ザッパのシリアス・ミュージックとコマーシャル・ミュージック
フランク・ザッパについてはよく分っていない僕だけど、それでも大好きな音楽家であることには間違いなく、公式発売されたCDアルバムは全部持っていて聴いているし、中にはかなり好きなものが何枚もある。ザッパのアルバムは、アナログ盤では全く聴いたことがなく、CDで初めて買ったんだけど。
ザッパに関しては熱狂的なファンが大勢いるから、素人の僕がザッパについて語らない方がいいようには思うけど、そこはなんとか許してもらって、ちょっと喋らせてほしい。なお、ザッパをロック・ミュージシャンではなく「音楽家」と表現するのには理由がある。
というのも、ムチャクチャたくさんあるザッパの公式盤(コンピレイション盤などを除くオリジナル・アルバムは、死後リリースのものも含めて、現在全101枚)のなかで、大好きでよく聴くのが、コンピレション盤の『ストリクトリー・ジェンティール』だったりするからだ。副題が『クラシカル・イントロダクション』。
この副題通り、いわゆる「シリアス・ミュージック」、つまり現代音楽風な作品ばかり集めた編集盤なのだ。これがかなり好き。ご存知の通り、ザッパは現代音楽作品を何枚も作っている。だけど、『ストリクトリー・ジェンティール』は、そういう作品だけから選んだものではない。
シリアスに対して「コマーシャル」な作品、つまり一般にはロック・アルバムとされているものからも結構チョイスされて、この編集盤には入っているのだ。『ホット・ラッツ』『スリープ・ダート』『バーント・ウィーニー・サンドイッチ』『ジャズ・フロム・ヘル』『ザ・ロスト・エピソード』などから。
それらロック・アルバムからチョイスされた曲が、中間的な『アンクル・ミート』他、『ザ・イエロー・シャーク』『ザ・パーフェクト・ストレンジャー』『オーケストラル・フェイヴァリッツ』『ロンドン・シンフォニー・オーケストラ』などから選んだ曲と一緒くたに並んでいて、それで全くなんの違和感もない。
例えば、五曲目の「リトル・アンブレラズ」は『ホット・ラッツ』からの曲で、ドラムスも入るジャズ・ロックなんだけど、それが『ザ・イエロー・シャーク』からの選曲である四曲目の「アウトレイジ・アット・ヴァルデス」(大好きな曲!)に続いても、全くなんでもなく普通に違和感なく聴ける。
まあそれでもヴァチュオーゾであるザッパ自身のエレキ・ギターが鳴り響く曲は、さすがに殆ど入っていないので、やはりその辺はロック・アルバムからのチョイスとはいえ、ドラムスが入ってはいても、ピアノや管楽器などが中心の曲ではあるけれど。しかしシリアスとコマーシャルの区別はないよね。
この事実は、ザッパ・ミュージックの本質を少し物語っているのではないだろうか?彼の中では、ロックも現代音楽も同一基軸上に存在する音楽で、そんなに本質的な区別をしていなかったのかもしれない。『ストリクトリー・ジェンティール』は、通して聴いて、スーッと自然に楽しめるアルバムだもんね。
僕は西洋のクラシック音楽は、ポピュラー音楽に与えた影響関係などから聴くものが多く、そんなに積極的ではないんだけど、デューク・エリントンやマイルス・デイヴィスやザッパやその他大好きなミュージシャンがしばしば言及するクラシックや現代音楽の作曲家の作品については、そこから興味を持ってまあまあ聴いてはいる。
一体全体現代音楽界で、作曲家フランク・ザッパがどう評価されているのかは、完全なる門外漢である僕にはサッパリ分りようもない。先日亡くなったピエール・ブーレーズが指揮をしたザッパの作品『ザ・パーフェクト・ストレンジャー』は聴かれているのだろうか?少なくともロックのフィールドから出発した作曲家の中では、おそらく間違いなく最高の存在なんじゃないだろうか?ジャズ界のデューク・エリントンと並ぶ存在じゃないかなあ。
ザッパとエリントンといえば、熱心なザッパ・ファンの中には、熱心なエリントン・ファンでもあるという人が少なくないらしい。これは僕にはよく分る。音世界の濃密さという意味では、ジャズ界のエリントンとロック界のザッパには共通するものがある。ほぼ自作曲ばかり自分のバンドでやったという点も同じ。
