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2015/12/05

ソニー・クラークとブルーノートのピアノ録音

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生れて初めて買ったジャズ・ピアノ作品は、以前も書いた通り、トミー・フラナガンの『オーヴァーシーズ』だったんだけど、彼は当時この一枚しかリーダー作がなく、1970年代録音なら何枚かあったけど、どれもイマイチだったから、ジャズ・ピアニストでいろんな作品を聴いてファンになったというのは、ソニー・クラークが初めてだったと言えるだろう。

 

 

とはいうものの、ソニー・クラークの場合は、ピアノ・トリオ作品(少ないけど)はあまり聴かない、というかイマイチ好きではない。僕が好きなソニー・クラークは、断然ホーン入りのコンボ編成のアルバムだ。そうなんだけど、最初に買ったソニー・クラークのアルバムは、やはりトリオ物だった。

 

 

有名なブルーノート盤の『ソニー・クラーク・トリオ』でも、玄人筋から評価の高いタイム盤『ソニー・クラーク・トリオ』でもない(録音当時からリアルタイムで発表されていたトリオ物は、この二つだけ)。僕が最初に買ったのは、死後の1979年にリリースされた『ブルーズ・イン・ザ・ナイト』。

 

 

『ブルーズ・イン・ザ・ナイト』は、ポール・チェンバーズとウェス・ランダーズとのトリオ編成で、1958年にブルーノートに録音されたもの。そのままなぜかお蔵入りして、79年の初リリースLPは、実は日本でだけ。79年は僕がちょうどジャズを聴始めた年で、当時の最新盤として買ったのだった。

 

 

その『ブルーズ・イン・ザ・ナイト』、特にオープニングの「キャント・ウィー・ビー・フレンズ」が最高にチャーミングで、ミドル・テンポで軽快にスウィングするし、ウェス・ランダーズのブラシもいいし、一発でソニー・クラークを好きになった。このアルバム、普段はバラードでやることが多いような曲も、アルバム・タイトル曲以外は、全部軽快なミドル・テンポ。

 

 

 

ちなみにこのアルバムでは、ドラムスのウェス・ランダーズは全曲ブラシしか使っていない。僕はブラシの音が大好き。最初に書いたフラナガンの『オーヴァーシーズ』、この生まれて初めて買ったジャズ・レコードでのドラマー、エルヴィンが全編ブラシしか使っていなかったもんなあ。

 

 

それでソニー・クラークはこういう軽快にスウィングするポップなジャズ・ピアニストなのかと思って、その後人気のあるブルーノート盤『ソニー・クラーク・トリオ』を買ってみたら、これが全然そんなフィーリングではないので、戸惑ったというか、ややガッカリしたんだなあ。実は今でもあまり好きじゃない。

 

 

特に、あのトリオ物の中で有名な「朝日のように爽やかに」などは、モッサリしているというか、なんだか野暮ったい感じがして、どこがいいのか昔も今もよく分らないんだなあ。ドラマーがフィリー・ジョー・ジョーンズなのと、録音のせいもあるんだろう。ブルーノートのピアノの音は、あまり好きじゃない。

 

 

オーナーにしてプロデューサーだったアルフレッド・ライオンの嗜好だったんだろうけど、そもそもブルーノートの録音は、トランペットやサックスなど管楽器の音は野太くて迫力があって大好きなんだけど、ピアノに関しては、ゴロゴロした音で、あまり好みじゃないんだよなあ。ピアニストを録音しようと思って設立されたレーベルなのに。まあ1967年頃から変るけどね。

 

 

音楽的にはあまり好きなレーベルじゃないECMだけど、ことピアノの録音に関してだけは、ブルーノートやアトランティックの音よりいいと思うし、好きだね。はっきり言っていいと思うのはそれくらいで、それ以外は、楽器の音も音楽性も、どう聴いてもブルーノートやアトランティックなどのガッツのある音がいい。

 

 

その後ソニー・クラークのアルバムを聴くと(彼はタイム盤が一枚あるだけで、他は全部ブルーノート)、どれを聴いてもやっぱりゴロゴロ・モッサリなピアノの音。だから『ブルーズ・イン・ザ・ナイト』だけどうして軽快な音なのか、ひょっとしてエンジニアが違っていたりするのだろうか(見ていない)?

