きっかけは『フロム・スピリチュアルズ・トゥ・スウィング』
『フロム・スピリチュアルズ・トゥ・スウィング』というLP二枚組(現在はCD三枚組)のことを、以前ちょっとだけ触れたけど、この1938/39年のライヴ・イヴェントを企画したジョン・ハモンドの元々の目的は、「伝説の」ブルーズマン、ロバート・ジョンスンを探し出し、出演させることにあったらしい。
そのロバート・ジョンスンは既に死んでいたので、当初のハモンドの目的は果せず、その代りに様々な黒人ルーツ・ミュージックの音楽家を出演させて、ジャズに至る米国音楽の道筋を示そうというものになった。ということを油井正一さんのライナーで知った僕の興味が、戦前黒人音楽に向ったのも当然。
ジャズ的な視点からは、この1938年のライヴ・イヴェントで、ブギウギ・ピアニストを聴いて痛く感銘を受けたドイツ系移民のアルフレッド・ライオンが、それを録音しようとしてブルーノート・レコードを設立したということに重点が置かれたりするけど、当時の僕はもうそういうことには強い興味はなくなっていた。
あのアルバムには、カウント・ベイシー楽団からのピック・アップ・メンバーや、ベニー・グッドマン・セクステット(どっちもジョン・ハモンド関連)といったジャズ・ミュージシャンも入っているけれど、それよりもブギウギ・ピアニストやブルーズ歌手やゴスペル歌手など、米ブラック・ミュージックの音楽家がたくさん入っている。
もっとも、ブギウギ・ピアニストに関しては、ジャズ・ピアノとの関係があるとの文章を読みかじり、それで、完全に手探り状態で、確か『ブギ・ウギ・ピアノ』(このタイトルの記憶も怪しいが)とかいうアンソロジーLPを買ってはいた。でも聴いても当時はどこがいいのか分らず、一度か二度聴いて、そのまま放置していたということはあった。
だから、やっぱり『フロム・スピリチュアルズ・トゥ・スウィング』が大きなきっかけで、古い黒人霊歌(スピリチュアル)や、弾き語りブルーズ、ブギウギ・ピアノなど、黒人音楽のルーツに深い関心を示すようになっていったわけだ。元々それ以前からモダン・ジャズより、戦前のニューオーリンズや黒人スウィングなどの方が好きだったから、そういう方向へ向うのは時間の問題ではあったけれども。
そしてロバート・ジョンスンやサン・ハウスやチャーリー・パットンなど、戦前のギター弾き語りのデルタ・ブルーズを聴くようになると、そのあまりのディープな世界に頭がクラクラするような思いで、モダン・ブルーズより、断然そっちが好きになった。僕の米南部音楽趣味は、その頃決定的になっていた。
マディ・ウォーターズにしても、それまでは戦後のシカゴ時代(チェス等)ばっかり聴いていたけど、そのだいぶ後に出た国会図書館用の41/42年南部プランテーション録音(アコギ弾き語りのデルタ・スタイル)の方が好きだと公言するようになり、そのせいで、他のブルーズ・ファンからはかなり珍しがられたりした。
もちろん、マディに関しては、その後聴直した『ベスト・オヴ・マディ・ウォーターズ』などの本当の凄みが分るようになり、やっぱりそっちが大好きだと思い直すようにはなった。もっとも僕が今、マディの録音で一番好きなのは、1950年パークウェイでのリトル・ウォルター名義の録音だったりするけど。
そういう南部趣味が決定的になったのは、だいたい1990年代に入った頃からで、カントリー・ブルーズ、サザン・ソウル、サザン・ロックやLAスワンプなど、米南部由来の音楽が好きになっていって、米LAスワンプ勢が大挙して参加している、ストーンズの『メイン・ストリートのならず者』や、ジョー・コッカーの『マッドドッグズ&イングリッシュメン』などが、UKロックでは最高だと思うようになった。
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