西洋伝統音楽や現代音楽のことが分らないので、エリントンやザッパに比すべき存在が、クラシック界では誰になるのかは全く分らない。エリントンもザッパも、コンポーザーとしてのはっきりとした自覚的意識を持っていた。自分のバンドは自作曲を演奏する「容れ物」という認識だった点も共通する。
こういう具合に書いてくると、フランク・ザッパの「コマーシャル」なロック・アルバムはあまり聴いていないように思われそうだけど、熱心なジャズ・ロック・ファンである僕にとっては、最初に好きになったザッパは『ホット・ラッツ』『グランド・ワズー』『ワン・サイズ・フィッツ・オール』などだ。
1972年の『グランド・ワズー』はビッグ・バンド作品だから、これでビッグ・バンドの音が好きになって、ジャズのビッグ・バンド作品に入門したというザッパ・ファン、ロック・ファンは多いらしい。僕はその逆で、ジャズ系ビッグ・バンドが大好きだから、『グランド・ワズー』も好きになった。
『グランド・ワズー』への道程でもあるらしい1969年の『ホット・ラッツ』は、とにかく一曲目の「ピーチズ・エン・レガリア」がムチャクチャカッコよくて、多くのザッパ・ファン同様僕もこれがたまらなく大好き。このオリジナル・ヴァージョンがたったの四分もないというのだけが残念。
『ホット・ラッツ』には、キャプテン・ビーフハートが歌う「ウィリー・ザ・ピンプ」があって、ビーフハートはこれで名前を知った。1975年の『ボンゴ・フューリー』で全面的に共演しているが、あのアルバムはどうもザッパとビーフハートがイマイチ噛合っていないような気がするけど、どうだろう?
『ボンゴ・フューリー』よりは、ザッパがプロデュースしたビーフハートのアルバム『トラウト・マスク・レプリカ』とかが、どう考えてもアルバムの出来もはるかにいいし、ザッパ自身の演奏はないけれど、プロデュース・ワークでの「共演」という点でも、輝いているように思えるのは僕だけではないはず。
ザッパの盟友ビーフハートについては、実はザッパ本人よりも個人的には好きで、多くのアルバムが愛聴盤なんだけど、ビーフハートの話はまた別の機会にすることにしよう。『ホット・ラッツ』の「ウィリー・ザ・ピンプ」ではビーフハートのヴォーカルは短くて、それよりザッパのギターが聴き物。
1975年『ワン・サイズ・フィッツ・オール』一曲目の「インカ・ローズ」中盤でのギター・ソロなど、僕が最初に好きになったザッパのギター演奏で、もちろん今でも大好き。79年『ジョーのガレージ 』の「ウォーターメロン・イン・イースター・ヘイ」は、ロック界最高のギター演奏じゃないかなあ。
何度も書いているけど、エレキ・ギターに関しては、ファズが深く効いていればいるほど、歪んでいればいるほど「美しい」と感じる感性の持主である僕だけど、こと「ウォーターメロン・イン・イースター・ヘイ」だけは例外で、クリーン・トーンでこんなに美しいギター演奏はこの世にないと思うくらい。
『ジョーのガレージ』でのこの曲に至るまでの劇展開を踏まえて聴くと、「ウォーターメロン・イン・イースター・ヘイ」は涙なくしては聴けないね。もっとも僕がこの曲を初めて聴いたのは、死後リリースの編集盤『フランク・ザッパ・プレイズ・ザ・ミュージック・オヴ・フランク・ザッパ』でだったけど。
この『プレイズ・ザ・ミュージック・オヴ・フランク・ザッパ』には、「ウォーターメロン・イン・イースター・ヘイ」のオリジナルとライヴ・ヴァージョンが収録されていて、どっちももちろん『ジョーのガレージ』で聴けるような文脈は存在しない。それでも一回聴いて大感動したから、やはりこれは最高だよねえ。
コンポーザーとしてのザッパの最高傑作は1993年の現代音楽作品『ザ・イエロー・シャーク』じゃないかと思っているんだけど、いちロック・ギタリストとしては、どう考えても『ジョーのガレージ』の「ウォーターメロン・イン・イースター・ヘイ」だね。
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