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2015/11/09

英米大衆音楽におけるクラーベ

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ネヴィル・ブラザーズもやっているミーターズの代表曲にして、ニューオーリンズ・ファンクのアンセム「ヘイ・ポッキー・ア・ウェイ」には、ラテンというか、キューバの3−2クラーベの感覚がある。1974年スタジオ録音のオリジナルが既にそんな感じだ。

 

 

 

もっとよく分るのが、このスタジオ録音の翌年1975年のライヴ・ヴァージョンで、 これはもう誰が聴いても3−2クラーベでしかない。このライヴ・ヴァージョンにはスタジオ・ヴァージョンにあるホーン・セクションが入っておらず、リズムの骨格が露になっているせいかも。

 

 

 

もっともこれがネヴィル・ブラザーズの1981年『フィヨ・オン・ザ・バイユー』収録ヴァージョンだと、そのフィーリングが薄くなっているんだよなあ。 テンポも速くなって、ミーターズのヴァージョンにあるリズムのタメがなくなっている。

 

 

 

やっぱりこういうリズム感覚というかノリの違いが、似たようなメンツとレパートリーでも、最近はネヴィル・ブラザーズよりミーターズの方がいいなと思うようになった理由の一つなんだろう。どっちもニューオーリンズ・ファンクの代表的なバンドだけど、ミーターズのシンコペイションの方が面白いんだよねえ。

 

 

ただ、ミーターズのノリには独特のものがあるので、馴染の薄いリスナーにはネヴィル・ブラザーズのリズム感覚の方が親しみやすいだろう。僕も以前はそうだった。ネヴィル・ブラザーズは、ミーターズのニューオーリンズ・ファンクの本質をほぼそのまま引継いで、それをより一般ウケしやすいように分りやすくしたというイメージ。

 

 

もちろんネヴィル・ブラザーズにだって、3−2クラーベ感覚を活かしたナンバーが結構ある。1984年のライヴ・アルバム『ネヴィライゼイション』にも「モージョー・ハンナ」とか「フィア、ヘイト、エンヴィ、ジェラシー」とか、有名なエリントン・ナンバーの「キャラヴァン」などがそうだ。

 

 

エリントン(というかファン・ティゾル)の「キャラヴァン」は、最初からアフロ・キューバンな曲なので、そのネヴィル・ブラザーズ・ヴァージョン(インストルメンタル)に、3−2クラーベのパターンが入るのは、極めて自然だ。エリントン自身のヴァージョンだって、そうなっている。

 

 

また、このアルバムでは、プロフェッサー・ロングヘアの「ビッグ・チーフ」もやっていて、ここでも完全に3−2クラーベ感覚のリズムだ。この曲だって、フェスがやった最初からラテン感覚を活かした曲、というかフェスのナンバーはどれもこれもそんな感じだ。

 

 

プロフェッサー・ロングヘアもミーターズもネヴィル・ブラザーズもニューオーリンズの音楽家。ニューオーリンズはメキシコ湾に拓けた港町(というわりには、河口からやや距離があるけど)だから、昔から音楽面含め、中米カリブ海文化が多く流入していた。その影響は明々白々。

 

 

同じニューオーリンズの音楽家(といっても、主にロサンジェルスに拠点を置いていたけど)であるドクター・ジョンの、ニューオーリンズ古典集『ガンボ』一曲目の「アイコ・アイコ」なんか、3−2クラーベのパターンがはっきりし過ぎているくらいだということは、以前書いた。

 

 

ニューオーリンズのポピュラー・ミュージックには、この手のラテン感覚のリズムを活かしたものが、それはもう無数にあって、3−2クラーベのパターンは、もはやニューオーリンズ音楽の根幹を成す重大要素だと言えるほど。一般のロック・ファンは、<ボ・ディドリー・ビート>の名前で知っているはず。

 

 

いわゆるボ・ディドリー・ビートは、完全に3−2クラーベのリズム・パターンだ→ https://www.youtube.com/watch?v=8XxGUIbYjmY これ以後のロックに非常に大きな影響を与えたもので、一例を挙げればローリング・ストーンズのバディ・ホリー・カヴァー「ナット・フェイド・アウェイ」もそうだ。

 

 

「ナット・フェイド・アウェイ」は、バディ・ホリーのオリジナルが元々ボ・ディドリー・ビートだけど、ストーンズは最初1964年にカヴァーし、さらに94/95年のワールド・ツアーのオープニング・ナンバーに選ばれて、その際は、ボ・ディドリー・ビートをより強調したアレンジになっていた。

