「レッツ・ステイ・トゥゲザー」とジミー・スミス
アル・グリーン最大のヒット曲「レッツ・ステイ・トゥゲザー」。もちろん1972年のアル自身のオリジナル・ヴァージョンが至高のもので、出だしの「アァ〜〜イ」だけで完全に持って行かれてしまうよねえ。 ハイ・サウンドも気持いい。ご存知ない方は、是非聴いてみてほしい。
何年も前のことだけど、アメリカのオバマ大統領が、なにかの公式な席で、この「レッツ・ステイ・トゥゲザー」の出だしをちょっと歌っていたことがあった。”I ~~’m so in love with you” だけ。探してたらYouTubeに上がっていた。
その後、英米のブルーズやロック・ミュージシャンをホワイト・ハウスに招いて、ブルーズ・ライヴ・パーティを開催した際も、「スウィート・ホーム・シカゴ」を見聴きしていたオバマ大統領に、バディ・ガイが「歌って下さい、アル・グリーンを歌っていたのを聴きましたよ」と囃していたことがあったなあ。
ご覧になれば分る通り、バディ・ガイの他、B.B. キング、ジェフ・ベック、ミック・ジャガー、デレク・トラックスなど、実に錚々たる面々だよねえ。日本の首相が、演歌歌手や民謡歌手を招いて首相官邸でライヴやることなんてないもんなあ。
よく知られていると思うけど、バラク・オバマ大統領は、アメリカ・ポピュラー音楽の大ファンで、以前も彼のiPodに入っているミュージシャンのリストが公開されているのを、なにかで読んだことあるけど、だいたい全部アメリカのロックやジャズやソウルなどの歌手や音楽家だった。就任当初の頃の話。
オバマ大統領の話はともかくとしても、それくらいアル・グリーンの「レッツ・ステイ・トゥゲザー」は有名ナンバーなわけだけど、僕が最初にこの曲を知ったのは、実はアル・グリーンのオリジナルではなく、オルガニスト、ジミー・スミスのカヴァー・ヴァージョンだった。『ルート・ダウン』というライヴ盤収録。
ジミー・スミスの『ルート・ダウン』は、1972年2月録音のライヴ。アル・グリーンの「レッツ・ステイ・トゥゲザー」は、同名アルバムが1972年のリリースだけど、同曲だけシングル盤で1971年にリリースされているから、ジミー・スミスは、ひょっとしたらシングル盤の方を聴いていたのかも。
ジミー・スミスによるその「レッツ・ステイ・トゥゲザー」を貼っておこう。最高にカッコイイよねえ。僕は昔からジミー・スミスのオルガンが大好き、というか、そもそもハモンドB-3オルガンのサウンド自体が大好きでたまらず、もうこの音が鳴っただけで幸せになる。
ハモンドB-3が好きなもんだから『Organ-ized: All-Star Tribute To The Hammond B-3 Organ』という、タイトル通りハモンドB-3弾きのオルガニストだけ13人を集めたアンソロジーCDだって好きで聴いている。ジミー・スミスも入っている。
ジミー・スミスは、ご存知の通りジャズ・オルガニストで、元々ジャズ・アルバムがたくさんあるわけだけど、1970年代に西海岸ロサンジェルスに拠点を置いていた時期があって、その頃、主に同地を拠点とするR&B〜フュージョン・ミュージシャンと、ヴァーヴに録音したアルバムが何枚かある。
1972年の『ルート・ダウン』もそういうアルバムの一枚で、ウィントン・フェルダーのエレベ、アーサー・アダムズのギター、ポール・ハンフリーのドラムス等が参加している。一般にこのアルバムが有名になったのは、タイトル曲を1994年にビースティー・ボーイズがサンプリングしてかららしい。
僕はその事実を長年知らなかった。それを知ったのは、ジミー・スミスの『ルート・ダウン』をCDで買い直してみると、ジャケット裏にそういうことが書いてあったからだ。ビースティー・ボーイズは、『イル・コミュニケーションズ』の翌年に「ルート・ダウン」の三種類のリミックスを収録したEPも出している。
ビースティー・ボーイズ・ヴァージョンの1994年「ルート・ダウン」はこんな感じ→ https://www.youtube.com/watch?v=Xf1YF_MH1xc これもなかなかカッコイイねえ。同曲のジミー・スミスの72年オリジナルはこれ→ https://www.youtube.com/watch?v=DP4LGEAfUEY
『ルート・ダウン』現行CDには、オリジナルLPには入っていなかった「ルート・ダウン」の別テイクも収録されているけど、そっちはイマイチな感じがして、収録しなくてもよかったんじゃないかという気がする。このライヴ盤ではアル・グリーン・ナンバーの他、「アフター・アワーズ」もやっている。
「アフター・アワーズ」はご存知ブルーズ・クラシックスだから実にカヴァーが多いわけだけど、ハモンドB-3オルガンでやるこの古典曲は、これまた格別の味わい。『ルート・ダウン』では、この曲だけハーモニカ奏者が参加していて、かなりダウン・ホームな雰囲気に仕上っているんだよなあ。
