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2016/01/13

レバノンで花開くマライア・キャリーの蒔いた種

 

 

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同世代にファンは少ないと思うけど、僕はマライア・キャリーが大好き。最初に聴いたのがいつだったのか忘れたけれど、一番好きなアルバムは『MTVアンプラグドEP』。ごく最近のものを除き、彼女のアルバムは大体聴いているけれど、何回聴いてもこれが最高作だとしか思えない。中身は30分もないけどね。

 

 

 

スタジオ・アルバムでは『エモーションズ』が一番好き。一般的な評価としては、おそらくこれがマライアのベストということになっているんだろう。その一曲目のアルバム・タイトル・チューン「エモーションズ」、これが最高なんだけど、『MTVアンプラグドEP』でも一曲目。

 

 

 

そして、僕の耳にはこの「エモーションズ」という曲、どう聴いてもスタジオ・オリジナルより『MTVアンプラグドEP』での演唱の方が、はるかに出来がいいように思えてならないんだよねえ。このEPでは、「エモーションズ」でだけ、作曲者のデイヴィッド・コールがピアノを弾いているんだな。

 

 

 

デイヴィッド・コールのピアノに導かれ、ゴスペル・クワイア風のコーラスがはじまるところから、既にただならぬ雰囲気だ。そしてマライアの絶好調のヴォーカル。ドラムスが入ってイン・テンポになり、猛烈にグルーヴしはじめると、もうたまらない。

 

https://www.youtube.com/watch?v=z4LikHhNy_0

 

 

 

このスタジオ版オリジナル→ https://www.youtube.com/watch?v=NrJEFrth27Q こっちにも一応女性コーラスが控目に入っているけど、『MTVアンプラグドEP』の方で聴けるようなド迫力ではないね。そのゴスペル・クワイア風のド迫力女性コーラスが、なんたってライヴ・ヴァージョンの最高の魅力だね。

 

 

 

どっちも貼ったから、どっちがいいか、みなさん聴き比べて判断してほしい。繰返すけど、『MTVアンプラグドEP』のライヴ・ヴァージョンの方が、僕の耳には圧倒的にベターだと聞えるんだよね。マライアの歌い方も、スタジオ版オリジナルでは聴けないドスの利いたコブシ廻しで、迫力満点だ。

 

 

 

スタジオ・アルバムの『エモーションズ』を聴いた時から、いい曲だなと思ってはいたけど、ここまで素晴しくいい曲だとは、『MTVアンプラグドEP』を聴くまで気付いていなかったんだよなあ。そのライヴ・ヴァージョンのアレンジも、ピアノで参加しているデイヴィッド・コールが、間違いなくやっているはず。

 

 

 

その前からマライア・キャリーが大好きだった僕は、この『MTVアンプラグドEP』の「エモーションズ」を聴いて、一発でKOされて、完全に虜になっちゃった。彼女独自の鳥のさえずるような超高音も、この時期までのものだけど、最高に輝いているもんなあ。

 

 

 

一曲目の「エモーションズ」だけで、もうこれがマライアの最高傑作だと確信してしまうくらい、お腹いっぱいになってしまうほどなんだけど(まあそれくらいこの一曲は凄すぎる)、二曲目以後の選曲も冴えているよねえ。僕がなかでも特に気に入っているのが、六曲目の「アイル・ビー・ゼア」。

 

https://www.youtube.com/watch?v=UIt3dx4an9c

 

 

 

(このYouTube動画ではカットされているけど)マライアが紹介しているように、ジャクスン5の「アイル・ビー・ゼア」だ。この曲、たくさんあるジャクスン5で僕の好きな曲の中でも、一番のフェイヴァリットなんだよねえ。このカヴァーが入っているというのも、『MTVアンプラグドEP』のポイントの高いところ。

 

 

 

「アイル・ビー・ゼア」では、当然ながら男性歌手とのデュエットで歌っていて、ジャクスン5のオリジナル・ヴァージョンでのマイケルのパートをマライアが歌っている。最高にチャーミングでカワイイし、僕の知っている限りでは、この曲の最高のカヴァー・ヴァージョンなんじゃないかと思っている。

 

 

 

もう数え切れないほど何度も聴いているというか、マライアのアルバムの中で今でも聴くのは、この『MTVアンプラグドEP』だけなんだけど、聴く度に、これがもっと長く60分くらいあればなあと思ってしまう。わずか30分もないもんなあ。内容も素晴しいから、本当にあっと言う間に終ってしまう。

 

 

 

