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2015/11/06

マイルス&ギルのコラボ・アルバム

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マイルス・デイヴィスがギル・エヴァンスのアレンジ・指揮のオーケストラと共演した一連のアルバムでは、『マイルス・アヘッド』が一番好きで、これが最高傑作だと思っている。これは、コンボ物を含めても、アクースティック・マイルスのアルバムで一番好きだということは、以前も書いた。

 

 

大学生の頃は『ポーギー・アンド・ベス』と『スケッチズ・オヴ・スペイン』の方が断然好きで、『マイルス・アヘッド』はなんかちょっと軽薄というか、イージー・リスニングみたいな印象で、本格ジャズな感覚ではあまり面白くないと感じていたのだった。

 

 

相当後になって、中山康樹さんが『マイルスを聴け!』の中で、ひょっとしてコロンビアは、移籍第一作の『マイルス・アヘッド』をイージー・リスニング風な体裁で売ろうとしたのではないかと書いたことがあった。第一、あのヨット+白人女性のジャケがそんな感じだし。

 

 

そんなオリジナル・ジャケットの印象と、かなりスムースに流れすぎる音楽のせいもあって、濃厚で硬派な印象の『ポーギー・アンド・ベス』『スケッチズ・オヴ・スペイン』に、大学生の頃は軍配を上げていた。

 

 

特に『スケッチズ・オヴ・スペイン』が大好きで、一曲目の「アランフェス協奏曲」に感動して、繰返し聴いていたのだった。四ッ谷いーぐるの後藤雅洋さんによれば、かつてのジャズ喫茶リクエストで、1964年の『マイ・ファニー・ヴァレンタイン』と並んで、一番人気のあったマイルス盤だったらしい。

 

 

ということだから、僕だけじゃなく、やはり一般的に『スケッチズ・オヴ・スペイン』は人気があって、好きな人が多かったわけだね。そしてもちろん今でもそうらしい。やはり一曲目の「アランフェス協奏曲」が、いわゆる<クラシック・ミーツ・ジャズ>の分野での金字塔と見做されているのも、確かだ。

 

 

僕も大学生の頃は数え切れないほど聴いた『スケッチズ・オヴ・スペイン』だったけど、ある時期以後苦手になってしまい、特に一曲目の「アランフェス協奏曲」は、ダサくすら感じるようになってきた。他の曲も含めて、アルバム全体の雰囲気がやや重すぎて、もう七年に一回くらいしか聴かない。

 

 

「アランフェス協奏曲」は、もう全く聴く気がせず、それよりもB面の方がいいように思えてきた。特にラストの「ソレア」、これは名演だろう。これはスパニッシュ・スケールを使ったギル・エヴァンスのオリジナル。ひたすらマイルスが独り荒野を行くようなソロを吹く。

 

 

「ソレア」でのマイルスの長尺ソロは、スパニッシュ・スケールで吹いた数多いマイルスのソロの中では、(次作『サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム』の「テオ」でのソロと並び)多分最高傑作じゃないかと思っている。同じことを、イアン・カーがマイルス本の中で述べていた。「アランフェス」じゃなく、こっちがハイライトだ。

 

 

今ではその「ソレア」のマイルスの情熱的なソロくらいしか聴き所がないと思う『スケッチズ・オヴ・スペイン』に比べたら、その前の1958年『ポーギー・アンド・ベス』は、大学生の頃から現在に至るまで、まだまだ好きなアルバムだ。実を言うと、ジャズマンがやった『ポーギー・アンド・ベス』は、これしか聴いたことがない。

 

 

ただ『ポーギー・アンド・ベス』には、スタジオ使用の時間的制約によるリハーサル不足のせいか、アンサンブルが乱れる箇所が散見されるのが、やや残念。ギル自身も後年、今となってはコロンビアにもう少し時間をくれと言えばよかったと述懐している。

 

 

そこいくと、コロンビアでのマイルス&ギルの第一作『マイルス・アヘッド』には、そんなアンサンブルの乱れは一切存在せず完璧だから、これは移籍後初録音ということで、マイルスとギルとコロンビアも気合が入っていたというか、たっぷり時間をかけたということなんだろうかなあ。

 

 

