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2016/01/31

スティングのバンドではじけたケニー・カークランド

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ケニー・カークランドというピアニスト/鍵盤奏者、スティングのライヴ・アルバム『ブリング・オン・ザ・ナイト』一曲目でのピアノ・ソロが、この人一世一代の名演だと思っているんだけど、同じように思っている人は、どれくらいいるのだろう?

 

 

 

僕の場合、ケニー・カークランドの名前を知ったのは、ウィントン・マルサリスのデビュー・アルバム『ウィントン・マルサリスの肖像』(1981)だった。そういうジャズ・ファンは結構多そうだ。その後しばらくウィントンと活動をともにしていて、85年の『ブラック・コーズ』まで参加している。

 

 

その『ブラック・コーズ』、ブランフォード・マルサリス、ケニー・カークランド、チャーネット・モフェット、ジェフ・テイン・ワッツという、ウィントンとしては最高の布陣によるラスト・アルバムで、これが出た当初、僕はこれは大変な傑作だと感じ、周囲にも興奮気味にそういう風に喋りまくっていた。

 

 

『ブラック・コーズ』はCDでも買い直していて、でも殆ど聴かないままだったんだけど、こないだ聴直してみたら、今聴くとどこがそんなに大傑作だと感じたのか、正直言ってよく分らない。だけど、まあまあよくできた良作だと思う。社会派なタイトルのことは、昔は全く分っていなかった。

 

 

ウィントンの率いたこの(ウィントンにしては)最強布陣のバンド、僕は大学院生の時に一度生を聴いたことがある。何年のことかは忘れてしまったけど、この編成のバンドは1982〜85年だから、その間のいつかだろう。練馬の小さな会場だったけど、それでもどうしてこんなに?と思うほどガラガラだったので、席を移動して最前列で聴いた。

 

 

その時一番感銘を受けたのが、ウィントンのトランペットの生音だった。PAが入っていたはずだけど、最前列で聴いたから、生音も届いてきて、その生音が太くて丸くてブリリアントで素晴しいものだったことをはっきり憶えている。アルバム作品はいいものが少ないように思うウィントンの悪口を、しばらくは言いにくい気持になったほど。

 

 

やっぱり一度は生で聴いて生音を体験しないと、楽器の本当の音はレコードではなかなか分らないというのを、その後も小さなジャズ・クラブで小山彰太のドラムスの生音を聴いた時にも実感した。まあそんなこと言ったって、ライヴに行っても普通はPAを通した音だから、なかなか難しいことではあるけどね。

 

 

その練馬で聴いたウィントン・バンドのライヴ、ケニー・カークランドに関しては、あまり憶えていない。あの時は、途中でチャーネット・モフェットのベース弦が切れてしまい、直すのに手間取って、その間ウィントンが喋りで繋いでいたものの、いつまで経ってもチャーネットが出てこないので、諦めて仕方なくベース・レスで演奏をはじめたりした。

 

 

ケニー・カークランドに関しては、既に名前と顔と演奏は認識してはいたものの、まだそんなに注目の存在でもなかったのだった。ただ、一曲だけピアノとブランフォードのソプラノ・サックスだけのデュオでなにかやったのは憶えていて、それはなかなかよかった。まあその程度しか憶えていないんだなあ。

 

 

ケニー・カークランドに注目し始めたのは、スティングの1985年の初ソロ作『ブルー・タートルの夢』に参加してからだ。あのアルバム、ウィントン・バンドからケニーとブランフォード、マイルス・デイヴィス・バンドからダリル・ジョーズ、ウェザー・リポートからオマー・ハキムという豪華メンツだった。

 

 

こういうジャズ系の凄腕ミュージシャンばかり集めてアルバムを創ったスティングの真意がどういうものだったのか、それには当時も今もあまり興味はない。ただ単に凄いと興奮して、あのアルバムを何度も繰返し聴いた。『ブルー・タートルの夢』、今聴直すと、別にどうってことないような気もするなあ。

 

 

このスタジオ作より、次作の二枚組ライヴ盤『ブリング・オン・ザ・ナイト』の方が、今聴くと圧倒的に面白い気がする。僕は元々あまりスティングのファンではなかったし、ポリスも熱心には聴いていないけど、このライヴ盤は本当に素晴しい。スティングのヴォーカルだけは、やっぱりピンと来ないけど。

 

 

だからいつも聴いているのは、スティングというよりバックの凄腕ミュージシャン達なのだ。スティングに関しては、曲はいいと思う。コンポーザーとしてはかなり好きだ。でもあの声と歌い方は、別に嫌いではないけど、僕にはイマイチなんだよなあ。スティングのアルバムは、これら二つしか持っていない。

