大好きなクラシック・ブルーズの女性歌手
いわゆるクラシック・ブルーズ(この呼称は好きじゃないのだが)は、ベシー・スミスはじめ、大学生の頃から結構聴いていた。当時はブルーズというより、僕の中では完全にジャズだという認識だった。伴奏をしているのも、僕の知る限り、全て同時代のジャズマン達だったしなあ。
僕が初めて聴いたクラシック・ブルーズの歌手は、おそらくアルバータ・ハンター。もっとも1920年代の録音ではなく、77年復帰後の『アムトラック・ブルーズ』。これは1878年のアルバムだから、僕がジャズを聴始めた79年には日本盤LPも発売されていたはず。松山でも普通に買えた。
そのアルバータ・ハンターの『アムトラック・ブルーズ』でも伴奏を務めているのは、当時のトラディショナル・スタイルのジャズマン達。もっともヴィク・ディキンスン以外は知らない名前だったけど。今見たら、アーロン・ベル(ベース)、ドク・チーサム(トランペット)、フランク・ウェス(テナー・サックス)は有名どころだけど、知ったのはもうちょっと後のこと。このアルバムの中で一番好きだったのがコレ→ https://www.youtube.com/watch?v=HFADQcGJoL4
この「ノーバディ・ノウズ・ユー」、まだサム・クックのもデレク&ザ・ドミノスのヴァージョンも知らなかった頃で、アルバータ・ハンターのこのヴァージョンは、しみじみと歌詞の内容が沁みてくるような曲調で、繰返し聴いた。ベシーも歌ったこの古い曲を初めて知ったのは、この時だった。
またアルバム一曲目の「ダークタウン・ストラッターズ・ボール」も大好きだった→ https://www.youtube.com/watch?v=OP-0geORbvM これなんか、ブルーズじゃなくて、完全にジャズじゃないの?古いスタイルのジャズが好きなファンなら、間違いなく気に入りそうな雰囲気だよねえ。
CD時代になって、Documentレーベルから復刻された1920年代のアルバータ・ハンター完全集四枚も買って聴いて、やっぱりそっちがいいとは思うものの、78年の『アムトラック・ブルーズ』だって負けてないぞと思うのは、初体験で惚れた弱みなんだろうか?
さて、大学生の時、油井正一さんの第一著書『ジャズの歴史』(東京創元社)を読み、その中にベシー・スミスを取りあげて詳しく解説した一章があって、それに大いに感銘を受けて、ベシー・スミスを買おうとレコード屋に行ったら、これがあった↓
ちょっと脱線するけど、その油井正一さんの『ジャズの歴史』。東京創元社から1957年に初版が出た古い本だけど、僕が大学生の頃は、まだ松山の普通の新刊書店でも買えた。実を言うと、アルテスから復刊もされた高名な『ジャズの歴史物語』より、こっちの方が僕は影響を受けた本だったのだ。
『ジャズの歴史』は、ベシー・スミスに一章を割いていただけでなく、やはり一章を割いてルイ・アームストロングの1920年代の年代別スタイルの変遷分析とか、ビックス・バイダーベックに影響を与えた唯一の存在とされるエメット・ハーディの解説など、古いジャズについては、こっちの方が詳しい。
さて、『ベッシー・スミスの肖像 1925〜1933』。前にも書いた、当時CBSソニーからたくさん出ていた、戦前古典ジャズ復刻の<肖像>シリーズの一つ。このことからも、このベシー・スミスの音源が、ジャズ扱いだったことが分る。このLPのライナーを書いていたのも油井正一さんだった。
そのベシーのレコードを聴いて、19歳の僕が一番感動したのが1925年の「ザ・イエロー・ドッグ・ブルーズ」。この曲は『ジャズの歴史』の中で、油井さんが一番誉めていた曲だった。そのせいでもないんだろうが、今でもベシーでは一番好き。https://www.youtube.com/watch?v=JVL24i38F2s
ベシー・スミスの伴奏を務めたのは、当時のフレッチャー・ヘンダースン楽団の面々。1920年代半ばにはルイ・アームストロングも同楽団に在籍していたから、彼もベシーの録音に参加している曲がある。ベシーはそのサッチモの伴奏があまり好きではなかったらしい。
サッチモが伴奏しているベシーの録音を聴くと、それはなんとなく分る。伴奏者であるはずのサッチモがあまりにも雄弁で、主役のベシーを食わんばかりの存在感だからだ。例えばこの1925年の「セント・ルイス・ブルーズ」なんかがそうだ→ https://www.youtube.com/watch?v=jNWs0LsimFs
アマゾンで見たら、現在、2012年に出たベシー・スミスの完全集がCD10枚組で5000円台と破格の安値。http://www.amazon.co.jp//dp/B008AJ4GSK/いい時代になったなあ。僕は、1990年代前半にCD二枚組×5で出てた最初の完全集で持っている。日本盤も出ていたかもしれない。
それにしても『ジャズの歴史』の中で、油井さんがベシー・スミスは最も聴かれていない歌手だと書いていたけど、今でもジャズ・ファンからもブルーズ・ファンからも苦手だと敬遠されて、あんまり聴かれてないよねえ。なんか可哀想だよなあ。ベシー以上に広範囲に影響を与えた女性歌手は、米国にはいないのに。
まあ古いスタイルのジャズに馴染がないと、ベシー・スミス始め、クラシック・ブルーズの女性歌手はなかなか好きになれないだろうというのは、分らないでもない。ロックからブルーズに入ったリスナーは、そのルーツであるシカゴ・ブルーズや、さらにそのルーツのデルタ・ブルーズは好きだろうけど。
最初の方で書いたアルバータ・ハンターの『アムトラック・ブルーズ』にしても、『ベッシー・スミスの肖像 1925〜1933』にしても、当時のレコード屋ではジャズの棚に置いてあったしなあ。今でこそ彼女たちの1920年代の録音集CDは、ブルーズの棚に分類されているけど。
ところで、最初に書いた通り、僕は「クラシック・ブルーズ」という呼称があまり好きではない。ブルーズの歌手としては、最も早くレコード吹込みをした人達だからそう呼ばれているだけで、特にブルーズの古典スタイルというわけでもないから、誤解を招きやすいと思うのだ。今更どうにもならんけどさ。
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