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2015/11/14

パーカーと芸能ジャズ

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チャーリー・パーカーの残した全音源のなかで、1947年の「エンブレイサブル・ユー」(2テイク)が一番好き。テーマ・メロディが出てこないあの絶品バラード吹奏があるので、もうそれだけでダイアル録音集が好きなのだ。終盤でマイルス・デイヴィスさえ出てこなければ言うことなしなんだけどなあ。

 

 

 

しかし、これを除けば、ブルーズをたくさんやっていて、しかもタイニー・グライムズやスリム・ゲイラードとの共演もあるサヴォイ録音集の方が面白いよね。昔は、そういうタイニー・グライムズやスリム・ゲイラードとの共演曲には、生真面目なジャズ・ファンは眉をひそめて、飛ばして聴いたりしていたらしいと聞いたことがある。僕も最初は全く同じようなものだったので、なにも言えない。どこがいいのか、サッパリ分らなかったんだなあ。

 

 

「タイニーズ・テンポ」「アイル・オールウィズ・ラヴ・ユー・ジャスト・ザ・セイム」「ロマンス・ウィズアウト・ファイナンス」「レッド・クロス」の四曲12テイクが、パーカーとタイニー・グライムズとの共演で、サヴォイ録音完全集の頭に収録されている。パーカーではなく、グライムズ名義の録音。

 

 

タイニー・グライムズ・クインテット名義の録音だから、グライムズのアルバムにももちろん収録されているその四曲で、タイニー・グライムズは四弦ギターを弾いているだけでなく、ヴォーカルもとっている。今聴くとなかなか面白い味だよなあ。でも普通のジャズ・ファンで面白がる人は少ないだろう。

 

 

ジャズ・ファンは、そういうタイニー・グライムズとの共演曲を、ほぼ完全にパーカーの闊達なソロを聴くためだけに聴いてきたらしい。実際、その1944年録音の四曲でのパーカーは、ボスのグライムズを完全に食っているような雰囲気の強烈な存在感を発揮していて、この時点で既に完成している。

 

 

ネットで少し調べてみても、この四曲12テイクについて、もっぱらパーカーのソロの素晴しさを称えるものばかりで、タイニー・グライムズという芸能色の強いR&B寄りのミュージシャンとの共演の意味について説明しているものは、殆どない。若干あるけど、そういうものはパーカーを軽視しすぎだし。

 

 

ある時期以後の僕や多くの音楽リスナーみたいに、シリアスで「芸術的」なジャズと、猥雑で下世話な芸能色の強いジャンプ〜ジャイヴ〜R&B寄りのジャズ系音楽の両方を同じように並べて楽しんでいるファンというのが、案外今でも多くないような気がしているんだなあ。どうもそれらが分離しているよねえ。

 

 

以前も書いたことだけど、日本のジャズ・ファンだって昔は全部同じように楽しんでいたようだ。油井正一さんなどの世代は完全にそうだね。だから油井さんは著作の中でも「ビバップとR&Bには共通項がある」と書いていた。こういう視点は、油井さん以後の例えば粟村政昭さんなどには、全く欠如している。

 

 

ジャズ音楽にも、戦前のものには芸能色が非常に強かったというか、芸術色と芸能色が全く切離せない不可分一体のものとして存在していたわけで、このことは今までも何回か書いた。そしてそんなジャズ音楽が、芸能色を切捨てて、ほぼ芸術一色でやるようになったのが、ビバップ以後のモダン・ジャズだ。

 

 

チャーリー・パーカーは、そのビバップの第一人者なわけで、「芸術音楽」モダン・ジャズの神様的存在なのだから、そういうパーカーの録音集に、タイニー・グライムズみたいな人との共演曲があることは、まあ許しがたいとまでは言わなくても、ちょっと避けて通りたいようなものなんだろう。

 

 

パーカーのサヴォイ録音完全集には、最後に1945年録音のスリム・ゲイラードとの共演曲も収録されていて、「ディジーズ・ブギ」「フラット・フット・フルージー」「パピティ・パップ」「スリムズ・ジャム」の四曲六テイク。それもパーカー名義ではなくゲイラード名義になっている。

 

 

これらも当然ながらスリム・ゲイラードの録音集にも収録されていて、ゲイラードはギターとヴォーカル、そして収録曲のタイトルにあるようにディジー・ガレスピーも参加している。これらも最高に楽しい。特にゲイラードが歌う「フラット・フット・フルージー」なんか、これ以上ないジャイヴな面白さだ。

 

 

