スペンサー・ウィギンズ〜フェイム録音の衝撃
スペンサー・ウィギンズというソウル歌手を知ったのは、1995年にパソコン通信を始めてからのこと。僕はだいたいソウル・ミュージックについてはかなり疎かったし、今でも特にサザン・ソウルについては疎い。それは基本的にシングル盤の世界だということもあるんだろう。
大学生の頃にレコードを持っていたサザン・ソウルの歌手はオーティス・レディングだけ。なぜオーティスだけ買っていたのかよく分らないけど、超有名人だから、おそらくなにかで凄い歌手だという文章を見ただけだろう。とはいえ、持っていたのはエンジ色ジャケットの二枚組ベスト盤と、ビートルズ・ナンバーとかも歌っている欧州でのライヴ盤だけだった。
パソコン通信〜メーリング・リスト時代の知合いに、大阪に住むソウル・コレクターの方がいて、7インチのシングル盤なども非常にたくさん蒐集していた。その方が、フェイム・レーベルのシングル集コンピレイションCDRを焼いて送ってくれたことがあった。まだYouTubeとかはなかった時代。そうでもするしかなかった。
そのフェイム・シングル集CDRの一曲目がスペンサー・ウィギンズの「アイド・ラザー・ゴー・ブラインド」で、聴いた瞬間に、もうこれ一発で完全にやられてしまったのだった。衝撃だった。今はYouTubeに上がっているから誰でも簡単に聴ける。
「アイド・ラザー・ゴー・ブラインド」は、エタ・ジェイムズのヴァージョン(『テル・ママ』収録)で知っていた曲だったけど、スペンサー・ウィギンズのを聴いたら、そっちの方が圧倒的に好きになってしまった。今でもエタのヴァージョンの方が有名なはず。だってオリジナル録音だから。
エタのヴァージョンも一応貼っておこう。 エタの方には、さっき貼ったスペンサー・ウィギンズのようなド迫力はない。恋人を失う悲しみをしっとりと歌い上げる感じだ。歌詞の内容からしたら、どっちかというとエタのヴァージョンの方が相応しい歌い方なのかも。
スペンサー・ウィギンズの方は、とにかく出だしの "Something told me it was over" だけで、完全にKOされてしまう。されない人はいないはずだ。心臓を鷲掴みにされてしまう。恋人を眼前で失う悲しみを歌う内容だから、こんなド迫力もどうかという感じではあるけど。
スペンサー・ウィギンズ・ヴァージョンを最初に聴いた瞬間に、こんな強靱な声の持主は、男性歌手ではサリフ・ケイタとヌスラット・ファテ・アリ・ハーンくらいしか聴いたことがないと思ったくらいだった。それまで僕が聴いていた男性ソウル歌手の中では、圧倒的にナンバーワンだった。
僕の記憶では、そのスペンサー・ウィギンズの「アイド・ラザー・ゴー・ブラインド」入りフェイム・シングル集CDRを、大阪在住のソウル・コレクターの方が作って送ってくれたのが、1998年か99年だった。瞬間的にノックアウトされ、この歌手の虜になった僕は、CDアルバムがないか探してみた。
頼りにしたのは、鈴木啓志さん編纂の『US・ブラック・ディスク・ガイド』で、なにかスペンサー・ウィギンズのアルバムが載っていた。今その本が手許にないから、なにが載っていたのか分らないけど、とにかく当時は全く見つからなかったのは確かだ。あの本にはLPも載っていたから、LPだったのだろうか?
