イーグルズはカントリー・ロック路線あってこそ
イーグルズのグレン・フライが亡くなった。僕はまあまあファンだったので、ちょっぴりショックだ。先日のデイヴィッド・ボウイの時よりも、心がザワつくような。ファンだといってもイーグルズでしか聴いていないグレン・フライだけど、彼こそがこのバンドの中核だった気がする。
僕がイーグルズを知ったのは、大ヒットした『ホテル・カリフォルニア』でだったという、まあごく普通のありふれたもの。これは1976年のアルバムなので、僕はリアルタイムでは知らないんだけれど、1962年生れの僕の世代なら、中学生の時にリアルタイムで買って聴いたという方々が多いはず。
僕がリアルタイムで知っているイーグルズは、1994年の再結成後を除けば、79年のラスト・アルバム『ザ・ロング・ラン』だけ。『ホテル・カリフォルニア』があまりに素晴しいと思ったので、買ったんだけど、一部を除きあんまりいいとは思えなかった。それでも繰返しレコードを聴いたんだけどね。
今『ザ・ロング・ラン』を聴き返すと、音楽的内容はやはりどうもパッとしないというか、『ホテル・カリフォルニア』で極めて盛大に打上げた大花火が散った後の名残みたいなもんで、その大花火があまりに煌びやかすぎたもんだから、どうにもダメ・アルバムだとしか思えないというのが、正直な気持。
ただ、『ザ・ロング・ラン』にも、いいんじゃないかと思えるものが二曲だけあって、一つはA面二曲目の「アイ・キャント・テル・ユー・ワイ」。新加入のベーシスト、ティモシー・シュミットの自作自演。これがかなりいいR&B風バラードなんだよねえ。
イーグルズでR&Bバラード?ってかなり意外に思われる方が多いと思うんだけど、貼った音源を聴いていただければ納得していただけるはず。イーグルズでブラック・フィーリングをこれだけはっきりと感じるというのは、全キャリアを通してこの一曲だけ。黒人音楽好きの僕などにはうってつけなのだ。
『ザ・ロング・ラン』でいいと思えるもう一曲は、B面ラストの「ザ・サッド・カフェ」。イーグルズと関わりの深いJ・D・サウザーが曲創りに参加している、というかまあ彼の曲なんじゃないの?歌っているのはグレン・フライ。デイヴィッド・サンボーンがアルト・ソロを吹くのが、僕好みなんだろう。
そして当時から感じていたことなんだけど、アルバム・ラストの「ザ・サッド・カフェ」を聴いていると、ああ、このバンドはもうこれでお終いなんだ、幕引きなんだというのがヒシヒシと伝わってきて、今聴直してもなんとも言えない気持になってしまう。『ザ・ロング・ラン』には思い入れのある僕だから。
『ホテル・カリフォルニア』については、特に一曲目のタイトル・ナンバーが素晴しすぎると思って繰返し聴いていて、25歳の頃までは、これが1970年代ロックの最高作なんじゃないかとすら僕は考えていた。今ではそんな考えは完全に消し飛んで、微塵も残っていないのだが、昔は好きだったんだ。
繰返し僕の話に出てくる戦前ジャズしかかけなかった松山のジャズ喫茶ケリーのマスターが、どこで聴いたのか知らないが、「ホテル・カリフォルニア」が好きで、特に終盤のギター・ソロがいい、ギター・ソロだけ10分くらいあればいいのにと言っていた。レコードがほしいと言うので、僕もLPは持っていたいから、持っていたシングル盤をあげた。
僕も今聴くと、「ホテル・カリフォルニア」で一番いいと思うのが、12弦アクースティック・ギターの美しい響きと、やはりその終盤のギター・ソロ(ドン・フェルダーとジョー・ウォルシュ)で、意味深な歌詞内容なんかは、大学生の頃は深い深いと思って味わっていたけれど、今でははっきり言ってどうでもよくなっている。
あと、曲のリズムがレゲエっぽいというか、そういうリズムを冒頭からクチュクチュとエレキ・ギターが刻んでいるのも面白い。マイアミのクライテリア・スタジオでの録音だもんなあ。レゲエっぽいと言えば、終盤のギター・ソロ。二人が同時に奏でるパートの後半で、ベースが跳ねているのもいいね。