黒人芸能史から見て一番面白いのは、サヴォイ録音集の最後にある「スリムズ・ジャム」だと思うんだけど、それについて語り始めると、これまたかなり違う話になってしまい、しかもかなり長くなってしまうので、どういうことか興味のある方はこちらをどうぞ。

 

 

 

タイニー・グライムズもスリム・ゲイラードも、1930年代末〜40年代前半が全盛期だった黒人ジャズ・ミュージシャンで、楽器は主にギターで歌も歌う。ジャズと言っても、かなりR&B寄りのジャイヴな持味の人達だ。こういう人達の楽しい音楽を、真面目なジャズ・ファンは長年蔑視してきた。

 

 

書いたように、そういうものも昔のジャズ・ファンは楽しんでいたようなんだけど、日本で本格的にジャイヴやジャンプなどの芸能ジャズをちゃんと紹介したのは、一般的にはやはり中村とうようさん編纂の『ブラック・ミュージックの伝統』2LP上下巻が1975年に出てからなんだろう。ジャズ系は上巻。

 

 

『ブラック・ミュージックの伝統』は、1996年のCDリイシューの際、中村とうようさん自身が大幅に中身を改訂し、解説も書直している。それも今は廃盤だけど、中古でなんとか入手できるみたいだから、手に入るうちにお買いになることをオススメする。ジャズ・ファンは<ジャズ、ジャイヴ&ジャンプ篇>だけでも。

 

 

LP盤が出たのは1975年だけど、僕が買って聴いたのは大学生の終りの1983年頃だった。それにハマって、それ以後は、ジャズ系音楽に関してもかなり見方が変化した。それ以前から戦前ジャズが大好きだったから、ジャイヴなキャブ・キャロウェイ楽団や、カンザスのジャンプ系バンドとかも好きではあったけど。

 

 

ルイ・アームストロングの1920年代録音にも、相当に芸能色の強い要素を感じてそれを楽しんでいた(つまり、その点では粟村さんなどとは正反対)し、他にもいろんな(後でこの名前を知る)ジャイヴやジャンプ系のジャズも、シリアスなものと並んで、というか区別せずに楽しんでいたんだよなあ。

 

 

しかしながら、ビバップ以後のモダン・ジャズには、当時の僕はそういう芸能要素は殆ど感じなかったので、それの第一人者であるチャーリー・パーカーの音楽も、完全にシリアスなものだとしか考えていなかった。もちろん言うまでもなく、シリアスな芸術音楽としてパーカーはとんでもなくレベルが高い。

 

 

ダイアル録音の「エンブレイサブル・ユー」2テイクなどは、ジャズマンによるバラード演奏では、ジャズ史上一番素晴しいものじゃないかとすら思っているし、同じダイアルの「チュニジアの夜」の失敗テイク「フェイマス・アルト・ブレイク」や、サヴォイの「スライヴィング・オン・ア・リフ」も最高だ。

 

 

しかし、もう一度振返ってみよう。独立前のパーカーは、カンザスのビッグ・バンド、ジェイ・マクシャン楽団に在籍していた。ジェイ・マクシャン楽団は、他のカンザスのバンド同様、いわゆるジャンプ・ブルーズの代表的存在で、パーカーと同時期にR&Bシンガーのウォルター・ブラウンを雇っていた。

 

 

油井正一さんが「ビバップとR&Bには共通項がある」と書いたのは、こういう事実も踏まえてのことだったんだろう。言うまでもなく1940年代のジャンプ・ミュージックは、そのままR&Bを生み、ロックンロール誕生の一つの母体にもなった。なおかつ、ジャンプは最高のビバッパーも生んだわけだ。

 

 

そういう経緯を踏まえると、パーカーのサヴォイ録音にあるタイニー・グライムズやスリム・ゲイラードとの共演曲を、決して看過できないはずだ。看過できないどころか、むしろそっちの方が、シリアスなジャズ録音より面白いんじゃないかとすら思えてくるんだなあ。ある時期からの僕はそうだ。

 

 

そんな芸能的なパーカーの楽しさは、ダイアル録音では殆ど分らない。ダイアル録音はほぼ完全にシリアスな芸術ジャズだ。サヴォイ録音でないと分らない。そしてさらに言えば、サヴォイ録音にたくさんあるブルーズ演奏を聴くと、ジェイ・マクシャン楽団時代に培われたであろうリズム感覚も生きているんだなあ。

 

 

もちろんジャズでもなんでも、芸術と芸能をことさらに区別する必要もないというか、あまりやりすぎるとかえっておかしなことにはなりはするけれど、そうでもしないとなかなか伝わらない部分があるからなあ。

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