アクースティック・マイルスで一番好きなアルバム
ブルーズ・ライターの陶守さんと話をしていて、オリジナル・ジャケットだと30年以上思っていたB.B. キングの『ライヴ・アット・ザ・リーガル』の白地の文字ジャケがオリジナルではなく、現行CDのカラー・ジャケットが実はオリジナルであったという、「衝撃の事実」を初めて知るということがあった。
マイルス・デイヴィスの『ジャック・ジョンスン』も、ある時期以後、なぜだかジャケット・デザインが変更になっている。オリジナル・ジャケットはコレ↓
そして現行米盤CDがコレ↓
どうしてこういうことをするのか、よく分らないなあ。『ジャック・ジョンスン』のジャケットが変更になったのは、1977年の米国盤リイシューLPかららしい。その後の米国盤は全てそれ。同じくジャケットが変更になっている『マイルス・アヘッド』の方は、マイルス自身のクレームによるものだった。
『マイルス・アヘッド』、1957年リリースのオリジナル・ジャケットは上掲画像左。そして1963年に変更になったジャケット上掲画像右。オレのアルバム・ジャケットに白人女とはナニゴトだというだということらしかった。
とはいえ、米国盤はともかく、オリジナル・ジャケット重視主義の日本では、1963年以後も現在に至るまで、ヨットに白人女性のオリジナル・ジャケットでリリースされている。僕が最初に買ったLPも、その後買い直して現在も聴いている、SMEからの紙ジャケCDも、全部そう。米国盤は変更されたままだけど。
もちろん『ジャック・ジョンスン』だって、CDリイシューも米国盤は全部さっき貼った別ジャケットだけど、日本盤LPやCDは、全部オリジナル・ジャケット通りになっているもんね。『マイルス・アヘッド』も『ジャック・ジョンスン』も変更後のは、米国コロンビア(レガシー)盤でしか僕は持っていない。
『マイルス・アヘッド』の場合、ジャケット変更だけなら問題は容易いのだが、このアルバムはモノラル盤とステレオ盤があって、しかもかつて流通していたステレオ盤は、中身の半分程度、モノラル盤とは違う別テイクが収録されているという、ややこしいことになっていた。あまり知られていないことかもしれない。
『マイルス・アヘッド』のオリジナル米盤LPはもちろんモノラルで、その後もずっと各国盤ともモノラルだったはず。モノラル・マスターしか作っていなかったはずだ。僕が80年に最初に買った日本盤LPもモノラル盤だった。一体いつ頃別テイク収録のステレオ盤になったのかは、記憶がない。
ネットで調べると、『マイルス・アヘッド』をモノラル盤からステレオ盤に差し替えたのは、1987年のテオ・マセロらしい。そのCD化の際、なぜだか知らないが別テイクを収録したようだ。その後しばらくはこのステレオ盤が流通していた。一曲目の「スプリングズヴィル」の頭から全然違うので、すぐに分った。
その「スプリングズヴィル」も、現在YouTubeではオリジナル(現行)・ヴァージョンしか上がってないみたいだから、聴き比べてもらうことができない。そして、僕が持っているものも含め現行CDでは、同じくステレオ盤ながら、全曲オリジナル・モノラル・マスターと同内容のものに修正されている。
そうなったのがいつなのかということは、こっちははっきりしていて、1996年にマイルス&ギル・エヴァンスのスタジオ録音全集ボックスが出た時に、フィル・シャープが、オリジナル・モノラル・マスター通りにステレオ・マスターを新たに制作し直して、収録したのがきっかけ。その箱には従来版と両方収録されている。
その箱には、オリジナルのモノラル・ヴァージョンは収録されていないという欠陥があって、現行CDで『マイルス・アヘッド』のモノラルが聴けるのは、2013年に出た『The Original Mono Recordings』九枚組だけ。米国では1993年に単独のモノラルCDも出たけど、それは廃盤。
まあそれでもそのボックスには、『マイルス・アヘッド』の制作過程を詳らかにする、メイキング盤が入っていて、リハーサル・テイクや、オーヴァーダビングされる前のヴァージョンとか別テイクとか、そのオーヴァーダブされたマイルスのソロだけ抜出して聴けるとか、いろいろと面白かったのは確か。
あのマイルス&ギル箱は、全六枚のうち、約二枚半が『マイルス・アヘッド』とその関連音源で占められていて、『マイルス・アヘッド』(と、前から話だけあって実物を聴けなかった1968年録音の「タイム・オヴ・ザ・バラクーダ」)こそが、あの箱の目玉だったと言っても過言ではないだろう。
どうしてそんなに『マイルス・アヘッド』にこだわるかというと、マイルスに関してはエレクトリック時代の方が圧倒的に好きな僕だけど、アクースティック時代なら、クインシー・ジョーンズがこれを無人島アルバムの一枚に選んでいるのと同じく、スモール・コンボ物もなにもかも全て含めて、僕もこれが一番好きなアルバムなのだ。普通のジャズっぽくなく、イージー・リスニングみたいだけどね。
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