 

 

1964年の最初のカヴァーがコレ→ https://www.youtube.com/watch?v=shQQuLULa7U  そして94年のライヴではこんな感じ→ https://www.youtube.com/watch?v=hztmgUnRdqo  僕が観た95年の東京ドーム公演も、まさにこのままの感じだった。同年録音の『ストリップト』収録ヴァージョンも似ている。

 

 

だいたい、アメリカ大衆音楽においてこのリズム・パターンが最初に有名になったのは、ジョニー・オーティスが1940年代末か50年代初頭に使い始めたせいらしい。51年の「マンボ・ブギ」。 これに既にそんなフィーリングがある。

 

 

 

ジョニー・オーティスがこのリズム・パターンを使ったもので一番有名なのは、おそらく「ウィリー・アンド・ザ・ハンド・ジャイヴ」だろう。 これはクラプトンもカヴァーしている。もっともこれは1958年だから、既に全米でボ・ディドリー・ビートが流行済の時期だったはず。

 

 

 

ジョニー・オーティスと同じ頃か、あるいはもうちょっと早かったのか、プロフェッサー・ロングヘアが「マルディ・グラ・イン・ニューオーリンズ」で、裏クラーベともいうべき2−3クラーベを使っている。 1948年の録音だから、こっちの方が早いのか?

 

 

 

アメリカ大衆音楽で、最も早くクラーベのパターンを使ったのは、1944年アンドリュー・シスターズの「ラム・アンド・コカ・コーラ」だとする記述もある。僕が聴いた限りでは、かなりラテン(元がトリニダード・トバゴの曲)だけど、クラーベの感覚は弱いように思える。

 

 

 

同じアンドリュー・シスターズによる同じ曲でも、このキャピトル・ヴァージョン再演には、はっきりとクラベスが刻む3−2クラーベが入っているけど、これは1956年録音(もう一回61年にも録音しているが、ヒットしたのは44年ヴァージョン)。

 

 

 

クラーベのパターンには、普通の3−2クラーベと、休符から入る2−3クラーベ(裏クラーベ)があって、僕はリズムがひっくり返ってシンコペイトする2−3クラーベの方が好きなのだ。でもキューバ音楽には多いけど、アメリカ大衆音楽で、この2−3クラーベを使っているものは少ないね。

 

 

もちろんアフロ・キューバン音楽がアメリカで流行したのは、1940年代末が初めてではない。最初の大流行は1930年代初頭のルンバ・ブーム。「南京豆売り」がアメリカだけでなく世界中で大ヒットして、エリントン楽団も31年に録音している。

 

 

 

でもこのエリントン楽団の「南京豆売り」を聴いても、クラーベのリズム・パターンはかなり弱くしか感じられない。ルンバとは、要するに本国キューバでのソンのことに他ならないんだけど、ソンでは、例えばセステート・アバネーロによる1925年初録音から、そのパターンがクッキリ聴けるのになあ。

 

 

これがキューバのソンの代表的なバンド、セステート・アバネーロの初録音(1925年)→ https://www.youtube.com/watch?v=Uf-rf5EqCpc カンカンと乾いた高い音で鳴っている拍子木みたいな音がクラベスで、3−2のパターンを分りやすく刻んでいる。楽器のクラベスにちなんでクラーベと呼ぶ。

 

 

セステート(後に人数を増やしてセプテート)・アバネーロの1925〜31年の完全集CD四枚組を持っているんだけど、これはもうどの曲を聴いても、全てでクラベスがクラーベのリズムをはっきりと刻んでいる。このリズム・パターンは、ソンの最大の特徴の一つで、ソンのバンドには必ず専属のクラベス奏者がいる。

 

 

リズム&ブルーズ等アメリカの大衆音楽で、このリズム・パターンが(クラベスでではなく、ドラムスやピアノやギターのリフなどで)明確に聴けるようになるのが、さっき書いた1940年代末頃のプロフェッサー・ロングヘアやジョニー・オーティスなどだから、その頃までには血肉化されていたんだろう。

 

 

そしてその後、主にボ・ディドリーを経由して、英国のロック・ミュージシャンにもこのビートが大きく広まった。例えば、レッド・ツェッペリンの1975年『フィジカル・グラフィティ』一曲目の「カスタード・パイ」でも、ギターが刻むのが完全に3−2クラーベだ。そんなこと書いてあるの、見たことがないけどね。

 

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