『チキン・スキン・ミュージック』とギター音楽
以前、ライ・クーダーの「オールウィズ・リフト・ヒム・アップ」(〜「カナカ・ヴァイ・ヴァイ」)のことをツイートしていた人がいたけど、僕がハワイのギター音楽を初めて知ったのは、これが入った『チキン・スキン・ミュージック』だった。きっかけは中村とうようさんの『大衆音楽の真実』で読んだから。
そのとうようさんの『大衆音楽の真実』には、ライ・クーダーとギター音楽について割いた一章があって、その中で、とうようさんは、『チキン・スキン・ミュージック』こそがライの最高傑作だと書いていた。それを読んだ僕は、すぐに『チキン・スキン・ミュージック』を買って聴いてみたのだった。
『大衆音楽の真実』が出た後だから、1980年代末頃だ。かなり遅いよねえ。大学生の頃、ジャズばかり買っていた僕は、一部例外を除き、ロック・ミュージシャンを本格的に聴始めるのが遅かったんだけど、ライ・クーダーは『ジャズ』というレコードだけ当時買っていた。
もちろんそれはタイトルに惹かれただけ。聴いてみたら普通のジャズではなかったし、ビックス・バイダーベックの曲もあったりしたけど、それも想像していた演奏とは違ったし、イマイチな感じしかしなかった。この『ジャズ』というアルバムの真価が分るようになったのは、他のいろんな音楽を聴いてから。
『ジャズ』は、本流ジャズだけ聴いていては面白さが分らないアルバムだと思う。大学生の頃の僕が、まさにそうだった。アルバム・タイトルもどうして『ジャズ』なのか、その意味もよく分ってなかったもんなあ。間違っているんじゃないかとすら思ったもん。今ではあんな面白いアルバムもないと感じる。
それはともかく、『チキン・スキン・ミュージック』。最初に聴いた時に一番いいなと思ったのは、B面一曲目の「スマック・ダブ・イン・ザ・ミドル」だった。なんかえらくカッコいいなあって。ライの弾くスライド・ギターもカッコいいし、ジム・ケルトナーのドラムスもストンと決って気持良かった。
ごく普通のロック的な意味合いでは、今でもその「スマック・ダブ・イン・ザ・ミドル」が、アルバムの中で一番カッコイイような気がしている。まあ分りやすかったよねえ。それに続く「スタンド・バイ・ミー」とかは、ジョン・レノンのヴァージョンで親しんでいたので、ちょっと良さが分らなかった。
『大衆音楽の真実』でとうようさんは、A面三曲目の「オールウィズ・リフト・ヒム・アップ」〜「カナカ・ヴァイ・ヴァイ」をえらく誉めていたんだけど、それもなんかホワ〜ンとした緩い雰囲気なので、最初の頃はイマイチだった。最初は、A面では一曲目の「ブルジョワ・ブルーズ」が好きだったなあ。
最初の頃にもう一つ好きだったのが、B面の「クロエ」。1920年代からある古い曲、ということは後から知ったのであって、当時はデューク・エリントン楽団1940年ヴィクター録音で知っていた曲だった。 ライのヴァージョンとは全然違う。
エリントンの方には「ソング・オヴ・ザ・スワンプ」という副題が付いているんだけど、トリッキー・サム・ナントンのワーワー・ミュートによるトロンボーンが、沼地というか、完全にお馴染みのジャングル・スタイル。これも好きだったんだけど、これに関しては、ライのヴァージョンの方が好きになった。
しばらく聴続けるうちに、「オールウィズ・リフト・ヒム・アップ」〜「カナカ・ヴァイ・ヴァイ」や「イエロー・ロージズ」や「クロエ」でのギターの絡みが凄く面白くなってきて、虜になってしまった。「カナカ・ヴァイ・ヴァイ」はハワイの伝承曲。
これを聴くと、歌のラインをライはギターで弾いていることが分る。もっとも、ギャビー・パヒヌイとアッタ・アイザックスが参加しているのは、「イエロー・ロージズ」と「クロエ」の二曲で、この曲の演奏にはハワイ人ギタリストは参加していない。でもライは自分でスラック・キー・ギターも弾いている。
『チキン・スキン・ミュージック』での「カナカ・ヴァイ・ヴァイ」は、米本土のマウンテン・ミュージック「オールウィズ・リフト・ヒム・アップ」の間奏部として、凄く自然に繋がっているから、ボーッと聴いていると気付きにくい。僕は最初、全く分っていなかった。他の人はそんなことないのかなあ?
