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2015/12/12

アール・ハインズのトランペット・スタイル

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今日は夜には更新する時間がないはずなので、朝の更新です。

 

 

ジャズ・ピアノ史上最も偉大な人物は、カウント・ベイシーも言っているように、アール・ハインズだろう。ベイシーは、ハインズのことをシンプルに "The greatest piano player in the world” と語っている。ジャズマンからのこの手の言葉は、もう無数にある。

 

 

 

 

油井正一さんも言っているように、ルイ・アームストロングと出会って、彼のトランペット・スタイルが、ハインズの右手のシングル・トーンで弾くピアノ・スタイルの確立に大きな影響を及したというのが定説になっているけど、ハインズ自身はこれを否定している。それ以前から同じスタイルだったと。

 

 

まあ音楽家というものは、自分自身ではしばしばその影響源を否定するものだから、本人の言葉は少し割引いて受取らなくちゃいけないだろう。だけど、サッチモがハインズのピアノ・スタイルに影響を与えただけでなく、サッチモもハインズから影響を受けたんじゃないかとも思えるフシがあるんだなあ。

 

 

サッチモの例の1928年オーケー録音の「ウェザー・バード」を聴くと、そんな相互影響関係があったように思えてならないんだよねえ。 お聴きになれば分るようにこれはサッチモとハインズのデュオ演奏。丁々発止の、実にスリリングな掛合いだよねえ。

 

 

 

サッチモがピアノとのデュオで吹込んだ曲は、これ以外には、僕の知る限りでは、以前一度触れた1930年オーケー録音の「ディア・オールド・サウスランド」だけだ。そっちでは丁々発止のスリリングな感じではなく、ピアノのバック・ワシントンが、そっと優しくサッチモに寄添うという雰囲気。

 

 

サッチモとハインズが初めて出会ったのは、調べてみると、1925年頃らしい。その時に互いの演奏に大いに感銘を受けたという記述もあるから、サッチモと出会う前に自身のピアノ・スタイルを確立していたというハインズの言葉は、あながちウソでもないんだろう。録音での共演は28年までないけど。

 

 

何年頃のことかははっきりしない(ハインズの初録音は1923年)けど、ラグタイム〜ストライド・ピアノのスタイルから脱却して、右手でシングル・トーンを奏でるというのを、ハインズが発明というか開発したものであることは間違いないんだろう。その後のジャズ・ピアノはほぼ全員その弾き方になったわけだし。

 

 

脱却といっても、ハインズの左手には、特にソロで弾くときは、ストライド・スタイルの影響がかなり残ってはいるけどね。例えば1939年のこれなんか、 左手だけは完全にハーレム・ピアノだ。これはハインズの代表曲で、後年の録音ではもっとモダンになっているが。

 

 

 

1930年代のスウィング期で僕が一番好きなピアニストであるテディ・ウィルスンが、完全にハインズ・スタイルの持主だったし、ジャズ史上最も優れたピアニストと言われるアート・テイタムだって、右手はハインズの影響下にある弾き方。その後のバド・パウエルまでも、ハインズの影響を抜きには語れない。

 

 

そして、バド・パウエル以後のモダン・ジャズのピアニストは、ビル・エヴァンスもハービー・ハンコックもチック・コリアもキース・ジャレットも、と挙げていくのがバカバカしく思うくらいほぼ全員が、右手でシングル・トーンを弾いているわけだから、全員がハインズ・スタイルの支配下にあるわけだ。

 

 

スウィング期のピアニストで、ハインズの影響を一番モロに被っているピアニストといえば、僕はベニー・グッドマンのビッグ・バンドのピアニストだったジェス・ステイシーを思い出す。例の1938年カーネギー・ホール・コンサートのハイライト「シング・シング・シング」でのソロなんか、そのまんま。

 

 

このジェス・ステイシーのソロは、当初予定にはなかったものらしい。グッドマンのクラリネット・ソロ後半から徐々に盛上がり、とうとう我慢できなくなって弾き出す。それでグッドマンが思わず言葉を発する様子も聴ける。9:36辺りから。

 

 

 

このジェス・ステイシーのピアノ・ソロを、サッチモ1928年録音の「セント・ジェームズ病院」におけるハインズのピアノと聴き比べるとよく分る。 全然違う曲だけど、スタイルとしては、ステイシーのピアノはハインズそのまんまなんだよね。フレイジングもソックリだし。

 

 

 

手っ取り早く言ってしまえば、サッチモの出現以後、ジャズ・トランペットの世界で彼の影響下にない人は、おそらくエメット・ハーディーとビックス・バイダーベックだけであるように、ジャズ・ピアノの世界では、アール・ハインズの出現以後、彼の影響下にないピアニストは、おそらく存在しないだろう。

 

 

そう言切ってしまっていいくらい、右手でシングル・トーンを弾くピアノ・スタイルが、ジャズの世界では普及してしまった。アール・ハインズの影響下にないジャズ・ピアニストは、彼以前のストライド・ピアニストと、そこから直接出発した、ファッツ・ウォーラー、エリントン、ベイシーなどだけだろう。

 

 

そのベイシーやエリントンなどのピアノにしてからが、ハインズが出現して評価を確立して以後は、彼の影響をこうむったスタイルに変化しているように聞えるもんなあ。それもかなり早い時期に。まあそれくらい、右手でシングル・トーンを弾くというやり方は、魅力的で、表現力の豊かなものなんだろう。

 

 

なお、モダン・ジャズのピアニストの多くが、右手でメロディを弾くことに忙しく、時々左手が疎かになってしまう場合があるのは、ほぼ完全にバド・パウエルの影響だろう。ペダルについても、パウエル以後は、ダンパー・ペダルを踏まない人が多い。そういうダンパー・ペダルの使い方を変えたのは、ビル・エヴァンス。

 

 

バド・パウエル以前のピアニストは、テディ・ウィルスンにも聴けるように、右手と左手のバランスが取れていた。ってことは、ラグタイム〜ストライド・ピアノの影響が、その辺までは残っていたということか。テディ・ウィルスンを含む1930年代ベニー・グッドマン・コンボがベーシストなしなのも、一つにはそのおかげ(もう一つはジーン・クルーパのバスドラ)。

 

 

ジャズ・ピアニストじゃないけど、ポール・マッカートニーの弾くピアノで、左手の低音が強力なのは、やはり彼がベーシストでありかつ左利きでもあるのと関係あるんだろう。ビートルズでの「レディ・マドンナ」では、ちょっとヘンな感じもする。

 

 

 

「レディ・マドンナ」は、解散後のポールのライヴでもよくやっているけど、よくこのピアノ・パターンに歌がつられないもんだと感心してしまう。最高のプロに対してそんなこと言うのもおかしいけど。基本的にはブギウギのパターンがベースになっている。ジャジーな感じもあるよね。

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