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2015/10/11

ノーカット・完全収録を謳う『アガルタ』『パンゲア』も・・・

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積極的にジャズを聴始めたのが1979年だったから、すぐにマイルス・デイヴィスを知って大好きになった(きっかけはキャノンボール名義の『サムシン・エルス』一曲目の「枯葉」)ものの、マイルスは1975年に一時引退状態に入っていたので、当時はライヴを聴くことはできなかった。

 

 

だから僕がマイルスのライヴを初めて聴いたのは、1981年の復帰後初来日公演。聴いたのは福岡公演だった。当時愛媛大学に通っていて松山に住んでいた僕は、大阪公演とどっちに行くか迷って、調べて交通費が少し安い福岡にしたのだった。当時ジャズ仲間だった二人と一緒に三人で行った。

 

 

その1981年の福岡公演は、僕が三人分チケットをまとめて手配していて、当日会場に着いたら渡す予定になっていた。大分までフェリーで渡り、次いで電車で福岡まで行った。会場の福岡サンパレスに近づいて「チケットを渡してくれ」と言われて探したら、どこを探しても見つからないので、真っ青になった。

 

 

どこでなくしたのか全く分らなかった。自宅を出る時は確かに持っていたし、行きのフェリーの中で期待感に胸を膨らませながらチケットを取りだして眺めていたくらいだったのに。会場で顔面蒼白、冷汗ダラダラの僕は、一緒の友人にとにかく受付で聞いてみろと言われて、そうしてみた。

 

 

受付で聞いたら、電話でチケットを買い郵送した人の分は記録があるのでと言われて調べてもらい、確かに三人分購入した記録があって、座席も分っているので、案内しますと言われて大いに安堵した。ただし、そのチケットを拾いでもした人がその席に座っていたら、その人との交渉になりますと言われた。

 

 

その席に座る人は開演時間になっても現れなかったので、無事三人ともマイルスのライヴを聴くことができたというわけ。いやあ、今でもその時の話をその友人達とすることがあって、今では笑い話だけど、その時はコイツなにやってくれているんだという気分だったらしい。そりゃそうだよねえ。

 

 

だから、マイルスの1881年福岡公演を聴きに行った時は、まあ珍道中というか、珍道中にしたのは完全に僕一人の責任だったわけで、だから肝心のライヴ・ステージの内容は殆ど憶えていないんだなあ。憧れのマイルスを初めて生で観たという、ただそれだけで胸が一杯だったということもある。ドラムスのアル・フォスターが怪物だったということくらいしか、音楽内容は憶えていない。

 

 

ただ、当時から憶えていたのは、一部が45分くらい、二部がわずか30分くらいだったこと。これは同じ年の東京公演をフル収録した『マイルス!マイルス!マイルス!』でもほぼ同様であることが確認できるから、この年の来日公演は全部そうだったんだろう。御大マイルスが著しく体調を崩していた(肺炎を起していたようだ)ことは、後で知った。

 

 

『マイルス!マイルス!マイルス!』を聴いても分るように、この1981年来日公演でのマイルスはボロボロで、マイルスはもう終ったんだと思ったファンも多かったらしい。ところが、翌年出た復帰第二作の『ウィ・ウォント・マイルス』に収録された東京音源を聴くと、そんなに悪くもないので、やや驚いた。

 

 

といっても、『ウィ・ウォント・マイルス』は来日公演の翌年1982年にリアルタイムで出たけど、『マイルス!マイルス!マイルス!』が出たのは1993年のことだから、上記の印象は後付けなのだ。当時は『ウィ・ウォント・マイルス』しかなかったから、悪くないじゃないかとしか思っていなかった。

 

 

こういうのは、やはりライヴ・テープを編集したテオ・マセロの手腕だったんだろうなあ。東京で収録された、一枚目の「ジャン・ピエール」も「ファスト・トラック」(「アイーダ」)も、かなり編集のハサミが入っている。もっとも、あの『ウィ・ウォント・マイルス』で一番いいのは、二枚目A面の「マイ・マンズ・ゴーン・ナウ」だけど。

 

 

現場で生を聴いた印象と、作品化された録音盤を聴いた印象が、同じソースでも異なるというのはよくあることだ。その1981年福岡公演に一緒に行った友人二人のうち一人は、『アガルタ』『パンゲア』になった1975年の大阪公演も生で体験した人という人なんだけど、それだってアルバムになったものは印象が違うと言っていた。

 

 

