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2015/12/14

バーバーショップからファーダ・フレディまで

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以前マンハッタン・トランスファーについて書いた時に、古くからのアメリカン・コーラスが大好きだと書いた。これも以前書いたように大学生の頃はイマイチ歌ものが好きじゃなかった僕だけど、しばらく経って、ミルズ・ブラザーズやインク・スポッツなどの古いヴォーカル・グループが大好きになった。

 

 

ミルズ・ブラザーズやインク・スポッツなど、本場米国ではともかく日本では、どういう人がどれくらい聴いているのか、今でもイマイチ分りにくいよねえ。ミルズ・ブラザーズは、ルイ・アームストロングやカウント・ベイシー楽団との共演音源だってあって、一般のジャズ・ファンは、それくらいしか聴いていないかもなあ。

 

 

ミルズ・ブラザーズは、アメリカにおける男性ヴォーカル・グループの第一号ということになっている。彼らはいわゆる<バーバーショップ・コーラス>でレコーディングした最初の存在となっているけれど、バーバーショップ・コーラス自体は19世紀からあって、レコーディングも残っているようだ。

 

 

バーバーショップ・コーラスという言い方は、1910年に「プレイ・ザット・バーバーショップ・コード」という曲の楽譜が出版されてから使われはじめたものらしいのだが、男性四人(程度)の、文字通り床屋で楽しく歌うグループの存在自体は、主に米南部で1870年代にはあったようだ。

 

 

日本だってそうだと思うのだが、床屋というか散髪屋というか美容院でもいいけど、そういう場所は順番待ちの客が集って、噂話をしたりするなかで、集団で楽しく歌い始めたりして、自然発生的にヴォーカル・グループが誕生したのだろう。もちろんそのルーツはキリスト教会での賛美歌合唱にあるはず。

 

 

キリスト教会でのコーラス・ワークが、人種問わず幼少時代から身に付いていて、自然にできちゃう人達に比べたら、日本人にとっての「歌」とは基本単旋律だよね。ヴォーカル・ハーモニーを伴う音楽の歴史が染着いているアメリカ音楽は、はっきり言って羨ましい。そういう文化が薄いもんなあ、日本は。

 

 

アメリカに行くと、どこでも誰でもごく自然発生的にコーラスが発生する。誰かが歌い始めると、すぐに他の人がハーモニーを付けて、豊かな響きになっていくのを、僕も何度も体験した。そういうのが日常に染着いているから、庶民のなかから出てくるプロの大衆音楽でも、ヴォーカル・コーラスは実に多い。

 

 

おそらく世界的にもっとも有名なヴォーカル・コーラスはビートルズのジョン+ポール+ジョージによる三声ハーモニーじゃないかと思う。もちろん彼らはイギリス人だけど、そのコーラス・ワークの起源は、アメリカのエヴァリー・ブラザーズだ。エヴァリー・ブラザーズは兄弟二人によるハーモニーだけど。

 

 

エヴァリー・ブラザーズは、同じく二声のサイモン&ガーファンクルや、あるいはビーチ・ボーイズにも影響を与えている。ビートルズの場合、さらに同時代のモータウンのヴォーカル・グループの影響も強く、実際初期は彼らのレパートリーをかなり公式レコーディングして、アルバムにも収録している。

 

 

さて、19世紀末から存在するバーバーショップ・コーラスを、商業録音で一般に普及させたのは、1930年代のミルズ・ブラザーズが最初らしい。中村とうようさん編纂の『アメリカン・コーラスの歴史』というアンソロジーCDは「バーバーショップからヒップホップまで」という副題がついていて、ミルズ・ブラザーズが一曲目。

 

 

ミルズ・ブラザーズは、その名の通り全員兄弟の四人組。バーバーショップ・カルテットのスタイルは、もっと古くからあったようだけど、商業的な録音作品で普及させたのは彼らが最初だったので、その後のゴスペル・カルテットはじめ、様々なカルテット・スタイルの走りになって、後世に非常に強い影響を与えたのだった。

 

 

バーバーショップ・カルテットは、文字通り床屋での順番待ちの客達が始めたものだから、当然アカペラだけど、ミルズ・ブラザーズの録音には、ギター一本の伴奏が入っているのが殆ど。最初は長男のジョン・ミルズがギターも担当していたのだが、デビュー直後に亡くなったため、専属ギタリストを雇った。

 

 