そういうわけだから、今ではマライアのファンというよりも、『MTVアンプラグドEP』のファンといった方が正確なのかもしれない。一連のMTVアンプラグド・ライヴ・シリーズも、たくさん買って聴いたけど、今でも聴くのは、これと、ポール・マッカートニーのだけだ。エリック・クラプトンのなんか・・・。

 

 

 

クラプトンの『アンプラグド』は、この企画の知名度を高めたという意義はあったんだろう。今となってはそれだけじゃないのかな。僕もあれが出た当時は何回か聴いたんだけど、古いブルーズ・ナンバーの弾き語りも、ブルーズ特有の猥雑なアクが完全に消えて小綺麗になってしまっているし、「レイラ」もあんな感じではねえ。

 

 

 

それに比べたら、同じ古参ロック・ミュージシャンによるものでも、ポール・マッカートニーのは面白い。ビートルズ・ナンバーもいい。なかでも特に「アンド・アイ・ラヴ・ハー」は官能性の強い仕上りで、オリジナルを超えているように思えるし、古いブルーズ・ナンバーも賑やかで楽しいし、さすがの出来映え。

 

 

 

それはともかく、マライア・キャリー。彼女のヴォーカルが良かったのって、『エモーションズ』(1991)『MTVアンプラグドEP』(1992)など、90年代前半までだったと思う。それ以後は歌の伸びやかさがなくなって、高音も出づらくなって、キラキラとした歌声の輝きがなくなった。

 

 

 

1990年代半ば以後も、別にそんなに悪いというわけでもない。並の歌手じゃないんだから、少しくらい衰えたってまだまだ聴けるし、僕も20世紀のうちはアルバムを買い続けてはいた。だけど、あのヒットして有名になったクリスマス・ソングだって、もちろん悪くないけど、あれくらいなら他の歌手でも歌えるだろうと。

 

 

 

いまどきあまり関係ないような気もするけれど、マライア・キャリーの父親はアフリカ系なので、彼女もいわゆる黒人。そのせいなのかどうなのか、鈴木啓志さん編纂の『US・ブラック・ディスク・ガイド』にも、前述の1991年作『エモーションズ』が選ばれて載っていた。

 

 

 

1990年代以後のマライア・キャリーは、全世界的に有名になったので、いろんなところにその種子が蒔かれているみたいだ。昨年意外なところでそれを発見した。それはレバノン人若手女性歌手ヒバ・タワジ。2015年になって買いやすくなって聴いた2014年のデビュー・アルバム『ヤ・ハビビ』。これがマライアそっくりなんだ。

 

 

 

ヒバ・タワジは1987年生れだから、子供の頃にマライア・キャリーを聴いて育ったんだろう。とにかくアルバムを聴けば、マライアの強い影響が一聴瞭然。というかそのまんまというか、さえずるような高音部での歌い方なんかは、間違いなく完全にマライアのコピーだ。ヒバ・タワジに関して、マライアに言及している人が多いのも当然。

 

 

 

そのアルバムも、レバノン人がプロデュースしたレバノン人歌手の作品だけど、ほぼ完全に黄金のアメリカン・ポップス・サウンドだし、他にいろいろYouTubeでヒバ・タワジを検索してみると、例えばウィットニー・ヒューストンも歌ったりしているし、米国ポップス~R&Bをたくさん聴いているんだろうね。

 

 

 

マライア・キャリー本人はもうあんまり声が出なくなっているけど、それはある程度年齢を重ねればそうなる歌手もいるようだから、仕方がないんだろう。しかし、ヒバ・タワジみたいな若手レバノン人歌手などに、確実にマライアの音楽的財産が受継がれて、しっかり生きていることを実感すると、なんだか嬉しいね。

 

 

 

ヒバ・タワジの『ヤ・ハビビ』、プロデューサーのウサマ・ラハバーニは、父の兄弟がやったフェイルーズの作品を意識したに違いなく、同様の盛大で劇的なオーケストラ伴奏が入っている。でもそのサウンドにもヒバの歌い方にも、ローカルなアラブ色は薄く、万人受けする普遍的な傑作だから、強くオススメする。

 

 

 

ところでどうでもいいことだけど、僕が間違いなくマライア・キャリーの最高傑作だと信じている『MTVアンプラグドEP』、マライアの英語版ウィキペディアのディスコグラフィーにも載っていない。ライヴ・アルバムだということ以上に、短いEPだからということで載っていないのかなあ。最高なのに、これが素晴しいと書いてある文章に出会うことは少ない。

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