、まさにテオが映画音楽をとの注文を受けてプロデュースした部分。

 

 

インサートされている未発表音源の中では、「ウィリー・ネルスン」に、ソニー・シャーロックが参加していて(『ジャック・ジョンスン』用のオーヴァー・ダビングではなく、オリジナル・セッションから)、いつものフリーキーなギター・サウンドを聴かせている。まあでもアルバムの中での彼の存在意義は、イマイチ分らないけど。

 

 

インサート音源では、その「ウィリー・ネルスン」は、1981年の未発表曲集『ディレクションズ』が初出。もっとも、そこではソニー・シャーロックのギターが完全に削除されているので、『ジャック・ジョンスン』挿入部分と同一音源だとは、気付きにくい。前述のジャック・ジョンスン・ボックスで全6テイクが収録されて、全貌が明らかになった。

 

 

これ以外にも、同じくB面に挿入される「シー/ピースフル」は、『イン・ア・サイレント・ウェイ』からのものだから、これは1970年当時から分ったはず。しかしながら、今でも判明していないものもあって、その最大のものが、B面終盤で出てくる、オーケストラをバックにマイルスがミュートで吹く部分。

 

 

マイルスがオーケストラをバックに吹くというのは、1949年独立後75年に一時引退までの間では、ギル・エヴァンス編曲・指揮のものしか僕は知らない。ギルとのコラボ音源を未発表物も含め集大成したボックス・セットにも、その「イエスターナウ」終盤の音源は入っていない。今でも謎の音源で、いつかはリリースされるのだろうか?

 

 

また、その元音源から、オーケストラ演奏部分だけを取除いて、マイルスのミュート・トランペットだけにしたものを、A面「ライト・オフ」でも、一度使っているのだ。A面でのインサート部分はそれだけ。またB面では、そのトランペット・サウンドを、「シー/ピースフル」からの挿入部分にかぶせていたりするからなあ。もちろん全部テオの編集だけど、オリジナル音源を聴きたいんだよなあ。

 

 

関係ないけど、ジャズ系ミュージシャンが作った映画のサウンドトラックで、個人的に一番好きだったのは、MJQの『大運河(『たそがれのヴェニス』)』。これは『死刑台のエレベーター』『ジャック・ジョンスン』と違って、映画の方は観たことがないけど、音楽が大好きで、LPを何度も聴いていたのだった。

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