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2016/01/06

なあベイビー俺はよくしてやっただろ

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Lipspagephoto

 

 










普通はジャズ・トランペッター&ヴォーカリストに分類されることの多いホット・リップス・ペイジは、僕の捉え方では、ちょっとストレートなジャズというよりも、もっとなんというか猥雑で下世話な、どっちかというとブルーズ寄りの人だと思っている。

 

 

だからホット・リップス・ペイジのことを書いて、これはジャズの話題かと思われると、ちょっと心外な気がしないわけでもない。彼は元々マ・レイニー、ベシー・スミス、アイダ・コックスといった、いわゆるクラシック・ブルースの歌手の伴奏でキャリアをスタートさせた人だ。

 

 

ホット・リップス・ペイジは、一般のジャズ・ファンには、おそらくカウント・ベイシー楽団での活動が一番認知されているだろう。もちろんそれも大変にいい。普通のジャズ・トランペッターとしても優れたミュージシャンだ。だけど、彼のリーダー録音を聴くと、もっと猥雑でブルージーで下世話だ。

 

 

聴く人がだんだん減っているみたいだから、忘れられつつあるのかもしれないけど、戦前のジャズ系録音には、そういう猥雑なフィーリングのものもかなりあったんだ。もちろん録音だけではなく、生演奏の現場でも間違いなくそうだったんだけど、現在では録音物でしか実際には確かめられないからね。

 

 

ピュアなジャズ・ファンが、戦前ジャズのうち「真面目な」聖典と崇めるルイ・アームストロングやエリントンやベイシーだって、戦前の録音では、芸能色の強いものが結構あるんだ。そのうち、サッチモ以外の二人は、戦後はそういう芸能色がかなり薄くなっていったけど、元々はそういうものだったんだ。

 

 

中村とうようさんが『大衆音楽の真実』の中で、ルイ・アームストロングとエリントンの、同じ1920年代録音の「タイト・ライク・ディス」と「黒と茶の幻想」を並べて論じ、その後のジャズはエリントンの示した方向性、すなわち生真面目な芸術性へ向ったと書いたことがある。本当にその通りだよなあ。

 

 

ルイ・アームストロングの「タイト・ライク・ディス」は、真面目なジャズ・ファンからは、3コーラスにわたる見事な構成のトランペット・ソロにだけ焦点が当たるけど、あの曲には男女の卑猥なやり取りを模した掛合いが入っていて、そのせいで英語圏のジャズ・ファンにはイマイチ人気がないらしいよ。

 

 

戦前のジャズはそんな感じで、「芸術」と「芸能」が分化していなくて、だから僕みたいにポピュラー・ミュージックには、小綺麗なお芸術より下世話で猥雑なモノを求めるリスナーには、これほど楽しい音楽はない。世界中のポピュラー・ミュージックをいろいろ聴いてみると、そういうものの方が多い。

 

 

ホット・リップス・ペイジを聴いても、まさにそんな感じで、例えばこの「サースティ・ママ・ブルーズ」。これなんか1940年の録音なんだけど、それにしてはややスタイルがやや古いというか、その20年くらい前のクラシック・ブルーズの雰囲気だ。

 

 

 

それに1940年のジャズ系録音で、こんなにエレキ・ギターが活躍しているものはあまりない。ブルーズ系音楽を見渡しても、戦前はまだエレキ・ギターはこんなには活躍していない。だいたいこれを弾いているギタリストは誰なんだ?ブルージーだよねえ。モダンなシカゴ・ブルーズの雰囲気じゃないか。

 

 

だから、この「サースティ・ママ・ブルーズ」なんかは1940年の録音にしては古いような新しいような、不思議な感じだよなあ。40年前後のホット・リップス・ペイジのリーダー録音を聴くと、どれもこんな感じで、古いクラシック・ブルーズみたいなのに、エレキ・ギターが活躍しているものが多い。

 

 

それが1944年になると、ホット・リップス・ペイジはもっと大人数のバンドを編成して、ドラマーも入って、ジャジーというかジャンプ・バンド系のサウンドに近くなってくる。この「ロッキン・アット・ライアンズ」なんかそんな感じだね。