「アフター・アワーズ」では、2015年に亡くなったばかりのウィントン・フェルダーの弾くエレベもかなりいい。というか、まあ他の曲でも全部ウィントン・フェルダーのエレベはカッコいいけどね。この人、クルセイダーズで元々テナー・サックス奏者だったはずだけど、いつ頃からエレベをはじめたんだろうなあ。
僕は今年亡くなるまで知らなかったんだけど、あのジャクスン5でも、ウィントン・フェルダーが一部エレベを弾いている曲があるらしい。「アイ・ウォント・ユー・バック」もそのようだ。昔からやたらとベース・ラインがファンキーでカッコイイとは思っていたけど、どこにも書いてなかったもんなあ。
ジミー・スミスでは、僕は『ルート・ダウン』こそが最高傑作だと信じていて、それ以前の有名なジャズ・アルバムよりはるかにいいと考えているから、以前どこかで「ジミー・スミスを聴いたことがないんだけど、推薦盤を教えてくれ」という質問に、迷わず『ルート・ダウン』をオススメしたことがある。
そうしたら返ってきた感想が「リズムがロックでガッカリした」というものだった。ガッカリしたのは僕の方だったね。ロックのリズムとか言うなら、それは違うだろうファンクだろうとか、まあしかし4ビートのストレート・アヘッドなジャズをやるジミー・スミスを聴きたかったんだろうなあ。21世紀になっても、まだそんなジャズ・ファンっているんだなあ(嘆息)。
アクースティックで4ビートのジャズしか聴かないリスナーにしてみたら(といっても、B-3はじめハモンド・オルガンは電気がないと鳴らないけど)、『ルート・ダウン』みたいなファンク・ミュージック、ソウル・ジャズみたいな作品は、どうにも聴きようのないものだろう。僕は電気楽器を使ったファンク、それもジャズとクロスオーヴァーしたものは、好きでたまらないけどね。
1972年のソウル・ナンバー「レッツ・ステイ・トゥゲザー」があるかと思うと、1940年のジャンプ・ナンバー「アフター・アワーズ」があったりするところに、この1970年代ジャズ・ファンクの本質というか、拠って来たるところがはっきりと表れているようにも思うんだなあ。
そんなわけで、ある時期以後の僕は、主に1970年代のブラック・ミュージックに関しては(関しても?)、ノン・ジャンルというか完全にジャンルを跨いで、いろんなのを並べて聴いている。ジャズもソウルもファンクもブルーズも、ぜ〜んぶ連動しているというか共振しているようにしか思えないんだ。
アル・グリーンについては、マイルス・デイヴィスも最高だと絶賛していて、確かにアルの柔らかくて甘美かつ芯のある歌い方は、マイルスのトランペット・サウンドに通じるものがあるし、「レッツ・ステイ・トゥゲザー」などは、マイルスが吹いたらピッタリ来るような曲だよねえ。聴きたかったなあ。
もっとも1972年だと、マイルスは電気トランペットだから、こういう曲はやや似合わないかもなあ。やるなら1981年復帰後だ。公式にはリリースされていなけど、復帰後はティナ・ターナーの「ワッツ・ラヴ・ガット・トゥ・ドゥー・ウィズ・イット」(愛の魔力)もコロンビアに録音しているんだよねえ。未発売のままだ。
その「愛の魔力」が入っているティナ・ターナーの復帰作『プライヴェイト・ダンサー』には、アン・ピープルズの「アイ・キャント・スタンド・ザ・レイン」や、ビートルズの「ヘルプ!」(これは米盤オリジナルLPにはない)や、ジェフ・ベックのギターがカッコイイ「スティール・クロウ」や、そしてなんといってもアル・グリーンの「レッツ・ステイ・トゥゲザー」があって、当時はかなり聴いていた。
ところでどうでもいいことかもしれないが、オリジナルLPでは短く編集されていて分らなかったんだけど、CD『ルート・ダウン』一曲目の「サッグ・シューティン・ヒズ・アロウ」と四曲目の「ルート・ダウン」と六曲目「スロー・ダウン・サッグ」。どれも終盤でジミー・スミスが中近東風の旋律をちょっとだけ弾くんだけど、なんなんだろうなあれは?
« 泥臭いモダン・ジャズ・テナー | トップページ | ハリージの新星(でもない)モナ・アマルシャ »
「リズム&ブルーズ、ソウル、ファンク、R&Bなど」カテゴリの記事
- いまだ健在、往時のままのメンフィス・ソウル 〜 ウィリアム・ベル(2023.08.24)
- こうした音楽を心の灯にして残りの人生を送っていきたい 〜 カーティス・メイフィールド『ニュー・ワールド・オーダー』(2023.08.03)
- さわやかでポップなインスト・ファンク 〜 ハンタートーンズ(2023.07.17)
- コンテンポラリーR&Bもたまにちょっと 〜 ジョイス・ライス(2023.06.21)
- アダルト・シティ・ソウルの官能 〜 スモーキー・ロビンスン(2023.05.28)
コメント