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2015/12/28

鯰のブルーズ、またの名を転石

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アクースティック・ギター弾き語りのミシシッピ・デルタ・ブルーズマンでは、チャーリー・パットンやロバート・ジョンスンより、1930年のサン・ハウスが一番凄いと思っていて、それは「マイ・ブラック・ママ」でそう思っているわけだけど、好みだけなら、実はロバート・ペットウェイが一番だ。

 

 

特に、みなさん大好きな1941年録音「キャットフィッシュ・ブルーズ」が、僕もなんともたまらなく大好きなんだよねえ。「キャットフィッシュ・ブルーズ」は、マディ・ウォーターズで有名になったご存知「ローリン・ストーン」の原曲で、それも別にペットウェイがオリジナルというのでもない。

 

 

以前も書いたように、特に戦前のカントリー・ブルーズのレパートリーの多くは、黒人コミュニティの共有財産みたいなもので、いつごろ誰が作った曲なのか分らないまま、いろんなブルーズマンによって歌い継がれてきているというもの。デルタ地帯では、「ウォーキング・ブルーズ」などもそうだね。

 

 

「ウォーキング・ブルーズ」は、ロバート・ジョンスンのヴァージョンが有名になって、その後、ポール・バターフィールドやエリック・クラプトンなど、たくさんの英米のブルーズ・ロック系ミュージシャンが取上げたけど、これだってパブリック・ドメインだし、「ローリン・アンド・タンブリン」もそう。

 

 

パブリック・ドメインなどの共有財産でなくても、先輩ブルーズマンの曲を下敷に焼直して、さも自分のオリジナルであるかのように仕立て上げて録音するというのは、別にブルーズに限らず、どんな音楽でも、あるいは文学作品など、どんな文化でもそういうものだ。無から何かが産まれるなんてことはない。

 

 

そういうものではあるけれど、やはり個人的に一番グッと来る魅力的なヴァージョンというものが誰でもあるはずで、僕にとっての「キャットフィッシュ・ブルーズ(ローリン・ストーン)」は、ロバート・ペットウェイに決っているというわけなのだ。

 

 

 

ギターもヴォーカルもいいよねえ。僕がロバート・ペットウェイと「キャットフィッシュ・ブルーズ」を知ったきっかけは、例の『RCAブルースの古典』だ。このLP三枚組、多分大学生の終り頃に買ったレコードだったと思う。タイトル通り、ブルーバード等RCA系の戦前ブルーズのコンピレイション。

 

 

今はCD二枚組で復刻されている『RCAブルースの古典』は、CD時代になってからのPヴァイン盤『戦前ブルースのすべて』四枚組と並んで、僕の手引というかバイブルみたいなものとして愛聴していた。特に前者は、以前書いたPヴァインの『シカゴ・ブルースの25年』とかより、圧倒的に好きだった。

 

 

『RCAブルースの古典』に入っているロバート・ペットウェイの「キャットフィッシュ・ブルーズ」。一発で大好きになったので、すぐに彼の他の曲も聴きたいと思ったんだけど、僕の探し方が悪かったのか、当時アナログ盤では全く見つけられなかったし、CD時代になってからもしばらくそうだった。

 

 

「キャットフィッシュ・ブルーズ」以外のロバート・ペットウェイの録音を聴いたのは、何年頃買ったのか忘れたけど、Wolf Recordsから出た『ミシシッピ・ブルーズ』という一枚物コンピレイションCDだ。CD付属の解説の文章の日付が1991年になっているから、その頃に出たものだろう。

 

 

Wolf盤の『ミシシッピ・ブルーズ』は、ロバート・ペットウェイの録音14曲(1941/42年録音)と、オットー・ヴァージルの三曲(35年録音)、ロバート・ロックウッドの六曲(41/51年録音)を合せたもので、ロバート・ペットウェイの録音をまとめたものは、僕はこれしか知らない。全録音は16曲なんだけど、あと二曲はどれに入っているの?

