ジミー・ラッシングのヴァンガード盤
僕は熱心なジャズ・ファン、しかも戦前ものをたくさん聴いているから、ジミー・ラッシングというブルーズ・シャウターも、間違いなくカウント・ベイシー楽団在籍時の録音で知ったんだろうと思われそうだけど、実はそうではない。大学生の頃、ヴァンガード盤LP二枚で知った。
そのジミー・ラッシングのヴァンガード盤LPを、彼の入っている戦前のベイシー楽団のLPを買うより前に買って聴いていた。ヴァンガード盤は、戦後録音(確か1950年代)だけど、最高だったんだよなあ。ジミー・ラッシングのヴォーカルもいいし、バックのジャズメンの演奏もよかった。
今CDで持っているヴァンガード盤のジミー・ラッシングは『ジ・エッセンシャル・ジミー・ラッシング』という、二枚のヴァンガード盤LPを一枚のCDに収録したもの。もう一枚、『コンプリート・ゴーイン・トゥ・シカゴ・アンド・リスン・トゥ・ザ・ブルーズ』という、そのまんま2in1なタイトルのCDも持っているが、曲順が違うだけ。
前者一曲目の「ブギ・ウギ」のスウィング感とか、二曲目の「シー・シー・ライダー」(ベシー・スミスも歌った古くからあるブルーズ・スタンダード)とかも最高に素晴しかった。「シー・シー・ライダー」は、もう無数のヴァージョンがあるんだけど、このヴァンガード盤ジミー・ラッシングで初めて知った曲だ。
リロイ・カーの有名ブルーズ・ナンバー「ハウ・ロング・ハウ・ロング・ブルーズ」もやっている。このブルーズ・スタンダードは、数多いリロイ・カーの有名曲の中で、個人的には一番好きな曲なんだけど、そうなったのはもっと随分後のことで、この曲もリロイ・カーのオリジナルは当時は知らなかった。
B.B. キングの『ライヴ・アット・ザ・リーガル』の一曲目だったので、それで知った「エヴリデイ・アイ・ハヴ・ザ・ブルーズ」もやっている。この曲だけはBBのヴァージョンの方を先に知っていたわけだけど、全然雰囲気が違う。どっちかいいとかじゃない。どっちもいい。まあBBの方が好きだけど。
「ハウ・ロング・ハウ・ロング」にしても「エヴリデイ・アイ・ハヴ・ザ・ブルーズ」にしても、リロイ・カーやB.B. キングなどのオリジナルは、生粋のブルーズなんだけど、もちろんジミー・ラッシングだって生粋のブルーズ・シンガーではあるけれど、いつの時代も常に伴奏者がジャズマンだったから。
だからジミー・ラッシングなどの場合は(戦前のクラシック・ブルーズ歌手達とちょっと似て)、ジャズとブルーズの中間あたりに位置付けた方が分りやすい人なのかもしれない。クラシック・ブルーズの女性歌手達が苦手だというブルーズ・ファンもいるみたいだけど、ジミー・ラッシングはどうなんだろう?
大学生の頃の僕は、主にジャズのレコードばかり買っていたから、ブルーズのフィールドにいる人でも、ベシー・スミスやジミー・ラッシングみたいな、そういう「ジャズ・ブルーズ」というか、その両者の中間辺りに位置付けられるブルーズ・シンガーの方が得意だった。
そういうわけだから、ブルージーなダウンホーム・ブルーズより、洗練されたジャズ的な都会派ブルーズの方が好きだったわけだ。今聴いても、「ハウ・ロング・ハウ・ロング」とか「シー・シー・ライダー」とか「エヴリデイ・アイ・ハヴ・ザ・ブルーズ」等のブルーズ有名曲が、全然違って聞えるよねえ。
あともう一つ、ヴァンガード盤ジミー・ラッシングが好きだったのは、1950年代のLP録音だったので、伴奏のジャズメンのソロがたっぷり聴けるというのもあった。これはジャズ・ファンならではの心理だろう。ジミー・ラッシングを聴く人でも、ロック系のブルーズ・リスナーには邪魔に感じるかも。
ヴァンガード盤ジミー・ラッシングの伴奏ジャズメンの中で、当時も今も一番好きなのが、ピアノのピート・ジョンスンだ。二枚丸ごと全部がピート・ジョンスンではないらしんだけどね。そう、あのブギウギ・ピアニストだ。このヴァンガード盤でも、見事なブギウギ系ピアノ演奏ぶりを聴かせてくれている。