 

 

あるいは、演奏内容は素晴しいのに、ああいう軽快なピアノ・タッチに録れてしまったせいでアルフレッド・ライオンのお気に召さず、それで20年間お蔵入りしてしまったのだろうか?まあ、よく聴けば『ブルーズ・イン・ザ・ナイト』も、ドラムスのウェス・ランダーズのおかげで軽快に聞えるだけかもしれないが。

 

 

ソニー・クラークも、ブルーノートじゃない唯一のアルバムであるタイム盤の『ソニー・クラーク・トリオ』(ベースがジョージ・デュヴィヴィエ、ドラムスがマックス・ローチの1960年録音)を聴くと、やはりピアノの音が少し違うもんなあ。軽快とまではいかないけど、そんなにモッサリもしてないんだ。

 

 

それにスタンダード曲ばかりのブルーノート物と違って、タイム盤のトリオは、全曲ソニー・クラークのオリジナル・ナンバーなのがいい。そういうコンポーザーとして優れているというのが、彼のジャズマンとしての最大の特長じゃないかなあ。コンボ物の方がいいと最初に言ったのも、そのせいだ。

 

 

ソニー・クラークのオリジナル・ナンバーで一番有名なのは、間違いなく「クール・ストラッティン」で、あれは12小節3コードのブルーズ形式なんだけど、ちょっと聴くと一瞬それに気付きにくいような形のメロディになっている。その辺もソニー・クラークのオリジナル曲の面白いところだよねえ。

 

 

「クール・ストラッティン」、例のマウント・フジ・ジャズ・フェスティヴァル・ウィズ・ブルーノートが始った1986年、アルフレッド・ライオンも呼んだんだけど、その時に出演したジャッキー・マクリーンのコンボに、日本で一番有名なブルーノート・ナンバーだと言って演奏させたらしい。

 

 

そうしたら「クール・ストラッティン」のテーマが鳴り響いた瞬間に、会場から大歓声が沸き起ったので、ステージ袖に控えていたアルフレッド・ライオンも、その場にいた関係者と笑顔を交したというエピソードが残っている。アルバム『クール・ストラッティン』には、ジャッキー・マクリーンも参加しているね。

 

 

それくらい日本のジャズ・ファンには大人気のソニー・クラークなんだけど、肝心の米本国では全く人気がないらしいという話を昔からよく聞く。そのわりには、米本国でも全てのアルバムがCDリイシューもされているけど。僕も持っているのは大半が米盤だもんなあ。紙ジャケの日本盤も少し持っているけど。

 

 

そのアルバム『クール・ストラッティン』は、あまりに有名すぎるから、今更あれがいいと言うのもなんだかちょっと恥ずかしい気分。ソニー・クラークは他にもっといい曲がいっぱいあるんだ。「ソニーズ・クリブ」とか「マイナー・ミーティング」とか「ブルーズ・ブルー」とか「ジュンカ」とかたくさん。

 

 

他にも珠玉のバラード「マイ・コンセプション」とか「ニカ」とか「ロイヤル・フラッシュ」とか、たくさんソニー・クラークは素晴しいオリジナル・ナンバーを書いていて、しかも彼のリーダー・アルバムは殆どがそういった自分の曲をいろいろやっているから、僕もそれでコンポーザーとして好きになった。

 

 

どうもソニー・クラークという人は、他人が書いた有名曲より、自分のオリジナル曲をやる時の方が面白いようなタイプのジャズマンじゃないかと思う。そういう点では、同じモダン・ジャズの世界ではセロニアス・モンクと少し似ているね。もっともモンクの場合はスタンダード曲をやる時も面白いけどさ。

 

 

ややB級気味(と言ったら語弊があるか)のホーン奏者を、主にオリジナル曲の絶妙な作編曲で上手く使って、素晴しく一流に聴かせることのできる最高のバンド・リーダーという点では、ホレス・シルヴァーとも少し似ているかもしれない。ソニー・クラークは活動期間が短い(録音歴はわずか九年)から、数は少ないけれど。

 

 

先に書いた僕が最初に買ってソニー・クラークを好きになった『ブルーズ・イン・ザ・ナイト』は、全部スタンダード・ナンバーをやっているアルバムなんだけど、その後は同じピアノ・トリオ物でも、全部オリジナル・ナンバーで固めているタイム盤の方が、圧倒的に面白いと感じるようになったもんなあ。

 

 

ホーン入りのコンボ録音ではいいアルバムがたくさんあるけど、音楽的評価とは別に僕が一番好きなのは、トランペットのトミー・タレンタインとテナーのチャーリー・ラウズ(二曲目だけアイク・ケベック)を迎えた1961年録音の『リーピン・アンド・ローピン』。ソニー・クラークのラスト・アルバム。

 

 

『リーピン・アンド・ローピン』でも、全六曲中四曲がソニー・クラークのオリジナル・ナンバーだ。一般的な評価は高くないアルバムだけど、とても楽しくて、僕はなぜだか昔から大好きなんだよなあ。優れたアルバム・ジャケットばかりの彼の作品の例に漏れず、これもジャケットがかなりいいね。

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