アルバム『ホテル・カリフォルニア』でもっといいのは、A面ラストの「ウェイスティッド・タイム」とB面ラストの「ザ・ラスト・リゾート」という、ドン・ヘンリーが歌う二曲のスロー・ナンバーだなあ。グレン・フライ・ファンの僕だけど、ヴォーカリストとしての力量では、ドン・ヘンリーの方が上だろう。
今ではそういうところくらいしかいいと思わなくなった『ホテル・カリフォルニア』に比べたら、これ以前のアルバム、特に最初の三枚は、今聴いても凄く楽しくて大好きだ。バーニー・リードンが在籍していた時期の方が、イーグルズはよかったよねえ。
1972年のセルフ・タイトルなデビュー・アルバム一曲目「テイク・イット・イージー」。ジャクスン・ブラウンの曲だけど、僕はグレン・フライが歌うイーグルズ・ヴァージョンの方が好きだ。後半バーニーのバンジョーが聞えはじめると、凄く楽しくていい気分。「気楽にやれよ」というそのまんま。
バーニー・リードンは、『ホテル・カリフォルニア』の前作1975年の『ワン・オヴ・ジーズ・ナイツ』まで在籍していて、バンジョーも弾いているけれど、初期三作がやはりいいよなあ。バーニーのバンジョーが入る曲が本当にいろいろとあって、僕の好きな楽器だし、カントリー・ロック・テイストだし。
バンジョーは、僕の場合はもちろんニューオーリンズ・ジャズやその他初期ジャズで使われているので、それで馴染んで好きになった楽器。元々アフリカ由来の楽器だけど、その後はカントリー・ミュージックやブルーグラスなど米白人音楽で頻用されるようになり、初期イーグルズでも聴けるというわけ。
初期イーグルズでバーニー・リードンのバンジョーが聞える曲を挙げていくと、かなりたくさんあるから、キリがないと思うくらいだけど、なかなか面白かったのが、初期ではないが『ワン・オヴ・ジーズ・ナイツ』A面ラストの「ジャーニー・オヴ・ザ・ソーサラー」。バーニーの自作インストルメンタル。
どうです?面白いでしょう?まあ普通のロック・ファン向けの曲ではないだろうけど、バーニー・リードンのバンジョーが全面的にフィーチャーされるインスト曲で、しかもストリングス・オーケストラの伴奏も入っているという。こんなの他に皆無だ。
バーニー・リードンがバンジョーを弾くインストというと、1973年の二作目『デスペラード』にも、B面二曲目に「ドゥーリン・ダルトン」がある。こっちは一分もない短いもので、次の曲へのプレリュードみたいな感じだけどね。このアルバムでも二曲目の「トゥウェンティ・ワン」みたいなのもイイネ。
「トゥウェンティ・ワン」も、一作目一曲目の「テイク・イット・イージー」同様、バーニー・リードンのバンジョーが印象的なカントリー・ロック、というより、こっちはそのまんまカントリー・ナンバーだと言った方が近いかもしれないくらいのフィーリングだ。これでフィドルでも入っていれば完璧だ。
今の僕にとってのイーグルズは、ジョー・ウォルシュが参加してからの『ホテル・カリフォルニア』ではなく、またその路線の前兆となった前作『ワン・オヴ・ジーズ・ナイツ』でもなく、書いたようなバーニー・リードンが活躍するカントリー・ロック路線なんだよね。「テキーラ・サンライズ」もいいなあ。
「テキーラ・サンライズ」も「テイク・イット・イージー」も、その他初期イーグルズのカントリー・ロック路線のいろんな曲を歌っていたのがグレン・フライだった。バーニー・リードンと並んで、そういうバンドの特色を担っていたのがグレン・フライだったんじゃないかな。そういうのも持味の人だった。
それにしても、あとおそらく10年か15年かそんなもんで、1960〜70年代を飾ったロック・ジャイアンツが逝くのを見届けなくちゃいけなくなると思うんだけど、ロックにとってひときわ特別だった時代を形作った人達だからなあ。それより先に自分が死ぬなんてことにだけはならないようにしなくちゃ。
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