 

 

 

「ロッキン・アット・ライアンズ」はお聴きなれば分るように、ホット・リップス・ペイジのリーダー録音にしては珍しく歌が入っていないインスト物だけど、数年後に同じジャズ系トランペッターのクーティー・ウィリアムズの楽団がやっていたジャンプ系録音と比較しても、殆ど遜色ない躍動ぶりじゃないか。

 

 

この「ロッキン・アット・ライアンズ」でドラムスを叩いているのは、シドニー・カトレット。戦前のジャズ・ドラマーで僕が一番好きな人だけど、ピュア・ジャズの録音で聴くことの多い人だ。でもこういうジャンプ系音楽でも見事にスウィングしているね。タイム感も正確で、最高のドラマーだなあ。

 

 

また同じ1944年録音の「ブルーズ・ジャンプト・フォー・ザ・ラビット」。これなどは、冒頭のピアノが完全にブギウギだ。このピアノはエイス・ハリス。アースキン・ホーキンス楽団の「アフター・アワーズ」50年コーラルへの再演で、見事なブルーズを弾く人だ。

 

 

 

ブギウギはブルーズの一種だけど、しつこく何度も書いているように、ジャンプ・ミュージックの重要な構成要因というか土台であり、その後のR&B〜ロックのベースにもなった。ホット・リップス・ペイジをジャンプ〜R&Bの文脈の中に位置付ける文章は、僕は見たことがないけど、こういうのがあるんだよなあ。

 

 

ホット・リップス・ペイジは、米ブルーズのメッカの一つ、テキサス州ダラス生れで、書いたように1920年代にクラシック・ブルーズ歌手の伴奏を始め、その後、プリ・ジャンプとも言うべきブルーズ色の強いカンザスのウォルター・ペイジ楽団、カウント・ベイシー楽団などを歴任したというキャリア。

 

 

そういうキャリアの持主だから、自分のバンドでも、ブルーズ・ベースの芸能色の強いジャンプ〜前R&B的な音楽を主にやったというのも、十分に納得。その一方で、ジャズに片足以上踏み入れていた人だから、自分の楽団でも「ジーズ・フーリッシュ・シングズ」などのストレートなジャズ・スタンダードもやっている。

 

 

でもまあそういうジャズ・スタンダードを、どうってことのない普通のジャズ風にやっているものはかなり少なく、ホット・リップス・ペイジの自己名義録音では、どっちかというと珍しい部類に入る。そういうのが出てきたかと思うと、次の曲はまた猥雑なブルーズ系芸能ジャズになったりするもんなあ。

 

 

そういうホット・リップス・ペイジのジャズと芸能的なブルーズとの両面が合体した、一番面白い最高傑作が「ジー・ベイビー・エイント・アイ・グッド・トゥ・ユー」だ。この曲、1944年録音が有名だけど、実は41年にも一度録音しているらしい。でもその41年音源は見当らない。

 

 

 

「ジー・ベイビー・エイント・アイ・グッド・トゥ・ユー」は、1929年にドン・レッドマン等が書いた古い曲。かなり猥雑というかエッチな感じなのは、さすがドン・レッドマンの曲だけある。これはもうジャズマンによる無数の録音がある。一番有名なのはナット・キング・コールのヴァージョンかも。

 

 

 

なかなかいいけど、でもこれも、あるいはその他ビリー・ホリデイやルイ・アームストロングとエラ・フィッツジェラルドのデュオ・ヴァージョンも、どれを聴いても、あんまり卑猥な感じがしないよね。

 

 

ジャズ系のミュージシャンによるヴァージョンでは、やっぱりさきほど貼ったホット・リップス・ペイジのが、猥雑なフィーリングがよく出ていて、一番いいね。ペイジのヴォーカルもトランペット演奏も、かなり下世話でいい感じだなあ。

 

 

面白かったのが、1994年の映画『ザ・マスク』で使われたヴァージョン。 これ、キャメロン・ディアスが当て振りしているけど、本当に歌っているのは誰なんだろう?この曲の持つ猥雑なフィーリングが、画面からもよく出ていて、そのシーン含め、大好きな映画だった。

 

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