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2015/11/27

渡米後だって悪くないカルメン・ミランダ

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ブラジルのサンバ歌手、カルメン・ミランダの名前を初めて知ったのは、これもやはり中村とうようさんの『大衆音楽の真実』でだったと思う。それを読んだ時、物凄くチャーミングな歌手であるように書いてあったから、すぐにでも聴きたくなったんだけど、当時は探してもちゃんとしたアルバムがなかった。

でもカエターノ・ヴェローゾの『粋な男ライヴ』に、カルメン・ミランダの歌った「サンバとタンゴ」が入っていたので、その一曲だけ彼女のレパートリーを知っていたのだった。あのカエターノのヴァージョンはなかなかいい。ちなみに、あのライヴ盤、特にDVDの方は、カエターノの最高作と思っている。

「サンバとタンゴ」は、『粋な男ライヴ』CDでもDVDでもオープニング・ナンバーで、同じ演奏なのにDVD版がいいように聞えるのは、映像があるせいなのか。随分後で聴いたカルメン・ミランダ・ヴァージョンにある、タンゴ部分のリズムの面白さは消えているけどね。
話が逸れるけど、カエターノの『粋な男ライヴ』DVD二曲目には、CDにはない「ペカード」が入っている(スタジオ録音の『粋な男』には入っている)。 これがもう最高に官能的で、僕はこれでカエターノのセクシーさにやられてしまった。この眼差しには、どんな性別だろうとみんな惚れちゃうよねえ。
リズム・チェンジが面白いカルメン・ミランダのオリジナル・ヴァージョンも貼っておこう。 今聴くと、カエターノのカヴァーより、カルメンのオリジナルの方が面白いね。タンゴになる部分でバンドネオンも入るというタンゴ・アレンジだ。
カエターノの『粋な男ライヴ』CDは、1996年のリリースだから、とうようさんの『大衆音楽の真実』を読んでからかなり経過している。DVDの方はもう少し遅かったはず。どっちにしても、その頃は、僕の探し方が悪かったんだろうけど、肝心のカルメン・ミランダのCDは、どう探しても見つからず。

21世紀になってから、渋谷にあるエル・スールというワールド・ミュージック・ショップの存在を知り、そこに行ってみたら、いくつかカルメン・ミランダのCDが見つかったんだけど、ちょっと見た感じではあんまり面白くなさそう(って、どこで判断したんだ?)な気がして、買わなかった。

とうようさんの『大衆音楽の真実』では、カルメン・ミランダは渡米前の1930年代の録音が最高だと読んだので、やはりそういうのを聴きたかったんだよなあ。でもって、ブラジル時代のカルメンのCDを初めて入手したのが、いきなりブラジルEMIが出した五枚組ボックス全集だったという、なんかもう。

そのブラジルEMIが出したカルメン渡米前の1930年代録音全集、いつ頃出たもので、僕がそれをいつ頃どこで買ったのか、もうサッパリ憶えていない。ひょっとしたら、カエターノの『粋な男ライヴ』より前だったかもだけど、もう分らない。これはどうやらすぐに入手困難になったらしく、日本では持っている人にあまり会わない。

ブラジルEMIの五枚組付属のブックレットには、ポルトガル語で非常に詳しい解説が載っている。ポルトガル語がよく分らないなりに必死で読んだんだけど、その解説の最初のパラグラフに「カルメン・ミランダとペレは、ブラジル最大のイコンだ」という意味のことが書いてある。へえ、カルメン・ミランダってそんなに凄いのかと。

熱心な音楽ファンになる前の12歳の時、サッカーW杯西ドイツ大会でのヨハン・クライフとオランダ代表に衝撃を受けて以来の熱心なサッカー・ファンである僕は、ペレがブラジルのイコンであることは、非常によく理解していたわけだけど、カルメン・ミランダについては、まだとうようさんの『大衆音楽の真実』でいろいろと読んだだけで、そんなに偉大な歌手だという実感が全然なかったからなあ。