なお、『ポーギー・アンド・ベス』でのマイルスは、トランペットとフリューゲルホーンを吹分けているようだ。曲によって、トーンが違うので、おそらくそのはず。ギルとの一連のコラボ作では、それ以外では『マイルス・アヘッド』が全面的にフリューゲルホーン、それ以外は全部トランペットだけのはず。

 

 

『ポーギー・アンド・ベス』と『スケッチズ・オヴ・スペイン』は、大学生の頃は、特に真夏の昼間によく聴いていた。まさにピッタリって雰囲気だよねえ。「サマータイム」だけは夜のムードが似合うけど。B面一曲目の「祈り」が、スローなゴスペル風の曲で、アンサンブルもマイルスも素晴しすぎる。

 

 

同じくA面の「ゴーン、ゴーン、ゴーン」も同じ風な祈りを捧げるようなスローなゴスペル風な曲調で、これも大好きなナンバーだった。この曲の前に「ゴーン」というギルのオリジナル・ナンバーが入っていて、聴く限りでは「ゴーン、ゴーン、ゴーン」にインスパイアされて作った曲のように聞える。

 

 

この二曲、タイトルも作風もソックリだから、時々どっちがどっちだったか、分らなくなる。その上、ギル自身のバンドの1980年のNYライヴ『ライヴ・アット・ザ・パブリック・シアター』では、その「ゴーン」を再演して、「ゴーン、ゴーン、ゴーン」の曲名でで記載されているので、余計に紛らわしい。

 

 

「祈り」でも「ゴーン」でも「ゴーン、ゴーン、ゴーン」でも、誰でも即座に分る露骨なアンサンブルの乱れが聴かれて、ギルの述懐通り、スタジオ使用時間制限のリハーサル不足による準備不足による乱れは、一連のマイルスとのコラボ作の中でも、この『ポーギー・アンド・ベス』が一番ひどい。やや気になる。

 

 

さて、大学生の頃によく聴いた『スケッチズ・オヴ・スペイン』と『ポーギー&ベス』よりも、最近は『マイルス・アヘッド』の方が断然いいと感じるようになり、こっちを頻繁に聴くようになった。一種の軽快さというか、爽快な感じがする。これは僕も歳取ったせいなのかなあ?

 

 

もっともその大好きになった『マイルス・アヘッド』も、「ブルーズ・フォー・パブロ」で始るB面はそれほどでもないような気がする。大好きでたまらないのはA面だね。A面は編集によって一続きのメドレーのようになっていて、組曲みたいな感じで聴けるのもいい。マイルスかギルの意図なのかどうか知らないけど。

 

 

特にたまらなく好きなのが二曲目のレオ・ドリーブ作曲の「カディスの乙女」、四曲目のクルト・ワイル作曲の「マイ・シップ」という二つのスロー・バラード。もうこの上なく美しいよね。1950年代にマイルスが吹いたバラード・ナンバーでは最高の出来だ。ギルのアレンジも見事だというしかない。

 

 

はっきり言ってしまえば、その「カディスの乙女」「マイ・シップ」という二曲の極上のバラードがあるおかげで、僕は『マイルス・アヘッド』が、電化前のアクースティック時代のマイルスでは一番好きなアルバムだと思っているくらい。ハーマン・ミュートで吹くコンボでのバラード作品よりいいと思う。

 

 

コロンビア移籍後の一連のマイルス+ギルのコラボ作品では、これら三作の後に、ライヴ盤の『アット・カーネギー・ホール』と、スタジオ作の『クワイエット・ナイト』があるけど、この二つは個人的にはまあオマケみたいなもんだ。前者のライヴ盤は、一連のコラボ物では一番好きだという人もいるけど。

 

 

『アット・カーネギー・ホール』が一番いいという人は、おそらく全員、「ソー・ホワット」とか「ノー・ブルーズ」とかでのコンボ演奏の素晴しさを指摘しているんだろう。それらは確かに猛烈に素晴しいと僕も思う。だけど、それはあくまでコンボとしていいのであって、ギルとの共演という側面は薄い。

 

 

マイルスとギルとの正式共演は、1968年の「タイム・オヴ・ザ・バラクーダー」「フォーリング・ウォーター」が最後だけど、その後も時々ギル個人はマイルスの録音に関係していて、同じ68年の『キリマンジャロの娘』や83年の『スター・ピープル』や84年の『デコイ』でも、一部でアレンジを書いている。

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