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2015/10/02

ツェッペリンのワールド路線

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だいぶ前のジョン・ボーナムの誕生日に、少しレッド・ツェッペリンのことを考えていた。後期ツェッペリンの方が好きというツイートも見掛けたけど、これは僕も完全に同意見。最初に聴いたツェッペリンが『フィジカル・グラフィティ』だったせいもあるんだろう。高校一年生の時だった。

 

 

僕はかつて二枚組LP偏愛主義者だったんだけど、原体験は、この『フィジカル・グラフィティ』にあったような気がする。それに当時はヴォーカルのロバート・プラントの高音が出づらくなっていたことなど、全く知らず(デビュー当時をまだ知らなかったから)、こういうバンドだと思っていた。

 

 

好きになって、そのうちすぐに全てのアルバム(高三の時に出た、解散前のラスト・アルバム『イン・スルー・ジ・アウト・ドア』を除く)を買って聴くようになった。どのアルバムも全部好きだったけど、全部聴いた上で、やっぱり僕は『フィジカル・グラフィティ』や『プレゼンス』が好きなのだった。

 

 

『プレゼンス』といえば、一曲目の「アキレス最後の戦い」。オーヴァー・ダビングしまくったギター・サウンドも大好きだったけど、ことジョン・ボーナムのドラムスに関しては、この曲が凄さが一番分るような気がする。凄まじいとしか言いようがない。鬼気迫るというか、とんでもない迫力だ。

 

 

『プレゼンス』は、ラストの「一人でお茶を」を除けば(あんな曲がなぜ入っているのか、今でもよく分らない)、どの曲もリズム・アレンジが面白くて、そういうところも好きだった。「俺の罪」といい「フォー・ユア・ライフ」といい、ロカビリー風の「キャンディ・ストア・ロック」といい、全部そうだ。

 

 

『フィジカル・グラフィティ』にしても、当時はよく分ってなかったけど、一枚目一曲目の「カスタード・パイ」は、ギター・リフが完全なボ・ディドリー・ビート、別名3−2クラーベのリズムだし。ちょっと聴いた分には分りにくいんだけど。「死にかけて」も「カシミール」もリズムが凄いもんねえ。

 

 

『フィジカル・グラフィティ』は、少しの新録を除けば、過去のアルバムの録音で録りだめた音源を使っていることは、随分後になってから知ったのだ。まあでも高校生当時から、これの前のアルバムが『聖なる館』という名前なのに、どうして「聖なる館」という曲が次の二枚組にあるんだろうとは思っていた。

 

 

そして『フィジカル・グラフィティ』でも「カシミール」や「イン・ザ・ライト」などが好きだったので、ツェッペリンとは、そういう(後に言うワールド・ミュージック)指向のバンドかと思っていて、そのつもりでファーストやセカンドを聴くと、一部を除き全然違うので、最初は初期には馴染めなかった。

 

 

初期のツェッペリンは、ほぼ完全にブルーズ・ロックのバンドで、それも別に嫌いではなかったけど、ファーストなんかでも「ユー・シュック・ミー」(ジェフ・ベック・グループのファーストとモロかぶり)とか「君から離れられない」とか「ハウ・メニー・モア・タイムズ」とかより、B面の「時が来たりて」とか「ブラック・マウンテン・サイド」が好きだった。

 

 

だから今考えたら、あんまり典型的なツェッペリンの理解者ではなかった。初期ツェッペリンのブルーズ・ロック路線や、英トラッド趣味とかを本当に理解できるようになったのは、もっと後になってのことで、シカゴ・ブルーズをたくさん聴いたり、フェアポート・コンヴェンションなども聴いてからだった。

 

 

1995年にパソコン通信を始めて、僕が主に棲息していたのは、音楽フォーラム内のロック・クラシックス部屋だったから、ツェッペリンもよく話題にあがったけど、ほぼ全員がブルーズ・ベースのハード・ロック路線を評価していて、『聖なる館』以後のワールド路線は、あまり好きな人がいなかった。

 

 

ツェッペリンの本領は、初期のロバート・プラントの高音を生かしたメタリックなハード路線にあるのであって、中期以後様々な音楽的実験を行うようになったのは、プラントの高音が出なくなって、従来の路線が取りづらくなったので、仕方なく転向したのだという意見を表明する人も、複数いたなあ。

 

 