聴いたらすぐにカルメンの歌の虜になってしまった。とにかく声がチャーミングというか凄くカワイイし、しかも技術がとんでもなくハイ・レベルだ。カルメンのレパートリーの多くは、短い小節数の中に、多くの言葉を詰込んだもので、それを機関銃のように繰出すのだが、不自然な感じが全くしない。

不自然な感じがしないどころか、余裕綽々で細かいフレーズを歌いこなし、それがあまりにスムースに聞えるものだから、簡単な歌であるかのように聞えてしまうほどだ。ディクションも正確無比。まあ、こんな歌手はそれまで殆ど聴いたことがないと言ってもいいくらいだった。本当に驚いてしまった。

カルメン・ミランダ全盛期1930年代ブラジル録音は、今では日本のライス・レコードが2002年に出した一枚物CD『サンバの女王』(http://www.amazon.co.jp/dp/B000060N0S/)があって、これに代表曲は殆ど入っているから、是非聴いてほしい。YouTubeにもいろいろと上がっているようだし。

1930年代カルメン・ミランダの歌の中で、個人的に一番気に入っているのが「サンバの帝王」。 凄くチャーミングだし、お聴きになれば分る通り、これこそサンバという典型的なリズムに乗って、カルメンが飛翔する上に、それに一種の「哀感」がある。
その「哀感」を、ブラジルでは「サウダージ」と呼ぶらしい。このフィーリングは、サンバの母胎になったショーロにもあり、サンバ以後のサンバ・カンソーンを経て、その後のボサ・ノーヴァから、現代のMPBにまで脈々と流れているブラジル音楽の特徴らしい。これにハマるとなかなか抜けられない。

ショーロがサンバの母胎となったと書いたけど、正確に言うと、サンバ歌手の伴奏がほぼショーロの演奏家達なのだ。音楽の本質において、ショーロとサンバに(さらには、その後のサンバ・カンソーンとボサ・ノーヴァにも)違いはない。ショーロは19世紀後半に成立したインスト音楽で、サンバより(そして米国ジャズより)古い。

カルメン・ミランダも、ショーロの大家ピシンギーニャの書いた曲を歌ったりもしているし、1930年代ブラジル録音のカルメンの伴奏は、多くがショーロ演奏家なのだ。サンバより数十年前にブラジルで成立したショーロが、サンバ始めその後のブラジル音楽の礎になって、そのフィーリングは今でも流れている。

カルメン・ミランダはといえば、ブラジルで活躍した後、1939年に渡米してハリウッドで活動する。主に女優としてだけど、歌手としても録音している。今は廃盤のとうようさん編纂による『ブラジル最高の歌姫〜カルメン・ミランダ 1939-1950』が、そういう録音の中ではいいものを集めている。

アメリカ時代のカルメン・ミランダに、僕は偏見を持っていて、はっきり言って食わず嫌いだったんだけど、そのとうようさん編纂のMCAジェムズの一枚を買って聴くと、なかなかいいので、それまでの偏見と食わず嫌いを大いに反省した。 一番有名なのはこれかも。
だけど、この「チカ・チカ・ブン・チック」は、僕はそんなにいいとは思わない。ギターもアメリカ時代にしばしば伴奏を務めたガロートじゃないし、カルメンも少し音程を外している。それよりこの「ティコ・ティコ」がいいね。 これがおそらく渡米後の最高作だ。
この「ティコ・ティコ」のYouTube画像にもあるように、渡米後ハリウッド時代のカルメンは、派手な格好で、頭にパイナップルかなんかを乗せて、そこから果物とかがポンポン飛出してきたり、そういう中で陽気に歌うキャラクターだったみたいで、そういう写真を見て、僕も偏見を持っていた。イロモノというか。でも悪くないよね。

しかしそれでも、先の『ブラジル最高の歌姫〜カルメン・ミランダ 1939-1950』でも、全盛期1930年代ブラジル時代の歌唱に及ばない録音が多いのは事実。渡米後一旦ブラジルに帰国した時の反応も、微妙なものがあったようだ。米ハリウッドでの価値はよく分らない僕だけど、サンバ歌手としてはやはり1930年代だよね。

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