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2016/01/19

「ラウンド・ミッドナイト」〜マイルスのオープンとミュート 2

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昨晩触れたマイルス・デイヴィスがやる「ラウンド・ミッドナイト」。正直に言うと、昔はイマイチ好きじゃなかった。今でもそんなに好きとは言えない。どこが?と言われても困っちゃうんだけど、どうもあの少しもったいぶったようなアレンジが好みじゃないのだろうか?

 

 

こんなことを言うマイルス・マニアは珍しいんだろう。普通はみんなあの1956年コロンビア録音の「ラウンド・ミッドナイト」が大好きだ。マイルス・ファンでなくたって好きな人が多いはず。誤解なきように書いておくと、僕は寺島靖国みたいに、例のブリッジが嫌いというわけではない。あれは好きだ。

 

 

なにしろあの1956年コロンビア録音の「ラウンド・ミッドナイト」は、記念すべき大手コロンビア移籍第一弾のアルバム一曲目として発表され、そのアルバム・タイトルも『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』で、この曲でマイルス=ハーマン・ミュートのイメージが決定づけられたし、この曲の決定版となったし。

 

 

アルバム名が『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』で、曲名が「ラウンド・ミッドナイト」なので、アレッ?と思うかも。セロニアス・モンクが最初に作曲した時は「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」だったけど、その後歌詞が付く時に「アラウンド」が入る余地がなく削除された。

 

 

という説が流布していたけれど、調べたら、最初から曲名は「ラウンド・ミッドナイト」で、コロンビアが1957年にマイルスの同社初作品をリリースする際に『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』というアルバム名にしたので、そのせいで、その後そうとも呼ばれるようになったとの記述がある。

 

 

マイルスの「ラウンド・ミッドナイト」は、その1956年コロンビア録音が初録音ではない。マイルスによるこの曲の初録音は、チャーリー・パーカーをテナーで加えた53年プレスティッジ録音で、『コレクターズ・アイテムズ』収録のもの。

 

 

その1953年プレスティッジ録音の「ラウンド・ミッドナイト」では、マイルスは終始オープン・ホーンで吹いているし、トランペット・ソロとサックス・ソロを繋ぐ例のブリッジも存在しない。というか、トランペットとサックスのソロの区別があまりなく、全体を通してマイルスとパーカーが絡みながら進む。

 

 

 

ことマイルスのトランペットだけ取出せば、オープン・ホーンのその演奏ぶりは、これはこれでそんなに悪くもない。だけれども、演奏全体にメリハリがなく、ダラダラと流れて締りがない。こういうのを聴くと、1956年コロンビア録音ヴァージョンが、どれだけ優れた内容なのかが、非常によく分る。

 

 

またマイルスの名を一躍有名にしたという話の1955年ニューポート・ジャズ・フェスティヴァルでの演奏、そこでは作曲者のセロニアス・モンクも参加しているのだが、そこでもオープン・ホーンのトランペットで、やはりだらしなく、どうしてこれで名を挙げて大手コロンビアとの契約に至った(ということになっている)のか理解できないほどだ。

 

 

 

そういうわけだから、1956年のコロンビア録音で、これをハーマン・ミュートで吹き、さらに続いて出るコルトレーンのテナー・ソロとの間に、例の有名なブリッジを入れるように発案したのが誰なのか、非常に知りたいところなんだけど、2016年の現在ではそれは分らないということになっている。

 

 

一時期、そのアレンジをしたのはギル・エヴァンスだという説がまことしやかに流れていた。日本でそれを広めたのが他ならぬ中山康樹さんなんだけど、中山さん自身が、著書の中で後年これをはっきり否定している。例の中間部のブリッジのギル・アレンジ説は間違いで、1945年頃から存在するものだった。

 

 

ディジー・ガレスピーが自分のバンドでやった1945年のライヴ録音から、既にそのブリッジを聴くことができるので、このギル・アレンジ説が間違いであることが、完全に証明されているのだ。マイルスの56年コロンビア録音は、ほぼそのガレスピー・ヴァージョンに沿ったもの。

 

 

そのマイルス・ヴァージョンで有名になった例のブリッジも、曲全体の解釈も、全般的にほぼそのガレスピー・ヴァージョンに沿っているから、マイルスのオリジナリティは、これをハーマン・ミュートで吹いたということだけだ。そしてガレスピーもそれ以後は、ミュートで吹くようになっているのが多い。