ハワイアン・スラック・キー・ギター(スラック=緩める、ということで、チューニングを緩めて、ハワイ独特のオープン・チューニングにしたギター)が大好きになって、そういうのを集めたアンソロジー・アルバムも結構買って聴くようになった。ハマるとたまらないんだよねえ、スラック・キー・ギター。
一曲目の「ブルジョワ・ブルーズ」でも他の多くの曲でも、アルバムのクレジットを見ると、ライがギターの他に”bajo sexto”という楽器(その他いろいろ)を弾いていることになっていて、このバホ・セクストがどういう楽器なのかは、しばらく分らなかった。これはメキシコ由来の12弦6コースのギター族楽器。
バホ・セクストがどんな楽器なのかとか、その他だいたいなんでも、今はネットで調べればなんでもすぐに分る。”bajo sexto”でググればWikipediaの記述も出てくるから、英語が読めれば困らない。画像も出てくる。
ライ・クーダーが、ギターやバホ・セクストのみならず、フレットの付いたギターっぽい弦楽器なら、世界中のものをほぼなんでも弾きこなしてしまう達人であることを、すぐに知ったのだった。それも含め、『大衆音楽の真実』のその章の記述に導かれて、世界中のギター系音楽の歴史に興味が湧いたわけだ。
そうなってくると、『チキン・スキン・ミュージック」で、米本土のギター・ブルーズ等ルーツ音楽とハワイのギター音楽とテキサス音楽(テックス・メックス)が、違和感なく共存しているのが、必然であると分ってくる。最初にハワイにギターを持込んだのは、北米(メキシコ)のカウボーイだったらしい。
もっとも、ライも語るその定説は、本当にそれだけなのかなと今では少し疑問に思う部分もある。というのも、スペインやポルトガルが世界中の海を席巻していた時代に、彼らが渡った国々にギターを持込んでいて、ポルトガルは日本にも来たんだから、ハワイやミクロネシアにだって来ていてもおかしくない。
ポルトガル由来ということで言えば、ブラジルのショーロとインドネシアのクロンチョンだって、同じルーツの楽器を使っているわけだし、音楽的にも似通っている部分がある。ハワイにだって、ポルトガルから来たのと北米(それだってスペイン由来だ)から来たとの、両方ありそうじゃないか。
ハワイのウクレレがポルトガル由来であることははっきりしているんだから、彼らが持込んだのがウクレレ(の原型楽器)だけで、ギターの方は持込まなかったのだという方がおかしいよねえ、どう考えたって。ポルトガル人が、ウクレレと一緒にギターもハワイに持込んだと考える方が自然じゃないかなあ。
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興味深い記事ありがとうございます。
この記事を読んでいて思い出したのがメキシコのギタリスト(アントニオ・ブリビエスカ)です。
スラッキーの様なポルトガル・ギターの様な不思議な音色でです。
ジャケットを見る限り普通の6弦のガット・ギターなのですがスチール弦の様な気がします。
メキシコ音楽は詳しくないので余り解らないのですが。伝統的な奏法なんでしょうか。
ネットで調べてもよく解りません。詳しい方教えて下さい。
投稿: えすぺらんさ | 2015/11/25 22:07
えすぺらんささん
そのアントニオ・ブリビエスカという人、僕は全くの初耳です。実を言うとメキシコ音楽についてはずぶの素人なんです。ちょっと探して聴いてみて、なにか分れば報告します。
投稿: としま | 2015/11/25 22:23
Antonio Bribiescaですね。ちょっとアマゾンで検索してみたら、CDがどれもこれも廃盤で中古が超高値になっていて困りました。でもYouTubeで少し聴けるようなので、ちょっと聴いてみましょう。
投稿: としま | 2015/11/25 22:33
愛媛県立図書館にレコード「アントニオ・ブリビエスカの芸術」があるみたいですよ。
投稿: えすぺらんさ | 2015/12/04 22:31
えすぺらんささん、それは朗報!時間のある時に出向いてみます!情報、サンクスです!
投稿: としま | 2015/12/04 23:37