『ジ・エッセンシャル・ジミー・ラッシング』のラストに「イフ・ディス・エイント・ザ・ブルーズ」という曲があって、この曲だけ、B.B. キング風のモダン・シカゴ派ブルーズ・ギターが入っている。この曲はなぜかジミー・ラッシングの歌が入っていないインスト・ナンバー。昔は好きじゃなかった。
そういえば、1920年代に活躍したクラシック・ブルーズ歌手アルバータ・ハンターの78年復帰作『アムトラック・ブルーズ』も、全曲の伴奏が当時のトラッド・スタイルのジャズメンで、ジャジーな雰囲気なのに、B面一曲目のタイトル曲「アムトラック・ブルーズ」でだけ、ブルージーなエレキ・ギターが入っている。
大好きな『アムトラック・ブルーズ』も、そのシカゴ・ブルーズ風なエレキ・ギターが弾く一曲だけが、昔は好きじゃなかった。大学生の頃からB.B. キングにハマっていて、そういうギターが大好きだったのに、なぜだろう?やはりジャズ・ブルーズ系の音楽には、そういうものを求めていなかったんだろうなあ。
ヴァンガード盤ジミー・ラッシングの「イフ・ディス・エイント・ザ・ブルーズ」も、アルバータ・ハンターの「アムトラック・ブルーズ」も、今ではそういうブルージーでダウンホームなエレキ・ギターが大好き。そうなったのは、しばらく後になってブルーズ・ミュージックを本格的に聴くようになってからだった。
ジミー・ラッシングに関しては、その戦後録音のヴァンガード盤LP二枚を愛聴していたわけだけど、その後戦前1930年代のカウント・ベイシー楽団での録音を聴くと、そっちもかなりいい、というかむしろそういう戦前ベイシー楽団との録音の方がいいんじゃないかと思えるようになってきた。
ヴァンガード盤LPで聴いていた「ブギ・ウギ(アイ・メイ・ビー・ロング」も「イヴニン」も、1930年代デッカ録音のベイシー楽団で、ジミー・ラッシングが歌っている。おそらくそれがラッシングによる初演だろう。今聴直すと、どう聴いても、そっちの方がヴァンガード盤録音より断然いいように思える。
そもそもカウント・ベイシー楽団に限らず、カンザス・シティのいろんなビッグ・バンドは、ブルーズが大得意、というより、僕の見方では、ジャズとブルーズの中間くらいに位置付けた方がいいように思う人達で、だからこそ、その後のジャンプ・ミュージックを産み出す母胎になったというわけだ。
そういうわけだから、ジミー・ラッシングみたいなブルーズ・シャウターとの相性も、抜群によかった。1930年代ベイシー楽団でのジミー・ラッシング等のブルーズ・シンガーのヴォーカルを聴いていると、実に活き活きとして、伸びやかに歌っている。ベイシーのピアノもサイドメンの演奏も息がピッタリだ。
戦前1930年代のカウント・ベイシー楽団のデッカ録音(CD三枚組で完全集がある)を聴くと、ジミー・ラッシング等のブルーズ歌手との録音以外でのバンドだけでの演奏でも、ブルーズ・ナンバーが実に多いというか、ブルーズばっかり。一番有名な「ワン・オクロック・ジャンプ」だってブルーズだ。
その1930年代デッカ録音集には、ビッグ・バンドではなく、カウント・ベイシーらのピアノ・トリオ+ギターによる演奏も結構入っていて、その中にはあのリロイ・カーの有名曲「ハウ・ロング・ブルーズ」と「ウェン・ザ・サン・ゴーズ・ダウン(イン・ジ・イヴニング)」もあるというブルーズ傾倒ぶり。
そういうわけだから、戦後のヴァンガード盤LP二枚で大ファンになったブルーズ・シャウター、ジミー・ラッシングも、戦前カウント・ベイシー楽団での録音の方が、その後は圧倒的に好きになったというわけ。そもそもカンザスのバンドは、ジェイ・マクシャン楽団もその他もほぼ全部ブルーズ・シンガーを雇っていたしね。
余談だけど、1940年代のジェイ・マクシャン楽団が雇っていたブルーズ・シンガーはウォルター・ブラウン。マクシャン楽団では「コンフェッシン・ザ・ブルーズ」が一番有名だ。そしてこの頃同時にチャーリー・パーカーも在籍していて、アルト・ソロを吹く曲もあるんだよね。
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