 

 

誰の発案で誰がアレンジしたのか分らないんだけど、とにかくその1956年コロンビア録音で、「ラウンド・ミッドナイト」という曲のイメージが決定づけられて、その後のマイルスによるライヴ演奏を含む多くのヴァージョンも、その他のジャズマンによる演奏も、だいたいこの演奏に準じる内容になっている。

 

 

肝心の作曲者セロニアス・モンク自身による演奏ぶりはといえば、そのマイルス・ヴァージョン以前は当然、それ以後も、別にそれには全く影響されてはおらず、モンク自身の世界を淡々と表現していて、ソロ・ピアノによるモンクの「ラウンド・ミッドナイト」は、これはまた味わい深いものになっている。

 

 

モンクが「ラウンド・ミッドナイト」を作曲したのは、1944年ということになっているけど、もっと前の30年代末からその原型があったとか、40年か41年頃にできていたとかいう。47年の初録音(ブルーノート)後も繰返し録音している。僕が一番好きなのは『ソロ・オン・ヴォーグ』のヴァージョン。

 

 

 

僕も長年マイルス・ヴァージョンで親しんできたこの曲、多くのジャズ・ファンもそうだと思うんだけど、今ではこういう作曲者自身のソロ・ピアノ演奏によるものの方が、圧倒的に好きだなあ。最高だね。

 

 

作曲者セロニアス・モンク自身による「ラウンド・ミッドナイト」の初録音は、1947年ブルーノート録音のSP盤(『ジーニアス・オヴ・モダン・ミュージック』その他に収録)。そこではソロ・ピアノではなく、トランペットとサックス入りのコンボ編成だ。でもソロはモンク自身のピアノだけが取る。

 

 

マイルスはライヴでも数多くこの曲を演奏し、録音も公式・ブート併せたくさん残っているけど、ほぼ全部オープン・ホーンで吹いていて、マイルス=ハーマン・ミュートのイメージを決定づけたと言われるオリジナル・ヴァージョンには準じていない。だけど、あのブリッジだけは欠かしたことが一度もない。

 

 

マイルスのライヴでの「ラウンド・ミッドナイト」で、僕が一番好きなのが、ブート盤『ダブル・イメージ』に入っている1969/10/27、ロスト・クインテットでの演奏。ここでのあのブリッジは壮絶というか物凄い迫力。寺島靖国なんかと違って、あのブリッジが大好きな僕にはたまらない。チック・コリアは当然エレピ。(16:17あたりから)

 

 

 

あと、ライヴ・ヴァージョンでは1965年にシカゴのプラグド・ニッケルで録音したヴァージョンもかなり好きだ。それは、八枚組完全箱が出るかなり前、最初LP二枚でこのライヴ録音が世に出た時から収録されていたので、よく聴いていた。『ダブル・イメージ』のもこれも、マイルスはオープン・ホーンだね。

 

 

ちなみに多くのライヴ・ヴァージョンが存在するマイルスの「ラウンド・ミッドナイト」も、スタジオ録音は、確認されている限り、三つだけ。1953年プレスティッジ録音、56年コロンビア録音、その一ヶ月後にプレスティッジにマラソン・セッションで吹込んだ『アンド・モダン・ジャズ・ジャイアンツ』収録ヴァージョン。

 

 

プレスティッジの『アンド・モダン・ジャズ・ジャイアンツ』収録ヴァージョンは、有名なコロンビア録音のわずか一ヶ月後だし、メンバーも全く同じファースト・クインテットによるものだし、コロンビア・ヴァージョンとほぼ同一の演奏で、吹込みレーベルが異なるということ以外の違いはほぼない。例のブリッジもある。

 

 

なんだ、あんまり好きじゃないとか最初に言いながら、実は結構好きなんじゃないかという声が聞えてきそうだ。まあマイルスが残した音源については、多くを何度も繰返し聴き込んでいるし、だからそれなりに全部「好き」なのではある。程度問題なのだ。でももっともっと大好きな曲がいっぱいあるんだよね。

 

 

ちなみに、僕が持っているマイルスによる「ラウンド・ミッドナイト」は、iTunes に入れてあるのは曲検索かければすぐ分るので見てみたら、全部で21種類。入れていないブート盤もかなりあるから、持っている全CDで何種類あるのか分らない。

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