というわけで、CDショップでいくら探してもスペンサー・ウィギンズのアルバムは見つからないので、しばらくは、そのコンピレイションCDRだけが頼りというか、それに入っている「アイド・ラザー・ゴー・ブラインド」だけ聴いていたのだった。はっきり言ってそれ一曲で充分お腹いっぱいになるくらいだったし。
初めてスペンサー・ウィギンズのCDを買ったのは、2006年に英ケントがリリースした『ザ・ゴールドワックス・イヤーズ』だった。ケントにはそれまでも相当お世話になっていたけど、このCDリリースは嬉しかった。僕はゴールドワックスはジェイムズ・カーのイメージが強かったけど。
ジェイムズ・カーは、それまでに二枚ほど出ていたCDを買ってよく聴いていた。やはりゴールドワックスの『ユー・ガット・マイ・マインド・メスド・アップ 』とか、同じ頃にやっぱりケントからリイシューされたゴールドワックスのシングル集とか。大変素晴しい内容だった。
もちろん、そのジェイムズ・カーの二枚のCDアルバムも、ケントのCDリイシューは21世紀になってからだったから、僕みたいにソウル・ミュージック、特にサザン・ソウルを相当遅れて聴始めたリスナーにとっても、待ちに待ったというか、ようやくという感じだった。
スペンサー・ウィギンズの方は、その『ザ・ゴールドワックス・イヤーズ』が2006年に出たのをすぐに買って愛聴したわけだけど、僕の大好きなフェイムの音源はやっぱりCDリイシューされないから、悔しいというか残念というか、まあしょうがないんだろうなと、半ば諦め気分だった。
その頃には、サザン・ソウルが基本的にシングル盤中心の世界だということが分っていたし、一部の有名歌手以外は、なかなかそういうシングル曲をまとめてCDリイシューされていないことも知っていた。フェイムとかゴールドワックスとかのシングル盤蒐集というのも、僕みたいな他人頼みの甘ったれたソウル・リスナーには、しんどい。
スペンサー・ウィギンズのフェイム録音集は、ちゃんとしたCDリイシューを殆ど諦めていたんだけど、それだけに、そのスペンサー・ウィギンズのフェイム集が、これまたケントからまとめてCDリイシューされるというニュースを耳にした時は、跳上がるほど喜んだ。もうこれ以上の喜びはなかったね。狂喜乱舞とはあの時のこと。
それがわずか五年前の2010年のこと。『フィード・ザ・フレイム:フェイム&XL・レコーディングズ』。一度聴いて以来大好きでたまらない「アイド・ラザー・ゴー・ブラインド」も当然入っていて、ソウル系のCDリイシューで、これほど待望み、嬉しかったものはない。
「アイド・ラザー・ゴー・ブラインド」も、今まではシングル盤起しのCDRで聴いていたから、当然ながらスクラッチ・ノイズが入っていた。僕は古いSP盤起しのジャズやブルーズも好んでたくさん聴くから、それは全然気にはならなかったんだけど、ケントのリイシューCDは、もちろんオリジナル通りの迫力ある音だ。
それで、個人的な意見では、サザン・ソウル最高の男性歌手だと思い始めていたスペンサー・ウィギンズの全盛期録音シングル集を、ゴールドワックスとフェイムの二つ、どっちも揃って英ケントから、ちゃんとした形でしっかりとCDリイシューされて、大満足。本当にケント様々だね。
スペンサー・ウィギンズの音源って、上記のどっちも英ケントからのリイシュー『ザ・ゴールドワックス・イヤーズ』と『フィード・ザ・フレイム』の二枚のCDで全部なのだろうか?どなたか詳しい方、教えてください!
« 最初に買った洋楽レコード〜ビリー・ジョエル | トップページ | 分りやすかったアルバート・アイラー »
「リズム&ブルーズ、ソウル、ファンク、R&Bなど」カテゴリの記事
- いまだ健在、往時のままのメンフィス・ソウル 〜 ウィリアム・ベル(2023.08.24)
- こうした音楽を心の灯にして残りの人生を送っていきたい 〜 カーティス・メイフィールド『ニュー・ワールド・オーダー』(2023.08.03)
- さわやかでポップなインスト・ファンク 〜 ハンタートーンズ(2023.07.17)
- コンテンポラリーR&Bもたまにちょっと 〜 ジョイス・ライス(2023.06.21)
- アダルト・シティ・ソウルの官能 〜 スモーキー・ロビンスン(2023.05.28)
コメント