確かに映画『狂熱のライヴ』での「ブラック・ドッグ」(ソースは73年録音)などでは、プラントの声が全く出ていなくて、大変残念な感じだし、レコードになった『永遠の詩』一曲目の「ロックンロール」でも、スタジオ版とは歌い方がかなり違う。メタリックな高音シャウターとしては、プラントは71年頃までだろう。

 

 

だから2003年に『ハウ・ザ・ウェスト・ワズ・ウォン』と『DVD』が出た時は、みんな喜んだわけだ。前者三枚組CDは1972年のライヴ音源だけど、まだまだいいし、また後者二枚組DVDの一枚目、70年ロイヤル・アルバート・ホールでのライヴと69年のライヴなどは、長年の喉の渇きを癒すものだったはず。

 

 

中・後期ツェッペリンが大好きな僕だって、『DVD』収録の最初の70年ロイヤル・アルバート・ホールを聴いたら、この頃がロバート・プラントの絶頂期だったことは、認めざるをえなかった。それを認めつつも、あの中にペイジのギター独奏による「ホワイト・サマー」があることを見逃さなかったけどね。

 

 

今よくよく初期からのツェッペリンを聴直すと、結構中期以後のワールド路線に繋がっていく萌芽が聴かれたりするんだけど、僕もパソコン通信を始めたころは、ハード・ロック路線こそ本領という多数派の意見がもっともで、僕みたいな趣味の持主は、ちょっと変っているだけなんだと思っていた。でも違うんだよなあ。

 

 

1990年に出たリマスター四枚組の一枚目のラストにも、ペイジ・フィーチャーの「ホワイト・サマー〜ブラック・マウンテン・サイド」が入っていたけど、あれを聴いた時に、アッ!って思ったんだよなあ。「ホワイト・サマー」はヤードバーズ時代からの曲だけど、ツェッペリン結成後もやっていたんだなあって。

 

 

しかもその「ホワイト・サマー」がツェッペリンの一枚目収録の「ブラック・マウンテン・サイド」と一続きで演奏されていたんだもん。こういうDADGADチューニングによるエキゾティックなナンバーは、ツェッペリンの初期からライヴでもやっていた。書いたように『DVD』にもライヴの模様が収録されていた。

 

 

「ホワイト・サマー〜ブラック・マウンテン・サイド」は、ちょっとヴァリエイションを変えれば、そのまま「カシミール」のリフになっちゃうよねえ。いつだったかジミー・ペイジも、「カシミール」はそういうDADGADチューニングのギター演奏の中から生まれ出たものだったと語っていた気がする。

 

 

でも、ツェッペリン解散後は、ジミー・ペイジの作品にはそういう路線は全くなくて、むしろロバート・プラントの方がワールド系のサウンドを追求しているけど、1994年のペイジ〜プラント名義の『ノー・クォーター』では、本格的にエジプト人ミュージシャンを加えて、ツェッペリン時代の曲を再演している。

 

 

あれが出た時は、『ミュージック・マガジン』だったか『レコード・コレクターズ』だったか忘れたけど、中村とうようさんが、大英帝国植民地主義根性の表れみたいなもんだと酷評していて、もっともだとは思ったものの、僕は案外好きで、繰返し聴いていた。ツェッペリン時代のワールド路線の曲を、その路線で大幅に拡大したもので、彼らの本質の一端を表していたと思うんだなあ。

 

 

でもまあ『ノー・クォーター』の中に三・四曲含まれているモロッコ録音の曲は、彼らの心意気は買うものの、全く面白いとは思わないけど。それよりスタジオ・ライヴでの「限りなき戦い」や「フレンズ」「フォー・スティックス」「カシミール」がよかったなあ。特にDVDヴァージョンが面白い。

 

 

とはいうものの、ツェッペリンのそういうワールド指向を掘下げた文章って、今でもあまり多くないよねえ。やっぱりハード・ロック路線のルーツであるブルーズ方面からの分析ばかりで。だから、今年初めの『フィジカル・グラフィティ』リマスター盤発売に際し、『レコード・コレクターズ』に松山晋也さんが書かれた記事は面白かった。

 

 

『レコード・コレクターズ』といえば、以前、前編集長の寺田正典さんが、声が暴れなくなってからの(と表現していた)ロバート・プラントの歌が結構好きと言っていて、寺田さんと僕は同い年なんだけど、この世代の音楽ファンには、結構そういう人がいるんじゃないかという気がするんだよねえ。デビュー当時から聴いている人はまた違うんだろうけどね。

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