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2015/12/26

ジョニー・ホッジズのアルトはどうしてこんなにエロいのか?

 

 

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以前デューク・エリントン楽団の『グレイト・パリ・コンサート』のことを少し書いたけど、それは主にエリントンのピアノがセロニアス・モンクのピアノ・スタイルの源流になっているという話だった。冒頭の「ロッキン・イン・リズム」のドライヴ感にKOされたことも書いた。でも最初に聴いた時、感銘を受けたのはそれだけじゃない。

 

 

「ロッキン・イン・リズム」に続く三曲のジョニー・ホッジズをフィーチャーしたメドレーにも、最初に聴いて一回で完全にやられてしまった。「明るい表通りで(On the Sunny Side of the Street)」〜「スター・クロスト・ラヴァーズ」〜「オール・オヴ・ミー」の三曲。

 

 

 

 

1963年の録音で音質がいいこともあって、ジョニー・ホッジズの艶っぽいアルト・サックスの魅力が非常によく分る。初めて買ったエリントン楽団のレコードだったんだから、当然ながらホッジズのアルトを聴いた最初でもあった。

 

 

特に「明るい表通りで」は、ホッジズの十八番(オハコ)。これをエリントン楽団がライヴでやる時は、いつでもホッジズをフィーチャーしていた。もっとも、この曲をホッジズが初めて吹いたのは、エリントン楽団でではない。1937年のライオネル・ハンプトンのヴィクター録音に参加して吹いたのが初。

 

 

 

歌っているのはハンプトン。この1930年発表の曲のジャズマンによる初演は1933年のルイ・アームストロングによるもので、戦後もしばしば演奏して歌っているでの、サッチモのヴァージョンで馴染み深いファンも多いはず。

 

 

僕にとっては、この「明るい表通りで」という曲は、やっぱりホッジズのアルト演奏なんだなあ。エリントン楽団では、アイヴィー・アンダースンの歌をフィーチャーして、ハンプトンのヴィクター録音の翌年1938年に、コットンクラブでライヴ録音したのが初。ホッジズのアルトも歌が出る前に出てくる。

 

 

余談だけど、ハンプトンの1930年代後半ヴィクター録音で、ホッジズが出てくる曲の中で、昔から一番好きなのが、この「リング・デム・ベルズ」。素晴しい疾走感だよねえ。クーティー・ウィリアムズお得意のワーワー・ミュート・プレイもいい。ドラムスもいいね。

 

 

 

このドラムスを叩いているのは、エリントン楽団のソニー・グリアなんだけど、こんなに軽快にスウィングするドラマーだとは、エリントン楽団を聴いていても分らなかったんだなあ。となると、当時のエリントン楽団の、あの重たいリズム感は、グリアのせいじゃないのかな?バンジョーが入っているせい?

 

 

まあそれはちょっと分らないけど、いずれにしても、この「リング・デム・ベルズ」を聴いていると、ジャンプの聖典にして「最初のロックンロール」とも言われる、1942年自楽団での「フライング・ホーム」まであと一歩だという気がする。僕には黒人スウィングとジャンプの境界線はよく分らない。

 

 

『グレイト・パリ・コンサート』に話を戻すと、メドレー二曲目の「スター・クロスト・ラヴァーズ」などは、もうホッジズによる官能世界の極地だという感じがする。元はシェイクスピアにモチーフを取った1957年の『サッチ・スウィート・サンダー』に入っている、エリントンとストレイホーンの共作。

 

 

 

お分りの通り、当初からジョニー・ホッジズの官能的で艶っぽいアルトを想定したような曲。ここでも聴かれるけど、『グレイト・パリ・コンサート』でのライヴ・ヴァージョンの方が、よりエロ度が増している。特にグリッサンドの使い方などはもうたまらんね。どうしてこんなにエロいんだ、ホッジズ?

 

 

オリジナル・ヴァージョンでも『グレイト・パリ・コンサート』ヴァージョンでも、ホッジズが吹き始めてすぐに入る木管三本によるアンサンブルも、元々「ムード・インディゴ」などで使われるようになった独自のエリントン・ハーモニーで、本当にウットリと聴惚れてしまう。

 

 

ホッジズがエリントン楽団に加入したのは1928年。でも、レスター・ヤングの音色の細さが戦前録音ではイマイチ伝わらないように、その頃から40年代半ばまでのSP時代の録音では、ホッジズのアルトのまろやかさも分るような分らないような。僕にも分りやすくなったのは、56年に再加入してからだなあ。

 

 

こういうアルト・サックスの音色を、ジャズを聴始めた最初の頃に聴いてしまったせいで、その後はどんなアルト奏者の音を聴いても、艶っぽさが足りないような気がしてしまう。同じアルトなら、ホッジズとほぼ同世代のベニー・カーターが似ているけど、それよりソプラノのシドニー・ベシェに近いよね。

 

 

近いというか、シドニー・ベシェは、初期ホッジズの最も大きな影響源だったはず。ホッジズは最初の頃はソプラノも吹いていたし。ホッジズはベシェのソプラノを聴いて、あのアルトの音を作り上げたに違いない。チャーリー・パーカーも、ホッジズを通じて間接的にベシェの影響を受けている。

 

 

モダン・ジャズのアルト奏者では、そのパーカーの太くて丸い(そして矛盾するようだけど、鋭い)音色くらいだ、ホッジズの音色に近いのは。音色だけならソニー・クリスもかなり似ているけれど。あとは、エリック・ドルフィーだなあ。ドルフィーは間違いなくパーカーを聴いて、あのサウンドを作り上げたわけだけど、その結果、ホッジズにも近いことになっている。

 

 

ジャズの世界の人じゃないけど、同じ楽器なら、ジェイムズ・ブラウンのバンドやPファンクなどで活躍した、メイシオ・パーカーが近いような気がする(彼はテナーも吹くけど)。プリンスの『ワン・ナイト・アローン…ライヴ!』にも参加していて、色っぽいサックスを聴かせてくれている。

 

 

ポピュラー音楽のサックスの世界では、(コールマン・ホーキンスではなく)シドニー・ベシェこそがオリジネイターだろうけど、ソプラノでは、彼を継承する人がなかなか出てこなかった。楽器自体一般的になるのはコルトレーンが使い始めた1960年代以後だし。その点、ホッジスは人気のあるアルトで、ベシェを継承し、後世に大きな影響を残したんだろうね。

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