バロックなクリスマス・ミュージックはいかが?
他の方に比べたら、季節や時間に応じて聴く音楽を変えるということをあまりしない僕。炎天下の真夏に「枯葉」を聴き、よく晴れた早朝から「ラウンド・ミッドナイト」を聴く。だけど今夜はクリスマス・イヴだから、たまにはたくさんあるクリスマス・アルバムの中から、好きなものの話でもするとしよう。
今の僕が一番好きなクリスマス・アルバムは、英ロック・バンド、ジェスロ・タルの『クリスマス・アルバム』だ。これはるーべん(佐野ひろし)さんに薦めていただいて買って聴いてみて大正解だった。昨晩は大々的にるーべんさん批判を展開したけれど、別に僕はるーべんさんが嫌いになったわけでもない。
米英のポピュラー・ミュージックについては、僕などが足元にも近寄れないほど広く深く聴いているるーべんさん(僕の方が詳しいなんてのは、マイルス・デイヴィス関係だけのはず)だから、1995年にネットをはじめた直後に知合って以来(オフ会でも三度ほどお会いした)、別離するまで非常にたくさんの音楽を教えていただいて、今でもそれが僕の血肉になっている。
僕はあまり熱心なジェスロ・タル・リスナーではなかった、どころの話ではなく、以前なにか一つ・二つ聴いてみて、これは全然僕好みのバンドじゃないなと思って以来、放棄したまま全く聴いていなかった。『アクアラング』だったか『シック・アズ・ア・ブリック』だったかなんだったか忘れたけれど。
そもそもフルートが入るハード・ロックというのが、僕には全く理解できなかったもんなあ。フルートという楽器自体は大好きで、クラシックでもジャズでもラテン音楽でも、フルートが聞えてくると気持いいもんねえ。好きなものはムチャクチャたくさんあって、特にサルサなんかで鳴るのはたまらないよねえ。
マイルス・デイヴィス+ギル・エヴァンスの『マイルス・アヘッド』B面三曲目の「ザ・ミーニング・オヴ・ザ・ブルーズ」12秒目でフルートのアンサンブルが導入として入るんだけど、あのアルバムで僕が最も好きな瞬間の一つなのだ。あるいはスティーヴィー・ワンダーの「アナザー・スター」(『キー・オヴ・ライフ』)とかもね。
だけどジェスロ・タルの場合、ハード・ロックにフルート一本というのは、これはなんなんだろうと思っちゃった。もちろんいわゆるブラス・ロックでも全然ない(ジャズ・ファンだからブラス・ロックは好きな僕)し、ああいうサウンドをどう楽しんだらいいのか、僕にはサッパリ分らなかったんだよねえ。
だから長年全く聴かないままだったところに、るーべんさんから「ジェスロ・タルのクリスマス・アルバムは凄くいいぞ」と教えてもらって、それでも半信半疑ながらるーべんさんファンだったので信用して買って聴いてみたら、これが物凄くいいんだよねえ。あれは2003年だから、るーべんさんと完全に決裂する直前だなあ。
『クリスマス・アルバム』は、2003年の作品にしてジェスロ・タルの最後のスタジオ・アルバムになる。僕の世代は、ハロウィンには全く馴染がなかったけれど、クリスマスは当然子供の頃から親しんできて、いろんなクリスマス・ソングも知っているし、大学生の頃からはキリスト教会に行くこともある。
しかしジェスロ・タルの『クリスマス・アルバム』には、僕ら日本のキリスト教徒ではない音楽ファンが知っているような有名曲は殆ど入っていない。五曲目の「ガッド・レスト・イェ・メリー、ジェントルメン」と、11曲目の「グリーンスリーヴド」だけじゃないかなあ、聴く前から僕が知っていたのは。
それ以外は、伝承曲かJ・S・バッハやフォーレによるクラシック作品か、それ以外は全部イアン・アンダースンのオリジナル・ナンバーだ。それが最初に聴いた時からもう大変に心地よくて、アルバム全編通して一貫した雰囲気があって、しかもちょっとエレキ・ギターが出てくる他は、アクースティック風。
メインがアクースティック・ギターだし、マンドリンなども聞え、派手なドラムスは入らず控目で、ベースはエレベだけれど地味だし、シンシンと雪が降るようなクリスマス・イヴにピッタリの静謐な雰囲気の音楽だから、2003年に初めて聴いた時も気に入ったけれど、僕の最近の音楽趣味にピッタリだ。
イアン・アンダースンのフルートをフィーチャーするインストルメンタル曲もいくつかあって、なんて上手いフルート奏者なんだ、ひょっとしたらこの人はあらゆる音楽ジャンルを通じて現代最高のフルート奏者なんじゃないかと思うくらいだった。みなさんご存知らしく、僕は気付くのがなんとも遅すぎた。
あの『クリスマス・アルバム』は全編を通して、バロック音楽風だ。これはJ・S・バッハの曲(15曲目)をやっているせいだけじゃなく、プロデュースも務めるイアン・アンダースンの音楽的意向だったはず。それに沿って、従来からのオリジナル曲や伝承曲などのアレンジも創り上げたはず。
だからアルバム・ジャケットみたいに雪が降り積る中世の城みたいな風景によく似合う音楽(つまり、このアルバム・ジャケットは中身の音楽にピッタリだ)で、こちら愛媛県では今日は快晴でポカポカだったので、ちょっと似合わないような気もするけれど、聴直してみたら、やっぱりこれは最高のクリスマス音楽だね。
これをるーべんさんに教えてもらって聴いて最高に気に入って以来、イアン・アンダースンとジェスロ・タルのことを考え直して、CDで買い直して聴くようになった。全く聴いていなかったイアン・アンダースンのソロ・アルバムも、書いたように現代最高のフルート奏者だと思うから、買って聴いて気に入った。
イアン・アンダースンのフルートも、キレイな音ばかりではなく、時々ブワ〜〜ッと震えるというかちょっと音が濁るような瞬間があって、やはりフルートでも濁った音が好きだという、歪み音大好きな性分の僕。声と一緒に出しているように聞える瞬間もあり、大好きなジェレミー・スタイグを思わせることもある。
みなさんよくご存知のスタンダードなクリスマス・ソングをやっているものでは、フィル・スペクターの1963年『ア・クリスマス・ギフト・フォー・ユー・フロム・フィル・スペクター』が一番好き。こっちはポピュラーな曲ばかり。僕はフィル・スペクターのいわゆるウォール・オヴ・サウンドの大ファン。
でもまあフィル・スペクターのクリスマス・アルバムの方は、本当に有名曲ばかりだから、最高に楽しいけれど、新鮮さや目新しさは全くない。それに比べてジェスロ・タルのクリスマス・アルバムの方は、今聴いても新鮮だし、バロックな雰囲気がクリスマス・イヴにはピッタリだし、言うことないね。
ちょっとケルト音楽風なニュアンスも感じるジェスロ・タルの『クリスマス・アルバム』。大変素晴しいから、お聴きでない方も是非聴いてみてほしい。やはり元々はケルト文化であるハロウィンにも、こういう素晴しい音楽アルバムがあれば、僕などももっと楽しめるのになあ。
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