念のために言っておくと、かなり編集されている『ウィ・ウォント・マイルス』はもちろん、他の殆どのマイルスのライヴ盤と違って、『アガルタ』『パンゲア』は、1975年大阪でのライヴ・ステージそのまんまを無編集で収録したもの。バンド本体の演奏終了後の様子を若干カットしてはいたけど。

 

 

ちなみに『アガルタ』『パンゲア』が、当日のコンサートそのまんまで本当にフル収録されて発売されているCDは、特に『アガルタ』に関しては、多くない。日本でだけ、それも一回だけで、その後はまた従来盤と同じに戻っている。今聴くと、LP(や殆どのCDリイシュー)でカットされている部分もなかなか面白い。

 

 

カットといっても、バンドの本演奏には一切ハサミは入っていないし、編集もされていない。カットされていたのは本演奏が終ってから、二・三人のメンバーがステージに残って、シュトックハウゼンみたいな電子音楽をやっている、ほんの二・三分の部分。なかなか面白いんだよねえ。

 

 

バンドの本演奏とは本質的に無関係な部分だからカットしてあったんだろう。でも1975年の『アガルタ』日本盤LPに付いている児山紀芳さんのインタヴューで、児山さんがその部分について質問していてマイルスも答えている箇所があり、しかしLPを聴いても存在しないので、なんのことだろうと思っていた。

 

 

そのインタヴューではマイルス自身が「シュトックハウゼンのやっているような音楽みたいなもんだ」「自分は(本演奏が終って)袖に引っ込んでも、それをコントロールしているんだ」と語っていて、聴きたいと思ってたんだけど、聴けたのは、何十年も後になってからのこと。

 

 

バンド本体の演奏終了後の模様が収録されていたのは、LPでは、『パンゲア』一枚目だけ。それ以外は全部、本演奏終了後の様子はカットされていた。また、『アガルタ』のLPでは二枚とも、本演奏終了後だけでなく、本演奏自体の冒頭も少しだけカットされていた。それが収録されているものを聴いても、演奏全体の印象には全く無関係だけど。

 

 

出だしといい、尻尾といい、カットされているのも収録されているのもどっちも何度も聴いた僕に言わせれば、はっきり言ってどっちでもいい。音楽の本質は全く同じだ。こんな細部にこだわっているのは、僕を含め一部のマイルス・マニアだけだろう。

 

 

なお、『アガルタ』の場合は、バンドの本演奏終了後のカット部分はもちろん、LPではカットされていた二枚目冒頭は、ある時期以後のCDリイシューでは全て収録されているけれど、一枚目冒頭のマイルスのオルガンが少しカットされていたのが再現されて完全収録されてたのは、CDリイシューでも一回だけ。今売っている現行CD含め、他の全てのCDリイシューでも、カットされているままなのだ。

 

 

面倒くさいけど確かめてみたら、日本で1996年にリリースされたマスターサウンド盤CD、『アガルタ』SRCS 9128~9。これだけだ、真の意味で全てが完全にフル収録されているのは。音質はその後の、これも日本盤のDSDリマスター盤が最高(『アガルタ』『パンゲア』の二つだけは、最初のLPから現行CDに至るまで全て、日本盤の方が音がいい)だから、いつもどっちを聴くか迷ってしまう。『アガルタ』はマイルスのアルバムでは一番好きなものだから、余計そうだ。

 

 

しかしソニーは完全収録盤CDをどうして1996年の一回だけしか出さなかったんだろう?ほんのちょっとのことなのに。どうせ一回出したんだから、その後もそのままのフル・ヴァージョンでDSDマスタリングして音質向上して出してくれたらよかったのになあ。解せない。なにか出せない理由があるんだろうか?

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コメント

私もCDは「アガルタ」の紙ジャケット(SRCS9128〜9)を買いました。確か雑誌にも少し長いことが書いてありましたね。ほとんど気にしませんでしたが、他のバージョンはこれとは違う訳ですね。それが分かるということは、としまさんは発売された全バージョンお持ちなんですか?なんかすごいですね。「アガルタ」に関していえば、最初のレコード→アメリカ版のCD(安く売りさばく)→このCD止まりです。DSDはSACDの事ですか?私がバージョン違いで一番多いのは、「ビッチェズ・ブリュー」ですかね。ただ、古いの売っちゃったので全て再編集版かもしれません。ハイレゾ音源も買ったのですが・・・

TTさん、別記事でも書いてありますが、『アガルタ』は、アルバム単位では最も好きなマイルスなんですよ。だから出るもの全部買っています。本文中で書いてあるDSDリマスター盤とは、SACDではなく普通のCDです。

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