その後の様々な商業的なヴォーカル・グループも、大抵ギターとかピアノとかの伴奏が入っている。合唱スタイルのルーツであるキリスト教会では基本的に伴奏楽器はオルガンだけど、ゴスペル以外のポピュラー音楽で、オルガンが伴奏のヴォーカル・グループというのは、僕が聴いた範囲では多くないようだ。

 

 

ミルズ・ブラザーズは、今でも子孫が名前を引継いで、続けて歌っているらしい。21世紀の録音は聴いたことがないのだが、1990年代のものをほんのちょっとだけ聴くと、第二次大戦前の録音のような、古き良きバーバーショップ・コーラスの再現は、はっきり言って望むべくもないという印象しかない。

 

 

第二次大戦前は、ミルズ・ブラザーズ以後、様々なヴォーカル・グループが出現して、そのなかにはボズウェル・シスターズ、アンドリューズ・シスターズ(とうようさん編纂の『アメリカン・コーラスの歴史』CDに一曲ずつ収録)など、超人気グループも出てきた。後者の「ビア樽ポルカ」は有名だね。

 

 

戦前のヴォーカル・グループで、なかでも僕が大好きなのが、最初に名前を出したインク・スポッツで、特に1940年の「ジャヴァ・ジャイヴ」(マンハッタン・トランスファーもカヴァーしている、というかそれで知った)がステキで最高に好きなのだ。コーヒーへの愛を歌う歌詞内容も、まさに僕向き。彼らは39年の「イフ・アイ・ディドゥント・ケア」が一番の代表曲だけどね。

 

 

「ジャヴァ・ジャイヴ」

 

 

マンハッタン・トランスファー→ https://www.youtube.com/watch?v=0XxsasUHzaQ

 

 

こういうのをいろいろ聴くと、インク・スポッツの1930年代末〜40年代録音で、70年代以後のマンハッタン・トランスファーや、その後のヒップホップや、セネガル人、ファーダ・フレディの2015年の傑作『ゴスペル・ジャーニー』まで連綿と続くコーラスの基本は、もう既にできているのが分るよね。

 

 

 

実際、インク・スポッツは、戦後のゴスペル・カルテットやドゥー・ワップの形成にも大きな影響を与えた。そしてそのゴスペル・カルテットとドゥー・ワップこそ、数多いアメリカン・コーラス・ミュージックのなかで、僕が最も愛するものなのだ。この二つはファンも多くてたくさんCDも出ている。

 

 

ゴスペル・カルテットとドゥー・ワップは、日本でもみなさん聴いているし、もう僕なんかが付け加えたり改めて繰返す言葉はないだろう。フランク・ザッパやドナルド・フェイゲン(スティーリー・ダン)など、これらの影響を強く受けているロック音楽家も、枚挙に暇がないと思うほど。

 

 

枚挙に暇がないというより、はっきり言ってヴォーカル・ハーモニーを伴わないロック系音楽の方が圧倒的に少ないだろうと思うので、特にドゥー・ワップの影響は絶大だね。ビートルズに影響を与えたエヴァリー・ブラザーズはカントリーのクロス・ハーモニーだけど、ビートルズには黒人由来のものも強い。

 

 

ビートルズのハーモニーは、初期がいいということになっていて、ある時期以後四人がバラバラになってしまったため、後期はいいハーモニーがあまり聴けない。だけど解散直前にだって『アビー・ロード』に「ビコーズ」があるじゃないか。『アンソロジー』収録ヴァージョンはアカペラで卒倒しそうな美しさだ。

 

 

 

日本ではおそらくそういう分野に一番詳しい一人である山下達郎は、前述のとうようさん編纂『アメリカン・コーラスの歴史』に解説文を寄せ、大衆音楽でいかにヴォーカル・コーラスが重要な要素であるか、刹那的にも見える大衆音楽の世界に、いかに深く伝統文化が活きているかを力説している。

 

 

なお、アメリカン・コーラスの三度や五度の並行ハーモニーが大好きな僕だけど、ワールド・ミュージックもいろいろ聴くようになって以後は、例えばブルガリアン・ヴォイスやピグミーの合唱みたいな不協和音を多用する集団ヴォーカル・ミュージックも大好きで、ムチョヤ&ニャティ・ウタマドゥニの一枚も愛聴盤だ。

 

 

ムチョヤ&ニャティ・ウタマドゥニ(タンザニア)の『チナ・ニェモ』は、2012年の私的年間ベストテン第一位に選出した傑作アルバム。音量を上げて聴くと、後頭部が痺れてくるような感覚に襲われる、不思議で物凄いヴォーカル・ハーモニー・ミュージックだ。今ではこういうのも大好き。

 

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