 

 

サイドメンのうち誰だったか忘れたが、ジャズ・ミュージシャンのバンドと有名ロック・ミュージシャンのバンドとではギャラも宿泊するホテルの格も、全然違うと当時言っていた。ベースのダリル・ジョーンズだけは、その後ローリング・ストーンズのサポート・メンバーになったから、さらに待遇が上がったはずだけど。

 

 

ダリルの場合は、マイルス・バンド出身で、マイルス・バンドは、ジャズ系のミュージシャンとしては最高級の待遇だったはずだから、スティングのバックでもそんなに極端には違わなかったかもしれない。1984年にマイルス・バンドを辞めたアル・フォスターが、ホテルの格がグンと下がったとマイルスに電話してぼやいていたらしい。

 

 

それはともかく、スティング『ブリング・オン・ザ・ナイト』一曲目でのケニー・カークランドのピアノ・ソロ。ロックで、こんなにカッコイイピアノ・ソロは少ないような気がする。最高にグルーヴィーだ。ケニー・カークランドは、1977年にデビューした時は、フュージョン系の仕事が多かったらしい。

 

 

1977年ならそんなもんだろう。当時は4ビートでアクースティックなジャズは、まだ再浮上していなかった。再浮上するのは、1981年のウィントン・マルサリスのレコード・デビューからだし。しかも、ケニー・カークランドはそのウィントンのレコード・デビュー作の約半分でピアノを弾いている。

 

 

そのウィントンのデビュー作でのケニー・カークランドのピアノは、はっきり言って印象が薄い。それもまた当然だ。残り半分でピアノを弾いているのがハービー・ハンコック(+ロン・カーター+トニー・ウィリアムズの最強リズム)だから、ハービーが弾いた曲と並んでしまうと、どうにも分が悪すぎる。

 

 

実際『ウィントン・マルサリスの肖像』のなかで一番いいのはB面一曲目のトニー・ウィリアムズ・ナンバー「シスター・シェリル」で、これもハービー+ロン+トニー(+ブランフォード)の伴奏。この曲でのウィントンのソロを油井正一さんも「パッと花が咲くかのよう」と激賞していたし、僕も全く同感。

 

 

ケニー・カークランドがウィントンのバンドで実力を発揮し始めるのは、次作1983年の『シンク・オヴ・ワン』と、ウィズ・ストリングス・アルバムである84年の『ホット・ハウス・フラワーズ』を経て、やはり85年の『ブラック・コーズ』だなあ。『ブラック・コーズ』では、円熟したプレイぶりを聴かせる。

 

 

『ブラック・コーズ』の次作『J・ムード』からは、当時無名だったマーカス・ロバーツを起用し、その後活動をともにする。マーカス・ロバーツはなかなかブルージーな持味のピアニストだから好きなんだけど、僕は『ブラック・コーズ』でのケニー・カークランドが大好きだったので、少し残念だったのも事実。

 

 

これ、実はケニー・カークランドがスティングに引抜かれてしまい、ウィントンが仕方なく次の人材を探したというのが本当のところだったのかもしれない。『ブラック・コーズ』も『ブルー・タートルの夢』も、録音・発売ともに同時期だ。スティングのバンドで一気にジャンプ・アップしたから、結果的にはよかったんだろう。

 

 

ケニー・カークランドは、スティングとはその後も、1996年の『マーキュリー・フォーリング』まで参加している。ケニーのリーダー作も90年代に二枚ほどあるようだけど、全く聴いたことがない。彼は1998年に43歳の若さで亡くなってしまう。彼のラスト録音はブランフォードの『レクイエム』。

 

 

このブランフォードのアルバムは、録音中にケニーが亡くなってしまい、結果的に死後リリースになったので、このタイトルが付けられたんだろうと思っている。このアルバム『レクイエム』も持ってはいるんだけど、聴いたことがあるようなないような・・・。

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コメント

僕も『ブリング・オン・ザ・ナイト』のケニー・カークランドのピアノ・ソロは名演だと思ってますよ。そういう人は結構多いと思います。誰が聴いたってグルーヴィですもん。
それにケニーの91年の初作も大好きで、これも名盤だと思ってます。若くして亡くなったのが残念です。

Astralさん、ケニーのリーダー・ソロ・アルバムには全然興味がなくて、聴いたことがないんですけど、じゃあその1991年作も聴いてみましょうかねえ。

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