 

 

Wolfは版権の切れた古いブルーズの復刻専門レーベルだけど、ロバート・ペットウェイの録音は全部ブルーバード・レーベルへのものだから、本家RCAがまとめて出していてもよさそうなものなのになあ。まあ出ているのかもしれないけど、Wolf盤で満足している僕は探していないというだけ。

 

 

ロバート・ペットウェイの特徴は、なんといってもその迫力のある濁声ヴォーカルだろう。ギターだってタイトでヘヴィー、弾けるようなリズムとドライヴ感と、かなり魅力的だよねえ。一般的には抜群のリズム感と繊細なギター・ワークへの評価が高いようだけど、僕は歌声の魅力も大きいと思っている。

 

 

それらギターとヴォーカルの特徴が凝縮されて最高のブルーズ表現になっているのが「キャットフィッシュ・ブルーズ」なわけだ。これ以外の曲は、はっきり言ってしまうと、トミー・マクレナンの「ウィスキー・ヘッド・ウーマン」のパクリが多いんだけど、それらも個人的にはマクレナンより好きなんだよね。

 

 

1930年のペットウェイはトミー・マクレナンとつるんで活動していたようだから、マクレナンからかなりいろいろとパクったというか吸収したんだろう。マクレナンだって僕は好きなデルタ・ブルーズマンで、ある時期(1990年代?)に本家RCAからブルーバード録音全集が出たのを愛聴している。

 

 

ペットウェイの全録音14曲のうち6曲はマクレナンとの共演で、最初Wof盤を見た時に「イン・ジ・イヴニング」があるから、ひょっとしてあのリロイ・カーの有名曲かと思ったんだけど、全然違う曲だ。リロイ・カーといえば、デルタ・ブルーズマンでも、ロバート・ジョンスンはかなり彼から吸収しているけど。

 

 

ロバート・ペットウェイの録音は全部1941/42年だから、ロバート・ジョンスンの録音よりも時代は新しい。だからある意味戦前ブルーズ界最大の存在とも言えるリロイ・カーの影響が、ロバート・ジョンスン同様あってもおかしくはないんだけど、やはり生粋のデルタ・スタイルのブルーズマンなんだね。

 

 

ロバート・ジョンスンの場合は、個人的には、「イフ・アイ・ハッド・ポゼッション・オーヴァー・ジャッジメント・デイ」みたいな生粋のデルタ・スタイルな曲よりも、「ラヴ・イン・ヴェイン・ブルーズ」みたいなシティ・スタイルの影響が強い曲の方が好きなんだけど、この好みは彼の場合だけなのだ。

 

 

ロバート・ジョンスンは1936/37年の録音しかないから、古い人だと思われているかもしれないけど、同じデルタ地帯出身のマディ・ウォーターズよりわずか二年早く産まれただけの、新時代の新感覚デルタ・ブルーズマンで、書いたようにリロイ・カーなどシティ・ブルーズからの影響も色濃く見える。

 

 

マディが戦後シカゴに出てモダンなブルーズをやったように、二年だけ先輩のロバート・ジョンスンも、もっと長生きしたら、同じようなことになっていたはず。そしてそれに比べて、ロバート・ペットウェイやサン・ハウスやトミー・マクレナンなどの生粋のデルタ・ブルーズマンが、僕はやっぱり好きなんだよね。

 

 

これはシティ・ブルーズよりデルタ・ブルーズの方が好きだという意味では、必ずしもない。僕は都会の音楽であるジャズ好きだけあって、ブルーズでもどっちかというと洗練されたシティ・ブルーズ、特に何度も書いているように1920年代のクラシック・ブルーズの女性歌手が大好きだからね。

 

 

なお、ロバート・ペットウェイは時代を超えてジミ・ヘンドリクスなどにも影響を与えていて、ジミヘンが「キャットフィッシュ・ブルーズ」をやっているのはかなり有名だから、みなさんご存知のはず。

 

https://www.youtube.com/watch?v=Sn4FpnuGFu0

(追記)調べてみたら、Wolf盤『ミシシッピ・ブルーズ』に入っていない「ハード・ワーキング・ウーマン」「アーント・ノーバディーズ・フール」の二曲は、録音はされたものの、発売されなかったことが分りました。

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